あえて言おう。放課後児童クラブで長時間過ごす子どもを「かわいそうだ」という意見に、私は異議があると。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関わりのある2つの話題が報道されました。その報道に対する旧ツイッターの反応のうち、子どもの支援、援助に関わる立場と思われる方からおしなべて出された反応に私は残念な思いです。私の受け止め方が偏っていたとしても、異議を出さずにいられないのです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<早朝の受け入れと、国の調査>
 2つの報道のうち、まず1つ目は、大阪府豊中市が始めた、小学校登校日における早朝の児童受け入れについての報告です。朝日新聞デジタルの9月6日6時配信の「学校開門は7時 豊中市が始めた「小1の壁」対策、多くの利用に驚き」との見出しの記事を一部引用します。
「大阪府豊中市の市立小学校の校門を午前7時に開けて、児童を体育館などで見守る事業について、長内繁樹市長は5日の記者会見で、1学期の利用者が延べ約5900人だったと明らかにした。」
「今後は夏休みや冬休みなどの学童保育(放課後こどもクラブ)の児童を対象にした午前7時からの預かり事業も検討する。長内市長は「社会全体の働き方改革が必要なのは言うまでもないが、早朝預かりのニーズがある以上、行政として支援したい」と話した。」(引用ここまで)

次いで、こども家庭庁が小1の壁に関して調査を行うという内容です。読売新聞オンラインが9月8日5時配信の「「小1の壁」実態把握へ、こども家庭庁が初の全国調査…親のキャリア形成に影響」との見出しの記事を一部引用します。
「小学生になった子どもの預け先が見つからず、親の就労が困難になる「小1の壁」と呼ばれる問題について、こども家庭庁は今秋、市区町村に対し、初めて全国調査に乗り出す。地域の取り組みや親の要望を把握し、適切な支援策につなげる狙いがある。」
「学童保育がカバーしていない朝の時間帯、親が先に出勤した後に自宅で1人で過ごし、玄関の鍵をかけて登校する子どもがいる。親は、こうした事態を避けるため出勤時間の変更を迫られるなど、キャリア形成に影響を及ぼすことになり、女性の活躍を妨げる要因になっているとの指摘もある。}
「同庁によると、今月末にも全市区町村を対象に、朝の時間帯の預かり事業の実施の有無や需要を尋ね、地域ごとの課題も把握する。来年3月までに結果をまとめ、対策に生かしたい考えだ。」(引用ここまで)

 読売新聞オンラインの記事も、先の豊中市の事例を記事の中で紹介しつつ、朝の子どもの居場所ニーズの必要性について調査が必要だとする国の見解を記しています。

 この2つの記事について、旧ツイッターでの反応や、ヤフーのコメントには、少なからず否定的な意見が見受けられました。私の見る限り、「こどもまんなかと逆行している。こどもを長く受け入れる施設を整えるのではなく、親と子どもが長く過ごせるようにするべきではないか」という意見が否定的な考えの中心にあると感じました。つまり、「朝早くから親元を離れて過ごすなんて子どもがかわいそうだ。こどもは親と一緒に過ごせる時間が長い方がいいのだ」ということでしょう。

 言わんとすることは心情として分かりますが、私は違和感を覚えました。対処するべき点を区別して考えなければならないということが、理解されていないのかなと感じた次第です。

 なおこの記事では混同されがちですが、整理しておきます。保護者が仕事に間に合うように家を出る時刻の方が、子どもが登校するために出かける時刻より早くなってしまう状況について、「小学校の授業が普通にある登校日」と、「夏休みなど長期休業期間中」という2つの場面があります。前者は今まで子育て支援の守備範囲と思われていなかった場面です。後者については放課後児童クラブの開所時間そのものの問題です。また、小1の壁は、使う人や世界において様々に使われています。児童クラブにおける小1の壁とは、政府が以前から小1の壁打破を掲げていることから分かるように基本的には児童クラブにおける待機児童の問題です。

<広い視野、複眼的な思考が欠けている>
 朝早くから子どもが小学校で過ごす、あるいは放課後児童クラブで過ごすことを「家庭ではない場所で親と離れて過ごさざるを得ないことは、こどもまんなかではない。そのような施設を整えて朝早くから子どもを受け入れる状態を固定化していくことは、こどもまんなかなではない」という意見に、私は次の2点を考えて気が重くなるのです。

