「適切にもほどがある」求人広告で放課後児童クラブが、職員の新規採用ができた後に、必ずやっておくこととは?
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。現在そして過去からずっと人手不足、欠員に悩み続けている放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的な存在です)ですが、悩みの種は新規採用に成功した後においても深刻です。「結局、児童クラブの仕事に向いていなかった」という適性の点と並んで、「思い描いていた仕事とあまりにもかけ離れていた」ことで早期離職されてしまうことは、採用に費やした事業者のコストを考えるとできる限り減らしたいものです。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<採用から勤務開始までの期間が大事>
まずは、採用すると決めて応募者に通知してから、実際に新規採用者が就業を始めるまでの期間に、しっかりと必要なことを行うことが大前提です。必要なこととは、「職員雇用関係に必要な手続きの開始と完了(社会保険、給与、各種手当、健康診断が必要な職種であれば健康診断、など)」と、「職員の勤務において実務上、理解が必要な事項の講習や研修」です。この2つが両輪として同時に進行していくことになります。今回のブログでは、後者、つまり実務上、理解が必要な事項の講習において取り上げます。
実務上、理解が必要な事項の講習や研修は、もちろん、ある程度まとまった期間が必要です。現場にて勤務を始める日が決まっているでしょうから、その間に講習や研修を数回行える程度のスケジュールを確保しましょう。正規職員やそれに近い職員であれば講習や研修に費やす時間を長めに確保できれば好ましいですし、週の所定労働時間の長短や、どのような役割で勤務をしてほしいかによって、講習や研修の時間を柔軟に設定すればよいでしょう。夏休みに数日しかシフトに入らない予定の学生アルバイト職員であっても、必ず1回数時間は、講習や研修の時間を設定しましょう。
なお当たり前ですが、このような講習や研修の時間にも賃金が発生します。雇用関係とは、実際に職場で勤務を開始した日から始まるのではなく、こうした講習や研修を事業者の指示に従って受けさせるときには当然に発生します。12月1日に現場配属としても、11月25日に初回の講習を受けさせた場合、その講習時間は賃金が発生しますからご注意ください。社会保険料が発生する職員の発生の場合は、12月1日採用と11月25日に実質的に雇用関係が発生の場合、保険加入期間が異なりますから注意してください。それを考えると、新卒の4月1日付の採用を除く中途採用の場合は、毎月1日付の採用の場合は、講習や研修を済ませてから現場に配属、の方が手続き上、事務方の作業を考えると好ましいですね。
講習や研修を行う前に、クラブ配属職員であれば、そのクラブで実際に行ってもらう業務の様子を見学してもらうこともお勧めします。月給制の正規職であれば見学は必須にしましょう。パートアルバイトの場合は、運営支援としては推奨しますが、見学は任意として新規採用者に選択させるのであれば、見学を選択した場合は賃金を支払う必要は必ずしもありません。「見学は任意です。見学した場合は賃金は発生しません」と事前に書面で知らせて説明し、理解を求めておくことは必ず行ってください。こういうささいなことが、のちのち、トラブルの種になることがあります。
<講習や研修で伝えること>
まずは、その事業者で掲げている事業の理念と、その年度の事業目標です。つまり、事業者として何を大事に考えて児童クラブを運営し、日々の事業を行っているのかを、しっかりと説明することです。事業者によって様々な理念や目標があるでしょう。児童クラブであれば全国どこでも同じ、ということはありません。まして、経験者を採用した場合、その新しく採用された経験者はおのずと自分の経験を参考に、新たな職場において自分の活動、活躍を思い描くものです。
ところが、前職の職場では、遊びの時間を大切に子どもたちが活動内容をある程度考えているクラブだったとした場合、事業者がプログラム制のもとにある程度、子ども達の活動内容を定めている場合は、同じ児童クラブといってもその事業内容、活動内容は天と地ほど異なります。その逆もまたしかり。採用活動中におおむね「うちの児童クラブは、こういうことを中心に活動しています」と説明していたとしても、事前にクラブで見学をさせていたとしても、採用が決まる前と、決まった後での受け止め方、理解の仕方は必ず異なってきます。採用が決まる前は、応募する方は「なるべく採用されたいから」、目の前の様子を自ずと好意的に理解しようという意識になっていますし、採用しようとする側も「なるべく嫌なところは見せないように」という意識で、うまくいっているところだけを見せようとします。
