こんな放課後児童クラブの求人広告はダメ!絶対に止めてほしいPRは、これだ!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。もう何十年も、ずっと人手不足、欠員に悩み続けている放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的な存在です)は、求人広告がたくさん出ています。ところで、その求人広告、「不適切にもほどがある!」文言が含まれていませんか? 運営支援がケチをつけます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<絶対にダメなのは、これだ>
運営支援の立場として、この求人広告は即刻、文言を変えてほしいと運営支援が考えるPRを紹介していきます。まずは、これです。大都市を中心に多くの放課後児童クラブを運営する広域展開事業者が掲載しているものです。
「学童で放課後に子どもたちと一緒に過ごしていただける方大募集!! 必要なのは「子どもが好き!」という気持ちだけ!」
なにがダメなのか。ズバリ、「子どもが好き!という気持ちだけ!」の「だけ」、という文言がダメなのです。子どもが好きなだけで勤まる仕事ではないことは、児童クラブの職員であれば、あるいは運営に関わる保護者であれば、先刻ご承知でしょう。なぜって?「放課後児童クラブ運営指針」に記されている放課後児童支援員「等」の職務内容は、子どもが好きな「だけ」の人が実践できますか? できません。無理です。運営指針に記されている放課後児童支援員「等」の職務の専門性は、それ自体は表面的な記載でしかすぎませんが、それですら、熱心に児童の健全育成について学ぶ意欲が無い者にとって、それを理解して実践するには、とても険しい内容です。
一部には「子どもに異常な性的嗜好を持つ人が寄って来るかも」という懸念を持たれるでしょうが、そういう人は児童クラブがどのような施設であるか承知していることがほとんどでしょうから求人広告の内容で勤務先を選ぶ可能性よりも、人手不足の状況が圧倒的に厳しいクラブを探して応募するでしょう。より採用されやすいからです。多少のヘンなところも目をつぶって採用してくれる、という可能性があるからです。
では次に紹介する求人広告のPRも、絶対に止めていただきたい。これは、政令指定都市の公設クラブを運営する非営利法人が求人広告で使用している文言です。
「難しい仕事はありません。子どもと一緒に遊びを楽しみ、生活を通した育成支援をお願いします。」
これは、後半はまあいいんですが、前半の一言です。「難しい仕事はありません」が、絶対に止めていただきたい。難しい仕事がありません?本当に?もちろん、間違いです。全部が全部、取り組むのが困難な仕事ではないですが、決して、「ありません」と言い切れるほど容易な仕事ではありません。
これもまた、止めていただきたい求人広告ですが、これは求人広告というよりも事業者の姿勢に関するものですね。全国で放課後児童クラブを運営する広域展開事業者が、地域にある複数施設を統括する職務を担う管理職を募集する広告にあります。
「先輩社員のもと、3ヶ月ほどのOJTで業務をお教えしていきます」
「当社運営事業所にて、1~2週間程度の実地研修を予定」
えっ?複数の施設を担当して、その施設で従事する職員のフォローをする人材を、未経験者で、たった3か月のOJTで養成するんですか?本当ですか?それで間に合う程度のフォロー内容しか児童クラブには発生しないのですか?そんな簡単な仕事なら絶対に最低賃金程度の時給で済ませますよね?
なお、「未経験者でもOK」「経験は問いません」は、当然ながら問題ありません。複数の施設と、その施設で働く職員を統括する立場の管理職が未経験者ではさすがに無理でしょ?ということ。それはおそらく欠員状態のクラブへ毎日のように派遣される単なる応援要員としてこき使われますよ、ということです。応援要員こそ、優れた育成支援スキルをもって初見の現場でも活躍できる技能が必要なのです。未経験者で勤まるものではまったくありません。
<では、どういう求人広告なら良いのか?>
運営支援はいつも児童クラブに文句を言ってばかり、ケチしかつけていないと思われていますが、「ダメなところを修正すれば、良くなる」のですから、文句を言って修正を迫るのは当たり前です。飾りじゃないのよ運営支援は。直せと言ってるじゃないの。
では求人広告にふさわしい宣伝文句はなにがあるのでしょう。「放課後児童支援員はとても難しい仕事です。生半可な気持ちでは勤まりません。単に子どもが好きなだけの人は、ご遠慮ください」とでもはっきり明記すればいいのでしょうか?
