大事なのは優先順位。放課後児童クラブの「壁」なら待機児童を出す壁を真っ先に壊すべし。子どもを隠れ蓑にするな!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。前回の運営支援ブログで、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)にも関する「壁」を紹介しました。壁とは難問のこと。壁は解消していかねばなりませんが、どうしてどうして、私には、壁の解消に取り組むポーズしか見えてこない局面があります。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<真っ先に壊すべき壁は?>
放課後児童クラブにはたくさんの壁があると前日(11月13日)に記したばかりですが、その壁で真っ先に壊さねばならない壁は何か。私は、待機児童を出す壁と考えています。小1の壁、小4の壁、ですね。放課後児童クラブにおける待機児童は、次の不利益な点をおよぼすからです。
・子どもが留守番を余儀なくされる場合、大人の関わりを受けて育っていく機会を社会から与えられないことによる不利益(もちろん、ひとりで過ごすことによって安全を脅かされる可能性が生じる不利益は、言わずもがな)
・保護者が自身の職業生活を変更することを余儀なくされることによる不利益。世帯収入の減少。職業生活の変更をするのが事実上、女性(母親)である場合がほとんどであり女性の社会進出、社会活動が意に反して制限される不利益。キャリアの断絶。それによって生じる生涯獲得賃金額の低下。
・子育て中の労働者が時短勤務や非正規雇用への転職、あるいは退職することを選ぶことによる労働力の減少がもたらす社会経済活動への不利益。企業が投じた育成コストの損失。新たに確保した人材に投入する余分なコストの発生。
放課後児童クラブの待機児童は、子どもだけではなく、社会経済活動に重大な悪影響を及ぼすのです。それなのに、なかなか待機児童数は減少しないばかりか、年々増えている。真っ先に壊すべき壁が、逆に、年々高くなっているのが、放課後児童クラブの小1の壁であり、小4の壁なのです。
おかしいですよね。なぜ高くなるのでしょうか。待機児童の問題は単純です。「クラブに、子どもが、入れない」ことが待機児童ですから、「子どもの入所可能な人数が足りない」ことが原因です。施設の不足です。正確に言えば「稼働できる施設の不足」です。ここには2つの要素があります。
・施設数の不足
・従事する職員数の不足
この2つはいずれも予算が足りないから生じます。施設を造る、あるいは拡張するという予算を市町村が確保しない、確保できないから。職員を雇用する事業者に予算が足りないから人を雇えない、あるいは求人応募者がなかなか増えない程度の安い給料と長い労働時間だから、人手不足になります。
小1の壁は、放課後子どもプランが始まった平成19年(2007年)にはすでに喫緊の課題として国は掲げていました。もうすぐ20年が過ぎますよ。それなのにますます悪化しているとは、あまりにも国の努力が足りない。怠慢とはいいませんが、努力が圧倒的に足りていません。「本気ではない」と思ってしまう。
放課後子どもプランと、その後を継いだ新プラン、そして今年度限定の放課後対策プラン、いずれも小学校の余裕教室を活用して子どもを受け入れることを主たる方策に掲げています。それが砂上の楼閣であるから、待機児童が増え続けたということを、国は認めねばなりません。これはいわば、中央省庁(の机上プラン)と、現場・出先である市区町村(の本音)の対立なのです。机上プランでは、「小学生は確かに減っている。余裕教室がどこの小学校でもあるはずだ。余裕教室がなくても放課後であれば教室は使わないのだからそれを利用した子どもの居場所ができる。校内交流型の児童クラブこそ、低コストで速やかに子どもの居場所を整備できる最優秀なアイデアだ」となります。