採用が決まった後では、採用された側は「自分ならどのようにやれるだろうか、自分のやりたい内容をどうやってやっていけるだろうか」と考えるようになりますし、採用した側は「現実のクラブを見てもらいますから、しっかり見て、どのように事業をやっているか、クラブの雰囲気を含めて把握してくださいね」となります。
ですので、採用前にあらかた、うちのクラブの仕事のことや活動内容を伝えたから大丈夫、うちのクラブの方針を理解したから採用辞退をせずにうちを選んだのだろうと、事業者が思い込むことは、大変危険です。必ずと言っていいほど、採用された側との意識のずれが生じてきます。ここに、採用してから実際に勤務を始めるまでの間の講習、研修の重要性があります。
よって、講習、研修で伝えることは、事業者の理念や事業目標を説明した上で、さらに、実務において取り組んでほしい業務の骨格も重要です。基本的にあらゆる業務について責任を持つためあらゆることを「自分の仕事」として理解する必要がある正規職員よりも、「そこまで仕事の範囲とは事前に聞いていない」ということでトラブルになりやすい、パートアルバイト職員には、特に丁寧に、業務の骨格の説明が必要です。
・子どもとの関わり方はどのような方針なのか。遊びの時間は、どのように遊びを組み立てているのか。
・子ども達はクラブでどのように過ごしているのか。生活班があっておやつや昼食はその班での行動になるのか。
・宿題や勉強の程度はどうか。これは特に他の事業者と差ができやすい分野です。もっといえば、個々の職員でも差が生じやすい。前職では宿題の時間ですよとただ呼び掛けるだけだった。こんどのクラブは子どもからの質問があったらなるべく対応している、というように、事業者ごとに差が出るものです。音読は職員が聞いてあげる、あるいは音読は一切関わらない、ということは、些細なようなことでも毎日行われることですから、新しく採用された側がしっかりと理解して業務に臨まないとトラブルのもとになります。
・担う業務の範囲。例えば「おやつ」と大雑把に提示しているだけではダメです。おやつの菓子類を袋から出してお皿に並べるだけなのか、調理に入ることも求められるのか、あるいは、おやつの買い出しも時には命じられるのか。得手不得手が生じやすい業務については、丁寧に説明しましょう。
<ただマニュアルを渡すだけではダメ。ただ口頭で説明するのでもダメ>
こうした研修や講習においては、業務マニュアルや、業務の手引き、といった書面を、いくら分かりやすく丁寧な内容で作成してあったとしても、ただそれを渡して「業務の開始日までに読んで理解してください」ではダメです。そのマニュアルや手引きを、言外の意味も含めて担当者が説明しなければなりません。
同様に、ただ、担当者が口頭で何時間かけても説明するだけはダメです。せっかく時間をかけるのでしたら、ちゃんと資料も渡しましょう。効果は半減ですよ。もったいないです。こうなると当たり前ですが、新規採用者に説明する役割の人は現場の業務をしっかりと把握できる人に務めてもらわねばなりません。同じ人が担当すると、説明の中身にブレが生じませんから、複数クラブを運営する事業者の場合は、担当者を決めましょう。保護者会運営では保護者が役員ですが、現場の仕事に精通していない限り、現場の役職者に任せましょう。
<絶対に伝えなければならないこと>
児童虐待です。これは2つの観点が必要です。1つは、職員が虐待行為、あるいは虐待行為をうかがわせる行為を行ってはならない、という、採用された人物そのものの行為に関する諸注意です。とりわけ、60代以上、まして70代の男性職員を採用する場合は、念には念を入れて注意が必要です。「あなたが子ども時代に大人から受けた数々の行為は、今では直ちに児童虐待行為として判断されるべきものがあるので、絶対にやらないでください。法令違反です」ということを、頭に叩き込んでください。「言う事を聞かない子どもは、一発二発、がつんとやればいいんだよ」なんて言う人だったら「採用を取り消します」と言いましょう。
これは女性にも言えます。「わたし、子育て経験には自信があります」という人が多くいますが、家庭での子育て経験は児童クラブにおいて万能ではありません。せいぜい数人の子どもを同時に家庭内で対応してきた経験と、数十人の子どもがいる児童クラブにおいてその経験が万能に通用するはずがありません。「児童クラブの仕事においては、常に学ぶという姿勢を忘れないでください」と、くぎを刺しまくりましょう。
