個人情報の取り扱いに関して報道がありました。放課後児童クラブ(学童保育所)の運営体制にも関わる問題を含んでいますよ。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」を書きました。アマゾンで発売中です。ぜひ手に取ってみてください! (https://amzn.asia/d/3r2KIzc) お読みいただけたらSNSに投稿してください! 口コミ、拡散だけが頼みです!
放課後児童クラブをめぐる報道が最近相次いでいます。前回の東京都板橋区の盗撮疑い事案の前になりますが、児童クラブを利用する世帯の個人情報に関して報道がありましたので、それを取り上げます。5月27日、28日と続けてきた、こども家庭庁の「こども性暴力防止法施行準備検討会」(第2回)に関しては次回以降に取り上げます。ご容赦ください。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道から>
放課後児童クラブを利用する世帯の個人情報に関わる報道が2つありました。うち1件は、児童クラブに限らないのですが個人情報のデータを紛失したというもの。これは児童クラブ運営事業者の業務執行体制の問題です。もう1件が、児童クラブの運営形態に関わることであって、本日の運営支援ブログで取り上げたい内容です。
ではまず2件の報道を順次、引用して紹介します。
NHKの「和歌山 NEWS WEB」2025年5月30日20時32分配信の「学童保育 個人情報56人分を運営会社が紛失 和歌山市」との見出しの記事です。
「和歌山市は、放課後に児童を預かる学童保育の運営を委託している会社が利用者の個人情報が記載された56人分の利用料決定通知書を紛失したと発表しました。会社は誤って廃棄したとして、情報の漏えいは確認されていないとしています。」(引用ここまで)
私はかつて児童クラブを運営するNPO法人のトップとして毎年というか毎日、こども、保護者、職員の個人情報を取り扱ってきましたし、児童クラブの利用者は優に1,000人を超えちたので個人情報の取り扱いには本当に注意を払いました。恥ずかしいことに入所申請者に送る入所決定通知書に誤った内容を記載して発送してしまい、謝罪したこともあります。ただ、個人情報の紛失は業務の上でとても恥ずかしいこと、あってはならないということは当たり前ですが強く意識していました。それほど、「個人の情報」は重要なのです。
この報道が目についたのは実は別な点でして、というのは、この報道記事では、失態を犯した事業者名が実名で報道されているのです。前回取り上げた板橋区の盗撮疑い事案では事業者名は伏せられていました。和歌山の事案とはもちろん違う事情、個人の特定につながりかねない些細な情報も記載しないという配慮があったのでしょうが、「業務上のミスによる個人情報の紛失」と、「雇用している職員が深刻な性暴力を行ったと疑える事案」を比較して、前者は事業者名が報じられ後者は伏せられる点に、どうにもしっくりこない感情を私(萩原)が感じた次第です。
さて2番目の報道です。これはヤフーニュースに掲載されたもので、itvあいテレビが2025年5月28日9時31分に配信した、「放課後児童クラブの利用通知書を別の家庭に発送 個人情報漏えい 愛媛・松前町」との見出しの記事です。一部を引用して紹介します。
「愛媛県松前町は、個人情報が記された児童クラブの利用通知書を誤って、別の世帯に送付したと発表しました。松前町によりますと、今月21日、今年度分の放課後児童クラブ使用料の通知書を発送した際、兄弟姉妹で利用している家庭の通知書を誤って、別の家庭に発送したということです。通知書には、保護者の氏名、住所・利用児童の氏名、振替に使っている金融機名や支店名、口座番号下3桁と口座名義人が書かれていたということです。」(引用ここまで)
この記事が掲載されたヤフーニュースのコメントには、1つですが「たいした問題ではない」という趣旨のコメントが付けられ、賛同者だけ10人と表示されていました。その「たいしたことはない」という意識そのものが児童クラブ運営においては不適切であって是正しなければならない課題です。
万が一ですが、誤って他者に発信されてしまった情報から、何か不正利用につながるようなことが起きてしまって情報を漏らされた個人に何かしらの損害が生じる可能性は、当たり前ですがゼロであると断言できません。限りなく可能性は低いでしょうが、ゼロにはなりません。ということは、「起こしてはならないミス」です。
