これはどうなの学童保育? 放課後児童クラブに関する最近の動向を取り上げてみます。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。最近になって報道などで取り上げられた放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の話題、動向を取り上げ、私の独断と偏見で眺めていきます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<結局、指名停止に>
 夏休みの放課後児童クラブで昼食提供が広まっているニュースが相次ぐ中、横浜市では7月29日、昼食として児童クラブに配達している弁当に、こともあろうに昼食を提供している給食事業者がアレルゲン情報の記載漏れを起こし、その結果として児童に健康被害をもたらしたという重大な事案がありました。当ブログでも2回にわたって取り上げました。
 その後ですが、この事業者は横浜市から指名停止の措置が取られました。8月19日21時30分配信の神奈川新聞「カナロコ」のニュースサイトが有料記事で伝えています。児童クラブでの健康被害を起こした後、別に食中毒事案を起こしたと報道されていたので、そのためかと私は想像しましたが、どうやら当該児童クラブの事案が理由のようです。
 ただ、指名停止措置を伝えるウェブ上の記事は神奈川新聞だけしか見つからないのが残念です。しかも納得がいかないのは横浜市です。せっかく事案発生時には積極的に広報していたのに、この指名停止については、市の「ヨコハマ・入札のとびら」という入札関係のページにそっけなく一覧表の中に掲載されているだけです。市民に直接、健康被害をもたらし、多くの市民、保護者に心配を与えたのですから、しっかりと報道発表するべきでしょう。
 それにしてもこの事業者は、昨年末にも指名停止となり、これでまた指名停止。これでは安心して子どもに食べさせられないと不安に思う横浜市民の方々はさらに増えるでしょう。

<埼玉県北本市は結局、児童クラブの指定管理者を募集>
 北本市は、保護者と職員がNPO法人によって市内の児童クラブを運営してきました。指定管理者制度が導入されても非公募でNPO法人が指定管理者として選ばれてきましたが、行政執行部はずっと指定管理者の募集を公募してその中で指定管理者を選びたい姿勢を隠そうともしませんでした。来年度から新たに指定管理者による運営を迎えるにあたり、北本市議会は先手を打って非公募を望む請願を採択しましたが、北本市役所は8月1日、市のHPに「北本市学童保育室の指定管理者を募集します」とするページを掲載しました。
 言わずもがな地方自治は二元代表制ですから、議会の意思とは別に行政執行部は必要な施策を実施します。しかし、市民が利用する公の施設について、市民から選ばれた議員が示した意思とは正反対の施策を実施するのは、今後、大きな波乱を引き起こす恐れが強いでしょう。今後の展開を注視していく必要があります。先行事例としては愛知県津島市の指定管理者をめぐる2023年度の動きがあります。保護者運営を願う立場から見た「津島の奇跡」が、北本にも起こるのでしょうか。行政側にしてみれば推し進めたい施策がとん挫するということになりますが。
 一般論で考えて、今後は、指定管理者や業務委託の公募で、公営クラブを民営化するだけでなく保護者運営系のクラブをその運営の不安定さ、非効率さを理由として事業規模の大きな企業、法人と競わせる市区町村が増えていくことは間違いありません。公の事業であれば、その事業運営に何より安定性を求めるのは行政として当然です。津島市や、今度の北本市の事例は、やがて押し寄せる「保護者運営系のクラブ対企業運営系クラブ」のガチンコ対決時代の前哨戦としてとらえるべきしょう。
 私自身は、子どもと保護者にとって質の高い育成支援が実施できること、働いている職員の雇用労働条件が質の高い水準で設定されるなら、企業系だろうが保護者系だろうが構わない(黒猫でも白猫でもネズミを捕るのが良い猫だ)の考え方ですが、市民、とりわけ児童クラブを実際に利用する子ども、保護者の意向を無視した事業者の選定はしてはならないとも考えます。その観点からすると、重要なのは市民、保護者です。保護者が、自ら利用している児童クラブに対して「高い価値」を感じていなければ、どの事業者であろうがどうでもいいわ、となるのは当然です。そこをしっかりと保護者に理解していただけるための施策が、事業者には必要でしょう。と同時に、現実問題として児童クラブの運営事業者を公募で選ぶことが標準化している実情に対応するため、公募で競っても勝てる事業者を、保護者運営に価値があると信じる勢力の側は大至急、打ち立てる必要があります。1つだけの地域で運営している団体が、他地域で手広く事業運営をしている事業者と競り勝てる見込みはあまりにも低すぎます。そして事業者を評価する審査基準についても、事業者そのものの規模や体制に対する評価が大きな比重を占めている現在の審査基準より、現実に行われている育成支援の質を評価することを重視する内容が望ましいと、国に示させる必要があるでしょう。運営体制に自信があるとアピールを受けてその事業者に高い評価点を与えた結果、クラブ運営を任した広域展開事業者が年度初めからまもなく半期を迎えようというのに職員を必死に募集している現状を、そのような事業者を選んだ側はどう評価するのでしょうね。

