こども家庭庁は、放課後児童クラブの数を増やさず利用したい人を抑え込んで待機児童解消を目指すのか。最悪だ!(注:その後、公式に否定する見解が出ました)

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。小1の壁、小4の壁は放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関する大問題ですが、国は、児童クラブを利用する側を選別して待機児童解消を目指す方針のようです。あかんあかん、それはあかんで。怒りの大反論です。
※(8月9日追記:こども家庭庁は、放課後児童クラブの入所要件厳格化を否定する旨、大臣会見で明らかにしました。朝日新聞デジタルの8月8日19時08分配信記事「学童保育の待機児童問題 加藤こども相「利用制限は考えていない」」をご参照ください。激しい批判が出たので、とりあえず撤回したのでしょうか。いずれによ拙速に過ぎました)
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<目を疑った報道>
 まずお断りしておきますが、これはメディアの報道で伝えられただけで、国が正式決定したわけではありません。読売新聞の報道に過ぎません。過ぎませんが、得てしてこういうものはいわゆる「観測気球」と呼ばれるものです。メディアに官庁側がリークして書かせて反応を伺う、というパターンのことが多いのです。よって、国は、この報道で伝えられている内容を検討しているか、あるいはほぼすでに内々では決めているかの可能性がかなりある、ということです。

 ではその報道について引用して紹介します。読売新聞オンラインの8月5日午前5時配信の記事です。
「こども家庭庁は来年度にも、共働き家庭などの小学生を預かる「放課後児童クラブ」(学童保育)の登録条件を厳しくする方針を固めた。学童保育の6割は、登録者の2割以上に利用実態がないという調査結果もある。「週3日以上の利用」など条件を厳格化することで、待機児童はほぼ解消される見込みという。」
「国の2020年度の実態調査では、ほぼ未利用の登録者が定員の2割以上だった施設が、全体の6割を占めた。夏休みだけのために登録している例もあり、連日利用したい人が待機児童になる事態が生じていた。学童保育の登録条件は、自治体ごとに定める。共働きで放課後に子どもの面倒を見られなければ、登録を認めているのが一般的だ。「週3日以上の利用」など制限を設けている自治体は一部にとどまる。同庁は早ければ来年度から、こうした登録制限を全国に広げる。これにより、都市部などを除き、待機児童のほとんどは、受け入れが可能になるとみている。」(引用ここまで)

 報道の要点は次の通り。
・児童クラブの登録条件、つまり入所要件を厳格化する。
・週3日以上などの要件を満たさないと入所ができないようにする。
・2025年度から取り入れる方針。
・待機児童は都市部を除いて解消すると見込む。

<国は何もわかっちゃいない>
 まず、記事にある「週3日以上の利用」などの制限を設けている自治体は一部にとどまる、とありますが、国は本当にそう信じていますか?だとしたら、まったく事実を知らない。私が行っている全国市区町村データーベース、まだ全自治体の半分にも届いていませんが、保護者が週2~3日以上の就労等を行っており自宅を留守にする、その間に児童の監護ができないということを入所要件としている自治体がほとんどです。というか、放課後児童クラブを設置している自治体はほぼすべて入所に際して要件を求めています。これは当たり前のことで、児童福祉法に定められた放課後児童健全育成事業そのものが留守家庭の児童を対象としており、自治体はその留守家庭であるかどうかの証明を、就業証明書などを提出させることで確認しているのです。

 記事を書いた記者が知らなかったのか、情報を(おそらく)リークして記事をレクチャーした官僚が教えなかったのかもちろん分かりませんが、そもそも、すでに、入所に際して要件を提示している自治体ばかりです。例えば、東京都国分寺市を紹介します。入所申請には、保護者が月に12日以上の勤務をしていることを要件としています。
令和6年度学童保育所への入所について|国分寺市 (city.kokubunji.tokyo.jp)

 さいたま市はどうでしょう。「保護者が2ページの表のいずれかの事由により、午後2時30分以降に児童の面倒を見ることができない日が月曜日から土曜日のうち3日以上ある状態が1か月以上続き、施設を週3日以上利用する必
要があること」とあります。(r6-01.pdf (saitama.lg.jp)

 広島県東広島市は、入会資格として「その保護者が継続して(引き続き3か月以上、平日3日以上、1日4時間以上、15時以降まで)就労及び長期疾病等により放課後の時間帯に保護者と家庭で過ごすことができない児童など」と示しています。(令和6年度いきいきこどもクラブ入会児童募集/東広島市ホームページ (higashihiroshima.lg.jp)

 児童クラブ入所に際して、いわゆる留守要件を設けていない市区町村の方が圧倒的に少ないのですよ。つまりは、その実効性の問題です。すでに要件があるにも関わらず、利用実態のない児童がなぜ生じるのか。それは国が調べたように、夏休みの前後で待機児童数が半減するということが関連します。つまりは、放課後児童クラブの需要の半分が夏休みにあることは明白だからです。よって国は、夏休み開所の児童クラブ、いわゆる「サマー学童」を事業展開しようと案を練っているところでしょう。それは以前も運営支援ブログで取り上げましたが、一時的には効果があると私は思うので賛成の立場です。その施策を実施しながら放課後児童クラブの数を増やして、児童クラブを必要とする子どもがもれなく入所できるように整備を急げばいいという考えです。

