「放課後児童対策パッケージ2025」の紹介と根本的な疑問点の指摘をします。スキマバイトの活用?まじですか?
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。国は2024年12月25日に「放課後児童対策パッケージ2025」を公表しました。2025(令和7)年度の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)を含む放課後児童対策について国の方針を示したものです。前年に初めて発表されて今回が2回目です。前年に比べてボリュームがかなり増しました。運営支援が気になる点の紹介と、根本的な疑問点を指摘します。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<放課後児童対策パッケージ2025の超・概要>
放課後児童対策パッケージはこども家庭庁と文部科学省の2省庁連名で発出されています。2回目となる今回は分量がかなり増えました。どういうことが挙げられているか、項目のタイトルだけ列記しましょう。長いですが項目のタイトルを読むだけで内容は大まかに想像できますから、目を通してください。
・パッケージ 2025における新規・拡充事項のポイント(2024年度には無い)
・放課後児童クラブを開設する場の確保(2024年度にもある)
・放課後児童クラブを運営する人材の確保(2024年度にもある)
・適切な利用調整(マッチング)(2024年度にもある)
・時期的なニーズの変動等への対応(2024年度には無い)
・自治体へのきめ細かな支援とコミュニティ・スクールの仕組みの活用推進(2024年度には無い)
・多様な居場所づくりの推進(2024年度にもあるが、置かれている場所が異なる)
・放課後児童対策に従事する職員やコーディネートする人材の確保(2024年度にもある)
・質の向上に資する研修の充実等(2024年度にもある)
・市町村、都道府県における役割・推進体制(2024年度にもある)
・国における役割・推進体制(2024年度にもある)
・放課後児童対策に係る取組のフォローアップについて(2024年度にもある)
・子ども・子育て支援事業計画との連動について(2024年度にもある)
・こども・子育て当事者の意見反映について(2024年度にもある)
つまり根本的な組み立ては2024年版と2025年版は同じで、2025年版の全体の分量が増えているということは個々の項目に関しての記述量が2024年版と比べて増えているということです。2025年版で目新しいことは冒頭部分に「パッケージ2025 における新規・拡充事項のポイント」を記述していることです。これは特に重要と国が考えていることを全面に押し出していることがあります。この部分は2024年版に関する取り組みの振り返りと評価に相当するもので、この掲載は評価できるでしょう。
2025年版に関して個別に言及されている項目をさらに紹介します。
・放課後児童クラブの施設整備に係る補助率の嵩上げ(2024年度にもある)
・学校(校舎、敷地)内における放課後子供教室と連携する放課後児童クラブの整備推進(2024年度にもある)
・学校外における放課後児童クラブの整備推進(2024年度にもある)
・賃貸物件等を活用した放課後児童クラブの受け皿整備の推進(2024年度にもある)
・学校施設の積極的な活用(2024年度は保育所を含む形で掲載)
・保育所等の積極的な活用(2024年度は学校施設を含む形で掲載)
・民間事業者による放課後児童クラブへの参入支援(新規。2024年度には無)
・スモールコンセッションによる事業所整備の周知(新規。2024年度には無)
・放課後児童クラブにおける常勤職員配置の改善(2024年度にもある)
・放課後児童クラブに従事する職員に対する処遇改善(2024年度にもある)
・放課後児童クラブに従事する職員の確保支援(新規。2024年度には無)
・平日夜間の人材確保支援(2024年度には無)
・保育士・保育所支援センター等やハローワークと連携した人材確保支援(2024年度には無)
・ICT 化の推進による職員の業務負担軽減(2024年度にもある)
・育成支援の周辺業務を行う職員の配置による業務負担軽減(2024年度にもある)
・放課後児童クラブ分野の DX 化による職員の業務負担軽減(新規。2024年度には無)
・正確な待機児童数把握の推進、待機児童の詳細の公表(「詳細の公表」は2024年度には無)
・放課後児童クラブ利用調整支援事業や送迎支援の拡充による待機児童と空き定員のマッチングの推進等(2024年度にもある)
・夏季休業期間中における放課後児童クラブの開所支援(2024年度には無)
・年度前半の放課後児童クラブの開所支援のあり方の検討(2024年度には無)
・支援の単位あたりの児童数の考え方の検討(新規。2024年度には無)←要注意!
