ぜひ、多くの人に知ってほしいこと。「放課後児童クラブは、なぜ人手不足なのか」。働き手が集まらないワケ。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は昔からずっと、人手不足です。働いてくれる人がなかなか集まりません。その理由を改めて紹介します。特に、児童クラブの業界の外にいる世間の皆様にはぜひ、児童クラブの世界を苦しめる不治の病ともいえる人手不足についてその理由を知っていただきたいと強く願っています。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<その前に、ちょっとがっかり>
放課後児童クラブ以外でも、福祉の世界では働き手が常に不足しています。求人を出しても出してもなかなか応募がありません。児童福祉も障がい者福祉も高齢者福祉もすべての福祉の世界が人手不足に苦しんでいます。ところで、こども家庭庁は旧ツイッター(X)に、次のような投稿をしました。紹介します。(投稿は写真付き)
【東京都児童相談センター視察】
三原大臣は、東京都児童相談センターを視察しました。
視察後、大臣は、「児童相談所における人材確保は喫緊の課題。人材確保・定着に向けた取組をしっかりと検討し、政策を進めていきたい」と述べました。午後4:22 · 2024年11月6日
これを読んで、ちょっとがっかりしました。児童相談所の人手不足、マンパワー不足による職員の過重労働や事案への対応が不十分であることは、もうはるか以前から何度も報道され、行政機構内部でとっくに共有されている問題で間違いありません。ちょっとインターネット検索をかけるだけで、例えば読売新聞オンラインは2021年6月29日15時配信の記事「「ここまで人材確保が厳しいとは」児童相談所、経験豊富なスタッフが足りず」で、都内の行政担当者に取材し、児童福祉司の確保ができない現実を報じています。2019年3月(平成31年3月)に厚生労働省による「児童相談所の実態に関する調査」では、人員の増員が必要であるとする考察が記載されています。
大臣のパフォーマンスは、不要とまでは私は言いません。が、「今さら、それですか?」と思われるようなパフォーマンスは行政や政府への信頼をさらに損ねるもので有害です。三原大臣は本当に児相が人手不足で大変だということを知らなかったかもしれませんが、こども家庭庁の職員がレクチャーしていなかったとしたらそれはそれで残念です。
いま、旧ツイッターでは、こども家庭庁は不要、解体してその予算を子どもに配るほうがよっぽどましだ、という荒唐無稽な書き込みに多くの賛同が集まっている状況です。児童手当や保育所、児童クラブへの施設への補助金といった社会を維持するために必要不可欠な予算などが含まれていることに、社会の人たちの理解が決定的に不足しています。それは社会の人たちを責めるのではなく、広報や理解が及んでいないことを反省することが必要ですが、何より、「これは助かった!」という声が保育所やこども園、児童クラブ、児童館、放デイといった業界から相次いで挙がれば、一般の人たちの理解もまたそれに沿って変化していくはずです。ぜひ、具体的な施策を着実に実行していってほしいと期待しています。
<さて本題・なぜ人手不足か>
なぜ、児童クラブで働いてくれる人が少ないのでしょうか。一言で言えば「雇用労働条件と職場環境の悪さ、見劣り」ですが、もう少し詳しく、正規・常勤職員と、非正規・非常勤職員とで区別して、運営支援からみた理由を挙げていきます。なお、用語の定義ですが、「人手不足」については、単純に働き手の不足、職員不足を意味します。「人材不足」については、放課後児童健全育成事業についてその本旨を理解し、例えば放課後児童クラブ運営指針を理解した上での育成支援業務を遂行できる資質のある職員が不足している、ということを意味します。
正規・常勤職員の不足
1 雇用労働条件の低水準。絶対的に水準が低い。その結果、他の事業と比べて明らかに見劣りする。低額の初任給。少ない休日。求人広告の内容からすでに他業種と見劣りする。これは、有資格者の確保に重大な影響を及ぼしています。保育士や教員免許を持っている人で児童福祉や学校で働いていない潜在的有資格者は相当程度の人数が存在するものと思われます。児童クラブも有資格者の配置を条例で必要としている市区町村が多いですが、雇用労働条件が悪いことでそれら潜在的有資格者がなかなか応募してくれません。これが行き過ぎると、本当の原因を直視することなく「有資格者が確保できないから放課後児童クラブの設置、開設ができない。よって無資格者だけのクラブを認めてほしい」となりますし「児童クラブは有資格者が確保できないから実施しない。放課後子ども教室で十分だ」という市区町村が増えてしまうのです。
2 雇用の不安定。正規・常勤職員の募集であっても実態は有期雇用スタッフ。雇用する事業者が、3~5年程度で児童クラブ運営について公募プロポーザル、指定管理者の選定に臨まねばならない状況が多く、継続してクラブ運営ができる保障がないため、現場クラブ職員を無期雇用することが事実上不可能。雇用が有期雇用では、腰を据えて働きたいとする人を確保することが難しい。
