全国の市区町村ホームページから読み取る、放課後児童クラブの情報。500を超えたところで幾つか感想を。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。私は、市区町村がホームページで紹介している放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の情報を確認する取り組みを進めています。1700を超える市区町村がありますが、ようやく500を超えました。そこで、今までの感想を紹介します。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<市区町村のホームページを見てわかることは?>
私が市区町村のホームページ・ウェブサイトから、その地域で行われている放課後児童クラブに関する状況がどうなっているか調べてみようと思ったのは、まずは自分自身の知見を深めたいことが一番の理由です。放課後児童クラブは、現実に事業が行われている実態が先にあって、後から法令が整備されたという歴史的な経緯があり、それゆえ、すべての市区町村でまったく独自に進化発展を遂げています。ならば、市区町村が、自らの地域でどのように放課後児童クラブのことを紹介しているか、それは入所手続きといった具体的な必要事項を含めて、どの程度まで「関わって」いるか、それを端的に表しているのがホームページであろうと、私は思ったからです。もちろん、地域には広報紙がありますし、児童クラブで言えば、小学校入学前の検診の機会、あるいは地区の保育所保育園、こども園、幼稚園や公民館、児童館などに、児童クラブの入所案内が置かれていることでしょう。必ずしもインターネット経由で提供される情報が全てではありませんが、ネット時代ですから、ホームページには、ある程度の情報は掲載しているだろうと、考えました。
つまりは、公開情報に触れることで、「どの程度の情報が得られるか」であり、また、「公開情報の程度によって、市区町村が、放課後児童クラブについてどれだけ熱心に関わっているか、ある程度の方向性がつかめるのでは」と、私は考えました。任意とはいえ、放課後児童健全育成事業は市区町村が行うことができる事業です。放課後児童クラブが、地域の子どもの育ちと保護者の子育ての支援に重要な仕組みであると、市区町村が理解しているならば、地域の子育て世帯の保護者に、丁寧で、わかりやすい形で、児童クラブに関する種々の情報を提供しているであろうと、私は考えました。
しかも今は特に地方の自治体で「移住、定住」を広く呼び掛けており、移住や定住に関するページ、サイトも別に設けているケースが目立ちます。子育て世帯を呼び込もうとするなら、子育て世帯が関心を持つ、学校や保育所、幼稚園等と並んで、放課後児童クラブの情報もまた、しっかりと提供されるであろうと私は考えました。今、住んでいる子育て世帯と、これから呼び込みたい子育て世帯の双方を対象にした情報提供がなされるであろうし、児童クラブを施策において重視している市区町村なら、保護者に児童クラブの内容がしっかり伝わるように丁寧に情報提供をするであろうし、ひいては、実施、提供されている児童クラブにおけるサービス内容そのものも充実しているであろうと、私は想像したのです。
実は以前から、情報関係、諜報関係の世界では、公開情報、いわゆるオープンソースを収集、分析して、対象となる国家や組織の動向を分析、予測するという活動はごく普通に行われています。私の知人に内閣情報調査室に一時期所属していた方がおりますが、「内調の仕事は基本的に公開情報の分析」と聞いたことがあります。ロシアによるウクライナへの侵略戦争で大いに注目を集めた「オシント(Open Source Intelligence:オープンソースインテリジェンス)」、まさにそのものです。
もちろん私のやっているこの試みは、とてもオシントと比べ物にならない幼稚な水準ですが、公開情報から方向性を探るという点での根っこは同じです。で、1700超ある市区町村で、500を超えてきたところであっても、なんとなく、しかも私個人の勝手な推測ではありますが、段々と、傾向というか、方向性が見えてきたと、私はある種、手ごたえを感じ始めています。
<あまりにも意識が無さすぎる、公のお金>