そもそも、「許可なく第三者に知らされてはならない情報」ですから、「知られたからといってたいしたことではない」のではなくて、「第三者に知られたこと自体が、起きてはならないこと」という意識が欠けていると、「たいしたことない」という感想になってしまいます。
松前町はその点、やはり起こしてはならない失態をしてしまったことに変わりないのですが、それでもこの誤りを公表して再発防止に努めるとしていることは評価するべきでしょう。ミスを隠して知らんぷりする運営組織や行政自治体が多いのです。公表は当然に当たり前なのですがその当たり前がなかなか当たり前になっていない中で、町の対応に私は評価を持てました。
<保護者運営児童クラブでは当たり前>
さて児童クラブの源流の1つでもある、保護者(職員が加わることも多いですが)による共同運営では、個人情報は結果的に多くの保護者に知られることがごく当たり前でした。児童クラブの利用者である保護者は同時に児童クラブの運営者でもあるので(注:実務上は、その年度の役員や担当の係が運営に携わることがほとんど。運営に関わらない担当の役員や係に就く人もいますね)、例えば、入所申請や退所申請を扱う担当の役員や係の人は、同じ保護者から提出される書類に目を通したり、入所要件を満たしているかどうか判断するため就労証明書を確認したりします。保護者負担金(いわゆる保育料、利用料)の引き落とし口座を確認するので口座番号を目にする機会もまたあるでしょう。
保護者運営が当たり前だった時代は、確かに「そんなのたいした問題ではない」という感想になっても、それは不思議ではありませんね。個人情報が全保護者に開示されることはなく担当者だけの目に留まるとしても、その担当者は形式的に「運営責任者」「入所管理責任者」であれば権限において個人情報に触れることが当然ですからね。ただ、「自分と同じ保護者でもある」という事実は変えられません。
保護者たちが運営を行う形態の児童クラブでは、広範囲の個人情報に接することになります。利用する金融機関の情報などは当然のこと、納付する費用の納入状況や子育ての状況、例えばネグレクトや暴力のような児童虐待に関する情報を知ることもあります。私も保護者が運営に関与する形態の学童保育所で保護者会会長を務めましたし6年間の児童クラブ利用期間中、5年間は保護者会の役員(さらに言えば4年間は運営法人の役員)だったので、家庭の状況をかなり細かい情報まで知ることとなりましたし、DVや児童虐待についてはそれなりに接してきました。(また立場上なのか、夫婦関係の相談も結構寄せられましたが)。
しかし、私が見てきた中で圧倒的に多くの、運営にやむなく関わることになった保護者は「そんな他人のことは知りたくない」と拒否反応を示す人ばかりでした。それは当然で、「こんなにたくさんの他人の個人情報を知るということは、自分の個人情報も同じように他の人に知られてしまう」ということを意味するのですから。知りたくもない他者の個人情報を知るということは、当然その情報には「守秘義務」が課せられることになりますが、その義務の重さそのものというよりも「義務を背負うという状況」に、へきえきしてしまう、ということですね。
過去の経験談を申しますと、わたくしが2015年度、運営法人の運営責任者となっ手真っ先に行った改革の1つが、「保護者会会長が、利用料の未納者、滞納者に督促状を渡すことの廃止」でした。わたくしが保護者会の会長だった時代(つまりまだ運営法人の役員ではなかったとき)は、督促状はその文面が見られる状態で会長たちに運営法人から配られました。つまり、誰が何円、利用料を滞納しているか分かってしまう状況でした。そのような運営形態は周辺地域でもほとんど変わりありませんでした。それほど、2010年前後の保護者運営系児童クラブは個人情報の扱いについてさほど留意されていなかったといえるでしょう。(なお、個人情報を守る規程は存在していましたが、運用されていなかったということです)
