さいたま市「子ども居場所モデル事業」速報!来年度は微増か。放課後児童クラブ側には対応猶予期間になる

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の将来を左右する、さいたま市における放課後児童クラブの動向について最新情報が入ってきました。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブの「聖地」>
 放課後児童クラブ、というよりも「学童保育所」という単語のほうがしっくりくるのですが、埼玉県は全国的にみても「学童」が盛んな地域です。この場合の「学童」というのは、保護者が学童保育所の運営に何らかの形で関与できる仕組みや、その世界観のことです。保護者運営だったり、あるいは保護者が、クラブ運営事業者である非営利法人の役員に就任できるようになったりできる形態です。1970年代から80年代にかけ、共働きや一人親の保護者が必要に迫られて自ら時間と資金を拠出して設置した「学童保育所」(当時は児童福祉法に放課後児童健全育成事業が定義されていないので放課後児童クラブが存在していなかった)の世界観が、今になるもまだその性質を色濃く残している、といえるでしょう。
 よって、保護者とクラブ職員が参加する、いわゆる「連絡協議会」も活動を続けている地域がまだまだあります。絶対数で言えば埼玉県においても2~3割の組織率でしょうが、とりわけ、指定市でもある大都市・さいたま市が、伝統的な学童保育の伝統を色濃く残し連絡協議会も活発に活動していることもあって学童保育に関しては全国有数の活動具合であり、そのイメージから「埼玉県は日本の学童保育における先進地域」と学童関係者から評されることにもなっています。私が一時期参加していた県連絡協議会も熱心に学童保育の発展と充実のために活動しています。

 その一方で、こうした伝統的な保護者参画の児童クラブについては、かねて保護者の負担が問題となっていました。保護者負担を軽減しようと単一クラブの保護者運営(保護者が職員を雇用し、経理会計も含めて事業体を経営すること)から、非営利法人による一括統一運営に乗り出した地域も多いのですが、非営利法人にしてもその役員を個々のクラブの保護者から強制的に参加させていれば、本質的には保護者運営と同じで、保護者の運営に関する負担軽減にはさほど効果的ではありません。そんなわけで、伝統的な保護者運営の性質を色濃く残しているさいたま市については、毎年のように保護者負担の実情がメディアによって取り上げられています。今年度も朝日新聞(県版)で連載がありました。きっとまた来年度も、さいたま市の児童クラブ運営に関わる保護者の負担感を取り上げる記事がメディアに登場するでしょう。
 学童保育所、放課後児童クラブの聖地・埼玉県、そしてその中核のさいたま市は、学童保育所が誕生し発展していった時代の気配を残しています。そして伝統が残るというのは、なかなか表に見えないところで、実は今の時代では考えにくい苦労がたくさんある、ということです。日本の各地に残る古い街並みは、何もしないで残っているわけでは、ありません。そこに住む人たちが普段から大変な努力を積み重ねているから、維持できるのです。あえて言えば、現代では当たり前の利便性や合理性よりも「価値を残す意義」を優先することを受け入れているからこそ残っている、ということですね。

<さいたま市の「モデル事業」に動きが!>
 当運営支援ブログでも何度か取り上げてきましたが、そんなさいたま市でもついに2024年度から、いわゆる全児童対策と呼ばれる事業を始めました。「放課後子ども居場所事業」と名付けられていますが、内容は、東京都内や川崎、横浜、名古屋、大阪等の大都市で行われている全児童対策事業と変わりありません。この事業が始まった理由は、待機児童が全国でも最多レベルであるので待機児童が出ない全児童対策事業の導入が必要だったこと、保護者の運営負担を緩和するため必要であった、ということです。
 初年度は市内4つの小学校で「モデル事業」として始まりました。次年度となる2025年度はどうなるのか、ずっと気になっていましたが、このほどさいたま市議会の6月議会に提出された資料がインターネット上に公開され、来年度の放課後子ども居場所事業の行政執行部案が判明しました。
(7月10日追記:資料の場所についていくつか問い合わせをいただきました。さいたま市議会資料検索システムを利用します。文書一覧→委員会→令和6年→保健福祉委員会→6月定例会→6月14日、と進んでください。19番目の資料が上記資料となります)

 「放課後子ども居場所事業のモデル事業の実施状況及び今後の放課後児童対策の検討状況について」と題した文書で、同事業の意義や、「令和6年度モデル事業実施状況」に関するデータ、そして「令和7年度放課後子ども居場所事業モデル事業追加候補校(案)」が記載されています。それによると、来年度は9つの小学校でモデル事業を実施する方針であると紹介されています。私は、来年度はモデル事業の最終年度として位置づけるであろうから、追加で実施小学校は2桁台になるだろうと予想していましたが、さいたま市は実に慎重に、丁寧にモデル事業を取り扱っていると、意外に感じました。だいたい、児童クラブの分野においては、例えば公営クラブを民営化するにしても高松市が100以上の施設を一気に移行させた、など行政の考え方ひとつで急激な状況変化を余儀なくされることは珍しくありません。それを思うと、さいたま市は本当に丁寧といえます。

 来年度の候補となる小学校は、「七里小(見沼区)」、「与野本町小(中央区)」、「針ヶ谷小(浦和区)」、「常盤小(浦和区)」、「大谷場東小(南区)」、「中尾小(緑区)」、「道祖土小(緑区)」、「尾間木小(緑区)」、「上里小(岩槻区)」と、なっています。

