子育てを支える放課後児童クラブ(学童保育所)だから、子育てをしながら働く職員を支える施策は必ず実施しよう
※本日は<あい和社会保険労務士事務所>としての「児童クラブの社労士ブログ」です。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営事業者をサポートする「あい和社会保険労務士事務所」社会保険労務士の萩原和也です。
2025年10月1日から、育児・介護休業法の改正に伴って子育て支援に関するいくつかの対応を事業者が実施することが義務となります。児童クラブの事業者も、職員を雇って働いてもらっている限り、守らねばなりません。今回の運営支援ブログでは、10月から義務となることを紹介します。
(※基本的に運営支援ブログ同様、「社労士ブログ」でも、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<柔軟な働き方を実現するための措置等>
2025年10月1日から、「3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して」児童クラブの事業者の義務となるのが「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」の実施です。具体的には、次に紹介する5つの「選択して講ずべき措置」のうち2つ以上を、3歳から小学校に入るまでのこどもを育てている児童クラブ職員が選択できるようにしておくことが、義務となります。
1 始業時刻等の変更
2 テレワーク等(10日以上/月)
3 保育施設の設置運営等
4 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇 (養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
5 短時間勤務制度
とはいっても、児童クラブの業務の性質から「2」のテレワークは、まず現場職員にとっては不可能でしょう。「3」の保育施設の設置運営等は、保育所を運営している社会福祉法人であれば容易に実施できるでしょうが、児童クラブ専業の事業者ではその事業者の規模が相当程度、大きくなければコスト面で導入ができないでしょう。
すると、「1」と「4」と「5」が、児童クラブ事業者、とりわけ規模の小さな事業者で児童クラブ専業の事業者が実施できるものになります。少し細かく紹介します。
「1」の始業時刻等の変更は、具体的には2つの方策があります。「フレックスタイム制度」と「時差出勤制度」です。運営支援としては、「フレックスタイム制度」を児童クラブ専業の事業者にはお勧めします。なお、この場合のフレックスタイム制度は、清算期間(=導入したフレックスタイム制度が対象とする期間のこと。最長3か月)における総労働時間をその期間の所定労働日数で割って求められる労働時間が、通常の1日あたりの所定労働時間と同一である場合に限ります。そんなに難しく考えることはなくて、今まで児童クラブの職員が1日7時間30分の勤務時間であるとしたらフレックスタイム制度を導入しても1日あたり7時間30分の労働時間である、ということであれば問題ありません。
フレックスタイム制度を運営支援が勧めるのは、とりわけ1か月単位であればですが、さほど難しい理屈はいらないことです。出勤と退勤の時刻をクラブ職員が自分の判断で決定できるということを守ればいいのです。児童クラブは長期休業期間中をのぞけば小学校の都合によってコロコロ変わる下校時間を念頭に職員の出勤時刻を調整することが多いでしょうが、それこそまさにフレックスタイム制度が得意とすることです。毎日午前11時に出勤しなさいとシフトで義務づけることは不要で、クラブごとに、クラブの職員ごとに、必要な業務(量)に応じて出勤と退勤の時刻を職員自身が決めればいいのですから。このことが、小学校就学前のこどもを育てる職員には便利になりますし、小学校在学中のこどもを育てている職員にとっても、使い勝手のいい制度になるでしょう。
フレックスタイム制度を導入する、あるいは導入していれば、まず1つの選択肢を用意したことになります。
時差出勤制度は、1日の労働時間は変えないで出勤や退勤の時刻をずらすことです。これも、まあまあ、使える制度です。午前11時出勤が基本の児童クラブで、該当の職員は午後1時に出勤する、その代わりに退勤時刻が2時間、後ろにずれるということです。
フレックスと時差出勤制度は、2つを導入しても「選択して講ずべき措置」では1つだけのカウントとなります。ですからもう1つ、措置を講じなければなりませんね。
「4」の、就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇 (養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)の方が「5」よりかは、導入は楽でしょう。ただし、慢性的に人手不足でありマンパワーが足りていない児童クラブですから、該当の職員の休日が1年間に10日増えると、その穴埋め分の職員を確保する必要に迫られますから、「4」を導入する場合には補充の人員の確保が欠かせません。この「養育両立支援休暇」は無給でもかまいません。無給にすると事業者が負担する新たなコストは補充職員分の人件費だけになります。この休暇は時間単位で設定することもできます。時間単位の場合はルールがあって「始業の時刻から連続」又は「終業(退勤)の時刻まで連続」する必要があります。つまり「遅く出勤」「早上がり」を可能とすることです。ただ、労使協定で決めれば「中抜け」にも使えます。昼間のPTAの会議に出るための休暇として使える、ということです。