3 職務内容と職務希望のミスマッチ。理想と現実の乖離。建前と本音があまりにも違い過ぎる。児童の健全育成をうたい、子どもの主体的な育ちを応援すると掲げながらも、現実にクラブで行われる日々の業務が、徹底した管理型だったりベテラン職員の恣意的な運営がなされていたりすることが実に多く、放課後児童健全育成事業の理念に基づいたクラブ運営が絵に描いた餅になっている。夢と希望を持って低賃金も覚悟で就職したのに、勤め先の実態に幻滅して早期に離職、退職する人が後を絶たない。放課後児童健全育成の専門性が確立していないことによる業務内容の不安定さと、利益確保に熱心な事業者による安直な運営がはびこっている。
4 資質に欠けるベテラン職員の多さ。「サバイバー職員」と私は呼んでいます。厳しい雇用労働条件のもとでも長く勤めて、クラブと放課後児童健全育成を支えてくれる職員は尊敬に値します。しかし、上記3にも記しましたが、ベテラン職員の中には、放課後児童健全育成にひたすら熱心で、自己研鑽に励み、クラブや運営事業者の組織的運営にも協力的な人ではない、残念なベテラン職員も相当数、存在しています。児童クラブの仕事はこうしたベテラン職員にとっては「自分の城」。運営事業者の管理監督や上司の指揮命令を常時受けているわけではなく、圧倒的多くの時間を「自分の好きなように」ふるまって仕事をすることができます。最初はいろいろなことに留意していても、次第に、自分の好き勝手なクラブ運営、子どもへの対応に変化してしまうのです。そもそも、他の事業者では正規職員であればそれ相応の責任を業務経験に応じて徐々に増やしていくものですが、児童クラブではそうした「昇進」「出世」を拒否してずっとクラブの中で働き続けることもできます。他の事業者、会社や企業では、とてもじゃないけれど正規職員として勤められない程度の低い資質のベテラン職員によって、新たな有能な職員の定着が妨げられます。結果、そういう「ヌシ」のようなサバイバー職員がいるクラブは常時、人手不足となります。一緒に働く職員が相次いで辞めていくからです。
5 安易な求人。これは実に多い。どういうことかといえば、求人広告によくある「子どもを見守る仕事です」「未経験でも大丈夫」「子育て経験がある人に最適」「子ども好きな人にぴったり」というキャッチコピーですね。子どもを見守る仕事というPRを使う事業者は、「放課後児童健全育成の本旨を理解していないバカ企業」か「意図的にダマして人を集めようとする悪徳企業」であると私は断言します。保育士や教員免許を持っている人も、放課後児童健全育成の過酷さは現実になかなか想像できないのです。有資格者だから大丈夫として採用したものの、子どもを見守るだけではない仕事、例えば大規模状態の中であちこちで起こるトラブル対応や子どもからの暴言、保護者からの厳しい意見、職員同士の不和といった厳しい条件に直面し、早期に退職してしまう。安易な求人が安易な人を呼び寄せ、安易な離職を呼ぶのです。
非正規・非常勤職員の不足
1 雇用労働条件の低水準。これは正規常勤と同じです。他業種より時給が明確に低い。これは「職責」と「報酬」が決定的に釣り合っていないことですから、どんどん人が辞めていきます。
2 職務内容と職務希望のミスマッチ。理想と現実の乖離と、それを招く安易な求人。上記の3と5ですね。パート職員向けにはこの「子どもを見守るだけ」というキャッチコピーがあまりにも安易に多用されています。その上で、子育て経験がある方にとっては「私でもできるでしょう」と勤めだすのですが、厳しい現実に圧倒されてしまいます。子どもから往々にしてひどい言葉を投げつけられる(それは「試し行動」=この新しい大人はどこまで自分を許容してくれるか、本当に受け入れてくれるかを子どもなりに確かめている行動)で、「子どもがこんなに残酷とは思いませんでした」と、早期に辞めてしまうパート・アルバイト職員は、実に多いのです。
3 時間帯のミスマッチ。児童クラブで職員が多数必要な時間帯は、学校の授業がある日はもちろん放課後、つまり午後2時以降から閉所する午後6時30分や午後7時まです。この時間帯に働いてくれるパート・アルバイト職員が必要ですが、現場クラブが待望する「30~50代の女性」は、自らの家庭における家事と重なるため、なかなか働き手として応募してくれません。それでも応募してくれるために高い時給を設定したくても、人件費が足りません。この問題の解消には、不完全ながらも代替策で対応するしかありません。学生のアルバイトの活用、家事の負担が減った高齢者層の活用です。また、きめ細かいシフト設定も必要です。午後6時までは無理だけれど午後5時45分までならギリギリ間に合うという人なら、その人の要望を受け入れるシフト設定をする。または、小学生を育てている保護者がいるとして、その保護者に対し、特別な手当を用意して実質的に児童クラブの利用料を差し引き0円とする優遇策を講じることです。保護者は極力、子どもが過ごすクラブとは違うクラブで職員として勤務する。午後6時までの勤務として保護者は子どもを迎えに行って帰宅する、ということにします。午後6時以降は正規職員と学生や高齢者のパート・アルバイト職員で対応する。とにかく、いろいろな働き方を提示することです。運営支援が提案する「ジョブ型雇用」もまた、その一助になるでしょう。
