夏休みの放課後児童クラブに関わる問題は実に様々です。これらを解決するには社会に関心を持ってもらうこと。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。夏休み期間の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関する諸問題を挙げていきます。これらの諸問題が存在しているという事実を是非、社会に向けて発信していきましょう。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<夏休みの壁>
 放課後児童クラブ、学童保育の業界における「夏休みの壁」は、「夏休みだけ、子どもの居場所として児童クラブを利用したいのだが入所ができず、子どもの居場所に困っている」状態を指します。夏休み期間中における仕事と子育ての両立の困難さという意味で、児童クラブに持参するお弁当作りの困難さを含めて夏休みの壁、と称しているメディアもあります。

 夏休みだけ、児童クラブを利用したい保護者は実に多いです。学年が上がるとさらに増えていきます。低学年のうちは下校時間が早いので児童クラブを利用する時間も午後3時前後からですが、これが高学年になると午後4時、場合によっては午後4時半ごろになりますから、普段の登校日は児童クラブは不要、ただ朝から家で留守番となる夏休み期間中のみ、児童クラブを利用したいという保護者が増えるのです。
(他にも、仲良しの友達が児童クラブを利用しているのでその友達と遊ぶには自分も児童クラブに入るしかないなど、児童クラブの利用者が増えるにつれてさらに需要を喚起するという状況も増えているようです)
 夏休み期間中の児童クラブ利用が求められる背景には、昨今の防犯面があります。少子化で、女子児童1人でずっと留守番させることの不安があります。さらには生活規律面での需要もあります。家で1人だとずっとゲームや漫画に没頭する。児童クラブに行ってくれれば確実に宿題の時間があります。また、「家にずっといて冷房をつけっぱなしのコストを考えると児童クラブに行ってくれたほうが総合的にマシ」という意見を聴いたこともあります。

 多くの地域では夏休み等、小学校の長期休業中を対象に児童クラブを利用できる制度を設けています。ところが現実には、夏休み前の1学期ですでに入所できる上限の人数まで児童を受け入れていることが多く、なかなか短期利用の恩恵にあずかれません。それが「夏休みの壁」となって現象化しているのですね。

 夏休みの壁を解消するには、2つしかありません。1つは容量=児童クラブの入所人数を増やすこと。もう1つは、児童クラブではない子どもの居場所を用意すること、です。この双方について、子育て世帯のニーズに対して子育て支援を行う国と行政の取り組みが追い付いていないことが、夏休みの壁の発生要因となっています。これはすなわち、意識と予算の問題です。「小学生児童に、安全安心な居場所を整えることが社会的に必要だ」ということを行政が理解しているか。理解していれば、予算付けの優先順位が他に比べて上がるでしょう。また、そもそも予算が確保できないと施策は実行できません。子どもの居場所を整備するに必要な予算を市区町村が安心して確保できるかが重要です。
 「小学生ぐらいになれば、1人で過ごせるでしょう。自分が子どものころはそうだった」と、中高齢の行政パーソンや議員が言っているとしたら、完全に時代遅れ。化石ですよ。

 国は夏休みの壁の解消法として、夏休み期間中に開所する児童クラブ、通称「サマー学童」の設置が容易になるよう補助金の交付要件を緩和するなど考えているようです。いま、現に困っている子育て世帯を救うための緊急避難的に必要な施策でしょう。しかしあくまで一時的なものであると運営支援は考えます。児童福祉法の規定に則り、児童の健全育成にどのような設備や制度が必要なのかをしっかり考え、地道に児童クラブや児童館の整備を進めることが必要です。予算がかかりますが、こどもまんなか社会を作るのであれば予算を投入するのは当然です。

<弁当の壁>
 こちらは急激に解消に向けて動きだしました。朝のお弁当作りが大変、困るという保護者には朗報ですね。こちらは何度もブログで取り上げていますので詳細は論じませんが、次の事にぜひ、社会は留意していただきたいと願います。
・昼食提供の主流は宅配弁当方式ですが、その形式だけで「良かった」と評価せず、具体的な実施内容まで注目していただきたい。値段は?献立は?容器や残飯の回収は?事業の継続性はあるか? 冷凍の弁当が午前中に届けられ、解凍ができないままで児童が食べるという悲惨な事例があるようですよ。子どもの成長に必要な栄養バランスが整っているかどうかも注意が必要です。巨大なハンバーグがドーン!とある弁当、揚げ物ばかりの弁当、それが子どもの栄養バランスに最適ですか?

