令和6年度の放課後児童クラブの実施状況調査その5:育成支援の内容の充実が、おろそかになっていまいか?
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)に関して国は毎年、その年の5月1日時点の状況を調査して公表しています。「実施状況調査」というものです。その実施状況調査を見る5回目(最終回の予定)は、目立ちにくいものの事業の質に大いに関係すると運営支援が気にしている点を取り上げます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<学校の授業がある平日の開所時刻が徐々に遅れている>
実証状況の調査項目に、「平日の開所時刻の状況」があります。徐々に遅い開所時刻のクラブが増えていることが気がかりです。なぜなら、子どもが登所してくる放課後の、そのちょっと前に開所するクラブが増えているということです。それは、子どもの受け入れ準備に費やすことができる時間が減ることを意味しているからです。単純に、受け入れ準備の支度(清掃や整理整頓)の時間が減ることよりも、「子どもの育成支援について職員同士で討議し、検討し、話し合い、その日または中短期的な支援、援助の方針を職員同士で打ち合わせて確認する」時間が減ることになるからです。
それは、児童クラブの最大の事業目的である育成支援の質の低下をもたらす懸念があるからです。
数値を紹介します。令和6年から令和元年までの期間の変動を見ていきます。数字ばかりですが、これは重要な問題ですからしっかりと見てください。開所時刻について、クラブ数とその割合を紹介します。令和6年から順に記載します。
10:59以前 :2,154 (8.4%)ー2,323 (9.0%)ー2,637 (9.9%)ー2,566 (9.5%)ー2,508 (9.4%)ー3,010 (11.6%)
11:00 ~ 11:59: 946 (3.7%)ー1,086 (4.2%)ー1,125 (4.2%)ー1,116 (4.1%)ー1,166 (4.4%)ー2,361 (9.1%)
12:00 ~ 12:59:4,269 (16.7%)ー4,372 (16.9%)ー4,362 (16.3%)ー4,750 (17.6%)ー4,755 (17.9%)ー7,028 (27.2%)
13:00 ~ 13:59:10,220 (39.9%)ー10,093 (39.1%)ー10,683 (40.0%)ー10,925 (40.6%)ー10,942 (41.1%)ー9,233 (35.7%)
14:00以降 :8,046 (31.4%)ー7,933 (30.7%)ー7,873 (29.5%)ー7,563 (28.1%)ー7,242 (27.2%)ー4,240 (16.4%)
上記の数値から、午前中(11:59以前)と午後(13:00以降)を取り上げてみます。令和6年からさかのぼります。
午前中:3,100クラブー3,409クラブー3,762クラブー3,682クラブー3,674クラブー5,371クラブ
午後 :18,266クラブー18,026クラブー18,556クラブー18,488クラブー18,184クラブー13,473クラブ
クラブ数については何度も触れていますように自治体が数え間違いをしている影響がいまだに続いている(しかも国はこの間違いの修正を行っていない)ので、数え間違いの修正によってクラブ数が変動しているのですが、全体の傾向として、午前中に開所するクラブは減り、午後に開所するクラブは増えています。この数値の変化はどうしてもたらされたかを考えることが必要です。こういう研究こそ、放課後児童クラブの世界に欠けているものです。大学や大学院で研究されるべき事象ではないでしょうか。子どもの支援の技術を研究して成果を発表することは大事ですが、それに負けず劣らず、放課後児童クラブの事業の変化を丹念に調べて研究することは事業の礎として重要です。
何も根拠がない段階で私が想像するに、この傾向はやはり株式会社運営クラブが増えていることに歩調を合わせているのではないでしょうか。開所時間が長いということはそれだけ経費がかさみます。単純に水光熱費だけでなく人件費が増えます。株式会社や、非営利法人もありますが広域展開事業者は補助金ビジネスを行うことで利益を確保する事業モデル、補助金ビジネスモデルですから支出をできる限り減らして、容易には増やせない収入からいかにして利益を確保することに注力します。となると、子どもが登所する時間の直前にクラブを開所すればよい、という考え方に当然、たどりつきます。
育成支援において、子どもが登所していない時間帯に職員が取り組む作業の有効性、必要性が理解されていないということでもあります。このことは、放課後児童クラブにおける育成支援の専門性を根本から崩しています。児童クラブの業界は、事業の質を向上させるために必要な時間の確保を訴えるべきです。例えば、大臣や議員、首長などの視察にはたいてい、子どもが登所している時間帯を案内しますね。そうではなくて、子どもが登所していない時間帯、職員が子どもの育成支援について協議検討しているクラブ職員会議や育成支援討議の様子を見学し、そのやりとりを聞いてもらうことです。その時間帯にメディアの取材を勧めることです。
現状では、児童クラブはますます「子どもの預かり場」としての機能だけが強化されていっています。世間がそれでいいというのなら、仕方ありませんが、児童クラブの世界の人たちは、この潮流に抗おうとしないのですか?