4 働き手は足りているが、本当に必要な人の不足、つまり「人材不足」。これは2の、職務内容と職務希望のミスマッチと関連しますが、「子どもの相手ぐらい、私でもできる」として求人に応募してくるシニア層、高齢者求人は結構います。年金では家計に不十分として働く高齢者層や、家計には問題ないが働いて社会貢献したい、という高齢者層もまた多いものです。しかし、得てして、それらの人たち自身が子どもだったころ(昭和30年代)や、子育てをしてきたころ(昭和50年代)と、今の子育てに必要な決まり、ルール、倫理観はまったく違います。もちろん昔も本当はダメではあったのですが、大人による体罰がまかり通っていたころに子どもだったり子育てを経験した人が、その感覚のまま児童クラブで働いてふるまうと、あっという間に大問題となります。「大人の言う事を聞かない子どもは、げんこつ一発で言う事を聞かせればいいんだ」という感覚で児童クラブで勤務されては絶対にダメなわけです。もちろん、今の時代の児童クラブで必要なことを事業者は教えますが、人によってはなかなか理解できない。働き手はいても、安心して子どもへの対応を任せられない人材不足の状況は、常について回っています。
<結局、職員不足の解消に必要なこと>
やっぱり、人件費に使える予算が事業者に増えることですね。ただしより正確に言えば、「予算を適切に人件費に配分することを絶対的な義務とする仕組みが存在した上で」、人件費に使える予算が増えることです。過去にも取り上げいますが、都内では1クラブあたり年間で800万円もの損益差額をもたらす児童クラブが存在することが国による委託の調査結果で判明しています。しかし都内の児童クラブの圧倒的多数の事業者は求人広告をあちこちに出しています。ではその800万円の純利益は人件費に使われないのですか?都内でなくても株式会社系と思われるクラブは180万円程度の利益を確保している調査結果となっています。その180万円があれば時給や月給をもっと上げられますよね。
放課後児童クラブにつぎ込む国の補助金の絶対的な不足と、補助金をしっかりとクラブ運営事業そのものに使わせる仕組みの整備。特に後者は、児童クラブの世界の中にいる人が実態を例示して世間に訴えていかないと、なかなか理解されません。
収入を増やすには利用者からの徴収額を増やすことも方策となりますが、これには限度があるでしょう。いわゆる応能負担はある程度、徴収額の増額に寄与するでしょうが、これはまた難しい問題で、放課後児童クラブ運営指針を重視した児童クラブで利用者の世帯収入等によって徴収額を増額するとどうなるか。おそらく、学力向上や学習メインの児童クラブや民間学童保育所といった、月額3~5万円かそれ以上の支払いが必要だが目に見えて勉強や学習の効果が期待できる施設に、利用者が移動していく動機になります。また、世帯収入が1,000万円前後の、一般的に中流層とされる世帯であっても子育て世帯はなかなか生活が苦しい。教育費が過大で、相対的に生活が苦しいのです。一概に保護者負担額を増額させることは得策ではありません。
児童クラブ運営側の柔軟な雇用労働条件の考え方も必要です。先に述べた、児童クラブ利用の保護者を優遇して職員として確保することも1つの案です。柔軟なシフト設定は当然必要です。高齢者職員に期待できる職務を限定し、その程度に応じた賃金を設定することも良いでしょう。乏しい人件費をどう活用するか、事業者の賃金体系を整理することも重要です。運営支援としては評価制度を採り入れて有能な職員にできるだけ多くの報酬を与え、かつ、変形労働時間制のもとで、効率的な人件費の配分を事業者が心得ることは当然欠かせないものと考えています。
児童クラブは社会インフラです。将来の社会を支える子どもの健全育成のために必要な仕組みです。保護者の社会的、経済的な活動を支える仕組みです。児童クラブの存在が、共働きや一人親の保護者の仕事を支えて日本の経済を支える一助となっているのですから、もっと多くの補助金が投入されるべきでしょう。やはり先立つものはカネ。そしてそのカネを確実に事業に使用させる仕組み、ルールも同時に整備すること。今回の103万円の壁の問題は、直接に児童クラブの職員を対象とはしていませんが、児童クラブにおける労働力不足を解消する1つの方策になります。そういった政策を国がどんどん実施していってほしいですし、児童クラブの側も必要な施策を国や政党、議員に理解してもらえる活動を盛んにしなければなりませんね。もちろん私も取るに足らない存在ですが、運営支援の立場で、児童クラブの難問を少しでも解消できるために、頑張っていきますよ。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)