「東京都認証学童クラブ」制度の骨格が決まりました。放課後児童クラブへの影響を考え、もう一押し、お願いします。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。東京都が検討を進めていた「東京都認証学童クラブ」の骨格が固まり、東京都から公開されました。これは今後、国の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的な存在です)に関する施策についても影響を及ぼすでしょう。その点で極めて重要ゆえ、運営支援から、さらにもう一押しのお願いをします。そして懸念点の表明もあります。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<現行基準を相当上回る画期的内容>
 東京都が2024年12月5日に公開した「東京都認証学童クラブ制度創設に向けた専門委員会 東京都認証学童クラブ制度の運営基準に関する議論のとりまとめ」に、今後の放課後児童クラブの将来を左右するであろう、新たな基準案が盛り込まれています。東京都は、このとりまとめに記載された基準案をもとに、東京都内で展開される放課後児童クラブの基準を策定することになります。先日、この認証学童クラブに関して専門委員会の議論の方向性を当ブログで取り上げましたが、その方向性が委員会で最終確認されて公表された、ということになりますね。

 この「とりまとめ」の中に、「新たな認証制度により質、量ともに拡充し、将来的には全ての学童クラブが認証学童へ」と明記されています。現行の基準で運営されている児童クラブには経過措置が適用されることになり、それもそれなりの期間になるでしょうが、最終的には全てのクラブが、「とりまとめ」に盛り込まれた基準案を基に制定される都の基準に従うことになります。これは、極めて画期的なことです。この点、全てのクラブがいずれ制定される新基準に従うということは重要なことですから覚えておきましょう。

 さて本題に入る前にわたくしが気になるのは、この報道資料のタイトルもそうですし、都のHPでも記載されていますが「学童クラブ」という呼称を使用していることです。学童クラブ事業、という文言をこの公表資料でも使用しています。これは通称であり一般名称扱いなので、目くじらを立ててもしょうがないという考えもありますが、将来の放課後児童クラブの施策を左右しかねない重要な出来事です。放課後児童健全育成事業という正式名称を使い、随所に略称として「放課後児童クラブ」「児童クラブ」という名称を断りを入れた上で、使用するべきであったと私は考えます。

<基準の上乗せ。これは価値が高い>
 認証学童クラブに対する新たな認証制度案の画期的なところは主に次の通りです。必須で守らねばならないとしている「基準とすべき事項」に、次の点が盛り込まれました。
・専用区画の面積基準は、児童1人につき1.98㎡以上とすることが適当 ←国の基準はおおむね1.65㎡以上ですから、広さの点と、「おおむね」という幅を無くしたことは、重要な改善です。

・「一の支援の単位」を構成する児童の数について、認証基準では『おおむね』とはせず、『40人以下』とし、確実に生活の場を確保することが適当 ←これも、国の基準の「おおむね」を取り外したことは重要です。

・職員は一の支援の単位ごとに3人以上配置することとし、その内、放課後児童支援員は2人以上配置することが適当。また、放課後児童支援員のうち、一の支援の単位ごとに1人以上は常勤職員であることが適当 ←これは、すごいことです。つまり、上記の「40人以下」と合わせて、子どもの人数が30人台のところ、最低でも常時3人以上は勤務しているということを意味します。そのうち2人は有資格者です。国の基準である「2人、うち1人は補助員でも可」とは、質の点でも量の点でも、大幅に超越する内容です。これは凄すぎて後述する懸念点すら、私にはあります。それぐらい評価するべきことです。この基準が「職員の雇用の質の充実」を伴って実現できるのであれば、児童クラブに関する深刻な問題の解消に大きな力となる可能性があります。

・職員の職位、職責又は職務内容等に応じた勤務条件や賃金体系を定めることが適当 ←地味ですが、職員の雇用労働条件の充実のために極めて重要です。評価します。しかし、後述しますが物足りない。物足りないですが、こうして「ちゃんと給料を支払なさいね」ということが盛り込まれたことは意義があります。今後、実務上有効な認証制度を都が制定することを大いに期待します。その内容次第では、「職責又は職務内容等に応じた」という文言を事業者がどのように判断して事業者内の賃金体系を定めることになるのかについて、外部から監視することで職員にとって一方的に不利ではない賃金体系を構築させられるよう事業者に圧力をかけられる可能性はあります。

・区市町村が実施する指導監督に加え、都による報告徴収及び立入調査等を実施できる仕組みとすることが適当 ←これは上記の勤務条件や賃金体系の件に関わることになりますね。事業者が適正な事業運営を行っているのか、都がチェックできる仕組みの導入には大いに期待したい。というのも、市区町村の担当者では「配慮」「遠慮」しがちな面も、都レベルなら忖度せずに「ダメなものはダメ」と言ってくれる可能性があるからです。

 この他、育成支援の質に関しては、放課後児童クラブ運営指針、それも改正される新指針の内容に即した点が盛り込まれており、児童クラブの運営側の意見が大幅に取り入れられた感想を私は持ちました。保護者向けサービスでは開設時間が午前8時から午後7時までという、現状において必要な最低限の基準を守るようにとされました。昼食提供も事実上、認証制度を受けたいのであれば義務となります。質の向上、利便性の向上が、必須で守らねばならないとする「基準とすべき事項」として制度案に盛り込まれたことは、今後行われる東京都による制度設計づくりに大いに影響するでしょう。