<虐待件数>
実施状況調査では放課後児童クラブ内における児童虐待の件数も報告があります。全体の件数は決して多くは無いですが、1件たりともあっては困るので、どんなに小さな数字であっても増加傾向にあることを憂慮しなければなりません。これも令和6年からさかのぼって紹介します。これは年度ごとの集計です。今回の報告は実質的に令和5年度であり、令和5年の実施状況調査の報告は令和4年度の集計となります。
13ー10ー0ー2ー0-0
令和5年の報告(集計期間は令和4年度の期間)で前年の0件から一挙に10件となり、令和6年の報告ではさらに増えています。むろん、この数値は単に把握された件数ですから、表ざたになった件数に過ぎません。よって、児童クラブにおける虐待事案そのものが増えているのか、あるいは単に発覚に至った件数が増えただけなのか判別できませんが、憂慮できない状況であることは間違いないのです。とりわけ、2024年度は児童クラブの職員が性加害で逮捕されたという報道が相次いでいます。こういうことは、たった1件であっても放課後児童クラブ全体の信頼性を損なうものです。それは放課後児童クラブに予算増を叫んでも、国や社会が許容しない事態を招きかねません。憂慮するべき状況にあると運営支援は考えます。
<これも心配。学校との連携が進んでいない>
実施状況調査には「学校との連携状況」が項目としてあがっています。その中で「遊びと生活の場を広げるために学校
施設を利用できるよう学校との連携を図っている」の調査項目を見てみます。これも心配な数値になっています。令和6年からさかのぼります。数値はクラブ数、カッコ内は全体の割合です。
19,951 (77.8%)ー20,350 (78.9%)ー21,266 (79.7%)ー21,493 (79.8%)ー21,393 (80.3%)ー20,637 (79.7%)
遊びと生活の場を広げるために学校施設を利用できる、とは校庭や体育館、図書館の利用のことでしょう。本来なら、どんどん増えていかねばならない数値ですが、ほとんど増えていないどころか微減傾向です。児童クラブ側からすると、「学校が理解してくれない」ということになります。同じ小学校の子どもであっても児童クラブで過ごす時間帯になると「放課後はうちの子どもではない」と言い放つ小学校関係者が実に多いことは児童クラブの現場で働く人は実感していることでしょう。つまりそれだけ、もう学校側については学校のみの管理管轄にきゅうきゅうとしているのです。「学童の子どもがけがをしたら困る、物を壊したら困る」、確かに困るでしょうが、子どもが過ごす場として学校を利用できる「はず」という感覚をもしこども家庭庁の方が持っていたら、それは修正が必要です。現実は、小学校と児童クラブの連携は、上手に進んでいません。校内交流型の連携が進まないわけですね。
実施状況調査は読み込めば読み込むほど参考になりますし、視野が広がります。登録児童数や待機児童数の推移や今後の展望も、いずれじっくり取り組んでいきます。特に待機児童数がある自治体の変動については、その自治体の取り組みの様子を踏まえて紹介しようと考えております。ご期待ください。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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