「5」は、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むものになります。これも、やれないことはありません。例えば、この育児支援の目的とは別に人件費の総額をなるべく抑えたいとか、メリハリの利いた働き方を実現することが本来の目的だったとしても、該当する育児中の職員が選択できるような制度になっていれば良いでしょう。つまり事業者側が「あなたは6時間勤務を命じます」と職員に強制しなければいいでしょう。
なお「3」の保育施設の設置運営等ですが、保育施設を設置できなくても「ベビーシッターの手配を事業者が行い、費用も事業者が補助すること」でも認められます。事業者が補助する額は全額でなくても良いとなっています。例えば、児童クラブの事業者がベビーシッター会社と契約しておいて、該当の育児中の職員が自分自身でシッターを手配する、ということでも認められます。資金に余裕がある児童クラブ事業者であれば、使い勝手が良いかもしれませんね。
繰り返しますが、「3歳から小学校就学前の子を養育する」児童クラブ職員に対しては、上記の1~5の措置のうち2つを利用できるようにしなければなりません。義務です。どんなに小さな児童クラブでも、義務です。保護者会運営の児童クラブでも、義務です。
これらの措置を実際に実施するには当然ながら就業規則に盛り込むことが必要です。働き方のルールになりますから就業規則に盛り込まねばならないのです。もし、就業規則に盛り込まなければどうなるでしょう。それはそのまま、この育児・介護休業法の規定がダイレクトに適用されることになります。実際には実施できませんが、それはそのまま事業者が法令違反を犯していることになります。いいですか、法令順守(コンプライアンス)は事業者であれば富士山のてっぺんのように常に最上位に位置する、絶対に守らねばならないことです。法令を守れない状態にあってはなりません。
就業規則を制定していない小さな事業者であっても就業規則を作って、この新たな義務を履行できるようしなければなりませんよ。
<柔軟な働き方を実現するための措置の個別の周知・意向確認>
これも「義務」です。分かりやすく言うと、児童クラブの事業者は、3歳未満の子を養育する職員に対して、その子が3歳になるまでの適切な時期に、その職員1人1人、個々に、上記の「選択して講ずべき措置」の周知、つまり説明(=事業者で導入している措置の説明になりますね)と、その制度の意向について確認することが、義務となるのです。
具体的には、子を育てている児童クラブの職員がいるとしたら、その子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間、つまりその子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの間に、児童クラブ事業者が導入した制度(上記の1~5のうちのどれか2つの「対象措置」)について、事業者が周知すること、つまり職員に説明して理解をしてもらうことが必要です。
説明して理解をしてもらう内容には、「対象措置の内容」と、「対象措置の申出先」つまり児童クラブのどの部署や担当者がこの制度を担当しているかの説明、そして「所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度」(=これらはすでに導入されている制度)について、です。
どうやって個々の職員に周知して確認するかですが、基本的には「面談」(オンラインOK)か「書面」です。ただ職員が希望したときには「ファックス」と「電子メール等」も認められています。ですから、児童クラブ事業者(たいていは、運営本部や事務局の責任者)が、「基本はメールで送るけれど、どうしても話が聞きたければ面談を設定するよ」というのは、ダメ。アウトです。逆にしてください。「基本は面談です。どうしても事情があるならメールで内容を送ります」ならOKです。
この「個別周知」で、児童クラブ事業者が最も注意しなければらなないのは、この2つは「対象措置」を職員が円滑に選択して申し出ることができるために行うもので、その対象措置の「取得」「利用」を控えさせるような形で行ってはならない、ということです。
具体的には、「うちでそれをやられると人手不足で大変になっちゃうからさ。クラブも困るんじゃないの?」と制度の利用をさせないようにほのめかしたり、「うちには、いままでその措置を利用している職員はいないんだけどね」とか「その措置を利用すると異動があるかもよ。給料が減るかもよ」と、不利益を示すようなことは、絶対にしてはならないのです。
なお、法の趣旨として、上記に示した期間(子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間、つまりその子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの間)以外であっても、職員が育児休業から復帰したときや、短時間勤務や対象制度を利用している期間の間も、定期的に、「周知」することが望ましいとされています。
「意向の確認」は、「どうしますか?」の確認をするアクションのことですが、これについては「面談」でも「書面交付」でも「FAX」でも「電子メール」でもOKです。どれでも問題ありません。
<妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の個別の意向聴取>
これも10月1日からの義務です。児童クラブの事業者は、「職員が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、職員の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する以下の事項について、職員の意向を個別に聴取しなければなりません」と、定められました。
聴取の内容は次の通り、4つです。
① 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
② 勤務地(就業の場所)
③ 両立支援制度等の利用期間
④ 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)
これらを、「職員が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき」と「職員の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)」のときに、その職員の意向を聴取することが義務となりました。
聴取の方法は、対象措置の周知のときと同じく、基本的には「面談」(オンラインOK)か「書面」です。ただ職員が希望したときには「ファックス」と「電子メール等」も認められています。ですから、児童クラブ事業者(たいていは、運営本部や事務局の責任者)が、「基本はメールで送るけれど、どうしても話が聞きたければ面談を設定するよ」というのは、ダメ。アウトです。逆にしてください。「基本は面談です。どうしても事情があるならメールで内容を送ります」ならOKです。
<聴取した労働者の意向についての配慮>
これも義務です。つまり、これまで説明してきたことを実際に児童クラブ事業者が実施するとして、「自社の状況に応じて配慮しなければならない」ということになっています。
厚生労働省が「具体的な配慮の例」として例示しているのは、「勤務時間帯・勤務地にかかる配置」、「業務量の調整」、「両立支援制度等の利用期間等の見直し」と「労働条件の見直し」などです。例えば、3歳までの子を育てている職員を自宅近くの児童クラブに配置することや、主に勤務する時間を子育てとの両立がしやすい時間帯にすること、短時間勤務制度を新たに導入することなどが、該当するでしょう。
なお、「望ましい」こととして、職員のこどもに障がいがある場合や、医療的ケアを必要とする場合には、職員が希望する場合、短時間勤務制度や、「子の看護等休暇等」(=次回以降、説明します)の利用可能期間を独自に延長することが挙げられています。また、ひとり親の場合は、「子の看護等休暇等」の付与日数を増やすなどの措置が望ましいと、されています。
<児童クラブなんだから>
言わずもがな、児童クラブは、子育てを支える社会インフラです。児童クラブがあるから、児童クラブがしっかりと機能しているからこそ、世の中の、仕事等と育児を両立したい世帯が助かるのです。
それをですね、児童クラブで働いている職員も同じように子育て支援を受けられる、手厚い子育ての精度を利用できるようになっていなければ、運営支援は「本末転倒」と考えます。ところが児童クラブは、事業規模が小さい、零細規模、あるいはそもそも任意団体の運営で事業体として不完全だらけな事業者が多いです。一方で、各地で児童クラブを運営する大きな広域展開事業者にしても、利益確保には熱心ながら子育て中の職員の福利厚生はおざなり、という傾向がどうにもあるように私(萩原)には見受けられます。
おかしい。絶対におかしいです。児童クラブで働く職員こそ、本日の社労士ブログで紹介したような制度を思う存分に利用できなければおかしい。自身の子育てを円滑に行えない職員が、世間の子育てを支えるのはブラックジョークです。
とはいえ、現実的に予算が無い、職員の人数が足りない児童クラブだらけです。フレックスタイム制度を導入できても結果、残業だらけでは法の求める趣旨から外れます。結局のところ、運営支援の強力な持論である「児童クラブの事業者はどんどん合流、合併して、事業者の規模、つまり会社や団体の規模を大きくして、予算や人手に余裕をもたらすことを実現して、これら育児や介護(=後日に触れます)と児童クラブの仕事を両立できる職員を増やすこと」が、絶対に必要です。1つないし少数のクラブ、支援の単位を運営しているだけでは、相次いで施行される法令を順守すること自体が困難です。いわゆる日本版DBS制度が典型的だと私は感じますが、国が相次いで「労働者のため、制度の発展のため」に導入したり法律を改正しても、それは、比較的規模の大きな事業者、会社や団体に適合するように整えられた制度や法令であって、小さな小さな児童クラブのことなんか、配慮されていません。
児童クラブ側が、法令順守できるよう、働いている職員を守るために、変わらねばならない。それが児童クラブの合流や合併です。もう、待ったなしです。さもないと、本日紹介した有意義な制度が守れないだけでなく、どんどん肥大化している広域展開事業者に「市場の論理」で押し潰されますよ。
次は、すでに実施されている子育てと仕事の両立の制度と、介護と仕事の両立について導入された制度を紹介します。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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