子どもがぶつかってけがをした相手に損害賠償を支払うことが命じられた裁判。放課後児童クラブには他人事ではない!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。学校の校庭で他人にぶつかったことで損害賠償を命じられた裁判の報道がありました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)にとって、他人事ではありません。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<小学生2人に損害賠償の命令!>
 この報道を聞いたら、ゆううつになる放課後児童クラブ関係者は多いのではないでしょうか。インターネットで配信されている報道は毎日新聞しか見当たりません。その記事を引用します。

「滋賀県草津市立の小学校のグラウンド内で、小学生にぶつかられ、けがをしたとして、80代の女性が当時小学生だった男性2人と市に約725万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、大津地裁であった。池田聡介裁判長は、周囲への注意義務を怠ったとして男性2人に88万3041円の賠償を命じた。」
「判決によると、2019年11月、グラウンドで集団下校の指導を受けていた当時小学6年の児童だった男性2人が追いかけっこをしていた際、下校後にグラウンドゴルフ愛好会での活動に参加するために来ていた女性とぶつかり、女性は転倒して太ももの骨を折るけがをした。」
「判決で池田裁判長は「周囲に対する通常の注意を払っていれば女性の接近を認識するのは容易」と児童らの不法行為責任を認定した。一方、女性がグラウンドの中央を歩いていたことなどから認定した賠償額の6割を過失相殺した。また、教員や校長らは女性の進路など当時の状況を把握していなかったことから過失は認められないとして、市への請求は棄却した。」(引用ここまで)

 いろいろ気になる点があるのですが、この記事がすべての状況を詳細に伝えているわけでもありません。うかがいしれない状況があるのでしょう。ただ、児童クラブ業界が留意しておきたい点は明確です。
・小学生といえども、不法行為を認定されて損害賠償を命じられることがある。
・「子どもの行為だから」では済まされないことがある。
・管理監督の問題が問われる。

<「子どもだから」の誤解は禁物だが>
 児童クラブの世界では、とにかく、子どもが最優先というか、最上位に扱われます。子どもの人権を守ることでは問題ないのですが、子どもがやることなすことについて「子どもだから」で済まされてしまう、大目に見るという傾向が私には感じられます。「子どものしたことだから」とか「子どもは、そういうことをするものだから」というような感覚です。

 子どもは当然、成長の発達途中ですから種々の点で大人と同等に扱われることはなく、それこそ少年法のように成人と比べると配慮がされています。しかしこの判決では、たとえ子どもであっても、その事態を起こすことが考えられないような事態を起こしたことで他者に損害を与えたときは償わなければならない、ということを明確に示しています。(この点において私は、報道記事に書かれていない部分を勝手に想像しています。つまり、本来ならぶつかることが考えにくい状況なのにぶつかってしまった何らかの事情があるのではないかということです)

 子どもだから何をしても許されるということは、当然なことではないのです。この点は決して誤解をしてはなりません。例えば、ふざけて追いかけっこをしている子どもが実は手にハサミや棒を持っていた、その状態で誰かにぶつかってしまい持っていたハサミや棒が相手に刺さった、ということは分かりやすいでしょう。許されませんよね。刑事上の責任は問われないとしても、民事上の責任、つまり損害賠償は命じられることは十分ありえます。また、所外活動で施設の外で活動をしている時、ふざけていた子どもが駅のホームや路上で誰かにぶつかって転倒させた場合は、同じように責任を問われることは理解されやすいでしょう。つまりは、児童クラブとしては子どもを受け入れている以上、他者に損害を与えるようなことを起こさないよう、子どもを管理監督し、「このような状況では、こういうことはしてはならない」ということを常に教え、指導する必要があります。学校で「廊下は走らない」ということはよく聞きますが、それは多くの人が通行する場所で走っていたら他者にぶつかる可能性が大きく、相手にけがを負わせることが容易に想像できるからなのですね。
 今回のグラウンドにおける転倒に伴う訴訟も、別段、不思議な状況ではないことを理解しなければなりません。「なぜそんな状況でグラウンドに老人が歩いているのかが理解できない」とか「学校の校庭でゴルフ?子どもたちに場所を開放しないのは何故?」ということは、物事の本質とは関係ありません。

