今回は特別版。放課後児童クラブ(学童保育所)運営を振り返って。「新型コロナの臨時休校」
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
さて私事で恐縮ですが、新型コロナウイルスに感染してしまい、いろいろなことができにくくなっている状況です。(業務自体は自宅でやっているので他者との接触はありませんので、ご安心ください)そんなわけで、発熱等で頭もぼーっとしていることから、本日のブログは昔話を披露しようと思います。
新型コロナといえば、突然、お上から出てきた「学校の臨時休業」。あのときを振り返ってみます。
時は2020年2月27日(木曜日)の午後5時過ぎでした。職員からあわてた様子で報告がありました。「来週から全部の学校が臨時休校になるみたいです!」。あわててネットでニュースを検索すると、速報で学校の臨時休業が伝えられた直後のようでした。間髪入れず、電話が。保護者からでした。「学校が閉まるみたいなんですが学童は開きますよね?」。いやいやまだ何も検討していない。「こちらも今、報道で知ったばかりですから何とも言えません」とお答えするのが精いっぱいでした。
本部オフィスの向かいの部屋は行政の学童保育担当課。そちらはまだ知らなかったようでした。とにもかくにも連携を密にしていくことを確認した上で、「学童は、朝から開いて子どもを受け入れる態勢で進むしか道はないでしょう」と私は伝えました。当時は、新型コロナへの恐怖心は今よりはるかに高い一方、患者数はそれこそ全国で数十人数百人レベル。ということは、ほとんどの保護者世帯は感染してはいないし、濃厚接触者でもない、つまり出勤、出社する保護者ばかり。ということは、学童を開けないとどれだけの不利益が学童を利用する子育て世帯に覆いかぶさるか、ということは極めて単純な理屈で理解できました。
私は「月曜日の朝から学童を開ける。そのための準備に今からとりかかろう」と指示しました。大変なのはシフトの調整。突然、平日の朝に出勤してくれる非常勤の職員が確保できるかどうかの問題です。「とにかく開所が、子どもの受け入れができればいい。正規は必ずいるはずだから、あとはもう1人だれでもいいからいてくれればいい。細かい配置基準よりも、開所することを優先しよう」と伝えました。保護者からの問い合わせが殺到するかと思い、想定問答も本部事務局スタッフに指示しましたが、2~3件しか電話がなく、拍子抜けした記憶があります。
着々と運営主体の準備は進みますが、ご想像の通り、なかなかスピーディーに進まないのが公の組織です。それを見越して木曜日の夜、私は担当課に「明日の朝一番で、非公式に、学童は月曜日の朝から開所する方向で準備をしていますと伝えますから」と伝えました。担当課の学童担当リーダーも「そうだよね、保護者は学童がどうなるのか早く知りたいはずだからね」と言いつつも「行政としては決定が出ていないので、行政がそう決めたという捉え方にならないようにしてくれないか」。もちろんそれは当然、必要な配慮。「ええ。あくまで運営組織としての方向性を示すだけです。大丈夫です。その点、ご迷惑はおかけしませんよ」と私は伝えました。
金曜日の朝。各クラブの保護者会会長あてに、来週月曜日以降、朝から学童を開所する方向で準備はしていると伝え、徐々に増えてきた電話での問い合わせにもそのように返答しました。このときは、病院など医療従事者からの問い合わせが多かったと記憶しています。そして行政担当課には「正式に周知広報したいので、その許可を早くいただきたい」と何度も申し伝えました。学童担当リーダー氏はとても学童運営状況を理解されているので「そうだよね、そうじゃないと保護者は不安だよね」と言ってくれるのですが、問題はそのずっと上のレベル。いわゆる行政の部長級による会議がなかなか結論を出さないのです。午前10時を過ぎて、こんなことが担当課から私の所に伝えられてきました。「学童側が、月曜日から子どもを受け入れるって保護者に伝えたようじゃないか。まだ行政として正式に月曜日から学校が休業するとも決めていないのに、何の権限があってそんなことを言えるんだ。けしからん!」
担当課から「萩原さんにおかんむりの人がいるようですよ」と伝えられ、「謝罪が必要ならいつでもどこでも出向いて土下座ぐらいします。そんなの全く構わない。そんなことより早く周知広報の許可を出してくれればいいんですよ」と返しました。実際は、おだやかな笑い交じりのやりとりですが、文字にすると結構、おっかないですね。
結局、午前11時ごろになって行政の偉い方々たちも正式に月曜日からの臨時休業、放課後児童クラブの開所を決め、それを広報してもよい、となりました。えらく時間がかかったのは想像通り、「臨時にクラブを開いたとしたら、その経費はどこがもつんだ?」という点の理解と確認でした。それはそうです。事業を営むということは経費がかかります。経費は事前に想定した額で収めるのが基本ですから。想定外の経費についてその手当をどうしておくかを考えることは組織運営の責任者レベルなら当然、考えることです。世の中すべて分かりやすい出来事だけで動いているのではありません。それほど行政の動き方や企業経営の仕組み、事業運営において重要な観点は何か、ということを知らない学童世界の人たちは、その点、もっと学んでおくべきだと私は常々思っているところです。
大事なことが残っていました。職員への呼びかけです。当時の新型コロナウイルスは、未曽有の恐怖の殺人ウイルスのようなイメージを持たれていて、特に身内に高齢者がいる場合、感染を是が非でも避けたいという意識がとても強かった。職員の中でも、やがて流行が本格化する中で、新型コロナに感染する危険を冒してまで働きたくないと思う人がいても、それは当然です。しかし一方で、いまここで学童が踏ん張って、社会活動を支える存在として寄与できるなら、それはやがて学童に対する社会的評価の向上をもたらすだろう、敬意につながるだろう、それは最終的に学童関係で働く人の地位向上につながっていくだろうと、私は考えました。職員に向けて、メッセージを出しました。急なことでみなさんにご迷惑をおかけすることは申し訳ない。事情がある人は遠慮なく申し出てほしい。無理やり働かせるということはしない。今、学童が社会を支えることを示す機会でもある。とても厳しい状況だがここで働く保護者を支え子どもの居場所をしっかり確保することで、それは学童への社会的な評価と感謝につながる。今こそ学童の存在意義を示す時だ。頑張っていこうと、呼びかけました。
世の中の多くの方にぜひ覚えておいていただきたいのです。あの当時の、新型コロナに対する恐ろしい恐怖心の中、「こどものため、保護者のため」にと、使命感をもって学童での仕事に向き合ってくれた多くの学童職員、学童関係者のことを。国は臨時手当をその後に創設しましたが、それではまったく不十分なほど、新型コロナに向き合った学童の先生、職員、支援員、指導員、諸々の人たちに、もっと社会全体が評価を捧げてほしい。そしてそれを賃金上昇という分かりやすい形で学童の世界に還元してほしい。私は強くそう思うのです。
新型コロナは学童の世界をも大きく変えてしまいました。学童が大事にしてきた数々の世界観が大きく変化し、また崩壊したといえるでしょう。かくいう私自身も数年後に新型コロナに罹患したことがきっかけでありえない事象に直面しました。ま、それはいつか表に出せるといいですが。いまこうして、新型コロナは隔離が必要ない5類になったとはいえ、それは単なる社会的な区分の話で、ウイルスに感染したときの症状の軽重は(ウイルスの株による症状の変化はあるとしても)それほど変わらない中で、新型コロナは、放課後児童クラブの世界に、学童保育の世界に、何をもたらし、何を崩していったのか、いつの日か、改めて振り返ってみたいと思っています。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
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