<ファミリーサポートの充実、それで足りるの?>
 8月21日15時に読売新聞オンラインが「育児支援の補助拡充、増員後押し…ファミサポ事業の依頼会員60万人に提供会員14万人のアンバランス解消狙う」と題した記事を配信しました。ファミリー・サポート・センター事業を国がテコ入れするということです。ファミリーサポート、通称ファミサポは、提供会員と依頼会員の双方の希望が合致したときにサービスが提供されるもので、放課後児童健全育成事業と同じ「地域子ども子育て支援事業」です。多くの地域で社会福祉協議会が行っているようですが委託を受けたNPOなどが行っている地域もあるようです。実は私も子どもが保育園から児童クラブを利用しているとき、ファミサポには大変恩恵を受けました。ファミサポがなかったら夫婦共働きの子育ては不可能でした。
 しかしこの記事にあるように、ファミサポは構造的に大変な難題を抱えています。「これをしてほしい」という依頼会員が圧倒的に多く、その依頼を引き受ける提供会員が極めて少ないのです。記事によると「23年度は依頼会員が約60万人に上る一方、提供会員は約14万人」というアンバランスを解消するために国がテコ入れしますよ、というのが記事の趣旨です。

 しかし、テコ入れにしては残念な内容です。記事を引用しますと「運営委託先などが行う説明会などの広報活動に最大120万円、登録後間もない提供会員の相談に乗るための面談などに最大50万円を補助する。前年度からの提供会員増加に応じて支払う事業費補助も拡充し、前年度の提供会員数が100~199人の運営施設が1割以上増やした場合を従来の100万円から130万円に増額する。」とあります。要は、広報のためのPR費用を補助しますよ、提供会員の相談費用を出しますよ、提供会員を増やした事業者には30万円の上積み補助をしますよ、ということですが、それで果たして提供会員を増やすことになるでしょうか。はっきりいって費用対効果が望めないでしょう。

 ファミサポの充実は、子どもの多種多様な居場所を整備する国の方針にまさに合致します。放課後の小学生児童に限定してみても、児童クラブのような多人数の環境がどうしても受け入れられない子どもは必ずいます。児童館が徒歩で通える範囲にあるかどうか分かりません。自宅で落ち着いて過ごしたい子どもにとって、子どもを見守ってくれる提供会員がいるファミサポは本当に頼りになる制度です。国はもっと、提供会員を増やすための現実的な策を講じるべきでしょう。提供会員を務めることで大きな収入を得られるとなれば、提供会員になりたい人は大幅に増えます。どうして、保育所や児童クラブにはあれほどの市場化、営利化を容認して事業者の利益獲得に何ら問題意識を持たない国が、ファミサポの提供会員には利益を与えない制度にするのでしょう。提供会員を確保するための人件費を大幅に増やせば、潜在保育士や、シニア世代の中で提供会員として働くことで収入を得て暮らしが安定する人が増えることは間違いありません。児童クラブの勤務よりよほど体力的に負担が無いのですから超高齢化社会における高齢者の年金不足分を補うための収入としてファミサポ提供会員が魅力的になればいいのです。そうすれば、子どもの居場所の選択肢が増えることになります。児童クラブに集中する放課後の居場所への需要圧力も軽減が期待できます。国は、より現実的に機能するファミサポ事業の強化に踏み切るべきでしょう。