<あえて申す懸念点>
 東京都が、放課後児童クラブの基準について、これまでとは一線を画す基準案を基にした認証制度を確立することが、これで確実となりました。時間はかかろうとも、これは国レベルの放課後児童クラブの基準の引き上げに影響を及ぼすことでしょう。

 東京都の新たな認証制度は、いずれも従来よりも大幅に費用が必要となります。当然ながら東京都は認証クラブには補助金を上乗せすることになります。つまり、「カネがあればできる」のです。東京都だからできる、うちはできない、東京都以外の自治体はできない、という終着点はダメです。「国が、こどもまんなか社会の構築のために、放課後児童クラブの充実のために費用を出す」ことさえすればいいのです。「そんな、福祉にじゃぶじゃぶ金を使うのはダメだ」という人は多そうですが、放課後児童クラブへの予算を3倍にしても1兆円に届きません。保育所等はすでに余裕で兆の単位の国の予算が確保されています。いまの約2千億円の放課後児童クラブの国の予算を3倍にすれば放課後児童クラブの質は相当程度、充実するのです。東京都しかできないから、とあきらめてはダメです。

 運営支援の考える懸念点は、新しい認証制度の基準を達成して運営ができる事業者は、一握りだろうな、ということです。現状においてですら、小学4年生になると児童クラブに入所できない地域が多く残る東京都です。経過措置が設けられているとはいえ、「とりまとめ」には「東京都には、経過措置が永続しないよう、運営基準を達成するための支援や数年後に取組状況を踏まえた経過措置の在り方を検討することを求める」とも記載されていることから、経過措置は当然、期限があるものでしょう。
 子ども1人あたり約2㎡、児童数40人以下、常勤職員は3人という条件は、運営にかなりの費用が伴います。都の上乗せ補助金で、その費用がある程度補えればいいのですが、その点に不安があります。つまり、結果的に、事業を行えるだけの財務的な体力がある事業者が、新たな認証制度の児童クラブを運営することになるのではないかと私は想像します。ことに、新たな認証制度では人件費の負担がかなり大きくなると想定できます。子どもへの育成支援の向上、保護者への利便性の向上を実現しつつ、その運営は大きな企業や組織(ここでいう大きな、とは、地域に根差した保護者会や非営利法人との対照としての意味)が担っていく、市場化のさらなる進行をもたらすのではないか、ということです。

 市場化が悪いこと、避けるべきと短絡的に申し上げません。しっかりと雇用している職員に賃金を支払い、充実した雇用労働条件さえ実現してくれればいいのです。ただし現状の市場化をみると、職員側の犠牲の上に事業者の利益の確保が追求されているので、懸念として申し上げているのです。「職員の職位、職責又は職務内容等に応じた勤務条件や賃金体系を定めることが適当」と、基準とすべき事項として盛り込まれたですから、児童クラブ事業者はその安定した事業の実現と質の高い事業の実現のために、職員の能力に応じたそれ相応の賃金体系を用意するべきです。これは自ずと、単なる年齢給ではなくて職務内容の評価、職責に対する評価による評価給、能力給に切り替わっていくこともまた意味します。その点、児童クラブ関係者は理解が追い付いていますでしょうか?

 新たな認証制度の内容は、保護者会や小さなNPO法人では実現が困難なことになるでしょう。都はいずれすべてのクラブが認証に、と掲げている以上、地域に根差した小さな児童クラブが、取るべき方策は3つになるでしょう。
・自らの運営をあきらめて他の大きな企業に任せる(つまり、消滅)
・認証を受けず、独自の、子どもの居場所事業として存続を目指す(つまり、補助金を受けずに自主財源で存続)
・同じような志の、地域に根差した事業者どうして合体して認証を受ける

 それと、東京都内といっても、特別区とそれ以外の市町村では、財政力の差はどうなのでしょうか。その点、私はまったく詳しくないのですが、多摩地区と二十三区との間で児童クラブの質に差が出るような施策では困ります。また島しょ部はどうなのでしょうね。

 都内で児童クラブを行う人たちは、この新たな認証制度を受けて大きな決断を迫られるでしょう。しかし、その時が直面してから考えるのでは遅い。すぐにでも将来の事業運営に関して協議することが必要です。

<まとめ>
 東京都には、多額の税金を補助金として投入する以上、その補助金が、確実に児童クラブの質の向上に投入されているかどうかを確認し、一般に公表する制度を整えていただきたい。認証クラブなので多額の補助金を上積みしました、でもそこで働いている職員は最低賃金レベルです、というのでは困るのです。第三者が、およそ職員の賃金水準を推測できるだけの情報公開を義務づけることを必須としてください。そして、人件費を抑制し、スキマバイトなどを活用して節約した補助金を利益として吸い上げる仕組みの事業者に厳しく対応する姿勢を打ち出していただきたいですし、実効性のあるチェック機能を用意していただきたい。

 事業者は、多額の税金が投入されることはなぜか、を考えて、育成支援の質の向上、保護者の子育て生活の支援、地域の活性化に最善を尽くすことを心がけていただきたい。事業を充実させ、職員の健康で文化的な余裕のある生活と、将来への安定雇用を実現させて、その上で確保した利益はどうぞ懐にお納めください。

 10年後の放課後児童クラブの世界がどう変わっていくのか、先陣を切った東京都の動きが良い方向で児童クラブの世界に波及することを運営支援は期待して推移を観察していきましょう。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)