 保護者の利便性の向上から求められる昼食提供ですが、学校給食が栄養とカロリーの補給に重要となっている貧困世帯、経済的に困窮している世帯への食の機会提供という児童福祉の増進として児童クラブにおける昼食提供は考慮されるべきです。児童クラブの利用料の減免に連動した費用設定は当然、就学援助世帯を基準に無料とする、しないの設定が理想でしょう。受益者負担という経済原則よりも、児童福祉の観点を重視してください。メディアはその観点で昼食提供の重要性を社会に訴えてほしいですね。

<猛暑、酷暑対策>
 2024年の夏はすでに猛暑、酷暑で始まっています。これが秋を迎えるまで続くのでしょうか。児童クラブにおける夏の暑さ対策は、その不完全さから非常に危険な水準です。エアコンの能力が適切な室温を実現するには不足している施設が多いのです。これは、待機児童を出さないためにと想定より多くの児童を受け入れることで室温上昇の要素がふくらむからです。40人入所の施設に60人、70人を受け入れたら、それだけ「人体=発熱体」が室内にあるのですから、エアコンをガンガン効かせても室温は下がりません。

 なぜ室内にいるのかが問題です。つまり熱中症の危険があるので外に出られないから。外に出れば熱中症の危険があり、かといって児童クラブの中でもエアコン能力不足で室温が下がらないので熱中症になる可能性があるという、まさに前門の虎後門の狼の状態です。笑い事ではありません。熱中症がどれだけ危険な状態であるか知っていれば、子どもが熱中症になりやすい状態に置かれていることを全力で回避しようとすることは、当たり前です。

 児童クラブは子どもが遊びながら育つ場ですが、暑さ対策で外遊びが制限されてしまうため、子どもの育ちにとって重要な遊びが大幅に制限されてしまっています。冷房の効いた施設の利用が可能となるような市区町村の対応が必要です。冷房が効いている体育館の児童クラブの利用が優先されて実施されるような配慮が必要です。冷房が効いた遊び場が少ないなら、そのような場所を増やす予算の投入が必要です。体を動かす遊びに制限がかかったままでは、子どものストレスは発散されません。それはクラブにおける子どもの集団の不安定さに直結します。つまり、「荒れる」児童クラブになりがちです。児童クラブ側も、朝は勉強という固定観念を捨てて、まだ気温が上がりきらない時間に外遊びをするなど工夫はしていますが、それも限界があります。
 国は、この猛暑の時代、児童クラブに何が求められているのか、何で困っているのかこそ、積極的に意見聴取してください。

<職員の長時間勤務>
 学校の登校日と異なり、朝から施設が開所するためにどうしても職員の勤務時間は長くなります。この点において、保育所とは決定的に違います。常時、朝から開所している保育所であればそれに応じた人員の確保を通年で考えておくのですが、児童クラブは夏休みや冬、春休みの長時間開所という季節的業務があるため人員確保には困難が伴います。当然、夏休み期間中のみ雇用する非常勤職員を募集してしのぐのですが、職員がなかなか採用できない現状はいかんともしがたい。まして新型コロナウイルス流行で職員が罹患して1週間や10日間の病気療養が必要になれば、足りない人手はさらに足りなくなります。

 その結果、正規(常勤)職員の長時間勤務で足りない人手を補うことが常態化しています。夏休み期間中は法律で義務付けられている休憩時間の確保もままなりません。法人化されているクラブ運営事業者は、長時間勤務への対応として1年単位の変形労働時間制を導入していることがありますが、それは人手不足の解消にはなりません。

