令和6年度の放課後児童クラブの実施状況調査その4:放課後児童支援員の配置に関して、改善が急務です。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)の予算は前年度より減っているようで残念ですが、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の実施状況(その年の5月1日時点の状況)を見ると、国の予算(=補助金として投じられる額)が足りないがゆえの不都合が目につきます。その実施状況調査を見る4回目は職員の動向についてみていきます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<放課後児童支援員の配置状況>
まず、2024(令和6)年の、支援の単位数を確認します。業界関係者以外では分かりにくい概念と思いますので説明しますと、「支援の単位とは、児童の集団を数える目盛りのようなもので、ざっと1クラスのようなもの。1つの施設、1クラブに2クラスがあるとその2クラスが支援の単位に相当する」ということです。
令和6年の支援の単位数は38,122支援の単位で、クラブ数は25,635か所です。ちなみに前年より1,088支援の単位も増加しました。放課後児童支援員の令和6年の人数は、112,327人です。11万2327人。これは前年より4,579人も増えています。1つの支援の単位に平均して何人の放課後児童支援員が配置されているか単純に数字上で計算しますと、2.94人となります。
その11万人超の放課後児童支援員のうち、常勤職員は54,746人です。全体の27.3%にしか過ぎません。なお、前年より1,306人増えています。これも単純に、支援の単位数に何人の常勤職員がいるかを数字上だけで計算しますと、1.43人です。1支援の単位に2人の常勤の放課後児童支援員が配置されていれば、1.43人という数字になりませんが、現実には、すべての支援の単位に常勤の放課後児童支援員が配置されていなことを示しています。また、常勤の放課後児童支援員を2人以上配置している事業者が地域に根差した児童クラブ運営事業者に目立つことを考えると、現実には常勤職員以外の放課後児童支援員だけが支援の単位に配置されているクラブが多いのだろうと想像できます。なお、常勤職員以外の放課後児童支援員の人数は57,581人です。
放課後児童支援員の常勤職員が3割を下回るのは悲劇的です。放課後児童支援員は、現時点では児童クラブの専門職であり育成支援の中核となるべき役割です。それが常勤職員3割を下回るというのは、放課後児童支援員という地位、職業が、その仕事だけで食べていける、暮らしていけるということとは程遠いことを示しています。また放課後児童支援員というのは資格名でもありますから、この資格では食べていくにはなかなか難しいということです。せめて、まずは常勤職員が5割以上になるように、事業者は放課後児童支援員の雇用の仕組みを改善する必要が急務です。このままでは、単に子どもの預かり施設に過ぎない現状がずっと固定化されていくだけです。
<組織運営を担う人的資源の不足>
令和6年の「育成支援の周辺業務を行う職員」は、5,115人です。これは前年より1,693人増えています。ちなみに、令和5年は3,422人であって前年より106人、減っています。令和4年は3,528人でこれは前年より1,220人増えています。初めてこのジャンルの調査を行った令和3年は2,308人でした。育成支援の周辺事業に従事する者への補助金が新設されたことに伴うことで新たに追加されたようです。増加ペースであるものの全体のクラブ数は25,635か所であることを考えると、周辺業務を行う職員は到底、クラブ毎に確保できている状況ではないことが分かります。
多くの事業、業態では、直接にその事業のみを行う職員だけが働いていれば事業が成り立つことではありません。児童クラブも、子どもと保護者に日々関わる職員だけでは事業全体を継続して安定して実施できるには程遠い状態です。1つの事業者が1つのクラブしか運営していなければ特段、問題にはなりませんが、1つの事業者が複数のクラブを運営するようになれば、そのクラブに関係する組織運営の業務、給与計算、社会保険、経費精算などいわゆる労務、法務、財務、総務関係の業務量は格段に増えますから、そのような組織運営業務を担う職員が確保されていないと、安定した組織運営はできません。極めて大事な存在です。ましてこれから、いわゆる日本版DBSの認定事業者を目指す(というか、事実上目指さねば保護者や行政から信頼を得られないので事業が続けられないでしょう)場合、膨大な業務量がのしかかってくることは確実です。「周辺業務」という軽いイメージを想起させる名称ではなくて「組織運営業務」という言い方に国は変えて、この組織運営業務を担う人材の配置を進めるように市区町村の尻を叩いてください。
