さいたま市放課後子ども居場所事業は2年後に本格実施の計画案が判明。放課後児童クラブ職員の雇用はどうなる?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。運営支援ブログでは、さいたま市で行われている「放課後子ども居場所事業」(=いわゆる放課後全児童対策事業)について折々の状況を伝えてきました。最新の資料では素案が紹介されており、それによると令和8年(2026年)から本格実施とする計画となっています。その素案には、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の業界にとっても気になる点も書かれています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<素案の概要>
 さいたま市議会のHPから入手できる資料「「(仮称)さいたま市放課後子ども居場所事業と放課後児童クラブの整備に係る基本方針(素案)」について」」(令和6年9月定例会保健福祉委員会資料報告事項 放課後児童課)に、今後のさいたま市の放課後児童に係る施策の方向性が紹介されています。

 それによると、さいたま市は放課後児童クラブの利用ニーズに対応が追い付かず、「待機児童の解消」が喫緊の課題となっており、その早期解消に取り組むとしています。さらに「保護者負担の軽減」と「多様なニーズへの対応」、この3点を課題として明記しています。
 この課題に対する施策は次の通りです。
〇「待機児童解消」
 放課後児童クラブと放課後子ども教室を一体的に実施する「放課後子ども居場所事業」の導入を基本方針とする。
 早期に放課後子ども居場所事業の導入が困難な学区については、民設放課後児童クラブの整備により対応

〇「保護者負担の軽減」
 放課後子ども居場所事業の導入
 民設放課後児童クラブへの支援の拡充

〇「多様なニーズへの対応」
 放課後子ども居場所事業と民設放課後児童クラブの両事業の実施により、児童や保護者が希望する放課後の受け皿を選択できるよう支援

 そして、これらの施策についてどのように展開していくかが気になりますが、放課後子ども居場所事業について、「令和8年度から本格実施とし、令和6年度及び令和7年度モデル事業の検証結果を踏まえながら、市域全体へ実施校を展開する」と明記されています。今年度および来年度のモデル事業の実績を反映させて令和8年度から全市で実施ということです。当然、待機児童に関する対応が必要な地区が最優先となります。

 重要なのは、保護者会運営による民設民営クラブがある地域では、保護者負担の軽減の観点から「保護者会の意向を踏まえながら」とあります。これは、場合によると、「私たちは負担があっても保護者運営のクラブを選択したい」という保護者が多数派である場合、子ども居場所事業の展開が遅れる又は小規模にとどまる可能性を示唆しています。保護者会として、保護者運営の児童クラブを今後も続けたいという意思を明確に表明した場合は、子ども居場所事業を全く導入しないことは考えにくいとしても導入が遅れる、あるいは小規模にとどまることが想定されます。
 このことは、保護者個人個人が、自分の意見を明確に表明することが大事であることを示しています。児童クラブを利用する保護者の本音は「もうこんな大変な負担は嫌だ」と思っていても、それを口に出すと周囲とのあつれきが生じてしまうからとして本音を表明しなかった保護者が多数となった場合、保護者会の総意として「今まで通りでいい」となってしまうことがあるでしょう。また、ありがちな話ですが、ごく一部の声が大きい人の意見に圧倒されて「負担があってもそれが学童保育なんだ!」という意見が保護者会の総意としてまとめられてしまうことがあります。そのような態度が行政側に届いた場合には、子ども居場所事業の導入は遅れる、小規模になる、あるいは見送りになる、という可能性があるということだと、私は理解します。
 つまり、保護者運営系のクラブを希望するにしろ、負担からの脱却を目指して子ども居場所事業に切り替えたいという希望にしろ、「保護者1人1人が、自分の意見を明確に表明すること」が大事だよ、ということですね。

 放課後子ども居場所事業で使える余裕教室がある小学校から順次導入するというのは、まあ当然でしょう。また、民設クラブについては放課後児童対策の受け皿の1つとなることで、支援を継続すると明記していることは、高く評価します。放課後の子どもの過ごし方には多様さが必要であって、子ども居場所事業、民設の育成支援主体の児童クラブの選択の余地を残すことは、こども家庭庁がいうところの多様な子どもの居場所の構築にもかなうものです。子ども、保護者が、どのような環境や状態ならなるべく安心して楽しく過ごせるかしら、と複数の居場所候補から選択できることこそ、必要です。

