「日本版DBS法案」が閣議決定を経て国会提出されました。放課後児童クラブに関して留意すべきことは何だ?
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
子どもに関わる職業、職場、事業者にとって重要な転機が訪れようとしています。いわゆる「日本版DBS」に関する法案「こども性暴力防止法案」(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が3月19日に閣議決定され、国会に提出されました。政府は今国会での成立を目指しており、今後2年程度のうちに施行を目指すとのことです。報道を一部引用して紹介します。
「政府は19日、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を照会できるシステムの導入を柱とした「こども性暴力防止法案」を閣議決定した。学校や保育所、国の認定を受けた民間事業者などに、犯歴の確認のほか、性暴力を防ぐための研修など日常的な安全確保措置を義務付ける。今通常国会での成立を目指している。」
「照会できる期間は刑の執行終了後、拘禁刑(懲役刑・禁錮刑を2025年に一本化)なら20年間、罰金刑以下なら10年間とした。拘禁刑で執行猶予の場合は、裁判確定日から10年となる。不同意わいせつ罪などの刑法犯に加え、痴漢など自治体が定める条例違反も照会できる。照会システムはこども家庭庁が構築する。事業者が申請し、求職者ら本人は戸籍情報を提出する。こども家庭庁は法相に照会し、犯歴がない場合はその旨が事業者に通知される。」
「犯歴がある場合は、本人に事前に告知され、2週間以内に内定辞退などをすれば、事業者に結果は通知されない。辞退しない場合は、犯歴があることを示す「犯罪事実確認書」が事業者に交付される。情報漏えいをした事業者には罰則を設ける。」(太字は萩原が施しました。以上、毎日新聞。2024/3/19 08:30(最終更新 3/19 10:41))
「政府は雇っている人に犯罪歴があれば、事業者が配置転換をすることや、どうしても安全確保が難しい場合は解雇することも許容されるとの考えを示していて、制度の運用に際しては事業者向けにガイドラインを策定する方針です。」(NHKニュース。2024年3月19日 18時47分)
「子どもと接する仕事をする人の性犯罪歴の有無を確認する「日本版DBS」の創設法案策定では、児童らの安全確保と働く人の職業選択の自由をどう両立させるかが論点となった。」
「一方で、DBS活用による再犯対策だけで全ての犯罪を防げるわけではない。こども家庭庁によると、2021年に性犯罪で検挙された20歳以上のうち、性犯罪歴があった人の割合は7.7%にとどまる。つまり9割以上は「初犯」に当たる。その対策も法案に盛り込まれた。学校や保育所、国の認定を受けた塾などには、性犯罪歴の確認だけでなく、職員研修や子どもとの面談、相談体制の整備といった日常的な対策の実施を義務化。性犯罪歴がない職員についても、子どもや保護者から特定の職員に関する相談が相次ぐなどして性暴力の恐れがある場合は、配置転換をはじめとした未然防止策を求める。」(太字は萩原が施しました。時事通信。3/20(水) 7:17配信)
ついにここまできました。今まで野放図だった、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における、性犯罪歴の前科前歴がある方の流入をまったく食い止められなかった状態に、(問題は多々あれど)歯止めをかけることができる制度ができたことは、一定の評価を私はします。ただし、「総論は良いけれど、各論は問題山積で、どうすればいいの?」という厳しい受け止め方も、私はしています。
私が思うところを示します。
・本人(採用を希望する人)に事前に犯罪歴が告知される点は、よかった。その時点で求職を辞退してくれれば事業者は「個人の犯罪歴」という究極のプライバシー情報を保持、管理する必要がなくなる。ぜひ前歴があると通知された人は辞退してほしい。
・日本版DBSは、放課後児童クラブにおける児童への性加害を完全に防ぐ「魔法の呪文」ではない。引用した記事にもあるように「初犯」は防げない。あくまで再犯防止の制度。日本版DBSにも盛り込まれた「性暴力を防ぐための研修など日常的な安全確保措置を義務付ける」ことが、児童クラブの運営事業者は何より重要視して取り組まなければならないと認識するべきだ。「初犯こそ防げ」を念頭に、職員への教育研修を徹底して行うべきだ。
・安全確保措置は、私が思うに2点。1つは子どもたちに「嫌なことをされたら、嫌だ!と言っていいんだよ」ということをしっかり伝えて理解させること。プライベートゾーンなど他人に触られたことで嫌だと思ったらそれを言うことは自分自身を守ることだと、子どもたちに伝えること。これを児童クラブ運営事業者は常に実施すること。
