働き手は高年齢者ばかりの時代。高年齢者の活躍の環境は放課後児童クラブの事業者が用意すること。現場任せはダメ!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。以前も運営支援ブログで取り上げましたが、今の時代は高年齢者の活用が事業の成否を握ります。体力勝負であり子どもとの関わり合い方に時代による隔たりがある不利な条件にある児童クラブも例外ではありません。事業運営者が現場職員の負担を増やさずに高年齢者をいかにして活用できるかの知恵を絞らねばなりませんよ。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道から>
岡山県のメディアは職員不足に対応した行政等の取り組みについて報道で取り上げる機会が多いように私には感じられます。先日も次のような報道がありました。OHK岡山放送が2024年10月9日18時7分に配信した、「補助員は70歳まで可 待機児童解消めざし人材確保を…岡山市が児童クラブ希望者の就職相談会【岡山】」という見出しの記事です。一部を引用します。
「待機児童の解消に向けて対策が急務となっている、放課後児童クラブの拡充に向けた動きです。岡山市は10月9日、児童クラブで働く人材を確保しようと就職相談会を開きました。岡山市役所に設けられた会場には朝から多くの人が訪れ、仕事の内容や勤務時間などについて担当者から詳しい説明を受けていました。放課後に小学生を預かり子供たちの見守り支援を行う放課後児童クラブ。スタッフは正規職員である支援員とパートタイムで働く補助員の2種類で、支援員は保育士などの資格が必要ですが、補助員は特別な資格がなくても70歳まで申し込むことができます。」(引用ここまで)
記事の趣旨からするに、職員のうちでも補助員であれば資格が無くても採用可能であるので高年齢者の働き先として児童クラブが有力な存在であることを伝えているものと考えられます。なお、私の疑問点として、なぜ70歳まで申し込めるのか、年齢制限の根拠が不明です。児童クラブの事業者が内規でそう定めているのでしょうか。補助員は70歳までと年齢を限定する趣旨の法令はまったくありませんので。
待機児童の解消、と記事の冒頭にありました。児童クラブの働き手がいない=児童クラブを増やしても開所できないので、新しくクラブを増やせない=いつまでたっても待機児童が解消しない、という負の循環が存在しているので、児童クラブの働き手を増やすことは重要です。
<働き手が増えないカラクリ>
放課後児童クラブの人手不足はそもそも構造的な要因にあります。「人件費として確保できる予算が少ない」ために「必要な業務量に対して適正な職員数を雇用できない」、その上さらに「過少な職員数なのに人件費が少ないので、その過少になった分だけ増えた個人単位の業務量に見合うだけの賃金を支払えず、業務量と賃金の額を比べて著しく賃金が低い」ので、「採用しても離職者が多く、しかもなかなか採用希望者が少ない」。この構造を根本から変えない限り、児童クラブの人手不足は解消しません。
さらにやっかいなことに、補助金ビジネスの隆盛があります。児童クラブの企業参入いわゆる市場化はすでに確立されたことであり、それを撤回するのは非現実的ですし、民間活力による業界全体の良い結果はある。迅速性や柔軟性、サービス受益者への還元です。しかし一方で、指定管理者制度の場合は交付された補助金を「企業の営業努力」で剰余金にできた場合は利益として計上することが認められているので、それを狙った利益の計上のみを目的に本来の児童健全育成事業をないがしろにしているとしか思えない事業者が存在する現状の修正が必要です。人件費を過度に抑制することでしか過大な利益が計上できないので、補助金ビジネスの隆盛は職員の雇用労働条件の悪化の主たる原因といえます。
これらの問題は早期に解消されねばなりませんが、残念ながら時間がかかります。まして「いま」は、児童クラブで安定して働いてくれる人がなかなか見つからない。ないものねだりをしていても、何も解決しません。「児童クラブでは30代、40代、せめて50代前半の働き手がほしい」と願っても、応募してくる人材は70代ばかりの現状に「どうしようもない」と嘆いているばかりでは、事業者としては失格です。(現場の人が嘆くことは、無理もないです。)
<高年齢者の活用はひとえに事業者、経営者が考えること>
