保護者が中心になって運営する放課後児童クラブを悩ます「運営疲れ」。企業運営クラブの増加を後押しするだけ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。保護者が中心となって放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を運営する形態はかつての主流でした。いまもそれを後押しする業界団体があります。保護者が抱える負担の重さを業界が正しく評価しなかった結果、運営疲れで保護者は疲弊し、クラブ運営を企業が引き受ける結果を招いています。業界団体の先見の明の無さが結局は、育成支援に保護者が関われる機会を奪い企業進出をアシストしていることに、当の業界団体は未だに気付かない状態です。私は、自らの存在を守ることだけに固執してきた業界団体の自己中心的な姿勢こそ、保護者が児童クラブにおける子どもの育ちに関われる機会を奪ったのだと憤りを感じ得ません。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 保護者が中心となる運営委員会方式で運営している児童クラブにおいて、保護者の負担を軽減しようと運営の主体を見直すという動きが報道されました。山陰中央新報デジタルが10月7日4時に配信した有料記事を引用します。見出しは「児童クラブ 一部事業者委託へ 松江、試験的に3年間 任意団体の負担大で」となっています。
「松江市教育委員会が2025年度、任意団体に運営を委託している公設放課後児童クラブ40施設のうち4施設の運営を、試験的に民間事業者に移す。支援員の雇用や、労務、会計管理など専門的な業務は任意団体にとって負担が大きく、安定的な運営が危ぶまれていることが背景にある。3年間実施し、成果や課題などを抽出、民間事業者への移行を進めるかどうか判断する。現在、41施設中40施設を地域住民でつくる任意団体の運営委員会が指定管理者として運営。1施設は社会福祉法人が指定管理する。」(引用ここまで)

 報道によると、4施設のみをまず試験的に運営委員会以外の民間事業者にゆだね、その結果を判定するとのことです。(運営委員会も民間事業者ではあるのですが、任意団体と法人格のある団体という区分によるのでしょう)運営委員会は地域住民でつくる、とありますが各地の運営委員会と同じく基本的には保護者が中心となり、かつ、運営実務における業務処理はクラブ職員が担っているものと私は推測します。

 「支援員の雇用や、労務、会計管理など専門的な業務」との記載に注目してください。いずれも事業を実施する上で絶対に欠かせない業務です。いずれも法令に従った適切な業務処理が求められます。児童クラブ以外の事業者、つまり企業や会社は、それぞれ担当者がいて、兼務することはあっても、他の会社の仕事の傍ら無償労働で担うことはまずありません。責任が極めて重大な業務ですから当然です。その当然を、当然としないでやってきているのが、保護者運営の児童クラブです。

 松江市が2025年からその4施設をどうやって試験運営するのか分かりませんが、地域の社会福祉法人に任せてみるのか、指定管理者の選定を公募で行って広域展開事業者に任せるのか、今後の展開が気になります。おそらく、いや間違いなく、4年後に再び運営委員会に運営を戻すということはないでしょう。運営に関する負担が軽減された保護者が再び負担を負うことを求めるということは、よほどその3年間でひどい事業が行われれば別ですが、まずもって考えられない。とすれば、4年後はさらに民間事業者、つまり企業運営のクラブが増えていくはずです。全部で40近いクラブを運営できるようになれば、1クラブごとの純利益200万円とすると、8千万円の純利益が転がり込みます。しかも毎年、新1年生という利用者が必ず入ってくるため事業不振による経営危機の心配がない超安定事業での純利益です。虎視眈々とこの機会を狙って4施設の受注を狙う広域展開事業者は多いでしょう。

<保護者運営の必然性は、確かにあった>
 学童保育所の発足の歴史的経緯を考えれば、当時は保護者運営が当然で、保護者側の要望を受け入れた市区町村が公営にする、その2つが主なものでした。そのうち、保育所や幼稚園を運営する法人が卒所生、卒園生の受け入れを考えて学童保育所を設置する動きが広がる中、放課後児童クラブとして法制化されて補助金が増えるにつれ、企業が新たなビジネスとして目を付けて参入を進めてきた、という流れです。20世紀や2000年代ぐらいであれば保護者運営がスタンダードであり、それはつまり、本部機能を持てるだけの予算を確保できないほど安い補助金しか得られなかったという理由があって、やむなく保護者運営とせざるを得なかったという事情です。

 そうした状況で、運営に関して直面する悩みや疑問を一緒に解決しようという機能としての業界の集まり、いわゆる連絡協議会的な団体は大いに意義がありました。同時に、遅れている制度の改善、補助金の増額などを社会、国、行政に訴える運動団体として、その役割は非常に重要なものでした。その「制度の改善など」に関する役割は今なお重要であると私は評価しています。

