令和6年度の放課後児童クラブの実施状況調査その3:株式会社運営の児童クラブが、公設民営で最多となりました。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の実施状況(その年の5月1日時点の状況)がこども家庭庁から公表されました。運営支援ブログでは最新の実施状況について、その結果と運営支援独自の推察を数回に分けて投稿します。3回目は、クラブの運営を行う運営主体(事業者)の状況を確認します。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
※令和6年の放課後児童健全育成事業の実施状況は、こども家庭庁のホームページにて公表されています。
(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/69799c33-85cb-44f6-8c70-08ed3a292ab5/de9d9a49/20241223_policies_kosodateshien_houkago-jidou_51.pdf)
この実施状況は毎年5月1日時点の状況を国が取りまとめて公表しているものです。今回の調査結果は2024年(令和6年)5月1日時点のデータとなります。
<これはいかがなものか>
運営主体の件を取り上げる前に気になる結果について触れます。「育成支援の記録の状況」という調査項目があります。令和6年は、育成支援の内容を記録しているクラブが、22,492クラブ(87.7%)でした。みなさまは、この数値を高いとみますか?十分だと判断しますでしょうか?
いえいえ、高くはないでしょう。放課後児童健全育成事業を行う放課後児童クラブとして、受け入れている利用児童の育ちの記録をとっていないことはありえません。ここは限りなく100%にならなければなりません。残りの12.3%のクラブは「子どもの預かり場」であることを自供しているようなものです。この事業をやる、といいながらその事業の実施状況、進捗状況を記録していないとはどんな業態であれ、あり得ませんよ。自動車メーカーが生産した車の台数を記録していないようなものです。
ちなみに過去の数値を見てみます。
令和5年 22,717 (88.0%) ※令和6年は前年より減っていますが、これはクラブ数の数え方を間違っていた自治体が訂正したことによる影響の可能性があります。
令和元年 22,467 (86.8%) ※5年前とあまり変わっていませんね。母数となるクラブ数も実はほとんど変わっていません。児童クラブの世界には一定程度、子どもの育成支援について無関心なクラブがあり続けている、ということでしょうか。育成支援の記録をとらないクラブに対して国は補助金を減額してもいいほどです。アメとムチをうまく使ってください。
<公営クラブの減少が止まらない。保護者会運営クラブも減少の一途>
公営の放課後児童クラブは相変わらず減少しています。カッコ内はクラブ総数に対する割合です。
令和6年 6,176 (24.1%) 令和5年 6,707 (26.0%) 令和4年 7,359 (27.6%) 令和3年 7,663 (28.5%)
令和2年 8,103 (30.4%) 令和元年 8,592 (33.2%) 平成30年 8,740 (34.5%)
平成30年からでは、2,564か所も減っています。割合でも10%以上減らしています。公営クラブの民営化が進んでいるとみるべきです。あくまで児童福祉である放課後児童健全育成事業ですから公の責任をもって実施するべきなのでしょうが、公営のクラブを増やすことは現実的に考えると可能性はゼロといっていいでしょう。となれば、民営化されても児童クラブが量と質の双方で十分に実施されなければならないことを遵守するべきです。すなわち、設置主体たる市区町村が管理責任を自覚して対応しかつ事業の発展に努力することと、実施主体たる運営主体つまり事業者が適切に児童クラブの事業を営むこと、この双方を確実にすることを規定することです。そして、民間事業者が放課後児童健全育成事業の理念にのっとって児童クラブを運営することです。
保護者が運営に関わる任意団体のクラブも減っています。実施状況調査では「運営委員会・保護者会」という区分になっています。実施状況では公立、民立という表記を使いますのでそれにならいますが、公立民営の保護者運営クラブの推移です。
令和6年 2,552 (10.0%) 令和5年 2,724 (10.6%) 令和4年 2,983 (11.2%) 令和3年 3,198 (11.9%)
令和2年 3,381 (12.7%) 令和元年 3,667 (14.2%) 平成30年 3,604 (14.2%)
平成30年からでは、1,052か所も減りました。
<株式会社がついにトップを奪取>
その中心は、株式会社の運営するクラブといえるでしょう。かつては、保護者会が運営するクラブを法人化するときにはNPO法人化することが多かったのですが、今は一般社団法人の方が容易に設立できることもあり、人気は一社に移っているようです。とはいえ非営利法人というくくりでは同じものです。公営クラブが民営化されると今は広域展開事業者が運営の権利を手中に収めることが圧倒的に多いです。広域展開事業者は一部、非営利法人もありますがおおむね株式会社ですね。公立民営の、NPOと株式会社の運営クラブ数を見てみます。