<これは深刻な問題になるのでは>
 その素案には、私がひっかかる点がいくつかあります。
その1。「放課後子ども居場所事業を早期に導入できない学区に限り、民設放課後児童クラブを整備する」
 これは、子ども居場所事業の整備方針の欄に記載されていることですが、文字通り、子ども居場所事業が何らかの理由、例えば余裕教室が少ないという事情がある場合に限定して民設クラブ、つまりNPOなどが運営するクラブの整備を認めるということです。A小学校は子ども居場所事業を導入することになったが、その地域にある民設クラブが老朽化しているので施設の修繕や建て替え、移設をしたいと民設クラブ側(保護者または運営法人)が希望してもそれは行政が予算を付けない、ということです。それは、施設が使用に適さないとなった場合は、民設側が自前で施設を用意でもしない限り、子どもたちはA小学校に設置された子ども居場所事業を利用することになり、遅かれ早かれ民設クラブは無くなる、ということになります。

 その2として、子ども居場所事業による影響をどう考えるか、ということがあります。「放課後子ども居場所事業の導入に伴う民設放課後児童クラブへの影響の検証を引き続き行い、必要な支援策について検討する」とあり、その「必要な支援策」としていくつかの案が紹介されています。その検討中の案の中に、「経験豊富な放課後児童支援員等を放課後子ども居場所事業の運営事業者へ紹介」とあります。事実上、NPO法人が雇用している職員の就業継続に関する配慮ということですが、これは、どうしたものでしょうか。

 まず、民設クラブで育成支援に従事している職員が子ども居場所事業を運営する事業者への転籍、再就職をすんなり受け入れるかどうかが懸念されます。民設クラブで育成支援に従事している者はおおむね、育成支援の質にこだわる研修や学習を重ね、保護者参画の運営に価値があるものとする考え方で業務に従事してきています。そういった職員の方々が、子ども居場所事業を手掛ける広域展開事業者に、そう簡単に身を投じるとは私には思えません。ことに、安易にスキマバイトに頼ろうとする事業者が子ども居場所事業に加わっています。そういう事業者に積極的に雇用を希望する民設クラブの支援員がいるとはなかなか想像できません。行政が考えるほど、この案はうまくいかないでしょう。もっとはっきり言えば、真摯に育成支援について向き合い研鑽を重ねている職員、支援員は、育成支援が十分に実施できない子ども居場所事業を仕事としようとは、思わないでしょう。むろん、生活の為、収入を得るために民設クラブが縮小されて就業場所がなくなった地域の職員はやむなく子ども居場所事業の事業者に雇用される道を選ぶかもしれません。しかしそれよりも、さいたま市以外の地域で育成支援を行っている事業者への雇用を望むのではないでしょうか。

 この点、さいたま市には、放課後子ども居場所事業の質的向上への意欲がどれだけあるかが求められます。今回の素案には、子ども居場所事業の質的向上に関する方策、方針や方向性はまったく見られません。育成支援をしっかりと果たしたいと考えている民設クラブ職員の新たな雇用の受け皿として子ども居場所事業を勧めるのであれば、子ども居場所事業の質的な向上、例えば大規模状態を回避するべく事業で使う場所をしっかり確保するとか、職員数も必要十分な人数を配置することを事業者に求めるとか、職員の給与についても質の高い人材を引き留め続けられるだけの賃金水準を確保しているかどうかを行政側が管理監督するなどの制度の整備、体制構築が必要でしょう。

 この点をさらに考えます。
 全国各地で公営クラブの民営化が進行していますし、あるいは業務委託期間の満了や指定管理機関の終了等で事業者を新たに選び直す際、委託先事業者や指定管理者となる民営事業者が変更となることがごく普通にあります。代表的な広域展開事業者同士が競い合って期間満了で事業者が変わる、ということもあります。この場合、問題となること、特に保護者側が「そのようなことは困る」として訴える際の理由の根拠として「クラブで働く職員、支援員の雇用の継続が損なわれる」というものがあります。
 放課後児童クラブ運営指針は事業の質の観点から、育成支援は継続して行われることが望ましいという立場であることが伺えます。運営指針の第4章の5.運営主体の(1)には、次のように記載があります。「育成支援の継続性という観点からも(中略)子どもの健全育成や地域の実情についての理解を十分に有する主体が、継続的、安定的に運営することが求められる」。本来は、児童クラブの事業者が継続して児童クラブを運営することが理想なのです。(なおこのことは地域に根差した運営事業者が有利となる点ですから、業者選定の際の配点に配慮が必要ではないでしょうか。)

 児童クラブの事業主体はなるべく継続されることが理想であるのは育成支援の継続性が必要であるということが大きな理由だからです。一方で行政側は、クラブを運営する事業者が変わったら育成支援が継続できない、同じ保育が続けられないと懸念を示す保護者側に対して、「たとえ事業者が変わっても、現場の職員が引き続き雇用されて同じクラブで勤務できれば、継続性は保障されるから問題はないはずだ」という考え方を説明することで対応します。
 それは机上の論理です。事業者は当然、事業者ごとにどのように事業を行うのか理念や考え方を持っています。利益を最大限に確保することを最優先としている事業者があって当然ですから、予算の多くをできる限り人件費や行事費、おやつ代、施設修繕に費やす地域に根差した運営事業者とは姿勢が異なるでしょう。まったく同じような育成支援の質の向上が期待できない限り、職員が進んで新たな事業者に雇用を望むことは、なかなかないのです。