 ここで留意しておきたいことは、この「子どもは何をしても許される」という誤解をしないようにしなければ、という意識が拡大してしまうことです。つまり、「子どもはすこしでも目を離すと誰かに迷惑をかけがちだ。だからしっかり大人が見張らなければならない。児童クラブにおいては、職員が子どもの行動をすべて把握し、子どもの個人の意志による行動は認めない。すべて職員の指示に従わせることが必要で、子どもも職員の指示に従順であることが求められる」という、監視型の児童クラブ運営に陥ることの危険性です。なお、管理なら、児童クラブにおいて必要なものです。まして何らかの事情で職員数が少なく登所している児童が多いときは、不慮の事故を防ぐために積極的に管理型の児童集団の統率を実施することが必要となります。監視はそうではなく、職員数に対する児童数の割合などには関係なく、常に子どもを職員の厳重な支配下においてすべて職員の指示通りに行動させることを指します。職員の指示と異なる子どもの行動は許されないというものです。

 監視型であれば、「グラウンドでは追いかけっこをしてはなりません」と子どもに伝えるだけで済むから簡単です。禁止事項を破った子どもには罰や制裁を与えることがセット(そうしないと監視型であっても子どもは従わないでしょう)ですから、罰を避けたい子どもは指示に従います。つまり、本来ならば児童クラブで働く職員においては、子どもが主体的に自らの各種能力を育てていく過程においてその成長過程を支え、援助するという育成支援の高度な技術は必要とするところを、監視型であれば、ただ威圧感を与えれば子どもが従うので、あえて言えば「どんな低能な人間でも児童クラブの職員として勤まる」ということです。そして残念ながら、「児童クラブの職員を募集しています。未経験でも大丈夫!すぐに勤まるお仕事です」として職員を募集しているこの児童クラブ業界には、威圧でしか子どもたちと接することができない低能な人間が職員として威を振るっているのです。こういうことがあるから、現実は大勢の支援員が日々、育成支援の神髄を体現して理想的な支援の形態を実践していても、少数の低能の職員のふるまいがそれを打ち消してしまうので、いつまでたっても児童クラブの仕事は最低賃金レベルの仕事だと社会から無意識に認定されてしまうのです。

 子どもだからといって何でも許されるわけではない→では、しっかりと子どもの状況を常に把握しておくことが必要だ→子どもは徹底的に監視して問題を起こさせないことが子ども自身だけでなく組織全体をも守ることだ→よし!監視こそ重要だ、の短絡的な思考に陥らないようになってほしいと私は願います。(なお、逆もまた真なり、といいます。徹底的か監視型の児童クラブは、徹底的な自由放任の児童クラブと全く同じ状況になりますよ。どんなことでも子どもたちに任せるということは、無責任状態のまま子どもを放置していることです。子どもが自分の行動に責任を感じる状況で行動をしている、という状況に子どもたちを置かせることをしないという点で、監視型も放置型も根は同じです)

<管理監督こそこだわるべきだ>
 さてグラウンドでの裁判ですが、判決では学校側の責任を認めませんでした。事故が起こることを予測できなかったのは当然だ、ということでしょう。私はこの点はよく分かりません。集団下校中での出来事であれば教職員はグラウンドにいたのではないかと想像するのですが、何らかの理由で、教職員の管理監督のもとにはなかったということが判決では認定されたのでしょう。

 裁判ではそうなったからといって、「児童クラブでの活動中も、職員の管理監督の目から離れる場合があるから、万が一に裁判になっても同じような状況になるかも?」と考えてはなりません。「下校」という状況での子どもと学校側との関係と、「児童クラブ登所中」という状況での子どもと児童クラブ側との関係は全く別物であるとの認識が必要です。つまりは、児童クラブ側、得てしてそれはクラブの現場職員を意味しますが、児童クラブに登所している時間帯に子どもが起こした事故や事案については、職員は管理監督の責任を追及されて当然だ、という認識を持ちましょうということです。

