まともな放課後児童クラブを悩ませる「常勤2人配置の補助金」の交付要件を、子ども家庭庁は見直してください。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。本年度(2024年度)から、放課後児童クラブにおいて、1つの支援の単位(クラスのようなもの)について常勤職員を2人配置している場合の補助金が新設されました。それ自体は評価できますが、使い勝手がいまひとつ。国は、わざわざ児童クラブに対してつれない態度をとる必要はないのです。国会を通す必要はないのですから、2025年度から変えましょう。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<常勤2人の補助金>
 国の「子ども・子育て支援交付金交付要綱」によると、常勤2人配置の補助金は次のようになっています。
 放課後児童支援員(常勤職員に限る。)を2名以上配置の場合、構成する児童の数が36~45人の支援の単位で 655万2000円。児童の数が、これより多くても少なくても減額されます。児童の数が71人以上になってしまうと、460万1000円に激減してしまうので、国も児童数が多い大規模児童クラブを歓迎していないことが分かります。
 ちなみに、従来からある、放課後児童支援員1人と補助員1人による「2名以上配置」では、補助金の最大額は486万8000円ですから、常勤2人配置の補助金は169万1000円、上積みされています。額としては、従来からある補助金額の総額を常勤1.5人分として考えると、常勤2人配置の補助金は計算上、正しい範囲なのでしょうが、もうちょっとなんとかならんかったのかなとは、私は思います。が、まあ、それはどんどん額を上積みしていってください。
 なお常勤2人の補助金は、開所日数加算額や長時間開所加算額なども、少しですが従来型より上積みされています。

<困ったこと>
 この常勤職員配置の補助金に関する、国のFAQがあります(放課後児童健全育成事業の常勤職員配置の改善に係るQ&A 令和6年5月21日現在)。ここの5番目に、次のようなやりとりがあります。
質問  退職等により、年度途中に常勤職員2名以上の配置を満たせなかった場合は、常勤の放課後児童支援員を2名以上配置した場合の補助基準額の対象とならないのか。
回答  常勤職員の退職等により、雇用体制の維持ができない月があった場合は、本基準額の適用は不可となる。ただし、新たに常勤職員を雇用する等し、引き続き常勤職員2名以上の雇用体制を維持できた場合は本基準額を適用することは可能。

 このことは、児童クラブの実務上、極めてハードルが高い内容です。要は、「常勤2人の配置ができなかった場合、この補助金は不可ですよ」ということです。児童クラブの世界は、とても離職、退職が多い業界です。4月に常勤職員を2人配置できたとしても、1年間のうちに常勤職員が離職、退職してしまう児童クラブは決して珍しくありません。病気などによる一時的な休職もあります。病気休職も、また職員の産前産後および育児休業にしても、「代わりの常勤職員」を、おいそれと確保できない業界です。
 こども家庭庁は、よもや、そのような児童クラブの業界の現実を知らぬわけではないでしょう。承知の上で、「常勤2人が実現されていない月が1か月でもあれば、年間を通じてこの補助金は出せない」としたならば、「意地が悪すぎる」と私は感じます。底意地が悪い。

 この点の改善を求めて、業界団体である全国学童保育連絡協議会が、こども家庭庁に緊急申入書を提出し、懇談を行ったと「日本の学童ほいく誌」2025年3月号「協議会だより」(73ページ)に記載されています。大変、素晴らしい行動です。申し入れでは、常勤2人配置が実現できない場合は補助金の返還となるのでそれを嫌ってこの補助金を利用しない運営事業者や市区町村が出ないよう、この補助金を積極的に活用できる仕組みにすることを求めたようです。まさにその通りです。

<月割りでいいじゃないか>
 ごく普通に、常勤2人が配置できなかった月には、月割りの控除で補助金を減らせばいいだけです。「障害児受入推進事業」「放課後児童支援員等処遇改善等事業」など、他の項目の補助金に適用している「事業実施月数(1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。)が12月に満たない場合には、各基準額ごとに算定された金額に「事業実施月数÷12」を乗じた額(1円未満切り捨て)とする。」を、常勤2人以上配置の場合にも、適用すればいいことです。

 「いや、常勤2人以上配置は運営費の補助であるから月割りはなじまない」という理屈なのでしょうが、この補助金は、児童クラブにおける健全育成事業の充実を目指す補助金のはずです。先のFAQの、7番目の質問に対する回答には「放課後児童支援員とこどもとの関わりを持つ時間を確保し、育成支援の質を高めることを目的としている」と、国はしっかりと示しているではないですか。であれば、その質を高めることができる常勤2人以上配置を実施している月は、この補助金を適用することは、補助金の趣旨にまさにかなうことです。

 何故、わざわざ使い勝手の悪い制度にするのか、それがいわゆる「お役所仕事」なのです。こども家庭庁は、こどもまんなか社会を作るためみそれなりの権限を与えられて発足した重要な省庁だと私は認識しています。その内部には、子育て支援に携わって来た民間の人材が多く入り込んでいるとも聞きます。その是非はともかく、柔軟な姿勢で、事業の健全な発展を促す補助金の仕組みにしていけばいいじゃないですか。月割りに変えることは、何も国会を通す必要はないはずでしょう、こども家庭庁の解釈を変えればいいので(財務省には、おうかがいをたてるのかな?)、2025年度からすぐにできるはずです。