圧倒的多数の市区町村は、放課後児童クラブが、どうやって運営されているか、誰が運営しているのか、HPで明らかにしていません。国や都道府県、市区町村から補助金を交付されている限り、それは税金が投入されていると同じことです。公のお金を使っている事業なのですから、そのお金を受け取って事業を行っている事業者の名前は、完全に公開されるべきでしょう。納税者も、もっと興味と関心、そして監視の気持ちをもたねばなりません。事業の運営の仕方、公営なのか、業務委託なのか、指定管理者制度なのか、公募なのか、随意契約や随意指定なのかについても、明らかにされるべきです。
業務委託の公募や、指定管理者選定の資料ですが、多くの市区町村で過去の資料は掲載を取りやめています。それも問題です。どんな審査基準で、誰が、どれだけの点数を付けたのか、その資料は公表され続けるべきでしょう。
・公営なのか、業務委託か、指定管理か
・公募なのか、随意なのか
・いくらの予算がつぎ込まれているか。そのうち、補助金はいくらなのか。割合はどうか
・クラブを運営する事業者名
最低限、この程度は公開されなければなりません。
特にひどいのは、保護者運営の組織です。保護者運営といえども、公の児童福祉事業サービスを営んでいる以上、上記は全て公開されなければなりません。保護者が善意で手弁当でやっているんだから、という理屈は論外です。引き受けた以上、給料をもらって事業運営をしている者と同等の働きをし、法的な責任も全て背負うべきです。それが嫌なら、保護者運営はしてはいけません。保護者で作る非営利法人のHPが更新されない、代表者名も記載がない、そういう情報公開面での不備だらけです。また、保護者が主体となって運営しているクラブが多い地域の市区町村のHPは、おおむね、児童クラブについての情報提供が、非常におおざっぱです。雑です。保護者に任せているんだから、という意識でもあるのでしょうか。保護者運営だろうが企業運営だろうが、情報の提供は当然、丁寧にされるべきです。公のお金を渡して運営させているのですから、市区町村にも最終的な管理責任はあります。
誰がどのような形態で運営し、責任者は誰で、料金はいくらで、何時から何時まで開設しているという「単なる児童クラブの事業者情報」ですら、不完全な情報提供ばかりの自治体が大変多い。非常に残念です。児童クラブの世界の後進性を象徴していると、私は感じます。
<呼び方と、担当する部署>
私自身は「学童保育所」がある地域で子育てをしてきたので、「学童保育(所)」という文字、言葉の響きがとてもしっくりときます。世間でも「学童、がくどう」という単語が非常によく使われますし、小学生の子どもを受け入れる仕組みを一般的に「学童保育」と呼びますから、「学童保育(所)」が、社会一般でも使われているのだろうと単純に思っていました。
実際はどうでしょう。6月7日までの時点ですが、
「放課後児童クラブ・児童クラブ」か、それに近い呼称=227市区町村
「学童保育所」が、それに近い呼称=70市区町村
学童保育所は少数派でした。これは意外でした。放課後児童健全育成事業を行われている場所を放課後児童クラブと呼ぶのは行政用語ですから、放課後児童クラブという呼称が多いのは理解できるところですが、学童保育所という呼称は3分の1ぐらいあるのかしらと思っていたので、意外でした。これは、「多種多様な命名」の市区町村の80よりも少ないのです。
児童クラブを担当しているのは、どの部局が多いのでしょう。
教育委員会系=135市区町村
福祉部局(健康福祉部・課や福祉部・課といった部局の中に担当する課や係がある)=183市区町村
「こども」系部局(子どもの施策を中心に扱う部や課、係だけで構成されている)=119市区町村
教育委員会が児童クラブを管轄している市区町村はかなりあるということです。これは不思議な話で、放課後児童クラブはこども家庭庁、それ以前は厚生労働省が取り扱っていました。文部科学省や文部省ではないのです。が、先に述べたように、地域住民から自然的に発生した学童保育所、児童クラブを、市区町村が引き受けるとなったときにどこの部局に任せたか、ということが大きく影響しているのでしょう。放課後児童クラブが法制化されるはるか以前、文部省が留守家庭児童の対策を行っていたことも、影響しているのかもしれません。
この「福祉サービスである児童クラブを、教育行政を司る教育委員会が担当している」という、一種のねじれもまた、児童クラブをめぐるややこしい状況の1つです。
<意外性のある呼称>