2015年度からは督促状の文面を見られないように封をするようにして、その後に調整をして1年後には督促状は職員から各家庭に渡すことにしました。「そんなこと、すぐにやればいいじゃないか」と思う人は多いでしょうが、実際に多数のクラブを抱え多数の職員が従事する法人(つまりれっきとした企業ですよ、実際は)の運営に携わると、「物事を急に変えること」の難しさまで実感できる人はなかなかいません。はっきりいえば、「人に使われて働いている人の人数」と、「多くの人を動かす、使う立場にいる人の人数」は、圧倒的に「雇われて働いている人」の方が多いのですから、「人を使う側、組織を動かす側」の苦労はなかなか共感が得られません。督促状の伝達方法1つ変更するにしても、組織内の会議、決定機関で合意を経て根拠となる規定を確立し、同時に職員に説明してから、実際に業務命令として発動することになるのです。そういう「民主的な手続き」を経ないと、組織における業務の具体的な手法は、なかなか変えられないのですし、よほど人命にかかわる緊急的なことは別として、通常の業務に関することは権限のある人の思い付きや意見だけで実行されてはなりません。まして、補助金として多額の税金を得て運営している、公の事業を営む事業者、運営組織であれば、なおさらです。
<児童クラブにおける個人情報の問題を解消するには>
運営に関わる保護者が他の保護者の個人情報を知らないで済むにはどうしたらよいか。それは単純に、「運営する側」と「利用する側」を分けることです。保護者や保護者OBが運営に関わる形態ではなく、運営を行う者が事業者から給料、報酬を得て運営を担う形態にすることです。なおこの場合でも、あらゆる義務や責任を負うことを承知で運営に関わりたいという保護者(OB)を排除する必要は、私は無いと考えます。児童クラブという事業においては、保護者(OB)が運営に参画できる手段は最小限であっても保障されておくことが望ましいと考えます。
保護者が運営に関わる形態のままで「個人情報を知りたくない」というのは不可能です。保護者運営の児童クラブの場合、実務として職員に多くの業務を任せる(というか、丸投げする)ことが行われている場合が多いですが、運営責任の機関に保護者が必ず入る以上、必要に応じて利用者の保護者の個人情報に触れることになります。「運営は保護者がする、個人情報は業務上の守秘義務がある職員に任せる」というのは、職員だけに責任を負わせることになり、私の考えでは望ましくありません。もしそうするならその責任に見合う報酬を事業者が用意するべきでしょう。制度上でも、職員による運営にして、保護者は利用者側に回るべきです。形式上でも運営の責任が保護者にある運営体制は、最終的には運営側でもある保護者が、個人情報の管理について責任を逃れられないということを理解するべきです。
保護者会運営の児童クラブは、個人情報それも極度に高度のプライバシー情報となるDVや児童虐待、生活保護や就学援助の適用状況など家計経済状況に関わる情報について、どうしても多くの保護者が知る機会が存在する以上、私はもう運営形態としては不適切であると断じます。私は確かにいろいろな個人情報に接してきましたが、その経験からしても、こういう経験を多くの保護者がすることはやっぱりダメだろうと感じます。「ずっと昔からこうやってきた」というのは言い訳にもなりません。思考停止は事業の質の改善に取り組む姿勢の放棄に他なりません。
ましてこれからは、こども性暴力防止法による、いわゆる日本版DBS制度が始まります。これは保護者ではなくて職員の個人情報ですが、それこそ極めて高度なプライバシー情報である犯罪歴の情報を管理する義務が、この制度の適用を求める児童クラブ(認定事業者となった児童クラブ)には課せられます。それは保護者運営では不可能に近い。適当にいい加減に情報を管理しておけば見た目には問題ないかもしれませんが、万が一、それによって何らかの被害や権利侵害が発生した場合に、刑事責任すら追及されるのです。その覚悟が保護者運営系児童クラブに求めることができるのか。保護者会運営、運営委員会運営、保護者が役員の中心となって組織を動かしている法人運営いずれにおいても、とても重い課題が目の前に立ちはだかっています。
児童クラブは個人情報の宝庫です。個人情報管理は、どのような児童クラブの運営体制であれば最も合理的にかつ安全に実行できるのか、この観点からも児童クラブの運営体制の管理に関する議論が進んでほしいと運営支援は期待します。
<PR>※お時間のある時に、目を通していただければ幸いです。
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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