昨年(2023年)9月15日に、高年齢者の活用が必要だという趣旨の運営支援ブログを掲載しています。そのときに重要な点を記しています。その部分を再掲します。かなり長い再掲ですので、あとで時間があるときに目を通していただいて構いません。そのためにとりあえず訴えたい2点を記します。それは、「高年齢者が活躍できる環境を整えるのは事業者の責務」と、「働く側(雇われた高年齢者)も体力、健康の維持に務め積極的に業務に応じる」ことです。
(以下再掲部分)
「厚生労働省は「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)を策定、公表しています。これは、高齢者の雇用に際して、「体力に自信がない人や仕事に慣れていない人を含めすべての働く人の労働災害防止を図るためにも、職場環境改善の取組が重要です。」と、事業者に呼びかけているものです。
1 安全衛生管理体制の確立
2 職場環境の改善
3 高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
4 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
5 安全衛生教育
この中の「1」において、国は「経営トップによる方針表明と体制整備」を真っ先に掲げています。これは3点からなっています。
・企業の経営トップが高齢者労働災害防止対策に取り組む方針を表明します
・対策の担当者や組織を指定して体制を明確化します
・対策について労働者の意見を聴く機会や、労使で話し合う機会を設けます
この3点を、運営責任者は率先して行うべきだというのです。
私も、とても大事だと思いました。というのも、現状の学童保育の世界では、高齢者が新たに職員として加わることを嫌がる風潮が大変根強い。体を動かして遊ぶことが重要な仕事になっているので、動けない高齢者は不要、という考え方です。他にも、年下の職員の指示に従わない、業務の手順をなかなか覚えられない、短気な人が多く子どもへの対応に不安がある、という声をよく耳にします。現場の職員や、あるいは組織そのものが、高齢者の雇用に対して消極的である現状において、それでも人手不足で事業そのものの運営継続が立ち行かなくなるギリギリの局面であれば、子どもの居場所と保護者の生活の支えのためには、なんとしても事業の継続を最優先するしかありません。
そこで、組織のトップが「高齢者を雇用し、しっかりと局面に応じて職務を果たせるように職場環境や作業手順を見直し、高齢者が働きやすい環境を作り上げる」と、強い決意で宣言することが絶対に必要であると、私は思うのです。トップが決意をして、他の職員の不安の解消に全力で取り組む姿勢を見せることが、大事なのです。
このガイドラインには、様々な提言が掲載されています。ぜひ検索して見ていただきたいのです。その中でも、
・高年齢労働者の身体機能の低下等による労働災害発生リスクについて、災害事例やヒヤリハット事例から洗い出 し、対策の優先順位を検討
・敏捷性や持久性、筋力の低下等の高年齢労働者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施
・高年齢労働者の労働災害を防止する観点から、事業者、高年齢労働者双方が体力の状況を客観的に把握し、事業者はその体力にあった作業に従事させるとともに、高年齢労働者が自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、主に高年齢労働者を対象とした体力チェックを継続的に行うよう努めます
・健康や体力の状況は高齢になるほど個人差が拡大するとされており、個々の労働者の状況に応じ、安全と健康の点で適合する業務をマッチングさせるよう努めます
これらは、高齢職員の戦力化において必須なだけではなく、20代から50代の職員であっても、個々の能力や体力に違いがあることを考えると、業務の効率化において役に立つことです。
また、一概に、高齢者だから体を使う外遊びは不安、できそうにないと決めつける考えは変えたほうが良いでしょう。確かに10代の学生の補助員のように、子どもたちと長時間、サッカーに興じたり鬼ごっこで走り回ったり、持続的に体力を使うあそびは無理があるでしょう。しかし、遊びはたくさんの種類があるので、高齢者でも20分ほどなら体を動かせる外遊びを新たに取り入れるという工夫も必要です。要は、「どうせできない」「無理に決まっている」ではなく、「どうしたら、子どもたちと楽しく遊びで関わることができるか」、前向きに活用方法を考えることです。