 「事業者が変わっても、勤めるクラブが変わらなければ、大丈夫でしょう?」という行政側の考えは、現場で働く人たちの希望や意思に配慮が足りません。もちろん、事情があってどんなに「上」が変わろうともそのクラブで勤めたい人は皆無ではないでしょうが、より育成支援に高い関心と向上心を持っている職員ほど、事業者が変わることによる事業内容の変質を迫られることへの不安は強くなります。そこへの配慮が不足していますよ、と私は言いたいのです。「経営者が変わっても同じように仕事をしてくれるはずだ」というのは、経営者が掲げる育成支援の理念や姿勢が、さほど変化が無い場合であればあてはまるでしょうが、現実は全くそうではないのですから。

<働いている職員たちにどれだけ寄り添えるか>
 今回のさいたま市だけでなく全国各地で運営主体が変わる、あるいは放課後児童への施策が変わるということは珍しくないのですが、実際に現場で働く職員、支援員たちの不安払しょくにどれだけ務めているかが、運営主体の変更や放課後児童施策の変更について成否のカギを握ります。それは、「早期から、丁寧に、何度でも」説明をして理解を求めるしかありません。今回のさいたま市の件はその点、どうなのでしょうか。私は、「どうしてこんな重要なことを保護者に直接、行政が説明する機会を設けないのだろうか」といささか不思議です。今はまだ素案段階だし、市民の代表である議員に説明しているから、という理屈は分かりますが、これは反対運動や「炎上」のリスクが非常に大きい施策です。きめ細かな保護者への説明、例えばタウンミーティングや説明会を何度も開催して素案段階から情報を伝えて理解を求める努力が、行政側に欠けているように思えて残念だと私は感じています。

 民設クラブで勤める職員にも、あるいは放課後子ども居場所事業を引き受けている、さいたま市の公設クラブ(福祉事業団が運営主体)で働いている職員にも、行政側が丁寧な説明を早期に行っているのでしょうか。いささか、不安が残ります。行政だけではありません。雇用主である法人側も職員に説明をしているのでしょうか。 「子どもが好きで、子どもの支援を仕事としたいんでしょ?だったら雇用主が変わっても、問題ないよね?」ではありません。それは職員の心情を軽視しています。収入額が変わらないから大丈夫です、でもないのです。企業や法人、団体にはそれぞれのカラー、風土があります。それが変わるのは働き手にとっては重要なことです。その点への配慮がほしい。さいたま市の例でいえば、民設クラブの事業縮小はもう明確ですから雇用されている職員の多くの人は、職場が無くなることはもう避けようがありません。雇用主としてどう対応するのか姿勢を明示して職員や保護者を安心させることが必要でしょう。

 民設クラブ側にとっても、例えば素案にある「放課後子ども居場所事業導入に伴い廃止する公設放課後児童クラブの学校敷地外専用施設の貸与」という検討案は、とてもありがたいことでしょう。少なくともこの素案からは、民設クラブを利用したいという保護者が多ければ民設クラブの存続の可能性は示されているわけですから、施設が老朽化した際は、子ども居場所事業の実施によって空いた公設クラブの施設を借りられることができるようにする、というこの検討案は重要です。その点、さいたま市の巧みな配慮が伺えます。全体的には、民設クラブへの影響をなるべく小さなものにしたい、という配慮は感じられます。

 2年後の本格実施に向け、残された時間は少なくなってきました。その間には、日本版DBSへの対応といった重大事案も待ち構えています。伝統的な学童保育の聖地ともいえるさいたま市の放課後児童施策の推移は、国レベルにおいても大いに参考となる動きでしょう。(私は、さいたま市のこの放課後全児童対策事業は利用者側にそれなりの費用負担を求めている点を評価しています。一定程度の必要性がある人と、そうでない場合を選別する役割を設定したことは、大規模対策の観点から重要です)

 待機児童を無くして子どもと保護者が安心できる日々を確保できるようにすること、放課後や夏休みなどを過ごす子どもたちにとって安心できる居場所を社会が作っていくということ、そして働いている人が熱意をもって育成支援に打ち込め所得面などで生活の不安なく仕事を継続できること、この3つを実現できるように工夫を重ねていってほしい。「子ども、保護者、行政(地域社会)、従事者(職員)」の関係各位全てが安心でき、なるべく満足できる内容となる事業水準をぜひ目指してほしいと期待しています。

 <おわりに:PR>
  放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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