保護者運営系の放課後児童クラブに必要な、事業運営の専門性。外部専門家の活用で満たせる。そのための費用が必要!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)を営む、行うということは、通常の企業、会社を経営して営むこととまったく同じですが、どうも保護者運営系の児童クラブの場合、その点の認識が表面的なものに留まっています。複雑化する法令や制度への対応に保護者が取り組むことは直ちに取りやめるべきであり、国や行政はそのための支援をもっと拡充するべきです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<事業を営むことは社会に責任を負うこと>
 放課後児童クラブのことを「福祉の世界だから」とひとくくりに語る人を私は児童クラブの世界によく見かけます。その言わんとすることは、おおむね「福祉の世界だから崇高であり、金儲けのビジネス、事業とは全く違う、尊敬されてあがめられるべきものだ。よって学童保育に関わる保護者や職員はとても素晴らしい。エライんだ」ということにあるようです。

 児童福祉に関わらず、誰かを支える仕事の尊さは分かりますが、スナック菓子を作っている会社に勤めている人であっても、お菓子を作って社会の人たちを喜ばせているのですから、人助けですよ。仕事の価値に貴賤など本質的にないものです。児童福祉だからエライとか偉くないとはそんな議論は不要ですし、重要なことは、児童クラブがその本質を踏まえて、「事業」を「継続」して「安定」して実施できるか、それだけです。そしてその土台は、「法令に従って」であることは言うまでもありませんね。

 児童クラブはその必要性、重要性が以前と比べてはるかに社会から認識されるようになってきました。仕組みそのものを定義する法令はあまりにも緩すぎて早急な見直しが必要ですが、こと、「事業」を営んでいる以上、種々の決まりを守らねばならないのは言うまでもありません。それを「保護者や職員が運営に加わっているから、難しい専門的なことは無理」といって片づけるのは、あまりにも無責任です。法令や通達、あるいは行政からの指示など、従うように、守るように言われたこと、指定されたことなどは当然、完全に従うべきです。

 例えば何度も取り上げている日本版DBSへの対応。認定事業者になるには、おそらく極めて高度で複雑な手続が求められます。先日の運営支援ブログで取り上げた、ストレスチェックの全事業所への対応。これは法令で決められるものですから、無視しては法令違反です。もちろん、すべての事業者は適切に会計処理を行うことが求めらています。放課後児童クラブであればおおむね補助金が交付されているでしょうから、税金を使う事業という意味で、個別の法令によって公開が義務づけられていないからといって外部に公開しないでいいというものでは決してありません。むしろ公開するのが当たり前すぎだ、という感覚を持てない方が異常であると私は考えますが。

 児童クラブは子どもの存在を守るため、保護者の社会活動を支えるために存在しています。それは必要だから生まれた仕組みです。社会的に必要だから税金から補助金も出ています。児童クラブはしっかりと安定して質の高い事業を行うことで、社会からの期待に応じねばなりません。「私たちは児童クラブを運営している。無報酬のボランティアでやっている。そんな保護者はエライ。子どもたちの支援に関わりつつ運営もしている職員は立派だ」なんてことで酔いしれているようではダメです。事業運営がうまくいかなかったとき、その人たちは責任を取れますか?法令で求められていることを確実に履行していますか?事業運営に責任を負う覚悟を持ち、決められたことを確実に行うことが児童クラブに当然に求められます。運営に関わる方々の責任は重大ですよ。

<専門的な業務は外部に>
 毎年度、必ず行わねばならない業務に会計報告、計算書類の作成があります。補助金や、保護者からの徴収金で事業を運営しているのですから、お金の使われ方に一点の曇りもあってはなりません。税理士にその業務を委託して行っている運営事業者は多いでしょう。

 ご存じのように、クラブ運営に関する業務を外部に委託する際に使える補助金「育成支援体制強化事業」の補助金を国は設けています。この補助金は、専門的な業務を外部に委託する際の費用に充てることができるものです。クラブ運営事業者はこの補助金の活用を積極的に行うことが必要です。

 そして市区町村には、この補助金をぜひに使っていただきたい。確実な業務の実施に役立ちますし、外部専門家による業務作業によって間違い、修正が必要な点を発見できる可能性が飛躍的に増します。どだい、もう、保護者や児童クラブ職員に会計やその他の専門的な作業を行わせることがそもそも不適切なのです。専門的な知識が無く責任も実際に負えないものに、事業運営に関する重要な業務を行わせることは事業の質の信頼性に関わります。