もう1つは職員へのコンプライアンス研修。それは2方面から組み立てるべきで、「児童クラブは人権を守る場。犯罪は最悪の人権侵害であることを職員に理解させること」と「あなたを雇っている組織は、職員と組織が犯すすべての犯罪、不法行為を絶対に許さないが、特に性犯罪については徹底的に容赦しない。万が一、それを犯してしまったらあなたの人生、棒にふると思えと厳しく職員を教育すること」を実施する。
・保護者は間違いなく、日本版DBSの認定を受け、性犯罪の前歴がない職員だけが勤務することを望むはずだ。よって児童クラブの事業者は認定を受けねばならない。受けなければ、「うちはバッチリ認定を取っています!」とPRする大手の営利の広域展開事業者によって児童クラブの運営がどんどん奪われていく時代になることは間違いないと私は思う。地域に根差した非営利の児童クラブ運営者は、否が応でも認定を受けること。児童クラブ運営で最優先するべきは「将来も運営していいよと地域社会からOKをもらえること」。いくらせっせと支援の質だ、子どもの権利の大事さを学んでも、そのこと自体が評価されて将来の運営を保障されることは残念ながら、ない。「安定した事業運営、形式的に整った事業運営」こそ重要視される現実から、目を背けるな。
・すでに採用されている職員の配置転換や解雇についてどう対応するか。事実上の就業制限であり、基本的人権との兼ね合いをどう考えるか。特に性加害の「おそれがあると認める時」には事業者に前歴のある者の配置転換が義務づけられるとなっているが、「おそれ」のような極めて主観的であいまいな基準によって働いている人に不利益をもたらしかねない制度は人権上、問題があることを認識するべきだ。この点、国は詳細なガイドラインでその不安の解消をしなければならないが、それが本当にできるのか。すでに更生して立派に働いている人をごく少数の回数かつ軽微な性犯罪の前歴で「あなたには将来の犯罪のおそれがある」として解雇することで、解雇された者が自暴自棄となって新たに犯罪を起こす動機になりえないか。児童クラブの事業者は、日本版DBSにもろ手を挙げて賛成するだけでなく、こうした社会的な問題についても同時に考える姿勢が必要ではないのか。
そして、私が「想像したくないが、充分ありえる」という最悪の事態は次のようなことです。
日本版DBSでは、犯罪歴がある人についてその情報が事業者に通知されます。ところが学童の世界は極端な人手不足です。大手の営利の広域展開事業者にはよくありますが、「現場レベルで資質上、また実際の実務上、極めて問題がある職員だから、何とか(つまり、クビに)してほしいと、上層部に何度も伝えているけれど、一向に改善されない」ということは日常茶飯事。補助金交付の関係で、職員数が充足していなければなりませんから、おいそれと問題があるからといって問題が多い職員の雇用を取りやめることは滅多にありません(もちろん、不当な解雇はあってはならないのですが)。
現実に、人手不足で追い込まれた事業者が、市区町村と取り交わしている契約等で配置数が決まっている職員数が充足できず、事業者がその実体を隠蔽したのが、昨年夏に都内で発覚した補助金の不正受給の構図です。つまり、コンプライアンスの軽視です。この児童クラブの世界は残念ながら、コンプライアンスを最上位に考えるという習性が、薄いのです。
日本版DBSでも、仮に、求人に応募してきた人に性犯罪の前歴があったとして、その情報は応募者本人には当然通知されますが、そのまま応募を辞退しなければ事業者にも犯罪事実確認書として通知が届きます。ところがその通知が事業者の「かなり上の部門」に通知されるようになっていて、事業者は求人応募者に前歴があることを承知していたとしても、「まあ、このくらいの前歴だったら、大丈夫だろう。そもそも、人が足りなくてどうしようもない」と、そのまま性犯罪歴のある者を何食わぬ顔で採用し、現場に配置する。例えば名前を、直接、子どもに関わらない部署に配属しておいて書類上はそうしておきながら、実際は、欠員を埋めるヘルプ要員や応援要員として使用する。
このような想像を「ありえない」と、私は片づけられません。児童クラブの世界において、どれほどコンプライアンスが軽視されているか何度も見てきています。「ただ単に車いすであることだけで入所を拒否される、あまりにも不当な差別」が堂々とまかりとおっている世界です。児童クラブのコンプライアンスについて、私は残念ですが、信頼に足るとは、とても思えないのです。
子どもに対する性犯罪を防止することに役立つことは間違いない、日本版DBS。しかしそれが適切に適正に運用できるかどうかは、やはり児童クラブの運営事業者の高いコンプライアンスの意識に左右されます。その点は、しっかりと国民、そしてメディアが常に監視していかねばなりません。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
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