 「児童数が多すぎるのでとても1人1人の行動まで把握しきれない」という訴えは、もっともです。ですがそれは免責事項にはなりません。「職員数が少なく児童1人1人の行動まで把握しきれないという主張だが、職員数に応じた管理監督の手段を取ることが通例である」と簡単に片づけられておしまいです。「ではどうすればいいの?」ということですが、「最善を尽くす」ことしかありません。その最善とは、「与えられた環境、条件で、最も効果的に、事故や事案の発生を防止すること」であり、「与えられた環境、条件を改善できるようにクラブの現場側は運営側に対して常に事態改善を求める要求を発信し続けること」です。いわば、前者は、不利な条件の中で子どもたちを何とか守ろうという行動であり、後者は、不利な条件の中で不幸にも事故や事案が起こってしまったときに自己防衛に役立つ、ということです。後者については、事故や事案の起こった責任を現場の職員だけが負わされるということを回避するために必要です。本来は、クラブの運営事業者、つまり経営側が、現場職員を守ろうとしていれば、少人数で大人数の児童の対応をしなければならない環境や条件の改善に取り組むことが求められるのですが、残念ながらこの児童クラブの業界においては、現場の要望など知らんぷりの、利益追求だけにいそしむ運営事業者が多いのですね。だから現場職員も自己防衛を積極的に行うことが必要なのです。「いえいえ、私たちはこういう事故や事案が起こる危険性をいつも本部に伝えていましたよね。証拠はこれです」と提示できれば、少なくとも運営本部の「今回の事故や事案はすべて現場の責任であり、運営本部であるこちらが関知せぬことだ」という主張を成り立たせないことができます。

 多くの子どもを受け入れ、その生命身体を守らねばならない児童クラブですから、管理監督体制に不備があってはならないのです。それは子どもを守るということだけではありません。子どもを守るための管理監督体制をしっかりと構築することは、児童クラブの運営にあたる組織を守ることです。運営支援の立場からは、運営事業者の経営陣の対応こそ最も重視したい。現場の体制の不利が招く事故や事案をいかに防止するか普段から注力してほしいのです。そして万が一の場合は、被害回復に誠心誠意努めつつ、職員の立場を守ることを貫いてほしいのです。
 この点、非常勤の保護者によるクラブ運営には大いに不安があります。そもそも訴訟の矢面に立つ可能性があることをどれだけの保護者が認識して運営に携わっているか、いや正確には「運営に関わることを強制されているか」です。保護者であっても運営事業者の役員であれば、善管注意義務が問われます。事故や事案の発生を防止するのに役員として最低限度の務めを果たしていましたか?すべて現場に丸投げでどのような運営が行われているか知ろうとせずに会議の時だけ役員ヅラをするような態度であれば、役員としてその不誠実な態度が責任を問われることにつながるということです。

 そして現場で働く職員にとっては、自分自身を守ることでもあります。だから現場の職員こそ、管理監督にこだわってください。管理監督をしっかりしていた、最善を尽くしていた。本部にも改善を求めていた。なのに、不幸にも事故や事案が起きてしまったという状況に持っていけるように計算をしておいてください。

 この裁判の余波も心配です。ただでさえ児童クラブにとって校庭が使いずらい状況にあるようです。教職員の働き方改革で遅くまで学校内に残る教職員が減る中で校庭で起きるトラブルや問題に対応できる人が減っているので校庭の使用を制限しつつある動きですが、この裁判のように学校側(正確には行政)が訴えられるということが続くようなら、校庭は一切使用禁止だ、という流れになっても不思議ではないと私は考えています。だからこそ、児童クラブ側は、常に、事故や事案の発生を防ぐしっかりとした態勢のもと、校庭など学校施設の利用を心がけねばなりませんね。児童クラブに学校施設を使わせると大変なことになる、と思わせないように。

 <おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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