<はて?児童クラブの目的は何?>
 多くのメディアが好意的に取り上げた報道があります。佐賀県鳥栖市の放課後児童クラブで、外国人の留学生が児童クラブで働き国際交流に一役買っている、という記事です。新聞、テレビがこぞって報じています。NHK NEWSWEBが8月19日18時07分に配信した記事「鳥栖市の放課後児童クラブ 支援員に外国からの留学生を活用」を一部引用します。
「児童クラブは、学校で授業がある期間は利用時間が午後2時から午後7時までですが、夏休みの期間中は午前8時からに早まっているため、支援員が不足しがちとなっていました。児童クラブ側は、日本語学校や専門学校に通う外国からの留学生を募集し、16人に先月26日から来月18日までの間、1日に3時間から4時間ほどサポートを受けているということです。」
「市の担当者は、「支援員不足の解消を図るとともに、子どもたちが外国の人たちと接することで、国際交流の場になればと留学生を採用しています。子どもたちも楽しそうで、よかったです」と話していました。」

 児童クラブ側は職員不足の問題解決に役立ち、かつ、国際交流にもなるとして一石二鳥の効果を期待しているようです。確かに国際化は今や当然、外国人の職員がいても何ら不思議ではありません。子ども達が外国の文化に触れることの意義も私は理解します。

 はて?私はしかし、どうしても異議を唱えたい。どうして行政はこれを肯定的に評価しているのか。メディアは「児童クラブの子ども達が国際交流できて良かったね」の視点でしか報じないのか。はて?はて?

 私の独断と偏見では、こう言わざるを得ません。「児童クラブは子どもの安全安心な居場所であるはずだが、そうとはまったく理解されず、単に子どもが過ごすだけの居場所、預かり場であるという理解が意識の根底にある。だからこそ、子どもの育ちを支えるうえで重要な職員のコミュニケーション能力よりも、その場所で過ごす子どもたちに異文化交流の体験をさせることをより評価する。行政も、メディアも、児童クラブの本質的な存在意義に気付いていないことの証左である」。児童クラブの運営協議会が主導して行っているとの報道も目にしました。だれもかれも、子どもと留学生との交流(それ自体は素晴らしい)が放つ魅力にとらわれすぎで、「児童クラブは子どもの安全安心の場所であり、子どもが他者と関わり合いながら育つ場である。機敏なコミュニケーション能力が必要であり、まして地震や急な状況の変化などで子どもに的確かつ具体的な細かい指示、指導をしなければならないときに、留学生の方にそのような思い責務を負わせて不安はないのか?」という視点を欠いていると、私は考えます。
 「いや、そういうときには日本人の職員がサポートします」というのは机上の理屈です。急な大地震のときに、そのような余裕は、まず持てませんからね。不審者が突然現れた時に、言語によるコミュニケーションに不安があると児童の素早い避難指示に影響が出ますから。そういった「万が一の事態」までしっかり想定し、対応できる体制を整えてから、留学生と子ども達との交流を最大の目的として受け入れる、というのであれば、私も大賛成です。つまり、「人手不足だから留学生を受け入れる」のではなく、「クラブ側の人的配置は十分であって、子ども達との交流を目的として留学生には働いてもらう」ということです。

 介護の現場には多くの外国人が働いていますが、基本的に人と人との対応が1対1もしくは少数で済む介護の現場と、それぞれに活発に活動したいという意欲に満ちている数人、いや十数人の子どもと同時に相対する現場である児童クラブの現場は当然、同じくくりで考えられるはずもありません。いつ何が起こるか分からないのが児童クラブですし、大人が考えもしないことが日々起きるのも児童クラブの現場です。職員が足りないから留学生に頑張ってもらおう、国際交流も出来て一石二鳥だ、というのは私には、児童クラブの職員の待遇改善に真っ向から取り組まないまま人手不足が深刻化している状況を単に見た目の良さでごまかしているとしか思えません。児童クラブの側もその懸念を持たなかったのか、メディアも「ところで突発事案があった時の子どもの安全確保の体制はどうですか?」「そもそも職員数が充足していたら、こういう策は不必要ですよね?」という問題意識を持てなかったのか。ここにも「児童クラブへの理解不足」が顔をのぞかせたな、というのが私の率直な感想です。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)