こども家庭庁と大臣がSNSで広報に乗り出した件。それは良いのですが、事態を客観視できていない状況が不安です。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の成長や保護者の子育ての現実を描く人間ドラマであり成長物語「がくどう、 序」がアマゾンで発売中です。ぜひ手に取ってみてください!
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 先日、旧ツイッター(X)で、こども家庭庁と、三原じゅん子大臣が、こども家庭庁についてPRする投稿を始めたようです。SNSでは、こども家庭庁不要論で常に盛り上がっていますが、ようやく存在意義を説明することにしたようですが、私は大臣の投稿を見てとても不安を覚えました。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<ようやく広報に乗り出した>
 こども家庭庁は2025年4月8日午後1時30分に、Xへ次のような文章を投稿しました。

こども家庭庁は公式 note を開設。こども施策に関する最新の動向やこども家庭庁の取り組みをお届けします。こどもや若者、子育て当事者の支援に当たる現場の方々の声等「こどもまんなか社会」の実現に向けたストーリーもお届け。本日こども家庭庁予算の記事を投稿しました。

 ということで、公式noteにて、事業の取り組みをPRするようです。そしてこの投稿を引用して、三原じゅん子大臣も4月9日午前6時に、次のような文章をXに投稿しました。

【こども家庭庁の予算】
何に使われているかご存知ですか?新たな広報を始めました。

 こども家庭庁についてXでは、圧倒的に不要論ばかりが盛り上がっています。少子化対策の効果が上がっていないことに関してこども家庭庁を潰して国民にその予算分を配布したほうがよほど少子化対策になる、という趣旨です。2025(令和7)年度のこども家庭庁の予算は7.3兆円ですが、その7兆円がまったく無駄だ、国民に配った方が良いという投稿には、常にきわめて多くの「いいね」が付けられます。
SNSだけではなく、毎日新聞で著名タレントが連載コーナーにて同様の趣旨の内容を掲載していたこともありました。
松尾貴史のちょっと違和感:こども家庭庁 少子化の歯止めに役立っている? | 毎日新聞
他には、大臣を経験したこともある国会議員(この方はなかなか奇妙な内容の投稿ばかりしているのですが)も、同様の趣旨の内容を時折、SNSに投稿していました。

 こども家庭庁の予算には、児童手当(約2兆1700億円)、育児休業等給付(約1兆600億円)、そして何より保育所や放課後児童クラブの運営費としての補助金(約2兆4600億円)が含まれます。そもそもこども家庭庁の中心的な事業は、既存の省庁が行ってきた、こどもに関する施策を集約させたというものです。それが「こども家庭庁」単体が担うことになっただけです。

 おそらくですが、そのことすら、SNSでこども家庭庁不要論に賛同している人たちの多くは認識していないでしょう。ただ単に、イメージとして「日本の少子化は全然食い止められない。児童虐待は相変わらずだ。子育て世帯はとても生活が苦しい。まったく日本の子育て環境はいいことがない。それは、こども家庭庁が無能だからだ」という印象や感覚を多くの人が実際に持っていて、それを素直な形でSNSという発信ツールで意思表明をしている、ということでしょう。

 このことは決して軽視してはならないと私は考えてきました。そして事あるごとに、こども家庭庁は反論があるならしっかり示すべきだと訴えてきました。
 新たに始まったこども家庭庁のPRですが、もちろん在野の取るに足らない私の声が届いたということはまったくなく、役所であれば当然なのでしょうが相当前から新たな広報の展開が役所内部で検討されていて、それがこのタイミングで表に出た、ということだと私は考えています。お役所は予算が付かなければ何もできない仕組みですから、今年度の予算を考えるには具体的に形が出来上がるのが遅くても前年度の夏であることを考えると、2024年6~8月ごろには、「来年は広報をやろう」という話が、こども家庭庁の内部で具体的に検討されていたと私は推測します。ということは、「広報が必要だよね」というのは、もっと前から役所内部で話し合われていたのでしょう。

