「民間委託は支援員確保に利点」とする自治体の考え方の不可思議。人件費をケチる公営、補助金を吸い上げる企業。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)に関して、人手不足を民間委託で解消したいという内容の記事を見かけることがあります。つい最近も栃木県内の自治体の動向として伝えられました。民間委託で人手不足が解消するのはどうしてでしょうか。それは本当に解決したといえるのでしょうか。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<民間委託で支援員確保>
有料記事なのですが、下野新聞が、栃木県栃木市の放課後児童クラブの民間委託について報じたようです。11月20日13時30分配信の「栃木市、学童保育の民間委託を検討 支援員確保などに利点」という記事です。このほかにも以前、佐賀市もスタッフ確保に有利だとして民間委託を考えていると報じられました。当ブロブでも取り上げました。その佐賀市は、市内20クラブを公募プロポーザルに出しました。2025年度から民間委託でクラブ運営が始まります。
公営の放課後児童クラブが民間委託、民営化するときは、きまって職員確保に関する利点があることを挙げます。これはもう必ずと言っていいでしょう。私が見てきたこの1年程度以内でも、高松市、郡山市、磐田市など民間委託に踏み切った地域において民間委託の理由は職員の確保、待遇改善に民間委託が有利だという行政側のアピールを見かけました。
はたして、そうでしょうか。
<単純にカネを出さないだけでしょう>
「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」報告書は、放課後児童クラブの経営、運営状況をうかがい知れるとても貴重な調査です。(ぜひ継続的に実施していただきたい!)ここに、公営クラブが職員人件費に予算を出さない傾向があることが想像できるデータが掲載されていました。
「子ども・子育て支援交付金実施状況」の調査項目です。これは各種補助金の実施状況が掲載されています。職員の賃金上昇に効果的な3つの補助金に注目しました。まずは「放課後児童支援員等処遇改善等事業」の実施率を見てみましょう。
全体 27.4% 公立公営 13.4% 公立民営 26.8% 民立民営 42.5%
次に「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」の実施率を見てみます。
全体 28.5% 公立公営 11.3% 公立民営 31.0% 民立民営 41.4%
そして最後に「放課後児童支援員等処遇改善臨時特例事業」(新型コロナウイルス流行を受けて始まった補助金)
全体 55.9% 公立公営 33.8% 公立民営 68.0% 民立民営 57.5%
いずれも、公営クラブが著しく低いです。全体の実施率を公営クラブが押し下げています。これら3つの補助金は、いずれも、児童クラブで働く職員の賃金水準を上げるために国が設けた補助金です。特に、臨時特例事業は職員の給与の上乗せ以外には使えない補助金ですから、職員の給与の額を引き上げるにはもっとも効果的な補助金です。
職員の賃金にこだわるのは、単純な理由で、給与の水準が高ければ求人の応募者が増えるからです。基本給や時給の額で圧倒的に劣勢なのが児童クラブの仕事です。児童クラブの職員の給与が上がれば上がる分、職員確保の困難さが緩和されると考えるからです。
ですが、公営クラブは公立民営のおよそ半分しか、職員給与を引き上げる補助金の活用をしないのです。これでは、公営クラブに人は集まりません。
民間委託をすれば職員確保ができる、というのは、上記のデータからすれば間違っていません。公立民営も、民立(民設)民営も、3つの賃金アップに有利な補助金を公営より適用しているわけですから、公営と比較すれば給与は高いと想定できます。しかし、民営クラブに、それら3つの補助金の適用を決めるのは、当たり前ですが市区町村です。市区町村が自前で運営する公営クラブの時には、なぜだか分かりませんが補助金の適用を渋り、民間委託、民営化すると補助金を適用するようになる。公営でも補助金を適用すれば職員給与が上がって求人応募者が集まると思われるのに、それをしない。なぜでしょう。私の邪推では、市区町村が「自分たちの組織の」人件費を削減することが行財政改革として外部、特に議会から評価されるので、公営クラブの職員の人件費を増やすことはしたくないから、ではないでしょうか。児童クラブの職員だけの賃金を引き上げられない事情もあるでしょう。他の会計年度任用職員とのバランスもあります。役所はとにかく、クレームを受けないための「公平」を重視する世界です。「児童クラブは給料を上げたのに、わたしたちは据置きですか?」と他の業種で働く市の職員からの苦情を受けたくはないのでしょう。
