またも出た!放課後児童クラブの「スキマバイト問題」。放課後児童クラブ業界や有識者は、大至急行動を取るべし。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。またもスキマバイト事案が発生したようです。つい先日、さいたま市の放課後子ども居場所事業においてスキマバイトによる求人をしていた事業者があるという市議会議員からの指摘を受けてさいたま市が有資格者に限定した求人を行うよう対策を取ったことを運営支援ブログで取り上げたばかりですが、今度は奈良県内の自治体での放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)においてスキマバイトを利用していた事業者に市長が懸念を表明しました。児童クラブにおけるスキマバイト問題、大至急、業界は動くべきではないのですか?
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<スキマバイトで補助員を単発雇用>
 放課後児童クラブにスキマバイトを利用していたことが明らかになったのは奈良県香芝市(かしば・し)です。9月7日付の奈良新聞のインターネット記事(有料です)の見出しは、「奈良県香芝市の公立学童保育所、アプリで補助人員募集 「スキマバイト」で単発雇用 市長「適切ではない」」となっています。どうやら、5日に開かれた市議会の9月定例会における一般質問で議員が質問し、それに市長が適切ではないと答弁したようです。
 香芝市のHPに市議会からの情報が掲載されており、そこに一般質問の事前通告された内容が掲載されています。それをみますと、青木恒子議員(日本共産党)が、「隙間バイトの実態隙間バイト採用の件についてシダックスから連絡があったかどうか」「隙間バイトは保育現場にふさわしいかどうか」「専門性が必要な保育の現場での隙間バイト採用に対する市の見解」など、この問題を丁寧に取り上げていることが分かります。

 インターネットで得られる情報はこの程度ですので、奈良県など地域の学童保育関係者が広く情報発信をしてくれることに期待しましょう。(なお、ネットの記事では「広陵町で問題噴出」の気になる文言があります。香芝市と同じ事業者が児童クラブを運営しているのですが、どんな問題なのでしょう?)

 先日にこのブロブでも取り上げたさいたま市の事案では、市が事業者に対して資格を持つ人材に限定した求人を行うことを通知しました。つまり、スキマバイトによる単発の雇用で子どもと関わることに、さいたま市は不適切であるという判断を行ったということです。そして今回、奈良県香芝市の市長も、適切でないという趣旨の答弁をした。共通するのは、どちらもシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社であるということです。記事では社名まで公表されていませんが、市のHPなど公表資料でだれでも知ることができる情報です。

<放課後児童クラブにおける単発雇用は、何が問題なのか>
 香芝市の場合は補助員の募集だったと記事の見出しから判断できます。さいたま市の場合も有資格者ではないスタッフの募集だったようです。補助員であれば資格要件は問われませんから、資格証明となる書類をクラブ運営事業者に提出するという手間暇はまったくありません。単発のスキマバイトを雇用して従事させても、私の考えですが法令違反になるものではないと考えられます。しかし、法令では問題ないといっても、実務上においてはおおいに問題があります。また、法令ではないものの事業としての理念においても問題があります。

 児童クラブにおいては短期間のアルバイト職員は別段、珍しくありません。夏休みや冬休みに、1日や数日しか勤務しないアルバイトを私自身も雇用したことがあります。では、そのような極めて短期間のアルバイト職員と、スキマバイト職員では何が違うのか。それは、「実際にクラブの現場に出て働いてもらう前に、事業者が、そのアルバイト職員の人となりをしっかりと確認している」ということです。採用過程において、面接をして面談をして、子どもに関する考え方を聞いたり子ども時代に好きだったこと、嫌だったことを聞いたり、どのようなときに嬉しいと感じたり嫌だと感じたり、あるいは児童クラブに関する基礎的な知識を伝えたりと、単発もしくは単発に近いアルバイト職員であっても、雇う側(それはクラブの職員だったり本部の職員だったりするでしょうが)が、ちゃんと応募してきたアルバイト職員のことを見ているのです。もちろん履歴書など応募書類を提出してもらうのですが、その書類も確認します。丁寧に書いているか、適当に書いているか、そういう細かいところから、「この人は、あの部分に不安がありそうだから、こういう点を念を押しておこう」と考えて採用過程において種々の指導や助言を行うことが、採用に従事する者の当然の仕事です。