 それでも遅いのですが、何も広報をしないよりは良いです。そこだけは私も評価しています。

<残念な点>
 最近の選挙で顕著なように、SNSでの意見の盛り上がりは一部世論を形成するまでのチカラを持つようになっています。陰謀論や根拠のない意見や主張であっても、SNSで、SNSを見ている自分自身とは違う「第三者」の意見として、とある主張が繰り返し提示されているのを見ていると、いつしかそれが圧倒的多数の意見として存在しているかのように、見ている閲覧者に思わせることがあります。ましてSNSは自分自身の選択する意見と同じ方向性の投稿を相次いで表示する仕組みになっているので、閲覧者にしてみれば、自分が思い始めた内容の趣旨に沿った投稿がどんどん表示されるようになってしまい、結果として、その意見が「客観的に社会に受け入れられている意見なのだろう」と思うようになってしまうのですね。
こども家庭庁なんて無意味じゃない? と思っている人が、そのような内容の投稿ばかり読んでいると、その人の見るSNSの画面は、こども家庭庁不要論の投稿ばかり表示されて、いつしか閲覧者の理解がそのようになってしまう、ということです。

 だからこそ、いまや世論形成に影響を持つSNSの世界において、どんなに根拠のない暴論であっても、陰謀論であっても、明らかに間違っている内容が相次いで投稿、流布されている状態にあっては、正しい内容、正確な情報を、しっかりと、それも数多く、発信していくことが必要なのです。こども家庭庁はその点、廃止論、無用論が多数を占めてしまったSNSの世界にようやく自らの主張を発しはじめた、ということです。

 しかし、残念な点があります。そもそも、こども家庭庁の投稿をみると、具体的に提示したい事実や事業の内容を、noteにて公開している、とあります。これは感心できません。noteに投稿するのは良いのですが、「主戦場」は雑多な意見が飛び交うSNSの場です。SNSで多くの人たちの意見がまとまっていったり盛り上がっていったりするのです。こども家庭庁が、「私たちがやっていることを紹介しますね。noteを見てくださいね」とSNSに投稿したところで、わざわざnoteまでその内容を読みに行く人がどれだけいるのか、考えたのでしょうかね、こども家庭庁の中の人は。私は疑問しかありません。

 SNSで飛び交う、確実に誤った内容の投稿や意見について、しっかりと丁寧に何度も何度も「そのことに関する正しい内容は、これです」と、しっかりと事実を提示することが必要です。noteに投稿しました、では意味がありません。新聞に、偏った意見の記事が掲載されたなら、その読者に対して誤解を解くために、その新聞にこども家庭庁は反論を掲載するべきでしょう。

 そして三原大臣の投稿です。私はその投稿を見て、非常に残念、もっといえば腹立たしかったので、4月9日午前10時56分に、次のような文章をXに投稿しました。

 【こども家庭庁の予算】 何に使われているかご存知ですか? この文言がダメ。「ご存じですか?」って何ですかその言いぐさ。知らない側に問題があるように受け取れます。 自らの広報周知の足らぬを認め「こども家庭庁の予算のこと、ぜひ知ってください! 知ってほしいのです!」という姿勢が必要。

 このことを別の言葉で表すと、「こども家庭庁は、自分たちに対する社会の理解が圧倒的に間違った根拠に基づいて組み立てられつつあり、それはすでに相当多くの人たちが信じてしまったということに対して、自分たちの広報、周知、宣伝の活動が足りていなかったということを客観的に理解できていないのだ」ということです。
 それなのに、「ご存じですか?」とはどういう了見か。「国民の多くの人たちに、こども家庭庁の活動のことを知られていなかったのは私たちの努力が足りなかったのです。これからしっかりと正確な情報を発信していきますから、どうぞよろしくお願いします」ということが何故言えなかったのかと、残念です。

 こども家庭庁にしろ、大臣の投稿にしろ、投稿時刻はきっちりとした時刻になっていますから、間違いなく予約投稿でのことでしょう。投稿の文章はお役所ですからもちろん何重ものチェックを経ているはずです。大臣が思い付きで投稿したはずはないでしょう。こども家庭庁の中にいる多くの人たちが目にしてチェックしている内容のはずですが、誰一人として「こういうスタイルでは、どうなんでしょう?」とは思わなかったのでしょうか。多分、思った人はいるでしょう。しかしそれは組織の論理の中で、自分の意見を表明できずに埋没してしまったのではないでしょうか。

 こどもの意見表明権がとても重要視されるようになりましたが、大人だって同じですよ。お役所の組織の中で「それは、どうなんだろう」と意見を出すことは大変なのは私も理解できます。しかし、こどもに意見表明は大事だよと呼びかける役所が、その意見表明ができない組織であるとしたなら、それはひどいブラックジョークです。

<なぜ私がこの件にこだわるのか>
 今回の、こども家庭庁と大臣の投稿に、私がかみついているのは、先に述べた客観視の部分です。自分たちがどう思われているのか、こども家庭庁の中の人たちが知らぬとしたら、それは問題だと思うからです。客観視できていないということは、「現実に、こういうことになっている」という事実を知らないか、事実を把握しても問題点となっていることの発見ができていない、ということです。

