さいたま市放課後子ども居場所事業の事業者による残念な事態が明るみに。全国の市区町村はここから何を学ぶ?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。さいたま市は2024年度から、「さいたま市放課後子ども居場所事業」という新たな試みをテストしています。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所を含む)と、放課後子供教室を融合させたいわゆる放課後全児童対策事業です。この子ども居場所事業を任された事業者による残念な事態があったと、さいたま市議会議員の方が公表しています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<スキマバイト>
 さいたま市議会議員の、たけこし連氏が「note」で公表した記事(8月28日公開)には、驚くべき内容が記されていました。詳細については議員氏のnote(放課後こども居場所事業のタイミー採用は適切か?―面接なし、資格なし、面識なしで雇う。|たけこし連(さいたま市議会議員) (note.com))をお読みください。モデル事業を行っている事業者が職員をタイミーで募集していることを指摘したものです。記事には求人募集の画面も掲載されており、さいたま市栄小学校放課後子ども居場所事業において、7月22日に、4時間で4,700円の求人募集と表示されています。時給1,175円ですね。記事は後段、議員氏側がさいたま市に調査を対応を求めたとあり、さいたま市はこのことを知らなかったこと、8月以降はタイミーによる職員の募集を行わないことと有資格者に限定した求人を行うことを、さいたま市が受託事業者に通知した、とつづられています。

 さいたま市がモデル事業として始めたこの「放課後子ども居場所事業」において、事業者が職員をスポット募集していた、という、実は大変な事態が起こっていたのですね。記事で紹介された求人は、さいたま市栄小学校での事業となっていましたが、さいたま市が公表している情報では、運営事業者として「シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社」が紹介されています。

<問題点>
 さいたま市が始めた、放課後子ども居場所事業は、放課後児童クラブを利用する年代の子どもを育てる埼玉市民の保護者には、とても期待を集めている事業です。さいたま市がこの事業について説明する資料(R5-1siryou5.pdf (saitama.lg.jp))がインターネットで検索できますが、その資料において、この事業は「放課後児童健全育成事業+放課後子ども教室」とはっきり明示されています。
 放課後児童健全育成事業であれば、放課後児童クラブ運営指針を踏まえたクラブ運営が求められます。運営指針の「第4章 放課後児童クラブの運営」には、職員体制について「子どもとの安定的、継続的な関わりが重要であるため、放課後児童支援員の雇用に当たっては、長期的に安定した形態とすることが求められる」と明記されています。これは有資格者を対象としていますが、「第7章 職場倫理及び事業内容の向上」では「放課後児童支援員等は、会議の開催や記録の作成等を通じた情報交換や情報共有を図り、事例検討を行うなど相互に協力して自己研鑽に励み、事業内容の向上を目指す職員集団を形成する」とあります。放課後児童支援員「等」とありますから、補助員を含んでクラブの職員は集団で育成支援に向き合え、ということです。これは、スキマバイトでは実現ができないものです。

 言わずもがな、有資格者(放課後児童支援員)を必ず含む最低限の人数配置が必要です。有資格者であることは事業者がその証明が必ずできる事が求められ、通常は市区町村にその情報を提出します。放課後児童支援員なら平成・令和何年に認定資格研修を受講したか、ということです。しかしスキマバイトでは、原則として履歴書不要で就業先での勤務をすることになるはずですから、仮に、必要となる人材が有資格者であった場合、その資格の証明ができなくなります。補助員のスキマバイト募集ではこの資格の証明は不要になりますが、放課後児童クラブでの勤務は先に述べたように継続的に児童と関わることでの支援、援助が必要ですから、スキマバイトの利用は極めて限定的としなければならないでしょう。

 気になるのは、2年後にも実施される日本版DBS制度があるように、子どもに対する異常な性癖を持つ人材が仮にスキマバイトでやってきたら、ということです。スキマバイトの事業者で徹底的に子どもへの異常な性癖を持つ人を特別な技術で排除しているということでもないでしょう。この点からも大いに不安が残ります。

 つまりは、今回、タイミーを利用しようとした事業者は、放課後児童クラブ運営指針をまったく理解していなかった、という事でしょうか。あれほど全国的に児童クラブを運営している事業者ですが児童クラブの運営にもっとも重要な人材の確保の手段がスキマバイトというのは、語るに落ちる事態です。

 なお、さいたま市も、議員氏側からの申し入れがあるまでは事態を知らなかったとのこと。丸投げにしても度が過ぎます。設置者としての責任はあります。事業者を指導すればいいという問題ではありません。常時、事業の状態を管理監督しなければなりません。