現場はそうはいきません。学校という「縄張り」を、放課後児童クラブという別のやつらに渡すことは抵抗が大きいのですよ。放課後児童クラブを管轄するのが教育委員会や教育部であればそれは厳しい対立にはなりませんが、教育委員会でも、小学校などのある意味、本流である所管課と、生涯教育課や社会教育課といった教務ではない所管課とでは、やはり小学校などの教務関係の力関係が上位な方の言い分が通ります。「いつか必要になるかもしれないから、余裕教室というものは存在しない」という言い分が通ります。また、教育委員会が「あの小学校には余裕教室がある」と考えても現場の校長先生が「うちの学校に余裕教室はない」と言えば、余裕教室は存在しないのです。たとえ終日、使っていない教室があるとしても。長年、ずっと置かれたままで、ほこりが積もっている荷物が収蔵されている教室であっても、校長先生が「あの教室は必要だ」と言えば、余裕教室にはならないのです。
はっきり言えば、多くの学校教育関係者は児童クラブのことを下に見ている。邪険に見ている。単なる子どもの預かり場と認識している。そんな施設に大事な教育財産を提供して一般財産に転換するなんて、したくないのですよ。いくら国が財産の転換の手続きに便宜を図るといっても本質的な考え、つまり教育財産を手放すことそのものが嫌なのですから、意味がありません。
まして児童クラブが首長部局であれば、教育委員会に対してすぐ簡単に影響力を及ぼすことはできません。そういう現実をあえて見ようとしない中央の机上プランは、実行力を伴わなくて当然です。
国が本当に放課後児童クラブの待機児童を減らしたいのなら、専用施設を整備するための補助金の額を大幅に引き上げ、その要件も緩和することです。今の既存施設の改修1,300万円では足りません。倍増です。そして、小学校の敷地内あるいは隣接地域に、児童クラブ専用の施設を補助金で建てることを認めるのです。減価償却が51年かかるからその間はずっと放課後児童クラブ専用に使わねばならない、それはさすがに無理だから、ではありません。少子化がいっそう進行して児童クラブが不要になる、あるいは小学校の統廃合によってその地に児童クラブを造っても将来もそこで活用できるかどうか分からないという理由があって、専用施設もなかなか整備が進まない状況があります。
だから整備しない、では、今の子ども達と保護者を救えません。将来、地域の自治会活動や地域づくり活動で活用すればいいだけのこと。作らない理由を探すより、作った後の活用方法を考えるべきです。
国が「どんどんクラブを造りなさい。補助金は必要なだけ出す」と言えば、数年たたずして施設数は増えます。受け入れの能力は整います。あとは、職員が確保できるだけの雇用労働条件を実現できる、運営費部分の補助金の増額です。
つまり、国がもっとカネを出しさえすれば、数年で解決できるめどが立つのです。保育所の待機児童が大幅に減ったのは、カネをつぎ込んだこと、企業内保育所の参入を促した、つまり規制緩和です。放課後児童クラブだって同じです。
<返す刀で>
いま、児童クラブ側で待機児童の解消を強く求める動きを私は知りません。あえて申せば、個人で「待機児童の解消こそ最優先にするべきだ」と言っているのはこの運営支援ブログぐらいでしょう。例えば、保護者運営系の児童クラブの業界団体は、待機児童の解消は必要だといいつつ、間髪入れずに大規模で子どもの環境が悪化しては子どもも職員にも負担が大きすぎてゴニョゴニョといっています。
待機児童を解消したいのか、したくないのか、本音は、「したくない」のでしょう。待機児童を出しても「いま児童クラブに入っている子どもたちに適正規模の環境を用意してあげたい」からが本音です。待機児童が出てしまっても児童クラブに入所する人数を制限することで確保できる児童クラブの適正な環境が優先され、待機児童になって自宅で留守番させられたり、保護者がやむなく仕事を変える、辞めるなどで職業生活や家計に重大な影響が出ることになっても「児童クラブに入っていない子どもたちは、家庭で何とかして。私たちは児童クラブに入っている子どもたちの最善の利益を考えるの」と言わんばかりの対応です。