公営クラブである限り職員の待遇改善は見込めませんね。民間委託をすれば職員が集まりやすくなるという外形的な動きは、民間のノウハウの活用ではなくて、単に、賃金水準を上げることができるからでしょう。公営クラブでは事情があって賃金を上げられない。だから民間委託をする。私は、そう考えています。
民間のノウハウの活用といっても、他地域で働いている職員を欠員対応で応援派遣できるか、有料求人サイトに求人広告をばらまくぐらいのことしかできませんよ。行政側はそれを知っているでしょう。ただ「自分たちでは給料を上げられないので、民間にします」とは言えないだけです。「上げればいいじゃないか」と批判を受けるだけですから。
だいたい、民間委託をすると市の持ち出し、予算は増えます。つまりカネがないわけじゃないのです。「公営として直接雇用する職員にはカネを出せないけど、民間企業に補助金としてなら出せる」という事情があるだけです。
この報告書には、職員配置人数の調査もあります。それも引用しましょう。
全体 3.2人 全体のうち常勤 1.7人 公立公営 3.2人 公立公営のうち常勤 2.0人 公立民営 3.2人 公立民営のうち常勤 1.5人 民立民営 3.3人 民立民営のうち常勤 1.8人
公立公営のクラブは職員不足どころか、常勤においては民営より多いことが分かりますね。公営クラブは人手不足で支援員確保に民間委託が必要だ、という理由はまったく根拠がありません。
<民間に金を出したら?>
最後は、何度も紹介しているデータを改めて紹介します。これも 「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」報告書からの引用です。
何度も運営支援ブログでは訴えていますが、民間委託そのものに対し、運営支援の立場は賛成です。公営クラブが構造的(または、体面的に)職員の賃金を上げない、増やせない(それは勤務時間延長をも妨げる。よって開設時間も短くなる)のであれば、民間委託、民営クラブのほうが、より利便性が向上するからです。
民営クラブの職員は外部研修にも積極的に参加できます。これ1つとっても、民営クラブの方が、育成支援の充実の可能性が広がっていると私は理解しています。
しかしそれは、事業者次第です。民間委託と言っても、広域展開事業者なのか、地域に根差した事業者であるのかで、その運営の中身はまったく異なります。広域展開事業者には株式会社もあれば非営利法人もありますが、広域展開事業者である限り、大差はないものだと私は考えています。要はしっかりと利益(損益差額を黒字にする)を確保することが一番でしょう。私は民間事業者が放課後児童クラブを営んで利益を上げることにも賛成ですが、「限度がある。やりすぎはダメ」の立場です。その利益は児童クラブのさらなる発達に投資されるべきで、利害関係者の収入に変えるべきではないと考えています。もちろん、職務と職責に応じた報酬はしっかり得るべきです。例えば児童クラブを数百も運営する事業者の代表者の月給が手取り20万円で十分だ、とはまったく思いません。100万円あっても構わない。ただし職員の賃金が最低賃金レベルでしかない状態で役員達が高額な報酬を得ていることはあってはならない。それだけのことです。
公立公営の放課後児童支援員の常勤職員の年収額 2,425,021円 ←低すぎる
公立民営の放課後児童支援員の常勤職員の年収額 3,046,351円 ←まだまだ高くない
民立民営の放課後児童支援員の常勤職員の年収額 3,031,499円 ←まだまだ高くない
NPO法人の放課後児童支援員の常勤職員の年収額 3,090,158円 ←まだまだ高くない
その他法人(株式会社を含む)の放課後児童支援員の常勤職員の年収額 2,981,345円 ←高くないよ
公立公営の年間の損益差額(収益マイナス費用) マイナス1,84万5千円 ←大赤字
公立民営の年間の損益差額(収益マイナス費用) 165万7千円 ←1クラブで年間165万円儲かるよ
民立民営の年間の損益差額(収益マイナス費用) 87万6千円 ←1クラブで年間87万円儲かるよ(1クラブの1か月あたりの人件費ぐらい)
公立民営のNPO法人の年間の損益差額(収益マイナス差額) 94万円 ←1クラブで年間94万円もうかるよ(1クラブの1か月あたりの人件費ぐらい)
公立民営のその他法人の年間の損益差額(収益マイナス差額) 285万円 ←1クラブで年間285万円儲かるよ。
東京23区にある公立民営の年間の損益差額(収益マイナス差額) 869万9千円 ←1クラブで870万円儲かるよ。都内で50クラブを運営していたら、まるっと4億3,500万円、儲かるよ。
その儲けの額のほとんどは国民が納める税金が補助金から生み出されるということを、この国の納税者の人たちはもっともっと知っておくべきです。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。
(萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)