 国はこのサマー学童の効果を最大限発揮するために、実のところ夏休みだけ児童クラブを利用したい世帯の、1学期の4~7月の児童クラブの利用登録を抑えて、そういう世帯はサマー学童に入所申込みをしてもらいたいがゆえに、この読売新聞の報道にある利用登録の厳格化を組み合わせたいのでしょう。そして、そういう夏休みだけ児童クラブを必要とする世帯が4月から利用登録することがなければ、学校がある平日に児童クラブを利用したい世帯を入所させられる、ということなのでしょう。

 机上の論理では分かります。しかし、現場はどうでしょうか。そんなに単純に事は進まないですよ。夏休みだけの利用狙いで4月から登録する世帯は確かにいますが、児童クラブの利用については「入所したものの、種々の事情で登所ができなくなった児童」が実はかなりいます。夏休みだけ利用したいからといって1学期の間、まったく利用しない世帯はなかなかない。週に1~2日の利用をするときみある。まったくの「幽霊会員」「ゴースト児童」はそうそういません。

 いったい、どんな情報からこんなバカげた施策を思いついたのでしょう。児童クラブを必要とする事情はそれぞれであって、5月や6月が週1~2日の利用でも4月や7月は週3日、4日の利用である世帯も珍しくありません。子育て世帯の事情はそれぞれにあるので、週3日以上利用しない世帯は入所を認めないという一律な基準がそのまま通用するほど、子育て世帯の状況は単純に処理できませんよ。週1日でも週2日でも児童クラブを利用したい子育て世帯はごまんといます。児童クラブに通うのは月曜と金曜、火曜と水曜と木曜はそれぞれ習い事がある、という世帯だってあります。そういう世帯は「週2日しか児童クラブを利用しないから入所を認めない」ということにするのでしょうか。
 週1日、週2日の利用であっても、その利用の日が楽しいと感じる子どもだっているはずです。児童クラブの入所の可否を単純に利用予定日数で区切ることは、私には理解できません。現場の実情を知らない官僚またはそのブレーンの机上のアイデアでしかすぎません。だいたいにおいて児童クラブに関する施策を考えるための前提となる種々の審議会や専門委員会には、おそらく現場側の代表として各地の担当課の課長や部長や児童クラブ事業者の代表者が加わることが多いですが、そういう立場の人たちが本当に現場の細かい実情を知っているのかどうか、私にはあまり信じられません。

<こんなバカげた案が出てくるのは、こども家庭庁が児童クラブの意義を理解していないからだ>
 児童クラブは、留守家庭の子どもの成長の場と位置付けられています。児童クラブの利用に際しては、保護者が子どもの監護をできない状況が存在することが前提となっています。法律上はその通りですが、しかし一方で、健全育成の場でもあります。その双方がバランスを取っていくべきだと私は考えます。留守家庭の子どもを受け入れる、つまり「預り」機能を重視すれば、「預かる必要がない日に子どもを受け入れる必要はない」という考えになります。一方で、健全育成の場であり、かつ、保護者の子育て支援の仕組みである「児童福祉」の考え方を重視するなら、「昨今の子育て状況を考えると、必ずしも保護者だけの子育てが万端ではない状況があるので、子どもの育成の専門職である放課後児童支援員がいる児童クラブにて子どもの育ちを支えつつ、保護者への子育て支援や、あるいは保護者の休息、休憩(いわゆるレスパイト)をも提供できる、総合的に子育てを支える場」という機能を児童クラブに認めることは難しくないでしょう。

 国の考える、週3日以上利用しない児童は児童クラブを使わせませんよ、というのは、預かり機能を極端に重視していると私には受け止められます。

 そして本末転倒です。夏休みの利用をしたいのにそれができないから4月から児童クラブを申し込むのですから、夏休みの利用について国が指導力を発揮して市区町村に夏休みの利用に際して十分に対応できるようにしていれば、4月から、あまり利用もしないのに利用料を支払って児童クラブに申し込まざるを得ない世帯など、生じないのです。国が児童クラブを増やそうと本気の指導力を市区町村に発揮しないがために生じている現象の解決を子育て世帯に押し付け、ますます困らせるということです。あきれて、物が言えません。まさに「大人の事情」であり「おとなまんなか社会」の解決法です。クラブで週数日でも過ごすことを受け入れている子どもたちのことを何も考えていない。この国のいう「こどもまんなか社会」の旗振り役が打ち出す施策がおとなまんなか社会を推進する施策ですから、あきれるばかりです。
 (なお、これについては私は国だけを責めたくはない。夏休みなど短期利用に実は反対している、伝統的な放課後児童クラブの勢力の側にも問題があります。短期の受け入れは子どもの育ちを支えられないとかなんとか理由を付けて短期入所を受け入れない考え方が、伝統的な放課後児童クラブには色濃く残ります。本音は、短い期間だけ入所する子どもは、児童クラブにすでに入っている子どもたちとの関係性が整わずトラブルが多くなるのが嫌なのです。その本音を包み隠さず主張すればいいものを育成支援になじまないと理屈づけているだけです。)