児童クラブに入っている子どもたちだけの最善の利益を考えるだけの利己的な存在で満足していることが、嘆かわしい。子どものいるこの社会全体での、子どもの利益を総体的に考える思考を欠いていることが恥ずかしい。
確かに大規模クラブ状態は決してよくない。解消されねばならないことは同意です。ただし、待機児童を出しますか?待機児童を出さない代わりに大規模状態になりますか?の、究極の選択を出されたら、私はちゅうちょせずに「待機を出しません」を選びます。
その上で、「こちらは大規模という絶対悪を受け入れたのだから、その絶対悪の状況を速やかに解消する方策を市区町村は必ず、直ちに着手していただきたい」と申し入れます。半年、せめて1年なら、その絶対悪の状況を受け入れる。その代わり、我慢した暁には「これでよかった」といえる、適切な環境を、子どもと職員の双方が満足できる児童クラブを必ず市区町村が準備してくれることを期待します。事業者はそのために市区町村と粘り強く交渉することも当然ながら必要です。職員、保護者、そして子どもには謝罪をしたうえで「必ず来年には状況が好転するから」と約束できるようにすることです。
そういう努力は大変しんどい。いばらの道です。児童クラブ側も泥をかぶることになりますから。それを嫌って、「今の子どもたちが満足ならそれでいい。クラブの環境が悪化しないなら待機児童が出てもそれは仕方ない」と思っている業界の本音の部分があるとするなら、この業界はいつまでたっても堂々と「日なた」を歩けない業界で居続けるということです。狭い狭い身内の部分だけで正当性を主張して悦に入っている、つまらない業界だということです。
<漁夫の利>
いま、小1の壁がそびえたっている間は、ひたすら補助金ビジネスにまい進する企業が、その勢力を拡大するだけです。補助金ビジネス事業者は大規模状態が大歓迎であることは言うまでもありません。利用料収入がぐっと増えるだけです。市区町村が「今年は去年より10人増やして50人の入所をさせるよ」と言えば、それに従うだけです。
補助金ビジネス事業が、「適切な児童数が必要です」と大規模解消を求めた動きを見たことがありますか? 現場で働く職員は大規模状態に疲弊しますが、黒字の額だけを1円でも増やしたい企業の本体には関係のないことです。
さらに補助金ビジネス事業は、ただ行政が決めたことを逆らわずに従うだけです。待機児童があっても行政が取り組まねば自分たちには関係のないこととするだけです。「今年も待機児童を出しますよ」と言えばそのままです。地域に根差した事業者ならば「どうしたら待機児童を減らせるだろうか」と真剣に悩み、頭を抱える光景は、補助金ビジネスの会社の経営陣には見られない光景でしょう。広域展開事業者が小1の壁の解消に向けて行動した例がありますか? 私は知りません。
民間学童保育所にとっては、入所者数を増やせる待機児童発生の状態はまさにビジネスチャンスですから盛んに役立つことをアピールするでしょう。それは当たり前です。小1の壁を少しでも打ち崩すために市区町村が民間学童保育所を利用する新1年生に対して利用料を補助する制度も必要です。ありとあらゆる手で待機児童を減らす方策を講じてほしいものです。それにしても民間学童保育所の、昨年に結成した団体は、今のままではトップ個人の政治活動の応援母体としか見られません。事業の健全な発展を目指す目的とは、ずれてしまっているので、私はいささか問題だと感じます。会としてトップの出馬を全面的に支援するという団体候補であればまだしも、今のままではあまりにも、けじめがなさすぎるでしょう。
待機児童こそ、絶対に起こしてはならないもの。
しかし待機児童がうちはありませんから、と言って胸を張る市区町村は、その中身、質の向上にまい進するべきです。待機児童は先に解決するとしても、次の大規模問題もまた解決が必要な問題であることをぜひ認識していただきたい。放課後全児童対策事業を行っている市区町村には、児童の健全育成は止むことのない課題として継続的に改善に努力することを私は強く求めます。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)