 「朝早くから子どもを受け入れる施設が整っていない現状では、朝早くから出勤せざるを得ない親の家庭の子どもを、家で1人で留守番させて登校の時間まで過ごさせる、あるいは夏休みなら児童クラブに1人で登所させることを結果的に今後も強いることになる。その現状が引き続き固定化されることこそ、こどもまんなかではないはずだが、それでも構わないのか」

 「子どもには親と長く過ごす時間が必要だ、そのような考え方が子どもを受け入れる側の見解として根強いのであれば、朝早くから子どもを受け入れる施設や制度の整備は進まないであろう。その結果、やむなく就労の形態を変えざるこを余儀なくされることになる親も出てくるだろう。その場合は現実的にほとんどが女性、母親であることは容易に想像できる。つまり結果的に、育児によってキャリアの強制的な変更を強いられるのは女性であるという構図がここでも示されてしまう。こどもまんなかを主張することで、働く女性の働き甲斐やキャリア形成への意欲を抑圧することに何ら懸念を感じていないのか?」

 前者については同時に、こうも思います。「あれ、学童保育とか児童クラブって、第二の家庭だよ、ってよく言っていますよね?保護者が働いている時間、子どもが安全安心に過ごせることと、学童や児童クラブで過ごす間の子どもの成長は私たち支援員、指導員がしっかり支えますって、よく言いますよね?なのに、朝の時間だからといって子どもを受け入れることに抵抗があるのはなぜ?第二の家庭はしょせん本物の家庭にかなわないから?親が子どもと関われない時間において、子どもの成長をしっかり支えるのが児童クラブ職員、放課後児童支援員等の専門性のはずなのに、その専門性は絵に描いた餅なの?自分たちの存在意義を自分たちで否定して恥ずかしくないの?しょせん、本音では、子どもを預かっているだけの意識が実はあるから、子どもが児童クラブで長い時間過ごすことがかわいそうだからって思うんじゃなくて?子どもの育ちを支える専門職の専門性の意識があれば、長い時間だって大丈夫、しっかり支援、援助してみせるよ、って思うのが普通じゃなくて?」

 後者については同時に、こうも思います。現実的に、夫、男の側が子育てについて自分自身の働き方を変えて対応するというのは、かつてよりだいぶ改善されてはいるが、まだまだ女性、母親に子育てに関する事柄を担当してもらうことが現実的。厚生労働省による「令和4年度雇用均等基本調査」における男性育休取得率は17.13%に過ぎない。従業員数1,000人超の企業を対象とした厚労省の調査では男性の育休等取得率は46.2%と高くなっているものの、まだまだ女性、母親が育児における負担を負わざるを得ないのが事実。子どもの育ちを支える業界は、本来は、子育て支援を通じて女性の社会における活躍、夫婦での子育てと仕事の両立を支えるべき立場にあるはずなのに、「こどもがかわいそう」という誰しもが反論しにくい感情論を前面に押し出して子育て世帯に「こどものことをどうして大事に考えないのですか?」と求めることが、結果的に、も女性、母親の職業生活やキャリアを中断させることに押しやってしまうことに、どうして配慮ができないのか?こどもがかわいそうだから(母親が)生活を変えるべきだ、仕事を変えるべきだという子ども支援の側が言うことが、どれだけ働く女性にとって刃となっているのかということが想像できないのか。
 この点において、小1の壁とは、児童クラブに入れなかった子どもの安全安心な居場所が見つけられない状態であり直接的に子どもの存在が脅かされる状態ですが、それは同時に、そのような脅かされる子どもに対応するために保護者、それも現実的には女性、母親が、その仕事を辞めたり変えたりせざるを得ず人生設計やキャリアを強制的に断絶させらえる不利益を一方的にかぶってしまう状態でもあります。つまり小1の壁は、子ども自身の問題であり、働く女性の問題でもあります。

 なお、ひとり親(父だろうが母だろうが関係なく)については、もっと切実です。ひとり親が多い地域においては長時間(かつ低料金)で子どもの安全安心な居場所を確保する方策を行政は講じなければなりません。

<長期的な目標と現実的な対応を混同するな>
 記事に豊中市の市長のコメントが紹介されています。改めて引用しますが、「社会全体の働き方改革が必要なのは言うまでもないが、早朝預かりのニーズがある以上、行政として支援したい」という内容は、私の考えるところと100%、同じです。長期的には、男性も当たり前に育児時短勤務を行い、朝の7時から子どもを受け入れる施設が必要となる状況から、普通に子どもの小学校登校班に加わって投稿できる時刻まで、家族と一緒に過ごせる時間が確保できるようになることを、また朝8時すぎに子どもをクラブに連れて行けばよいという状況になることは必ず実現させねばならない目標です。しかしこれは国全体、社会全体の課題です。法制度を整え、かつ、国民全体の意識が「子育て中の保護者には、時間に余裕のある勤務形態を所得保障とセットで行うことが当然だ」と変化したことで、企業側の経営理念に反映させざるを得ない状況になることです。