NPO
令和6年 1,713 (6.7%) 令和5年 1,753 (6.8%) 令和4年 1,867 (7.0%) 令和3年 1,878 (7.0%)
令和2年 1,835 (6.9%) 令和元年 1,707 (6.6%) 平成30年 1,555 (6.1%)
株式会社
令和6年 3,554 (13.9%) 令和5年 3,109 (12.0%) 令和4年 2,802 (10.5%) 令和3年 2,539 (9.4%)
令和2年 2,109 (7.9%) 令和元年 1,380 (5.3%) 平成30年 1,088 (4.3%)
象徴的なのは、令和6年において、公立民営のうち株式会社の運営クラブ数が最も多くなったことです。ついに、株式会社が公立民営クラブではトップなったのです。それまで最多だった社会福祉法人運営のクラブは、3,217 (12.5%)でした。株式会社が逆転しました。令和元年では、株式会社運営クラブは1,380 (5.3%)で、NPO法人の1,707 (6.6%)、運営委員会・保護者会の3,667 (14.2%)よりずっと少なかったのです。令和元年では保護者運営クラブが最多でもありました。それが、この5年そこらで、児童クラブ業界の勢力図は大幅に変わりました。
なお公立民営クラブは、前年度とクラブ数を比較すると、株式会社運営が445クラブ増えました。ほかに増えたのは「その他」(後述)だけで、社会福祉法人やNPO、運営委員会・保護者会など軒並み減少しています。株式会社の、ひとり勝ち状態です。
株式会社だからといって、児童クラブの運営に乗り出すことはダメだとは、私はまったく思いません。株式会社だろうがNPO法人だろうが、事業として適切に遂行されている限り、私は何ら問題を感じません。その「適切に遂行」が肝心で、育成支援が放課後児童クラブ運営指針に準拠して行われていること(付帯事業として学習支援、学力やスポーツの才能向上に取り組んで利用者に選択できる機会を与えることを私は否定しません)、何より、働いている職員の雇用労働条件が他の業種と比べて専門職にふさわしい評価を得た結果となっていることを求めます。それができていないのであれば、株式会社もNPOも公営クラブも、全部ダメです。
株式会社運営クラブは、運営主体、事業者の目的が営利であるのは当然ですから、育成支援が事業として適切に遂行されることを阻害する要素がどうしても「利益の確保」として存在するため、他の運営主体と比べると不利ですよ、と考えるのです。参考として、民立民営の児童クラブの運営主体も実施状況調査で公表されていますから、見てみます。民立民営の株式会社は令和6年で591 (2.3%)だけです。最多は社会福祉法人の2,030 (7.9%)です。もちろん全体の母数が異なります(令和6年の公立民営13,076 (51.0%)、民立民営6,383 (24.9%)、なお公立公営は6,176 (24.1%)です)ので単純にクラブ数での比較はできません。
ですが、公立民営の株式会社は全体の13.9%ですから、民立民営の2.3%は、相当事情が異なっていることが分かります。仮に公立民営と同じ割合でしたら民立民営の株式会社運営クラブは887か所あっていいはずですが、現実は591か所に留まります。これはつまり、株式会社が児童クラブを運営するについては、補助金が確実に用意されている公立クラブの委託ないしは指定管理者としての運営に、株式会社としての「うまみ」があるということに、ほかならないと私は考えます。児童クラブの事業運営そのものに株式会社としての親和性があるなら民立民営の株式会社運営クラブがもっと多く存在してよいはずですが、そうなっていません。
まり児童クラブ運営について公立クラブの運営を任されて行う場合に限っては、株式会社にとって「おいしい」ことがあるということです。補助金ビジネスそのものですが、今後もさらに増えていくことは間違いありません。東京都の新型児童クラブが正式にスタートすればまさに株式会社運営クラブの独壇場となるでしょう。
<その他?>
公立民営クラブの運営主体に「その他」という項目があります。令和6年は373 (1.5%)です。決して、クラブ数として多くはないのですが、前年から150か所も増えているのです。令和4年までは150か所前後で推移していたものが、令和5年で73か所増えて223 (0.9%)となり、そして令和6年は373クラブまで増えています。
このその他とは、いったい何でしょう? こども家庭庁には注釈を付けることを望みます。1年間で150か所増えるのは顕著な変化です。役所の直営でも株式会社でも非営利法人でもない、でなければ何でしょう。合同会社がその中心であるというのが私の想像ですが、果たしてどうでしょうか。
次回以降は職員配置について取り上げます。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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