 スキマバイトには、応募者と雇用側との関係において、そのような事前の「関わり」がない。「いやいや、スキマバイトを派遣する事業者が、しっかりした人を提供してくれるから大丈夫じゃないの?」というのは、こと、多人数の子どもへの支援、援助を行う業態における業務の難易度を軽視しています。どんな仕事も大変ではありますが、例えば飲食店で片づけや洗い場担当の仕事におけるスキマバイトとは、明らかに業務の質も、働く側に及ぼす負担が異なります。「この児童クラブの子ども達は、いま、おしなべてこのような状態だ。低学年男子はこう、高学年女子はこういう状態で過ごしている。こういう点に注意して子どもたちと関わってほしい」ことをクラブの正規職員から説明されて、その場ですぐに対応できるというのはなかなか難しいものでしょう。

 これが、例えば所外活動における引率業務において、必要とする職員が10人のところ9人しかおらず、残り1人をスキマバイトで、ということであればまた違った判断もできましょう。しかし、児童クラブにおける継続的な子どもへの支援、援助について、本来なら継続して雇用されて業務に従事、子どもと継続的に関わっている人員を配置せずに単発スキマバイトで「頭数だけ」人員を満たしたことにしておく、ということは、放課後児童クラブ運営指針は「放課後児童支援等」として補助員も含めて継続的な子どもへの支援の実施が重要であるという記載がある中で、この指針が目指すところの理念にも反することになります。

 補助員だからいいだろう、実質的な全児童対策だからいいだろう、ではありません。補助金交付における要件はクリアしていても、子どもへの支援、援助という事業の本質において明らかに支障が出るような職員の従事は、認めるべきではありません。そして、事実として、「放課後児童クラブにおける職員の雇用は、スキマバイトは適切ではない」という行政の判断が相次いで2件続いたことになります。こうした行政の判断を定着させるべきでしょう。

<児童クラブ業界が直ちに実行するべきこと>
 当然ですが、「放課後児童クラブに従事する職員の雇用は、単発のスキマバイトでは事業の質が維持できない」という見解を打ち出し、広く社会に周知することです。業界団体は当然のこと、児童クラブの事業の質に対する知見や見識において社会から評価を受けている専門家、有識者もコメントを出す、あるいは業界団体が出す声明や意見書に見解を寄せる、ということが必要でしょう。それが、児童クラブの世界におけるスキマバイトの無秩序な蔓延を防ぐ抑止力になるのです。その重要性が理解できないはずはないですよね。

 これは急を要することです。本日と明日の土日で取りまとめて9日の月曜日に出す、ぐらいの重要かつ緊急な事態であるという認識を持てない業界団体なら存在意義がないと私個人は考えます。

 一方で児童クラブの人員不足の問題は、つまりはスキマバイトに頼らざるを得ない現実的な問題です。なぜ人が求人に応募してくれないのかを冷静に考えればすぐに答えが見つかります。時給が安いからですよ。今回の2つの市では同じ事業者でした。その事業者に限定されず、全国各地で児童クラブを運営するいわゆる広域展開事業者が提示している賃金水準はとても評価できるものではありませんよね。継続的に業務に従事してくれる人を雇うにはある程度の賃金は提示せねばなりません。事業者がしっかりと人件費を確保すること、また地域に根差した非営利法人や任意団体でどうしても予算が足りない場合は行政と交渉して厳しい態度で現状の解決を求めていくことが必要です。

 それでもどうしても児童クラブにおいて従事する人が集まらずという場合、仮にスキマバイトがこれだけ広く利用されている現状を踏まえて児童クラブでもスキマバイトを利用しなければならないとなったときは、例えば市区町村の了解、了承のもと、事業者とスキマバイト事業者が協定を結ぶなどして、事業者が提示した一定の条件をクリアした人だけの受け入れを認める、ということは検討の余地があるでしょう。要は、子どもへの支援、援助において不利となる要素を極力排除し、健全育成の質の向上に資する方法があれば採用もできるでしょう、ということです。

 おそらく表面化していないだけで、実際にスキマバイトを利用して児童クラブの職員として従事してもらっているという例はもうかなりあるでしょう。旧ツイッターを見ると、放課後等デイサービス事業ではスキマバイトの利用を公言している事業者もかなりあります。当ブログの読者様で、児童クラブにおいてスキマバイトがすでに導入されて活用されているという具体例を目の当たりにしている方はぜひとも弊会まで情報をお寄せください。ご連絡、お待ちしております。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)