 具体的にどのような制度を整えるのが効果的なのか、それを調べるのがこども家庭庁の調査の狙いでしょう。ぜひ丁寧な調査を期待したいところです。とても重要なことです。「こども家庭庁は、朝から子どもを受け入れることを推し進めるのか?こどもまんなかじゃない!」という意見はまさに短絡的です。

 企業側が当たり前に子育て中の従業員や職員に、余裕を持った勤務形態を提示する時代になるのはあと何年かかるでしょうか。その間、つまり、「今」、現に困っている人がいるのだから対応するんだ、ということはこれも当たり前です。市長のコメント通りです。そもそも学童保育という仕組み時代が、働いている親が子どもの居場所に困って自主的に始めた仕組みですよ。つまり、「今」困っている保護者が作って運営しただけのこと。それも周囲から「子どもを預けてまで働くなんて、親としてどうなの?どうしてもっと子どものそばにいてあげられないの?」と社会の多くから白い眼で見られながらのことだったという歴史を、忘れてはなりません。

 生活のために、経済的な理由のために夫婦そろって働かなければならない世帯がそりゃ多いでしょう。しかも賃金がなかなか上昇しないため、長い時間働かないと、希望する生活水準を維持するための必要な所得が得られない。だから朝早く出勤する人がどうしてもいる。それらの人たちに寄り添う施策について、「こどもまんなかじゃない」というのは、働かざるを得ない保護者達を責めていることと同義であることを、気づかない子育て支援関係者に、私は幻滅します。子どもが家庭で過ごすには、お金が必要ですよ。お金を稼ぐのは保護者です。そのお金を稼ぐための労働を減らせ、といっていることは、最終的には、こどもにかけられる費用の減少を意味します。それはこどもにとって不利なことですよ。そのことに考えが及ぼない子育て支援関係者は多い。「こどもだけ」しか考えられない単純な思考は罪悪に近いとすら私は感じるのです。

 また、生活の為ではない、自分の生きがいのために、あるいは専門的な職務やスキルを発揮することで社会に貢献している女性だって当然います。そういう人の仕事が朝早くからであり、しかも余人をもって代えがたい場合、その人が子育てする時間において子育てを支える制度、施設は必要です。女性の社会進出と言う言葉は私はあまり好きではありません。昔も今も多くの女性が社会で活躍している、そもそも家庭だって社会であるのに、今更ながら社会進出(=高給を取る仕事に多く就きだしているという意味なのでしょう、実のところ)ということが偏った見方ですが、多くの企業で役員として重責を担ったり起業家として活躍する女性が当たり前になればなるほど、そのような人たちが子育て世帯となった時でも安心してその活動を続けられる仕組み、制度を整えていなければなりません。

 朝早くから学校の体育館で過ごすことに、子どもの成長に不安があるなら、「それ、子どもの育ちの専門家である放課後児童支援員の役割とさせてください。もちろん必要な費用は国、行政がしっかり出してください。しっかり賃金を支払って人を従事させますから」と、私は児童クラブ業界が声を上げてほしい。単なる見守りスタッフを使うとしてもその場の統括は児童クラブにおける専門職が務めることが私の理想です。

 なお、朝7時からの児童クラブ開所について豊中市長は検討する旨、記事にありますが、朝7時から開所している児童クラブは皆無ではありません。それは行政が予算を付ければすぐにでも実現できるものです。すぐにでもやったらいかがえしょうか。

 長期的な理念、理想と、現実的に「今」対応が必要なことを混同して、長期的な理想にはそぐわないから全部反対、というのはあまりにも視野が狭い。また、仕事そのものに生きがい、あるいは高い価値を感じて生きる保護者の立場を踏まえない議論もまた視野が狭い。こどもまんなかの視点は大事ですが、こども「だけ」まんなか、ではないのです。こどもだけまんなかで、子どもの生活や安全を実際に支える保護者を軽視した議論は机上の空論。特に児童クラブの世界には、こども「だけ」まんなか思考に陥っている向きが多いように私には感じられます。こどもの最善の利益を守るためには保護者のことも(もちろん、制度を支える仕組みにある側のことも)合わせて考える議論を私は望みたい。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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