これから増えていくはずの「放課後児童クラブ運営事業者の変更」。現場職員を迷わせない仕組みが必要です。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の運営を企業、法人に委ねるケースがもはや当然のように行われています。これからは、私企業の間でクラブの運営を交替する、引き継ぐということもごく日常的に行われることになるでしょう。育成支援の質を維持するためにクラブ職員の雇用の安定を第一にした仕組みを整えることが必要です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<事業者の交替>
 放課後児童クラブの事業者(運営主体)が変更となることはもう、日常茶飯事といえるでしょう。事業者の変更は次のようなパターンが主なものになります。
・公営クラブ→民営へ。新たに運営を担う事業者は営利企業(広域展開事業者が中心。なお広域展開事業者には非営利法人もあります)又は非営利企業(保護者主体の法人など)。
・民営クラブのうち保護者会又は地域運営委員会など任意団体→企業や法人の運営へ。この場合、市区町村が公募プロポーザルや指定管理者選定委員会をもって新たな運営先を決めます。
・民営クラブのうち広域展開事業者(営利企業主体だが非営利法人もある)→別の広域展開事業者

 近年は滅多にない例外として、岡山県吉備中央町にみられるように、民営クラブを公営とする逆パターンもあります。なお、保護者運営クラブを企業、法人に委ねようとして事業者が決まるまでに一時的に公営とする例もあります。

 さて、私が取り組んでいる放課後児童クラブ全市区町村データーベースの作業で福岡県太宰府市に取り掛かったのですが、興味深い事例に出会いました。ここは2025年度、つまり来年度から、業界最大手のシダックス大新東ヒューマンサービス社の運営となることが、市のHPから入手できる資料に記載されていました。今年度までは九州を地盤とする広域展開事業者が運営をしています。つまり、広域展開事業者から広域展開事業者による、事業者の変更が行われるわけです。
 東京都内のクラブで、事業者が変わるということはそれほど珍しくないようです。私も作業でクラブの事業者を確認しようとネット検索していると、以前の事業者がHPを更新、修正することなくクラブを運営していると紹介している例を何度も確認しました。ただ、同一の市区町村の地域内で広域展開事業者が運営しているクラブ全部がまるっと、別の広域展開事業者に変更となるその経緯をこれからウオッチできる点で、太宰府市の例は注目です。もちろん、同様の例は、私が調べていないだけで過去にもあったのでしょうが。

<大事なことは働いている人の仕事と生活の安定>
 放課後児童クラブに限らずどの業種でも、事業者、経営者が変わることは別に珍しくありません。ですので、児童クラブの運営事業者が変更となることそのものを「許されないことだ!」と批判しても、世間にはまったく通用しません。確かに放課後児童クラブ運営指針には運営主体が継続することを肯定する書きぶりとなっていますが、公営クラブの民営化も、保護者運営クラブが負担軽減を求めて企業、法人の運営に変更を求めることも、本質的には広域展開事業者が新たに運営することと比べて、事業者の変更という点で何ら変わりがありません。広域展開事業者に変わることだけがダメだ、ということは、私は言いません。

 あってはならないと考えるのは、「そのクラブで行われている育成支援の質が低下すること」であり、そのために「クラブで働いている職員の仕事の継続を保障すること」です。仕事の継続とは、単に、「育成支援については今までと同じような考え方、取り組みを続けてください」という業務に関することだけではなく、雇用労働条件の中身についての連続性です。具体的なものとしては次のようなことがあるでしょう。
・社会保険の継続
・所定労働時間をおおむね同程度とすること
・収入の額をおおむね同程度とすること
・年次有給休暇の継続
・福利厚生

 なお、広域展開事業者同士の事業者交替が増えていくことを考えると、有期雇用職員の身分においての雇用主変更が通例となるでしょう。上記において、「無期雇用であれば、雇用形態の維持」も私は入れたいところですが、これから児童クラブという業種が、事業者が交代となることがそれほど珍しくない業種になるのですから、同一雇用者による無期雇用は現実的に不可能です。無期雇用の者が新たな事業者に無期雇用されることを求めるのは現実的にその可能性がないので無意味です。無期雇用のメリットは「ずっと同じ会社で働き続けられる、雇用の保障」ことですから、その前提がそもそも崩れているのです。他は「年功序列によって増額する給与の額」や「年次有給休暇の日数」、「退職金の増額」が無期雇用のメリットでしょうが、それらは有期雇用であっても、その中身を引き継ぐことさえできれば、実質的に働く側を守ることができます。

 例えば、事業者が変更となる児童クラブで働いている正規職員がいるとします。私が求めたいのは、給与の額をおおむね同程度とすることです。そのためにも所定労働時間をおおむね同程度とすることも必要です。いままで週40時間の所定労働時間だったものを週30時間にします、それに伴い給与も下がります、ということを防止するためです。所定労働時間の大幅な現象は、育成支援の業務の質の内容を劣化させることになります。子どもと関わる時間、育成支援に費やす時間を減らすことは当たり前に業務の質を後退させます。
 年次有給休暇については事業継承が明らかな場合は新事業者は年次有給休暇の成立要件を引き継ぐこととなっていますが、現実には「雇用契約を新たに結び直すので、また1年目10日の付与から」となってしまうことが多いようです。児童クラブで働く者にとっては基本的に同じクラブ、あるいは同じ地域で働くのですから、年次有給休暇については今までの成立要件を引き継ぐことが当然でしょう。