 長いのですが、さいたま市のモデル事業に関する方針を同文書から引用します。

事業効果や運営について、さらなる検証を行うため、実施校を追加し令和7年度もモデル事業を実施。
次に掲げる条件のうち、1つ以上該当する学校であり、かつ放課後子ども居場所事業の専用室として活用可能な放課後児童クラブ室が学校内や近隣地、学校内複合施設にある学校より選定(リフレッシュ工事の影響等で放課後子ども居場所事業の実施が困難な学校を除く)。
【事業効果の検証】
① 待機児童が生じる見込みがある
② 保護者会によるクラブ運営に係る保護者の負担軽減につながる
【事業運営の検証】
Ⓐ 専用室が学校の近隣地や複合施設内にあり立地条件の検証が必要
Ⓑ 学校内の民設放課後児童クラブの閉室や入室児童への影響に関する検証が必要
Ⓒ 児童数が多い学校(1,000 人程度)での教室や児童の安全な動線の確保に関する検証が必要
(引用ここまで)

 そして、モデル事業実施候補小学校を、上記のA~Cにあてはめて、それぞれの効果を探ることが文書から読み取れます。実に丁寧に事業の効果を測定しようとしています。丁寧に測定する必要があるのは、既存の民間事業への影響が極めて大きくなることからでしょう。市が挙げている9つの候補小学校のうち、「待機児童は0人ながら、民設クラブへの入所者がいる」小学校は2つあります。そのうち1つの小学校は公設クラブもありません。このような小学校で、モデル事業=全児童対策事業を実施した場合、小学校内で行われるモデル事業を選択する保護者が多くなるのは予想できるので、民間のクラブ設置者が事業を続けるにあたって重大な影響が出るであろうと、想像できます。つまり「官による民業圧迫」という図式になり、行政側としては批判を受けることをどうやって避けようか、という工夫が必要なところでもあるでしょう。(最も、この居場所事業は民営ですから、委託等で居場所事業を運営する民間企業による、既存の民設児童クラブ事業者への圧迫、というところが正確でしょう)
 なおモデル事業では、9つの小学校のうち公設クラブが無いのは1つだけ、同様に民設クラブが無いのも1つだけ(このあたり、見事なバランス!)です。

<現状は?今後は?>
 同文書には、今年度から始まった4カ所のモデル事業の進捗状況が紹介されています。4小学校で前年(2023年度)に待機児童が出ていた小学校は3つありましたが、モデル事業開始で待機児童はいずれも0人になりました。この点、モデル事業の効果あり、といえるでしょう。特に鈴谷小学校では26人の待機児童が0人になったので効果は極めて大きいといえるでしょう。反面、鈴谷小学校はモデル事業の利用者、とりわけ午後7時まで利用できる利用区分2の児童数が65人となっており、おそらくは大規模状態になっていると思われるので、子どもの居場所として適切な環境になっているのかどうかは、懸念されるところではあります。

 4小学校のうち民設児童クラブは3小学校にありますが、入所児童数が減ったのは鈴谷小学校の1クラブで、1クラブは同数維持、もう1クラブは逆に児童数が増えていました。児童数が減ったクラブは53人が37人になっています。児童数減少は事業としてはマイナス(収入が減る)ですが、児童クラブに求められる機能からすると、いわゆる適正規模の37人になったのであれば歓迎すべきことですから、この点においても、児童クラブ側にも実はモデル事業は効果的であるといえるでしょう。(むろん、入所児童数がある程度確保できなければ民間事業者はビジネスとしては成り立ちませんが。)

 4小学校だけでは確かに確たる方向性は見出しにくいのでしょう。よって来年度は若干、モデル事業数を増やすことは理解できます。同文書には「令和6年度及び令和7年度のモデル事業により把握をした効果と課題の検証結果を踏まえ、放課後子ども居場所事業の市域全体への展開に取り組んでいく。」とありますから、2026年度以降は、さいたま市内のほとんどの地域で、この放課後子ども居場所事業が行われると考えてよいでしょう。

 これはつまり、既存の児童クラブ、つまり「学童の聖地」で存在してきた従来型の児童クラブと、その児童クラブの運営事業者にとっては、2025年度こそ重要な1年間となることを意味します。このモデル事業は保護者負担を減らすことも目的になっています。それは既存の児童クラブへ保護者が抱く不満そのものを減らすことと同義であり、その実現の手段は、保護者が、既存の児童クラブへの入所より放課後居場所事業を選択する可能性を持って成し遂げられることになる、ということです。
 既存の児童クラブと、その運営事業者は、2026年度以降も安定して児童クラブの運営を続けたい、運営事業体として事業を継続したいと考えるのであれば、必要な方策を考え、ただちに取り掛かっていく必要があるでしょう。モデル事業の実施の結果、鈴谷小学校でのように児童クラブの児童数が適正規模になれば言うことなしですが、事業運営に必要な程度の児童数が確保できなければ、その地域の民設クラブは閉鎖するしかない。事業規模縮小のリスクは常についてまわりのです。
 私であれば、そのモデル事業を取りに行き、全児童対策も従来型の児童クラブ(ただし保護者負担はゼロにする)の双方を手に入れ、子育て世帯の保護者がどちらを選んでもいいようにしますね。その点、さいたま市は、既存の運営事業者に十分、時間的な配慮というか猶予を与えているのだろうと私には思えてなりません。

 運営支援では、日本の児童クラブの世界に重大な影響を与えるであろうさいたま市のモデル事業とその先の展開について引き続き注視していきます。ぜひ皆様からの情報をお待ちしております。運営の不安、雇用の不安、環境の不安、どんなことでも情報をお寄せください。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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