 私はそれを、2024年度から始まった、放課後児童クラブの常勤2名分への運営費補助に重ねざるを得ませんでした。

 この運営費補助そのものは素晴らしい。ようやく誕生したか、というものです。しかし重大な問題点として、離職などで常勤2人がそろわない月があったら、1年分の補助金はすべてナシ、ということがあります。これだけは直ちに解消されねばなりません。障害児受入に関する加配職員は不在の月があれば月割で控除すれば良い仕組みになっています。それと同じにすればいいのです。

 このことがどうして問題なのか、いかに記します。
(1)児童クラブの世界は極めて離職が多い業界です。年度の途中で退職、離職する職員はごく普通にいます。ようやく常勤2人でスタートしても、数か月あるいは半年後に辞めてしまう職員は珍しくないのです。採用された職員だけでなく、採用された職員が配属されたクラブに前から勤務している常勤職員が辞めてしまう、ということだって普通にあります。年度を通して常勤2人の配置を維持することが、なかなか難しい業態であること。この実態を、こども家庭庁は知らないのですか? 知らなかったなら大問題。知っていて「運営費の補助だから年度内で変更はありえない」という論理で押し通そうとしているなら、少しでも常勤2人態勢を維持しつつ育成支援の質を上げようと躍起になっている児童クラブ側の努力をあまりにも軽視している。
(2)市区町村の現場の行政パーソンの負担を考慮していない。交付が決まった、あるいは要求を予定している補助金について、年度内の離職退職による交付要件の未達による返還作業が予想されるものについて、行政パーソンがすんなりと補助金の活用を考えるはずがありません。仮に年度末近くの2月や3月に、急な常勤職員の退職が発生して常勤2人態勢が維持できなくなったら、その年度の1年分の補助金の返還作業を市区町村の現場担当職員が行うことになります。それがどれほど大変な作業であるか、どんなに負担であるのか、国の役人は理解しているのですか。市区町村の現場担当課、担当係の行政パーソンがこの補助金を活用したくても財政部局から「返還リスクがあるのでウチではやりません」と拒否されてしまいやすい類のものです。つまり市区町村に「補助金の返還の危険、リスクがある補助金には、その活用を積極的に行おうという姿勢が生じない」のは当然です。結果として、常勤2人態勢で頑張ってきた児童クラブ運営事業者には、いつまでたってもその恩恵にあずかれない、ということになります。

 つまり、現場の状況、現場の負担を、こども家庭庁の中の人は理解できていないと私は思わざるを得ません。現実の客観視が、こども家庭庁にはできていないのではないだろうかと不安が募るのです。

 そのことを、ある意味において表面化したのが、今回の広報周知の取り組みだと、私は感じたのです。

 このまま、こども家庭庁不要論がますますその勢いを広げると、こども家庭庁が取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうとする重要な事業に関して国民の理解や協力が得られる可能性が減っていきます。それは悲しいことだと私は考えます。ですから、どんなにくだらないと思われる陰謀論であっても、荒唐無稽なでっち上げの意見でも、それが広まって多くの人が信じこむ前に、正確な情報、データを提示して、「そのことですが、実際はこうなっています」ということを、丁寧に、しつこいぐらいに、こども家庭庁は発信していくことが必要です。
 こんな簡単なことすらできない組織であれば、それこそ無用です。以前のように、それぞれの施策を行っていた省庁に事業を戻してこども家庭庁は解体したって、特に影響は出ないでしょう。それでは困るのです。だからしっかりと、こども施策に関する重要性を丁寧にしつこいぐらいにPRしていくべきです。
 その際は、広報を外注、丸投げしないで、しっかりとこども家庭庁の中の人が、「どんな表現が一番分かりやすいだろうか」「どういう情報を説明したら理解が広まるだろうか」ということを汗水たらして考えて、息遣いが分かるような形で発信するべきです。

 そして一刻も早く、常勤職員2人分の運営費補助の交付要件を見直してください。長崎市や岡崎市のように、この補助金を活用しないという自治体が出てはこまるのです。この補助金を活用してほしいと考えている事業者は、手厚い育成支援を志している事業者が多いと私は感じています。そのような事業者が運営に困らないように、使いやすい補助金の制度にしてください。(ついでに申せば、この補助金を活用した事業者が、企業や法人本体の利益に転嫁されにくい仕組みも同時に作っていただきたいのです)

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 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)