 問題はその先にあると私は考えます。組織というものは、存在して活動を始めたとたん、「事業を行うために存在する」ことに加えて「組織が組織としてあり続得事を目的とする」こともまた、重要な活動の理由となります。組織が存在することが組織の事業活動の理由である、ということです。これが、事業体、つまり事業を通じて利益を上げて分配するという企業であれば、事業に失敗したら組織の存在も不可能となります。給料や経費を払えませんからね。つまり事業に失敗しないことが、事業体そのものの存続をも支えることになります。これは難しく考えることなく、ごくごく当たり前のことです。

 一方で、利益を上げることが目的ではない、つまり利益を上げなくても存在できる組織があります。運動団体がその最たるものです。連絡協議会のようなものもまさにそうです。事業の目標、事業計画は立てるでしょう。しかしそれが達成されなくても、それによって売り上げが減ることはありません。会費を支払ってくれる賛同者が減らなければいいのです。しかも往々にして専従の労働者を多くは雇いませんし、あるいは全員が非常勤、つまり本業が別にある者で構成される組織ですから、会費収入が減ったところで致命的ではない。毎年掲げる事業目標、運動目標が達成できなくてもそれで解散することはない。なぜなら翌年もまた目標を掲げればいいのだから。
 そうして過ごすうちに、本来の「運営に関する情報共有やノウハウの共有、交流」という目的はしだいに薄れ、毎年毎年、同じように、惰性のごとく、似たような目標を掲げては達成できないことを繰り返します。が、それでいいのです。なぜなら「その組織が維持できているから」です。つまりここにおいて運動団体は、組織の維持存続が当たり前となり、そのためには同じような(達成ができないと実は理解できる)目標を毎年掲げて活動する。ここにいたって本末転倒となってしまうのです。

 行政が運営してくれない、企業もお金を出さない、やむなく保護者が運営しないと設置運営ができない状況で、児童クラブを作りたい、あるいは作ってみた。その後、どうしたら児童クラブを運営できるか。運営に関する知識、ノウハウはどんなものか情報を共有し、地域の情勢を交流し、理解を深めていく。当初はその目標で始まったであろう団体が、いつしか、保護者が運営することこそが理想的な児童クラブである。なぜなら保護者が運営に関わることで、理想的な子育ての環境をクラブにおいて実現できるから。子どもを真ん中に保護者と職員が手を取り合って運営する児童クラブこそ、理想的な児童クラブなのだ、と。そう掲げることで運営に関わる保護者を「毎年生み出すことができる」、それは運動団体への参加者を「毎年生み出すことができる」仕組みです。

<保護者が関わらなければ、理想的なクラブ運営ができないだと?>
 私はそれは全くの虚言だと断じます。保護者が運営に関わらせることが目的であることを悟られないためにあえてごまかしています。
 「子ども&保護者&職員が理想とする児童クラブを運営したい」ということを実現するために欠かせないことは、保護者が運営を行うことではありません。保護者が運営を行うことで、確かに保護者の希望や考え方を直接、クラブ運営に反映させることはできます。しかし、「それが唯一の方法」ではありません。
 子どもや保護者、職員が理想とする児童クラブを実現するための本質は、子ども、保護者、職員の「こんなクラブであってほしい」という希望や願いを、運営に取り組む側が、常に確実に把握することを欠かさないことです。保護者が運営に従事すればそれが容易であるのは確かですが、保護者ではない、プロの運営事業者であっても、様々な手段を使えば、同じように子ども&保護者&職員の意識を把握することが容易にできます。利用者アンケートでも、定期的な懇談でも、評議会制度でも、労使懇談でも、いくらでもありますし、それらはすべて、この社会に通常ある企業が行っているものばかりです。ファミレスにいけばアンケートがありますね。利用者(顧客)の意識を把握しようと懸命なのですよ。

 なぜ児童クラブは「保護者が運営に関わることこそ、理想的な放課後児童クラブができるのです」と、声高に言うのですか?私に言わせれば、「保護者が運営に加わることで、そのような保護者は連絡協議会のような集まりに加わることになる」からです。それは、連絡協議会のような集まりからすれば、「自らの組織を引き続き維持できる」保障になります。

 つまり、「組織が組織として存在し続けるために、保護者の運営負担を伴う保護者運営のクラブが必要」という図式です。これに関して1つ留意したいことは、「連絡協議会に参加することすら負担」ということで、保護者運営であっても連絡協議会的なものから抜ける、あるいは最初から加わらないという保護者運営のクラブも相当あります。そのような場合、運営に関するノウハウや業界の最新情報にも疎くなり、ますます運営に関わる保護者の負担が増えるということです。「前門の虎後門の狼」状態です。本当に悲惨です。

<そこに忍び寄る企業運営>
 埼玉県内ではもうかなり前ですが、保護者会運営のクラブが運営負担にギブアップし、結果、広域展開事業者が運営を引き受けることになったという事例がありました。松江市のようなことはもうすでにあちこちで起こっています。