このガイドラインは、働く側、つまり高年齢労働者にも一定の配慮を求めています。
「一人ひとりの労働者は、事業者が実施する取り組みに協力するとともに、自己の健康を守るための努力の重要性を理解し、自らの健康づくりに積極的に取り組むことが必要」
事業者は、高齢者を採用したなら、しっかりと丁寧に、かつ繰り返し、学童保育で高齢者が働くことにおいて求められる重要事項を、教え続けて理解させることが必要です。育成支援の理念、組織内での立ち振る舞い方、業務内容とその意味。つまり、研修と教育ですね。これは絶対に欠かせません。
この時、どうしても組織の方針を理解しようとしない、受け入れようとしない人であるなら、それは無理に雇い続ける必要はありません。高齢者の求人は相当多いので、どうにもならない場合は無理に採用せず、少しでも自助努力が見込める、子どもに対する育成支援の根本的な理念を理解できる、そういう人を採用すればいいのです。」
かなり長い引用でしたが、まったくその通りです。
<高年齢者には、どうしてもできない業務>
児童クラブにおける種々の業務で、高年齢者であれば絶対に出来ないというものは、それほど多くないはずです。真っ先に頭に浮かぶのが「体を使った遊び」ですが、一概に、すべての体を使った遊びが、高年齢者に不可能であるとは言えません。言えるのは、「個々の高年齢者職員の状態」に応じて「まず不可能であろう体を使った遊びが存在する」ということです。駆け足をすることができず、まして歩行すらちょっと不安な高年齢職員に、子ども達とサッカーをして遊んで、ということは不可能です。
一方で、70代でも頑健に、体を動かすことなら一定程度可能な人もいます。そのような人なら、一緒に子ども達と走り回ることはできない(させてはならない)としても、サッカーのメンバーの一員として加わってもあまり動かないで来たボールを蹴り返しつつ、子ども達の遊びの様子や周囲で遊んでいる子どもたちの様子を見ておくという任務なら、課すことができましょう。
よって、高年齢者の求人応募者には、体力的なこと、運動面でのことをしっかりと確認した上で採用することが欠かせせないことと、採用した場合はどの程度まで子どもたちと一緒に体を動かして遊ぶことができるかを把握することが、事業運営者に求められます。もちろん、子どもとの遊びは屋外で体を使った遊びに限定されません。室内で体力を使わず知力を使った遊びだってできます。そういうところを、体力面でどうしても厳しい高年齢職員に担ってもらうなど、仕事の分担を考えることは現場職員の知恵です。
夏場など、特に体力が必要で、かつ、遊びの時間が長くなる時期においては、学生など若い世代のアルバイト、補助員を積極的に採用して、体力勝負の部分は10代や20代の補助員に任せる、という年齢構成においてバランスの取れた職員採用をすることも、事業者が心得ておかねばなりません。それらは現場職員には手の及ばない部分です。
高年齢者をどう活用するかは、事業運営者、つまり人を雇う方、配置をする方が責任を持って考え、現場における活用の仕方についても的確に、丁寧に、現場のクラブに指示、説明をすることです。高年齢者を雇いました、現場が人が足りないっていうから雇いました、その活用方法は現場に任せます、では絶対にダメです。特に高年齢者に多い、加齢に伴う労災防止については丁寧な指示が必要です。外遊びの前に、入念にウォーミングアップをすること、体調を自分自身で確認して申告させる仕組みを徹底させることなど、労災防止は事業者の責務で実施することです。
そして同時に、高年齢者の子どもへの対応の感覚を自己の経験に任せないこと。高年齢者はおそらく、年長者に叩かれたり怒鳴られたりして育った子ども時代を過ごしています。その感覚をもってして児童クラブで子どもと接してもらっては困ります。事業者は、今の時代に絶対に守らねばならないことを徹底的に高年齢者の職員に叩き込んでください。それを理解しようとしない高年齢者まで雇う必要はありませんので。徹底した職員教育も採用した事業者の責任で行ってください。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)