<憂慮すべき状態>
「支援の単位ごとの時間別の職員配置の状況」が報告されています。この中で、13時59分以前の配置人数区分があります。この時間帯が「開所時間外」として配置職員数0名の支援の単位数が12,850 、全体の33.7%に達しています。これは、全体の3割超の児童クラブが、午後2時前の時間に開所していない、つまり「午後のみクラブ」「子どもが登所している時間帯だけ開所しているクラブ」ということを示しています。
子どもが登所する前に、子どもの状態や支援の方針、具体的な方法論を、職員同士で議論し、協議し、まとめていく職員同士の連携の時間が確保されていないということを示しています。これでは、育成支援の質の充実は見込めません。まったくもって憂慮すべき状況が今の児童クラブに根強いことを示しています。
なお、この時間帯に「放課後児童支援員数2名」としている支援の単位数は、11,365、全体の29.8%です。3人、4人、5人以上の配置をしている支援の単位数を加えると、全体の40%を超えます。つまり、「開所時間前はクラブは無人で、ただ子どもの預かりを行っている状態のクラブ」と、「開所時間前に複数の放課後児童支援員を出勤させてそれなりに準備をしているクラブ」に二極化していることが伺えます。
<研修は大丈夫か?資格の専門性は深められているか?>
放課後児童支援員になるにはいくつかの前提条件があります。いわゆる基礎資格として保育士、教員免許、社会福祉士があります。また、いわゆる学部要件と呼ばれる、大学において特定の学部学科を履修して卒業していること、そして任用経験と呼ばれる実務経験があります。実務経験があれば資格が事実上取れるので、専門資格としては初級レベルの中でもごく初球の程度ですね。
さてこの放課後児童支援員についても実施状況調査に報告があります。令和6年は、保育士の資格がある者の放課後児童支援員は25,946人、全体の23.1%です。教員免許がある放課後児童支援員は24,588 人、21.9%です。
一方で、2年以上児童福祉事業に従事した者は40,135 人、35.7%です。また高校卒業以上で2年以上放課後児童健全育成事業に従事した者は13,667 人、12.2%です。5割近い者が、大学等で保育や教育について学ぶ機会を得ないまま、放課後児童支援員の資格を得ていることが分かります。
これでは、児童の健全育成、育成支援に関して必要な知識や、育成支援の考え方のベースとなる保育や教育についての知識を得ないまま、放課後児童支援員の資格を手にして実務に従事する者が大半である状況がずっと続くことになります。放課後児童健全育成事業の質を強化するためには、実務経験による資格の付与について根本的に見直すことが必要でしょう。
実務経験だけで資格を得るチャンスはあっていいのですが、試験制度を導入するべきでしょう。または、ケアマネジャーのように定期的に研修の受講を義務付け、受講しない者は資格を喪失する制度が必要でしょう。運営支援としては、いずれにしても放課後児童支援員は「初級程度の専門資格」として、さらに専門性を深めた国家資格である「児童育成支援士」の創設を提唱するものです。当然、試験制度が必要です。放課後児童支援員は大学や専門学校でも得られる資格として、放課後児童クラブは「放課後児童支援員、児童育成支援士」の2種類の有資格者の配置を必要とするように制度改正するべきでしょう。最低限、放課後児童支援員の配置が無ければ開所したと見なさない、児童育成支援士が配置されているクラブは基幹業務を担う地域の中心的な施設として補助金の額も引き上げる、という工夫が必要でしょう。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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