 (追記。クラブの多くの現場では、大規模問題に苦悩しています。適正な児童数が実施できるなら本音では入所要件の厳格化に賛成のクラブ現場職員が多いだろうと私は思います。それは大規模状態クラブ現場職員の負いこまれた状況の現われであり、私はそれを一概に批判しません。問題は適正児童数に収められるだけの施設数整備の努力が足りない国と自治体にあるのですから。ただし、現場職員には認識してほしいのですが、目の前の子どもたちだけが平穏であればそれでいい、というものではないことを。社会全体における子どもたちの居場所作りにもっと関心を持って声を出していく必要があるということ、待機になってしまった家庭は極めて深刻な状況に追い込まれてしまいそれは社会正義に反する状態にあるということを。)

 児童クラブをどれだけ利用するかどうかは、その子育て世帯の状況によって大きく異なります。一律に週3日必ず利用しない者は入所させません、ということは、あまりにも乱暴です。夏休みだけ利用したい、幽霊会員を排除したいのであれば、次のようにするべきです。
・国が市区町村をしっかり指導し、かつ、財政的な支援を明確にして、夏休みだけ利用できる施設を必ず市区町村に確保させる。
・そもそも、児童クラブの数が足りないからこういうことになるのであるから、児童クラブそのものの数をさらに急いで増やす。
・施設だけ増えても稼働ができなければ意味がない。職員数の不足が、児童の受け入れができない理由にもなっているので、職員数がなかなか増えない最大の理由である低賃金の改善のため職員の賃金を大幅に引き上げることができるだけの補助金を交付すること。その際は、営利企業による利益としての収奪が過度に起きないように一定の規制をかけること。
・まったく利用実態のない世帯に対しては、退会処分もやむをえない。(しかしこれも実際、すでに多くの市区町村で規定として設けてある)しかしその提供は個別具体的に慎重に判断される必要がある。あるいは通常の倍の利用料を請求する規定を設けて、利用実態が生じないことを防ぐための歯止めとすることもやむを得ない。
・児童クラブに登所しない理由が、他児や職員とのトラブル、児童クラブの環境になかなかなじめないという個別の事情がある場合が相当多いので、その点もしっかりと配慮した上で、単に夏休みだけ利用したいがための登録であれば、いったん退所して夏休み前に再入所することを促す。
・利用に際しては柔軟な仕組みを取り入れる。いわゆるスポット利用など。ただしそれによって入所人数の増減が激しくなればそれに対応した雇用調整が必要となるため事業形態に不安定要素が生じる(=人件費のさらなる増加等)ことに対して、国と市区町村は補助金増額等で配慮する。
・現実に利用実態がほとんどない世帯が入所しているのであれば、施設に定員を設けている場合は定員の弾力的運用を行って待機児童となっている人数を入所させる。

 そしてこれが私は重要だと思うのですが、児童クラブの勢力の側は、児童クラブの本質的な意味について、もう今となっては明確に考えを主張するべきです。保護者の就労等という預かり機能の前提となる部分はもう捨てて、保護者が留守であろうがなかろうが、この国における子育ては保護者だけに任せるのではなく、一義的に保護者等であっても社会全体で行うことが必用であって、放課後児童クラブはその社会全体で行う子育て、子どもの育成支援に欠かせない仕組みであることを、しっかりとした理論を根拠として、国や社会に訴えていくべきです。そうであれば、週1日でも2日でも児童クラブを必要としている児童や子育て世帯が児童クラブ入所を断られることは、なくなるのです。

 児童クラブを必要とする子どもは、児童クラブに入れるようにすること。それは預かり機能だけに限定するのではなくて、子どもの居場所として、保護者が頼りにする場としての存在としての位置付けを意味するようにすることが必要です。児童クラブ側がこのことを社会に広く、強く訴えかけてこなかったことが、この国の児童クラブの存在をあやふやなものにしているのです。その反省を求めたい。

 多くの国民、世論は、今回の読売新聞の報道に「利用しない者を入所させないのは当たり前だ」と思うでしょう。預かり機能であればそうです。しかし児童クラブは、預かり機能の場ではない。例え週1日、2日でも、その子が必要とする居場所である限り、利用を認めることが大事です。そもそも、利用しない者が入所しているのは、児童クラブを確実に利用できることができないからであって、それはそもそも国の不作為、指導力不足による児童クラブの施設数や職員数の増加ができていないからです。それによって生じる待機児童の解決を、保護者、国民の側に押し付けるのは、悪手も悪手、大悪手です。昨年の埼玉県の「児童虐待防止条例改正案(いわゆる留守番禁止条例)」を思い起こさせます。あれも、行政の不作為を子育て世帯に押し付けましたね。

 今後、この話題は何度も取り上げることになるかもしれません。メディアには、この、児童クラブ入所制限強化という国の新たな考えがどれだけ子育て世帯に心理的圧力を加えて、ますます子育てがしづらい社会になるかどうかを考えて報道していただきたいと期待します。 

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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