 夏休み期間中の人手不足を解消するには、どうしても高い賃金によって求人応募者を集める直接的な方策が必要です。そのためにも、夏休みだけ開所の児童クラブだけではなく、国はもっと長時間開所の補助金を増額するべきです。現行の長時間開所の補助金は、長期休暇分として、1日8時間を超えて開所する場合、その8時間を超えて開所する時間の年間平均時間に、302,000円を乗じた額となっています。12時間開所することが通常なら、8時間を超える平均時間は4時間となりますから、4時間に302,000円を乗じた額が、児童クラブ1単位あたりの補助金となります。120万円ですが、それでは足りません。夏休みだけでなく冬、春休みもその補助金で対応することを考えると、朝から開所する日が年間で60日あるとすると、1日あたり2万円に過ぎません。それでは、季節的業務に対応するための人を雇うための人件費の原資としては、とても足りません。1日6万円、つまり現行の3倍は必要でしょう。補助金の強化が必要です。休業期間中に安定して人が雇用できるなら、正規(常勤)職員の過重な労働状態も幾分、解消できます。

 この問題の根本的な解決としては、学校の登校日と長期休業日のそれぞれに必要な職員数の差を縮小することが必要です。そもそも、学校の登校日に「子どもが下校して登所するぐらいからの勤務時間で十分だ」という誤った世間の認識を修正することが必要です。よく、行政からも保護者からも「子どもがいない午前中の時間、児童クラブの職員の勤務はいらないでしょ?そうすれば人件費が抑制できるし、それが保護者の支払う利用料軽減となってサービス向上になる」という意見を耳にします。まったく間違いです。
 ・午前中こそ、適切な育成支援を行うための準備や討議が必要。
 ・子どもへの面と向かった直接的な支援だけが児童クラブの仕事ではない。付随的業務は子どものいない時間にするしかない。その時間が1日2~3時間必要なら、週の所定労働時間は40時間近くになっても不思議ではない。
 ・仮に午後のみ勤務の正規(常勤)職員を通常の雇用体系としたとき、得らえる報酬額は当然低くなり、求人に応募する人や雇用を継続する人が所得の不安を理由に減ることとなり、児童クラブにおける職員の雇用状態が不安定となる。それは事業の質の低下をもたらす。

 常日頃から、児童クラブは職員がそれなりの人数、それなりの時間、勤務することが必要なのです。目先の、普段は午後から勤務でいいよねという短絡的な考えは総合的に児童クラブにおける事業の質の低下をもたらします。それで、子どもが安全安心に利用できる児童クラブになるのかといえば、私はその可能性は大きく減ると考えます。

 いいですか、児童クラブの仕事は、人(支援員)が、人(子どもと保護者)を支える仕事です。よって、人に投資しなければなりません。すぐれた商品を生み出すには優れた機械が必要でしょうが、同じ事で、人を支えるには優れた人を確保して業務に従事させねばなりません。その優れた人を確保するには、それなりの賃金が必要であるという、当たり前のことを考えてください。「安かろう悪かろう」は児童クラブの人の資質においては、残念ながらある程度、あてはまります。「いやいや、うちのクラブの先生、とてもいい人で頑張ってますよ」という保護者や行政パーソンさんは、その職員に「今の雇用待遇、満足していますか?」と聞いてみてください。間違いなく「やりがい搾取」に苦しみながら、それでも子どものために生活や収入をある程度犠牲にして、あるいは不満を抑え込みながら、相当な気力で頑張っているはずです。

 夏の児童クラブにまつわる問題は実は日常時や平時から児童クラブの運営に関して横たわっている問題が、ただ目立ちやすくなっているだけに過ぎません。その問題の解消にはやはり予算が必要です。社会はもっと児童クラブに予算を割くことを真剣に考えるべきでしょう。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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