保護者と行政の学童保育担当者が、つい目を引かれる事業者の「子どものため」アピール。本当に重要ですか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育の世界はいま、学童保育の運営を得意とする「広域展開事業者」が、全国各地で指定管理者となって学童保育所(この場合は、放課後児童クラブ)を運営することが増えています。市区町村が設置した学童保育所を指定管理者制度のもと、指定管理者となる事業者を選定して運営を任せる際は、おおむね公募(競争)で事業者を選びます。当然ながら、公募に参加した事業者は、「ウチの事業運営は、こんなに素晴らしい!」と提出資料やプレゼンテーションでアピールします。

 アピールのポイントはいくつかありますが、「他地域で、すでにこれほど運営実績があるから安心です」という事業規模に関するもの、「大きい法人ですから、財政的に安定しています」という財務体質に関するもの、「人手不足の問題にも、人的資源を抱えているので大丈夫。研修制度も充実しています」という人的管理に関するもの、が挙げられます。
 そしてもう1つ、公募に臨んで広域展開事業者がアピールするのは、「ウチが運営する学童では、子どもに向けて、こんなに素晴らしい充実したプログラムを用意しています」というものです。

 例えば、学童保育のアウトソーシング事業で最大手に属する企業のウェブサイトを見てみます。このような記載があります。
<「安心・安全」「暖かい気持ち」「自立心を育む」「楽しく学ぶ」「アクティブ」の5つの方針のもと、子どもたちが心身ともに大きく成長する場所と時間をつくります。>(引用ここまで)

 私からすれば、「温かい」と「暖かい」の言葉の使い分けすらできないのかと苦笑ですが、子どもの育ちに5点の要素を挙げてこの方針にもと、子どもが過ごす場所を形成するということを言いたいのでしょう。その5点自体は私も不要ではないと思いますが、常にその5つを目標に掲げられて過ごすことを強いられる子どもたちのこと、大人は本当にそれでいいと思っていいのですか?この事業者の掲げる5つの方針には、決定的に私の考えと違う点があります。

 「学童保育所では、何もしない、ただのんびりとする時間こそ、必要だよ」

 さて、近年、急激に学童保育所の運営シェアを伸ばしている広域展開事業者のウェブサイトを見てみます。そこには、極めて盛りだくさんの、子ども向けプログラムが紹介されています。
スポーツと遊びのプログラム
ダンスクラブ
アート教室
工作教室
食育プログラム
地域交流プログラム
 この事業者のウェブサイトには、こう記載があります。
<放課後の活動を通して、自主性や社会性を育みたいと考えております。やらせるだけの活動にならないように、各活動に目的を持ち、一人ひとり児童の持っているその子らしさを生かせるような環境を作り、見守り、時には助言しながら児童自身が考え、安心して遊べるように支援いたします。>

 こんなにたくさんのプログラムを掲げておいて「やらせるだけの活動にならないように」するのは至難の業でしょうね。各活動に目的を持ち、その子らしさを生かせるような環境を作りとありますが、40人の子どもがいれば40通りの環境を作ることができるとでも、言いたいのでしょうか。

 掲げられたたくさんのプログラム、これは保護者にとって、あるいは「健全育成は子どもの〝立派な〟成長を実現させることだ」と考える市区町村の学童担当者にとっても、極めて魅力的でしょう。それは、非認知能力よりも認知能力の向上こそ、人間の成長、子どもの成長だという考えが染みついている(認知能力という概念を認識した考えではなくても、内容が同じという意味において)日本の子育て状況にぴったりです。
 私はプログラムそれ自体が意味がない、不必要であるとはもちろん思いません。それぞれにおいて子どもたちの知的好奇心、探求心を刺激する機会になるでしょう。しかしそれは、定期的に実施することが決まっているプログラムである限り、興味がない又は関心がない状況の子どもたちにプログラムの実施を強いる機会を作ることになります。

 私がかつて事業者の運営者だったとき、求人に応募してきた人に、必ず次のことを話していました。
「学童保育所は、遊びを通じて子どもたちが成長していく場です。遊びが子どもの育ちにとって大事なことはお分かりになると思いますが、もしあなたが学童の先生になって、「よし、今日はドッジボールをしよう!」と率先して呼び掛けて行ったドッジボールは、すべての子どもにとって遊びの時間になるとは、限りませんよ。遊びは本来は、子どもたちの話や気持ちの交わりの中で生まれてきた「これがやりたいね!」というものです。学童の職員が、あれやろう、これやろうというのは、遊びではなくて押し付けたプログラムになりますよ。先生が主導して行ったドッジボールが終わったら、もしかしたら子どもたちは「先生、ドッジボールが終わったから遊んでいい?」と、言ってくるかもしれませんよ」

 保護者や市区町村の学童担当者にとって、「立派な学童運営方針だ」と思うようなことが、本当に、学童保育という場で過ごす子どもたちにとって必要なことなのかを、冷静に考えてみてほしいのです。大人の、「それは子どもの育ちにとってきっと素晴らしいだろう」という視線ではなくて、「自分が子どもだったら、どう思うだろう。自分が子どもだったときは、どう思っていただろう」という気持ちを踏まえて、かつ、実際に育成支援の現場で多くの子どもたちに接している者の意見を聴いて、考えてみてください。
 私からあえて申し上げれば、今の保護者や市区町村の学童担当者は、「大人が考える、立派な子どもの育て方」に騙されています。それもコロッと。こどもまんなかではなく、大人の(事業運営の都合の)まんなか、に。

 子どもには、何もしない、ぼーっとした時間だって必要。子どもには、あれもこれも押し付けて行わせるプログラムばかりの時間は不要。

 少なくとも私はそう思います。しかしこれは、営利の広域展開事業者が、「時には、子どもが何もせずリラックスした時間をあえて設定します」とか、「子どもにとって一番大事な、自分たちが何をしたいか考えて決めることを大事にし、場合によっては設定したプログラムメニューを変更することもあります」などとアピールし始めた場合、それは子どもの育ちを支える事業者としてはふさわしい能力を高めることになります。そういう広域展開事業者があってもいいのにと、私は考えていますが、いずれはそのような事業者も出てくることを期待します。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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