 ところで市区町村側は児童クラブの企業運営にどう考えているのでしょうか。もちろん大歓迎です。例えば愛知県新城市は2024年度の下半期から児童クラブの運営を公募プロポーザルで選んだ事業者に委ねることになりました。資料が市のHPで公開されていますが、そこには「本業務委託は、新城市が行う行政事務等の一部を包括的に外部委託することにより、住民ニーズに対応した質の高い公共サービスを提供する仕組みを構築することを目的とします。」とあります。これは公営の民営化であって、保護者運営から企業による民営化ではありませんが、企業に公の事業を委ねる根拠として「質の高い公共サービスを提供する仕組み」が期待できるから、ということを示しています。

 これは児童クラブの運営を狙う企業側として、実にありがたい行政側の認識です。企業側は「安定した補助金ビジネス」のために是が非でも児童クラブを1つでも多く運営したい。一方で市区町村の行政側は「企業が運営すれば質の高い公共サービスを住民に提供できる」という、まさに相思相愛。そこにですよ、「私たち保護者も、これ以上、運営負担を抱えてはいられない。仕事に家庭、子育てで大変なのになんでクラブ運営まで!」という保護者の悲痛な希望が加われば、そりゃもう、児童クラブ運営を行いたい企業側にとっては、餌をつけない釣り針にどんどん魚がかかってくるようなものです。

 保護者運営の負担軽減に配慮することをしなかった、もっといえば、意図的に保護者運営負担の軽減を図ることが無かったがために、結果的に、企業運営の児童クラブが拡大していった。その結果、公営クラブはもとより、地域に根差した非営利法人(それは保護者負担の軽減に一定程度成功していることも多い。津島市や北本市など)すらも、相次いで、企業運営の大波に飲まれているのです。行政は得てして横並びですからね、あの地域でも、この地域でも、公募プロポーザルだ指定管理者だと相次いで企業運営を取り入れていれば、首長から「おい、うちはどうして企業にやらせないんだ?このあたりじゃ、うちだけやっていないぞ。それじゃまずいだろう」と声が出てしまうものですよ。もうそうしたら、いくら地域に根差している児童クラブとしても企業運営の波に飲み込まれておしまいです。

 要は、保護者が運営して負担に苦しんでいるクラブだけではなく「企業運営以外のクラブ」もまた同じように企業運営の大波に飲まれてしまう時流を招いていることへの危機感が、業界になさすぎました。そして手遅れになりつつあるのです。

 自分たちの組織の形態を守ることにこだわり、そのために現状を変えることなく、結果として利益至上主義の企業運営の児童クラブを大幅に増やしてしまった業界団体の大失態に私は本当に落胆しています。自らの地位と権益(そんなたいしたものでもあるまいに)を守り続けること、「自分たちこそ正しい」と盲信した結果が、いまや株式会社運営クラブが毎年増加している現状です。私に言わせれば、旧日本軍と何ら変わらない。自分たちが正しいと固執した結果、滅亡した組織とまったく同じ。まあ、どこかの政党にも似たようなものがありますがね。己の組織を守ろうとして、組織が属する世界全体が滅びつつあるのは、なんと皮肉なことでしょう。

 私なら、保護者運営のクラブの運営を引き受ける受け皿を大至急作ります。保護者運営であるなら「私たちは次にこのような運営形態を希望します」と行政に強く要望もできます。その受け皿とは、子ども&保護者の意見をしっかりと聞いてクラブ運営ができる非営利ながらも事業を確実に堅実に行える法人です。コンプライアンスを明確にし、すべてに透明性を備えた運営事業者をもって、保護者が運営疲れで立ち行かなくなったクラブを相次いで運営を引き受け、各地での公募プロポーザルや指定管理者選定に名乗りを上げます。事業規模さえ備われば、質の高い事業運営は自信があること、職員の雇用にも万全を期すことで、ライバルに打ち勝てるでしょう。10年前に着手するべきでしたが、まだ最後の望みがあります。そしてその望みは2年後の日本版DBS導入をもって打ち砕かれそうです。日本版DBS導入以後、時間を掛けつつも、行政は、認定事業者ではないクラブを徐々に補助金交付対象から外していくでしょうし、公募の競争では決定的に不利になるでしょうし、そもそも公募の参加資格が与えられないかもしれない。そのときはもう、広域展開事業者にしか、クラブ運営が任せられなくなるでしょう。

 その時は、子どもと保護者の希望や考え方をしっかり反映できる形態の事業者は残念ながらほぼほぼ絶滅することになるのではないでしょうか。その原因は、自己の存在のみを守ろうとして児童クラブの業界全体を守ろうとしなかった一部勢力の失態です。この期に及んでいまなお、「保護者運営について」「運営主体の問題点」などという命題で会合を行うようですが、意見を言い合うだけでその後なにも反映させない、ただ「私たち活動している」気分になれるだけの集会や活動は、いい加減やめるべきしょう。そんな時間があったら、「どうしたら広域展開事業者に負けないだけの組織を設立できるだろうか」の相談でもした方がはるかに意味がありますが、それに気が付かないことがもう、「終わっている」ことの証左でしょう。はなはだ残念です。

 <おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)