<自治体に学んでほしいこと>
 旧ツイッター(X)を見ていると、子どもと関わる事業においてタイミーなどのスキマバイトを活用しているという投稿を目にすることが増えました。放課後児童クラブの関係者と思われる方の投稿は私はまだ見たことがありませんが。そういう意味では、まさかさいたま市が華々しく始めたモデル事業において、よもやスキマバイトが利用されていたとは、私は大変驚きました。

 今回の問題はもちろん、この事業の形態が引き起こしたものではなく、事業者の行った人材募集の方策が誤っていた、というものです。ところで、放課後児童クラブ、学童保育の世界は全国津々浦々、極度の人手不足に陥っています。多くの地域で、事業者で、働き手が足りていません。その理由は低賃金と重労働という分かりやすいですが、不思議なことに、全国の公営クラブが相次いで企業による運営に委ねられている中で、その理由が「民間事業者によって職員不足を解消できる」ということが必ずと言っていいほど挙げられています。最近、当ブログで触れた佐賀市や、つい前日に触れた静岡県内の企業運営に関する報道でも、行政の担当者、責任者がそろって民間事業者による現状の課題解決に期待をするコメントが紹介されています。

 全国あちこちで行われている指定管理者の選定や業務委託の公募プロポーザルにおいて、全国各地で児童クラブを運営する、当ブログが言うところの「広域展開事業者」が相次いで指定管理者となったり受託者となったりしていますが、あちこちの自治体によって公表されている選定理由には、人材確保において期待ができるとか、職員が不足したときは事業者全体のバックアップで対応が期待できるとか、要は、「あちこちでクラブを運営している事業者なら職員不足にも対応できる」ということを高く評価しているから、自治体が選んでいるわけです。どうしてそういう評価になるかといえば、当然ですが、プレゼンテーションや提出資料で、応募する企業側が「うちは、職員確保には問題ありません!」とする資料を提出したり説明したりするからです。

 ところが、実際にクラブの運営を始めるとどうでしょう。あちこちで職員募集の求人広告が出されています。今は9月になりましたが、今年4月に新たに運営を始めた広域展開事業者のクラブが今もなお職員募集の広告を出しているなんて、ごく普通にあります。つまりは、広域展開事業者であっても職員不足はそうそう解消できないということです。だからスキマバイトで人を集めるという前代未聞の行動にも出ざるを得ないのでしょう。

 私は全国の市区町村の児童クラブ担当者に言いたいのは、「事業者が言うところの、うちは職員確保に問題ありませんという主張を、そのままうのみにすることでいいんですか?」ということです。「提出された資料でのみ判断する」というのであれば、その提出された資料の真贋は問わないでいいのですか?「おたく、職員確保は大丈夫だというけれど、あの地域、この地域で、ずっと職員募集しているけれど本当に大丈夫?大丈夫な証拠を出してほしいね」と、なぜ求めないでしょうかね。広域展開事業者だから、全国の至る所でクラブを運営しているから、安定した児童クラブの運営ができるというのは、まったくありえないということを、認識していただきたい。というか、誰だってそんなこと分かりますよ。あえて分からないふりをしているのだろうとさえ勘繰りますね。

 児童クラブの職員がなかなか集まらない、人手不足が続くのは当たり前ですが給料が低いからです。人件費の予算が少ないので多くの人を雇えないからです。結果として、低賃金と職員1人あたりの過重労働が当たり前となって、超絶ブラック職場となってしまい、いつまでたっても職員不足のままなのです。児童クラブの人手不足は長年、この業界を苦しめていますが原因がこれほど明確なのにいつまでたっても国も自治体も抜本的な対策をしないまま、かつ、さらに補助金ビジネスの横行だけを放置している。これでは、いつまでも子ども達にとって安心できる児童クラブの環境は実現しません。

 このさいたま市のモデル事業は、さいたま市内で放課後児童クラブを利用する子育て世帯の期待がとても大きいものです。さいたま市が公表しているこの事業に関する資料では、「民設放課後児童クラブの整備による待機児童対策は、物件の確保が難しく、法人運営など保護者への負担も大きいため、持続可能な対応策とは言えない。」と断言しています。要は、さいたま市のいわゆる公設クラブ以外の民営クラブは保護者負担が大きいのでその負担を避けたい保護者達が、この放課後子ども居場所事業に期待している、ということですが、今回のスキマバイト事案は、そうした保護者に不安を引き起こすものです。安全安心の子育て環境を作るためには、行政の管理監督が必要ですし、何より、子どもに関わる事業者が、子育て支援に真摯に向き合わねばなりません。人が足りなきゃスキマバイトで、ではなく、職員から「これならぜひずっと働きたい」と」評価される程度に安定かつ充実した雇用労働環境を整備して事業に取り組む姿勢が求められます。それを事業者に求める、期待するのが無理なら、法制度をもって強制させるしかありません。その点、強制的に安定雇用を事業者に行われる措置が、もう必要な事態になっているのではないでしょうか。 

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)