放課後児童クラブは市区町村の数だけ(児童クラブを設置していない市区町村も、それなりにありますが)、そのやり方があると断言できます。児童クラブの呼び方で、私が新鮮な感覚を受けたものを紹介します。
・アフタースクール(赤穂市、加東市)=確かに、放課後、学校の後ですからね。
・仲よし学級(泉大津市)=仲よしであってほしいですが(強制で作られる仲よしなら、いらない)、「学級」なんですね。ちなみに泉大津市は、教育委員会スポーツ青少年課が、児童クラブを担当しています。やっぱり教育委員会ですか。
・子どもの家(宇都宮市、春日井市、鎌倉市)=よく、伝統的な学童保育の世界では、「学童は、子どもの第二の家」といいます。その観点からでは、分かりやすい命名です。ただ、この3市とも児童クラブの運営は営利の事業者がしっかりとシェアを確保しています。つまりは稼ぎのタネとなっているわけです。むろん、絶対に悪いことではないですが。
・学童保育園(加西市)=学童と、保育園を合体させたのでしょうか。「園」という文字のイメージからはなんとなくですが、個人的には、そこに入所している児童を1人1人の「個」の存在ではなくて、「集団」で取り扱っているというイメージが先行してしまいます。ちなみに担当は教育委員会こども未来課です。教育委員会に「こども未来課」という名称の課があることも珍しいですね。教育委員会で児童クラブを担当するのは、社会教育課だったり生涯学習課だったりが多いのですが。
<意外とあるぞ!午前7時開所>
朝7時に学校を開放したら「子どものことを考えてない!」「子どもの面倒を見る人も大変だ」と、多くの否定的な意見が飛び交うニッポンです。2つの局面をごっちゃまぜにしないでほしいですね。「現実に、朝7時に子どもの居場所が必要である子育て世帯があり、子育て世帯がそうせざるを得ない状況がある」ことは、子育て世帯の失態ではありません。朝7時の子どもの居場所が必要な子育て世帯の支援をすることは、必要です。それを「子どもがかわいそう」というのは、あまりにも短絡的で底の浅い考え方です。
社会全体で、子育て世帯の支援をする、小学校就学中は時短勤務を強制かつ所得保障も行う、という社会にでもならなければ、長い時間、子どもの居場所が必要であり続けることは間違いない。社会の制度として、時短勤務が当然にある、それも中小企業や零細企業も無理なく導入できるような社会にすることは、必要でしょう。それは政治であり、行政であり、産業構造の行方を左右する経済団体の、責務です。
個人にまつわることと、社会全体や社会構造のあり方に関わることを、ごっちゃまぜにして、子どもがかわいそうだと叫んだところで、子育て中の保護者を追い詰めるだけです。児童クラブの関係者がそのようなことを主張しているのを見聞きするたびに、「そういう単純な思考の持ち主が集う業界だから、軽くみられる業界なんだよ」と私は心の中で冷笑を止めません。
さて毒はここまでにして、朝7時に開所している児童クラブは、これまででもかなりあります。都心部の小学校や児童クラブが朝7時開所や朝7時30分開所にすることがマスメディアで伝えられますが、おっとどっこい、すでにこんなにやっていますよ。やっぱり今の時代のメディアは、あまりにも底が浅すぎです。参考までに、朝7時や、朝7時15分開所のクラブが(一部クラブであっても)ある地域を紹介します。別途、延長利用料金が必要となるところがほとんどです。
・佐賀県神埼市
・福島県川俣町
・北海道上富良野町
・神奈川県鎌倉市(7時15分)
・茨城県かすみがうら市
・千葉県柏市
・青森県大鰐町(7時15分)
・福島県大玉村
・宮城県大郷町
・熊本県上天草市
・沖縄県沖縄市
・山形県大江町
・愛媛県宇和島市
・岩手県岩泉町
・福島県飯館村(7時15分)
・茨城県牛久市
・新潟県魚沼市
・千葉県市原市
・鳥取県岩美町
・群馬県板倉町
・熊本県天草市
ちなみに、午前7時30分開所が圧倒的に多数です。午前8時開所は、もうそろそろ時代遅れです。もっといえば、祝日や日曜日も開所しているクラブがある地域もあります。福井県小浜市や京都府亀岡市です。
<これはどうなの?>
現実的に多くの地域で、児童クラブの大規模化、つまりギュウギュウ詰め学童が存在しています。都市部に限らず、です。私は、待機児童こそ絶対にあってはならないという主義ですから、待機児童を出さないために、やむをえず入所希望児童をクラブに入所させることは、仕方がないという立場です。ただしそれは、永続的にそうであっていい、というのではなく、大規模化を解消する施策を同時に進行させることは必ず必要だ、という主義でもあります。その施策はクラブの増設でも、あるいは他の居場所の整備でも、何でもいい。子どもの居場所を確保できれば、放課後児童クラブに限定はしません。市区町村にも予算の限界はありますし、児童クラブに適した施設や立地が見つからない、という事情もそれぞれにあるからでしょう。