 事業の質の信頼性を確保するには、どうしてもコスト、つまり予算が必要です。計算書類であれば税理士、雇用や労働災害、安全衛生であれば社会保険労務士、補助金の申請や(おそらく日本版DBSに際して)行政書士、登記には司法書士、そして法律上の問題や争いには弁護士と、それぞれの専門家による信頼性を確保するには、お金がかかります。そのお金を行政が出さねばなりません。育成支援体制強化事業についてはぜひとも必ず活用してください。

 国は、この補助金の額を大幅に増額しなければなりません。145万円では、とても足りないです。クラブ運営事業者は、この補助金に使える業務をたくさん抱えています。昼食提供のための従事者にも使える補助金ですから、昼食提供がますます社会的な要請となれば、昼食提供を行うための労働力確保が重大な問題となります。外部の専門家にも、昼食提供の労働力を確保するにも使うとなれば、最低でも倍増が必要です。

 そもそも、児童クラブを運営する「組織を運営」するための費用があまりにも貧弱です。額もそうですし、理解もそうです。確かに歴史的な経緯では保護者運営系の児童クラブでは保護者が無償労働をして運営に関わってきました。好き好んで関わる人はいますが少数派で、圧倒的多数は、やらねばならないからやってきたまでです。そうしたことについて業界側は「保護者が運営に関わることで良質な児童クラブができる」と取り繕い、行政側は「保護者がやってくれるのならそれでいい。コスト削減できる」と、思惑が一致してこれまで続いてきたのでしょう。その結果、クラブを運営する事業そのものに費やすコストは無償あるいはそれに近い低額で十分対応できる、という誤った解釈が根付いてしまった。これは、もう早急に是正されねばなりません。

 もっと事業運営、つまり運営事業者の本部や事務局と呼ばれる部分が使える予算を増やすべきです。それこそが安定した事業運営の土台です。

<専門家の側も>
 これまでも会計処理や給与計算、労災や年金の手続きを外部専門家に依頼、委託しているクラブ事業者はそれなりにあります。問題は、クラブ事業者はおしなべて財政事情が厳しい、つまり貧乏なのですね。士業にお願いするにはどうしてもそれなりの費用が掛かります。よって士業の側も「学童はお金が無いから」といってあまりビジネスの対象とみなしていなかったようです。

 しかし、児童クラブは重要な社会インフラです。児童クラブが安定して継続して事業を運営することは社会にとって必要です。残念ながらその重要性をあまり理解できていない保護者運営系の児童クラブはまだまだ多い中で、「あなたたちは、しっかりと責任を背負って事業を継続することが求められていますよ」と丁寧に理解を求めていくのも、これからの士業側の役割であると私は考えます。児童クラブ事業者に、専門家に依頼して事業の質を高めるためにコストが、予算が必要だという理解をしてもらうための取り組みが必要だということです。

児童クラブ側は「事業の質を高めるため、外部の専門家に業務を委託すること、の理解を深める」ことが必要。
国、行政には「事業の質を高めるため、外部の専門家に業務を委託するための予算を十分に確保する」ことが必要。
専門家(士業)側には「事業の質を高めるため、外部の専門家の活用が十分効果的であることの理解を深める」ことが必要。

 この3つの動きが合わさって、より質の高い児童クラブ運営が実現することでしょう。特に士業側は、行政書士や社会保険労務士、税理士など各分野の専門家の連携が必要です。それぞれの専門分野で児童クラブの運営に資することができるよう、複数の分野において提案や説明ができる業務連携体制を士業側が構築しておかねばなりません。確かに今の児童クラブは、お金がありませんが、児童クラブの安定運営のために必要なコストを社会が負担することの合理性を訴えていけばきっと状況は変わるでしょう。それは士業側が声を上げていく必要があると私は考えています。児童クラブに対する運営セミナーや相談会などの実績を積み重ねていくことも必要でしょう。

 放課後児童クラブは、突然、運営が難しくて閉鎖することになったとか、トラブルで職員が全員辞めてしまったとか、事業の正常な運営が突如できなくなるような事態は絶対に避けねばなりません。運営に関わる側も、設置する行政側も、そのために必要な正確な業務の実施を外部の専門家に委ねることの合理性をぜひ理解していただきたいと期待します。

<おわりに:PR>
  放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)