 これらのことを、本来は国がガイドラインなり指針で明示してくれればいいのですが、少なくとも市区町村が、新たに事業を引き継いで行う事業者に対して、クラブで働く者の雇用労働条件を維持することを前提に事業に関して契約することはできるでしょう。ぜひとも市区町村には、児童クラブの運営事業者を替えるときには、働く者が手にしているこれまでの権利を基本的にそのまま引き継がれるように配慮していただきたい。それはクラブで働く者の安心になり、子どもへの支援、援助が引き続き心配なく行われることになり、保護者の不安も軽減できるからです。「労働条件はあくまで企業と労働者の問題だから」と傍観しているようでは、円滑な事業者の変更には到底及ばないでしょう。
 また業界団体など児童クラブの側も、国や自治体に対して、児童クラブの運営主体変更の際の留意点として事業者に遵守してほしい点を明示するよう、求める動きを起こすことが必要です。

 今回の太宰府市の児童クラブでは、現場で働く者の雇用労働条件が、どのように受け継がれていくのか、なかなか外部からでは情報を得られにくいものですが、注視していきます。

<事業者の側から考える>
 さて運営支援の立場からは、児童クラブにおいては、常時、クラブで行われている育成支援の質が良好であることを求めます。なぜなら、子どもが行きたがっている児童クラブになっている、保護者も十分に満足している、まして働いている人にとってもとても良い事業者であるならば、市区町村がそれら育成支援と放課後児童健全育成事業の良好な現況を覆してまで事業者を変更するか前に対して、実績を持って対抗できるからです。「子どもも親も職員もいまの状態で満足しているのに、事業者を変更する合理的な理由があるのですか?」と主張できますね。

 この場合において、もっとも重要な分野は「職員の支持」にあると運営支援は考えます。職員が「今の事業者でなくても別に構わない。なんなら、新しい事業者の方が働きやすいかも」と思うようなら、事業者の変更は円滑に進むということです。クラブ運営事業者にとっては、「現に、クラブで従事している職員」をそのまま受け継ぐことが一番運営上のリスクが低いわけですから、是が非でもクラブで働いている職員にそのまま継続して働いてほしいのです。今のこの時代、新たに職員を募集してもなかなか集まらないのは言うまでもありません。職員が集まらなければ、宇都宮市の児童クラブで起こったように、新たに運営をすることになった事業者が結果的にお手上げになってしまう実例もあるのです。

 今の児童クラブの運営形態を守りたい、維持したいなら、常に職員の雇用労働条件を向上させておくことは当然ですが、運営支援としては「児童クラブの事業者として、育成支援の理念を明確にし、その理念に共感する職員をもって事業を行うことが最重要」であると主張します。
 給与の額や福利厚生は大事ですが、それは「上には上がある」もの。20万円の初任給より20万100円の初任給の方が条件そのものは良いのです。児童クラブの広域展開事業者には企業規模で、とても地域の非営利法人や小さな営利企業では太刀打ちできないほど大きな企業規模の事業者があります。(そういう事業者が示す給与が高いかどうかはまた別ですが)。競うのは、「私たちは、こうした育成支援をしたい。子ども達の育ちを支えることについて、このような考え方で支えていきたい」という、育成支援に関する理念です。その理念に共鳴、共感し理解するもので職員を構成することです。

 それこそ、児童クラブの質の差別化です。動機付け・衛生理論ですが、給与などの衛生条件は上には上があり、いったんは満足してもすぐにもっと上の条件を求めて不満が溜まります。しかし、仕事や業務への理解、やりがい、質の向上といった「自分の労働の意欲を向上させる動機」は、もっと優れた者を求める人間の根源的な欲求に根差すだけにとても力づよいものがあります。ここの部分が児童クラブにおいては、なかなか理解されない。なぜなら、児童クラブの仕事のやりがいは「子どもを楽しませること、子どもを自由に遊ばせること」という表面的な理解に留まりがちだからです。育成支援の専門性が深堀りされていない。子どもを楽しませることが子どもの主体性を伸ばすという浅い理解が広まってしまっています。育成支援の専門性を深め、その専門性をしっかりと職員に理解させつつ、事業者が、専門性を備えた育成支援を理念として掲げ、それを実現するための手段を丁寧に職員に伝えて理解させること。
 その結果、現場の職員にも「私たちの大事な育成支援を実施していくには、私たちを雇っている事業者でなければ実現できない」という理解が広まる。それこそが、安易な事業者の変更を許さない、職員たちの団結につながるのです。

 このことはまず事業の経営者、運営者が率先して理解し、環境を整えねばなりませんね。いくら保護者や経営者がクラブの現場職員に向かって「あなたたちのクラブが他の事業者によってボロボロにされてもいいの?」と訴え、けしかけたところで、「だって新しい業者の方が給料高いし、育成支援だって日替わりでいろいろなことを体験させてくれて、その間、私たちはパソコンを操作するだけで済むので楽だし、どう考えたって新しい業者の方が歓迎」と言われたら、もともこうもありません。つまり、現場の職員だけに丸投げするな、ということです。

 これからの、児童クラブの事業者が当たり前のように変わる時代では、事業者が育成支援を理解して理念を掲げその理念に共感する職員を1人でも多く増やす努力をしなければなりませんよ。それができない事業者は、他の事業者にとってかわられても、それは仕方ありませんね。自業自得ですし、世間からは「企業努力の無い事業者は見捨てられて当然」としか思われませんから。世の中、残念ながら厳しいですよ。児童クラブの世界とて例外ではありません。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)