とはいえ、ですよ。これまで見てきた中で、実に多くの地域の市区町村のホームページに、次のような趣旨の文言が記載されていることが、結構、あるのです。
「入所は低学年を優先します。その結果、4(あるいは、3)年生以上で入所ができない場合があります」
これ、市区町村の根底に「高学年はさ、児童クラブがなくたって大丈夫ですよ」という意識があるのではないですか。それはつまり、児童クラブは、子どもを預かる場であって、低学年の子どもを優先するべきだという考えがあって、その考えの裏には、「高学年の子どもは、留守番ができるし、何か、したいこと、やりたいことが、別にあるでしょ?」という考えが、あるのではないかと私は想像します。児童クラブにおける育成支援は、低学年限定ではありません。高学年にも欠かさず重要です。さらにいえば、高学年であっても、家庭で過ごさせることに不安を抱く保護者は当たり前に普通にいます。少子化で、一人っ子の家庭が多いなか、高学年であっても女子の留守番に不安を覚える家庭は多い。家でゲーム三昧になることに不安を覚える家庭は多い。そもそも、下校時や留守番時の防犯面で不安を覚える家庭はとても多い。だから児童クラブが必要なのに、高学年になると入れない。それが、あまりにもおかしいということを残念ながらこの国の社会は理解ができていません。
さらにいえば、児童クラブのニーズは、「少子化であればニーズは減る」としたり顔で話す行政パーソンやエコノミスト、あるいはアカデミズムの人が多いのですが、私に言わせれば、現場の肌間隔を知らない、机上の知識のご開陳に過ぎません。数値や論理に知悉することは重要です。知識の専門家も必要です。しかし、現場の息づかいや動向を身をもって知っている立場も劣らず重要です。それを専門家とみなさない考え方には私は落胆します。少なくとも、「少子化こそ、子育て世帯における児童クラブのニーズが高まり続ける」仕組みを理解できない人に、児童クラブの専門家ヅラしてほしくはないですね。
さてもう1つだけ。1つの小学校に複数の児童クラブを設置することは珍しくありません。これからどんどん増えるでしょう。というのは、いま、全国各地で「小学校の統廃合」が進展しているからです。複数の学校を統廃合して義務教育学校を設置する、ということも急速に進行しています。そうすると、1つの新たに統合された学校にクラブが設置されます。得てして、大人数の子どもを受け入れることになります。1つの施設に複数のクラブやクラスを設置する形式です。その際、「学年別」でクラブに在籍させる例が目立つように私には感じます。小学1、2年生と3、4年生や、低学年と高学年に分ける、という形態です。
それは、児童クラブの利点を消すことになります。児童クラブの利点に、異年齢集団で過ごすことによって得られる社会性やコミュニケーション能力があります。同学年や、似た学年だけを集めて受け入れる児童クラブは、それこそ「託児所」と同じです。市区町村の児童クラブ担当者には、児童クラブの利点を理解している人が少ないことの現われです。異年齢集団で過ごすことで子どもの成長発達に有益な面があることを踏まえて、児童クラブについて紹介している自治体は次の通りです。
・群馬県甘楽町
・石川県かほく市
・山形県金山町
・大阪府門真市
・福井県越前市
・大阪府泉大津市
・岡山県浅口市
500超のうち、たったこれだけです。せっかく、子どもたちが大勢過ごせる場所を設置するのですから、管理のしやすさで学年別に分けて在籍させるのではなく、異年齢で交われるようなクラブの入所にしてほしいです。
(学校統合による大規模化問題と、それによって入所ができなくなる児童が出ることは、もっと注目されなければならない問題です)
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、6月下旬にも寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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