運営支援の見解は、「そちらの事業所が、例えば初任給25万円以上で勤続5年目程度の給与が額面でも月給が30万円を超え、完全週休二日制である」といった、児童クラブ業界でもトップクラスの事業者であれば、私は先に示した「とても難しい仕事。専門性が必要です」という、はっきりとその職務の高度な専門性を打ち出す求人広告をぜひ出稿していただきたい、というものです。業界のトップリーダー的な事業者が、堂々と、「私たちの仕事は生半可な覚悟じゃ勤まらないよ」という姿勢を打ち出すことは、私はとても必要だと考えます。児童クラブの世界は、本当はとても大変な仕事なんだよ。だからこそ、待遇だってそれなりによくしないとダメなんだよ。なぜなら、「資質に優れた」人材が必要だから、ということを社会に示せるからです。
そのような事業者はごく一部なのが現実です。圧倒的多数の事業者は、次のことに留意していただきたいと運営支援は考えます。
〇(すべての職種が該当)子どもが好き、ということはわざわざ打ち出さなくてよい。必要なのは「子どもが大嫌いで、見ているだけでイライラして叩きたくなる」という性格の人を採用しなければいいだけ。わざわざ「子どもが大嫌いな人はご遠慮ください」と書いて、広告料金に直結する貴重な文字数を費やす必要はありません。
〇(すべての職種が該当)子どもと保護者の生活を支える、ということはどのような表現であれ、記載しておくこと。
〇(すべての職種が該当)クラブでは他の職員としっかり連携しながら子どもたちの生活づくりを行う、というように「他者との連携、協力」がかなり濃密に行われることを表現しておくこと。コミュニケーション能力に不安のある人の応募を減らす効果を期待するためです。
〇(すべての職種が該当)体を動かす局面が多いことは記載すること。座っているだけで勤まる仕事ではありません。
〇(場合によっては勤務時間が長めのパート募集でも)文章を書く、記録を作成するという、文字や文章で表現する局面がそれなりにあることも伝えること。単に子どもと遊びたいだけの人をふるいにかける効果があります。育成支援は、子どもの成長を記録し、以前と現在を比較し、将来の目標を示すことで計画を立てられます。それを文章で表現できない方に務まる仕事ではありません。
「いやいや、求人広告は間口を広げることが大事だ」という意見は理解していますよ。現状は、「間口を広げすぎ」なのです。いくら人が足りないからと言って、誰でもOKと思わせる求人広告がダメだというのが、運営支援の主張です。求人広告を見て「話を聞いてみたい」という求人応募者にはもちろん、しっかりと児童クラブの仕事の現実を説明しましょう。生半可な動機で応募した人はそこで考え直すでしょう。その点については近く運営支援ブログで取り上げます。
<なぜ、求人広告の文言にこだわるのか>
放課後児童クラブで働きたいという人がどんどん増えればいいなと運営支援は考えます。しかし、採用という人事の最初の段階で適性に関するミスマッチがあるなら、それは職員が欲しい事業者にも、働きたいと思う求人応募者の双方にとって不幸です。子どもが好きだだけでOKとか、簡単な仕事ですとか、児童クラブの仕事は決してたやすくはないはずなのに、一日でも早く人を集めたいからといって、採用のハードルを無やむに下げることは、結局のところ適性のない人を採用した結果、すぐに離職されてしまうという、時間のコストと採用研修に費やすカネのダブルコストの無駄です。
そもそも、求人広告を見る世間一般の人が、「やっぱり児童クラブの仕事って簡単なんだね」と思ってしまうことこそ、致命的に児童クラブ業界にとって不利益です。児童クラブの世界は放課後児童支援員「等」の職務の専門性を理解してほしいと願い、その専門性を根拠として処遇改善を求め続けています。
しかし、児童クラブの事業者が「難しい仕事ではありません」とか「子ども好きなだけでOK」と、自ら発信するようでは、児童クラブの仕事は単に子どもを見ているだけ、たやすい仕事、よって給料だって低くて当然。保護者負担金だって0円近くでいいじゃないの、となるのは必然です。求人したところで、「子ども好きだから大丈夫ですか? 大人が大嫌いで大人とは話をしたくないですが子どもとなら話せます」という人が応募してきて、採用できますか? 安易な求人広告は事業者自身にコストを無駄遣いさせ、業界全体の社会的な評価の向上を妨害する、とても悪しき行為だという理解を、業界にしていただきたい。
とりわけ、全国や大都市で複数クラブを運営する広域展開事業者も、地域に根差して育成支援を大事にしている事業者、対照的なその2つの形態の事業者は共に求人広告に注意していただきたいと運営支援は強く望みます。地域に根差した事業者は行政を含むその地域社会への存在感は圧倒的です。地域に根差した児童クラブの事業者が「子ども好きなら誰もOK」と職員募集をするのは絶対に止めていただきたい。結局、「児童クラブの職員は誰でも勤まるのね」の理解を地域に定着させるだけです。
<業界団体が望ましい姿勢を示すべきだ>
こういうときに頑張っていただきたいのが児童クラブの団体です。いくつか業界の団体がありますが、自主的に、こういう文言を使うと職務内容が誤解されるので控えましょう、というようなガイドラインや指針、理想形を示すべきです。もちろん強制力などありませんが、大事なのは、「児童クラブ業界の健全な発達のために、私たちが頑張る」という姿勢を内外に見せることです。内外の内は業界内であり、外は一般社会です。
そこには保護者運営系や企業、広域展開事業者などは関係ありません。すべての放課後児童クラブの事業者に向けて発信すればいいのです。先に発信した者の勝ちです。そもそも、一般社会の人々にとって、業界団体が拠って立つ性質やどの範囲の事業者を対象にしているかなんて、まったく興味がありません。「ああ、児童クラブの世界が、そういう発信をしているのね」という認知を届けることこそ重要です。
1つ1つの事業者は、その1つ1つの求人広告によって、重大な結果を引き起こすことがある、という認識をもって求人広告を出稿していただきたいと運営支援は要望します。
子どもが好きなだけでOK、はダメ。
難しい仕事ではありません、もダメ。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)