もう1つの点は、「子どもが受けているかもしれない児童虐待のサイン、徴候を見逃さない」ということです。初めて児童クラブで働く人は、正規でもパートアルバイト職員でもなかなか会得しづらいでしょうから、事業者や先任職員が丁寧に教えていきましょう。最低限、「子どものけが、特に皮膚のアザ、傷には常に前日や前に見かけたときはどうだったかという比較照合の観点は必ず意識しましょう」ということは伝えておきましょう。その他にも、入浴や洗髪、弁当の中身、持ち物の壊れ具合、保護者が迎えに来る時間が近くなった、あるいは迎えに現れた時の子どもの表情や態度の変化、保護者の子どもへの声の掛け方、そして小学校との情報共有も含めて、あらゆるところで児童虐待のサインが出てくることがあります。「虐待は見逃さない」というアンテナを鋭敏に張り巡らすことを、事業者や先任職員はしっかりと教えてください。
児童クラブで初めて働き始める人がびっくりするのは、「子どもの乱暴な言動、行動」です。クラブ内で暴れる、他人に危害を加える、そして職員に暴言を浴びせたり乱暴な行動を加えたりする、そういうクラブは残念ながらごく普通にあります。いつもそのような状況のクラブもありますし、特定の子どもが登所する日時にそうなる場合もありますし、いつもは穏やかな和気あいあいクラブであっても何らかのことがあって荒れる日、だってあります。
得てして途中採用されたある程度の年配の新人パートアルバイト職員には「子どもがあんな乱暴な言葉遣いをするなんて、信じられない。耐えられない」といって早期に離職してしまう人がいます。ジジイババアは当然、死ねだのウザイだのも当たり前。そういうことも事業主はしっかりと伝えましょう。また、試し行動が多く、長く続く子ども達が多いのか、それともクラブ内の秩序が乱れているがために乱暴な言動、行動が頻発しているのかについても、「こういうことがあるので、こうなっています」と、原因とその結果を合わせてしっかり説明しましょう。ただ「うちのクラブは荒れていて、最初は大変だと思いますが、本当はみんないい子どもたちですから」という説明だけでは、「なぜ、そうなっているのか」の根拠や原因がないので、人は安心してその現象を受け止められないのです。「なぜ、そうなっているのか」を知らされていれば、「なるほど、だからこうなのか」と目の前の現象を受容できますし、「では、その部分をこうしたらどうなのだろう」と新たな発想が生まれることもあります。
新人職員だからといって、表面的、見た目だけの説明しかしないということは、働き始める側にとっては不安そのものです。そもそも児童クラブは職員集団を構成してその集団、チームとしてクラブの子ども達の支援、援助に取り組むものです。クラブの職員チームの一員として一緒に頑張りましょう、その心理的な応援は必要としても、その応援によるやる気を支えるのは「いまこのクラブの現状はこういうことで、その現状はおそらくこういうことから生じている」ということを含めて伝えることで生じる、現状の理解の土台です。それはしっかりとクラブ責任者が行いましょう。
放課後児童クラブの仕事というのは、きれいごとを伝えるだけではとても勤まりません。だいたい、どんな仕事でも世界でも同じですが、「人」と「人」が関わる世界には、きれいごとだけで済まない、いやな面もつらい面もあります。まして、他人とのコミュニケーション能力や自身の精神的成長がまだまだ成育途上にある子どもたちの集団が過ごす場所です。とても、子どもは素敵、子どもこそ大事な存在、という理想、お題目だけでは処理しきれない負の感情ですら大人が抱く職場です。「子どもが好きなだけでOK!」だなんて、詐欺みたいなPRで児童クラブ職員を集めようとするのは実に罪深いのです。
現実を包み隠さず伝えた上で、「なおのこと、このような状況にいる子どもたちの成長を支える、とても大変でつらいけれど、社会的意義のある仕事」という理解を早く確立できるよう、しっかりと教育、研修をすることが、人を採用した事業者の責務ですよ。このような地道な、ある意味で面倒くさい取り組みを重ねることで、少しでも離職者を減らせることができるのです。人手不足の状況ですから、児童クラブ事業者はようやく採用した人を逃さぬように、しっかりと育てていきましょう。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)