<児童クラブが本当に助かる補助金になれる>
 児童クラブにおいて、いままで常勤職員を2人以上配置してきて運営をしてきた児童クラブは、クラブにおいて子どもの育成支援を充実させたい、手厚く行っていきたいと考えている児童クラブであり事業者であり市区町村だと私は考えています。いままでの従来型の補助金は常勤1人と補助員1人の金額を考慮した補助金だったところ、事業者や自治体の持ち出しが増える常勤2人配置をわざわざ行っていたのです。予算が、財政が厳しくなるのを承知で、クラブにおける育成支援を充実させたいから、常勤2人配置を断行してきたのです。そのせいで事業者の運営に投じるコスト、本部事務局機能やバックオフィスに投じるコストをゼロにするか極端に削減するとしても、現場の手厚い職員配置を選んできた、とても良心的な児童クラブだと、私は考えます。

 その児童クラブ側が長らく待ち望んできた常勤2人以上の補助金です。ですから誕生したことは本当に喜ばしかった。であれば、もっと児童クラブが安心できる仕組みに、こども家庭庁は変えてください。実のところ、私が以前、最高責任者として運営に携わっていた事業者も正規2人配置体制でした。しかし、正規職員の報酬を他業種との競争力があるだけの額に引き上げると、とても運営の補助金では足りなくなりました。短時間制正規職員制度を取り入れたり、時給単価の低い非常勤での契約を正規職員的に配置したりといろいろ試し、金融機関からも多額の運転資金を借り入れてやってきました。もちろん、まったく勝算のない運営をしていたわけではなく、「常勤2人の補助金がいずれ創設される」という雲行きを見据えて、行政担当課とも相談したうえでのことでした。私はこの補助金が実現する前に退任したので、綱渡りの運営がずっと心配でしたが、この補助金ができたことで、2024年度には金融機関からの借り入れもすべて返済できるだろうと胸をなでおろしたものでした。

 そしてもう1点、この常勤2人配置については適用を厳しくしてもいいかなと私が考えることがあります。先のFAQの8番目の質問に関する点です。
質問 期間業務職員や会計年度任用職員については、常勤職員に該当しないのか。
回答 職員の雇用形態によって区別するものではないため、今回示している常勤職員の定義に該当するかどうかで判断いただきたい。

 なお、6番目の質問への回答に「常勤職員の定義上「年間を通じて」とあることから、1年間以上の継続雇用が見込めることが要件」とあります。

 常勤職員を2人配置するのは、補助金が欲しいからではありません。児童クラブにおける、健全育成を充実させたいからです。健全育成の充実は、職員が継続的に子どもと保護者と関わることによって実現できるものです。職員同士による、その職員たちがいるクラブの子どもたちに対して継続的に育成支援を実施することによって、さらなる質の向上が図れるわけです。よって、当初から、雇用期間を限定している有期雇用の職員や、会計年度任用職員に対しては、この常勤2人の補助金は、私は適用外としてもかまわないという考えです。有期雇用は、満60歳以上は5年、60歳未満は最長3年まで期間を設定できるので、私は、60歳未満の場合は3年、60歳以上は5年の有期雇用契約を結んだ場合は常勤2人の補助金対象としてよし、という例外措置を設ければいいと考えます。

 つまり、児童クラブの事業者と市区町村に、無期雇用または無期雇用に近い職員の雇用を、政策的に誘導するということです。放課後児童健全育成事業の本旨をしっかりと充実させるには、職員の定着が必要です。
(では、職員がコロコロと人事異動をして1年でそのクラブを離れたら、結果的には1年の雇用契約で離職する場合と、子どもとの関わりでは同じではないか、という意見があるでしょう。同じ事業者に雇用されていれば、人事異動で別のクラブに勤務していたとしても、情報の交換や共有、助言はできるでしょうから、完全に雇用契約を解消して別の事業者で働く場合と状況は異なると、私は考えます。職員同士で学び、研修しあうことも児童クラブの事業者ではごく普通に行われているものです)

 貴重な税金からなる補助金です。ですから、有効に活用しなければなりません。その有効活用とは、交付の要件を単に使い勝手を悪くするような条件にするのではなく、事業の質を高めること、事業を安定させることに、ほかならないと私は考えます。この人手不足の社会で、4月から2月まで常勤2人で勤務できたところを、3月に傷病による休業で常勤職員が1人欠け、その補充人員が確保できなかったら、まるまる1年分の補助金が返還となるのです。こんな、事業者にとって、嫌がらせにしかならない補助金の仕組みは、直ちに変えていただきたい。常勤2人配置ができなった最後の3月だけ、常勤1人補助員1人の補助金額を適用すればいいだけですよ。

 こども家庭庁は、児童クラブの現場が納得できる、信頼できる制度が何かを考えて、補助金の仕組みを構築してください。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「リアルを越えたフィクション。これが児童クラブの、ありのままの真の実態なのか?」 そんなおどろおどろしいキャッチコピーが似合う、放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。「がくどう、序」というタイトルで、2025年3月10日に、POD出版(アマゾンで注文すると、印刷された書籍が配送される仕組み)での発売となります。現在、静岡県湖西市の出版社に依頼して作業を進めております。
 埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった、元新聞記者である筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分、活用できる内容だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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