・待機児童が多数発生している自治体への支援(2024年度には無)
・コミュニティ・スクールの仕組みを活用した放課後児童対策の推進(2024年度にもある)
・放課後児童クラブと放課後子供教室の校内交流型・連携型の推進(2024年度にもある)
・こどもの居場所づくりの推進(2024年度にもある)
・コミュニティ・スクールの仕組みを活用した放課後児童対策の推進(2024年度にもある)
・特別な配慮を必要とする児童への対応(2024年度にもある)
・放課後児童クラブ待機児童への預かり支援実証モデル事業(新規。2024年度には無)
・朝のこどもの居場所づくりの推進(2024年度にもある)
・能登半島地震を踏まえた災害時の放課後等におけるこどもへの支援(2024年度には無)
・地域学校協働活動推進員の配置促進等による地域学校協働活動の充実(2024年度にもある)
・放課後児童対策に関する研修の充実(2024年度にもある)
・性被害防止、不適切な育成支援防止等への取組(2024年度にもある)
・事故防止への取組(2024年度にもある)
・「はじめの 100 か月の育ちビジョン」と連携した広報(2024年度は別タイトルで記載あり)
・放課後児童クラブ運営指針の改正(新規。2024年度には無)
・いわゆる「スキマバイト」への対応(新規。2024年度には無)←要注意!
・市町村の運営委員会、都道府県の推進委員会の継続実施(2024年度にもある)
・総合教育会議の活用による総合的な放課後児童対策の検討(2024年度にもある)
・放課後児童対策に関する二省庁会議の継続実施(2024年度にもある)
・放課後児童対策の施策等の周知(2024年度にもある)
・放課後児童クラブの整備(2024年度にもある)
・放課後児童クラブと放課後子供教室の連携(2024年度にもある)
・学校施設を活用した放課後児童クラブの整備(2024年度にもある)
<要注意2点>
上記のタイトルを見るだけで、放課後児童対策パッケージは2025年版と2024年版は、「基本的には内容はほとんど同じ」であることと、「学校との連携で居場所を作ろうと相変わらずの方針を続けている」こと、「PRや情報の周知で現状を打開しようとしている」ことがお分かりになることと思います。さらに付けくわえるならば、児童クラブという仕組みを外れた単なる「居場所」であっても緊急に整備してなんとか待機児童を減らしていきたいという方針を明確にしたことがあります。
さて2つ、運営支援が気になる点がありました。1つは「支援の単位あたりの児童数の考え方の検討」です。新規です。説明には「待機児童が発生している状況下において、やむを得ない理由により、一時的に望ましい人数を超過した場合の考え方について整理する。その際には、利用実態を把握するとともに、よりこどもの安全確保対策に資する観点をもって検討する。」とあります。これは定員を超えた弾力的な運用をしているクラブへの補助金の配慮を示すものと運営支援は想像します。安全確保対策はハードとソフトがありますが、職員の追加配置に関する補助増加を検討するものではないでしょうか。具体的には利用児童数が45人を超えても補助金の減額を無くす、あるいは軽減するものになると想像します。
もう1点は「いわゆる「スキマバイト」への対応」です。これも2025年版の新規掲載です。説明には「放課後児童支援員及び補助員が業務を行うにあたって、こどもとの安定的・継続的な関わりという観点から懸念があることを踏まえ、その活用についての考え方を整理し、周知する。」とあります。文字通りの解釈をするなら、一定の前提のもとにスキマバイトの活用を認める、と読み取れます。その前提の内容によっては、育成支援が重要としてきた、子どもとの安定的かつ継続的な関わりという根本原理を損ねる可能性があります。そのような場合は、放課後児童健全育成事業は表向き児童の健全育成という看板を掲げながらその実態は「子どもを見張る場、預かる場」と堕落する可能性があります。
といはえ、現在直面する人手不足に対応することを踏まえると、運営支援としては「子どもへの支援、援助を行わない周辺業務(運営本部の事務作業や施設の清掃要員)」もしくは「所外活動やイベントなどで必要となる安全確保のための業務(立入禁止の場所を見張る、通行の安全を確保する一時的な見張り業務)」に限ればスキマバイトの活用を許容しても良いと考えます。外遊びの要員や送迎担当は子どもと接するのでスキマバイトの活用を認めるべきではないでしょう。
いずれにせよ超短期の雇用契約となるスキマバイトは、きたる日本版DBSと極めて相性が悪い制度(特定性犯罪の前歴確保など)と思われますから、スキマバイトに頼らずとも職員を確保できる根本的な問題の改善に国は取り組むべきです。
<最後に。懸念点を簡潔に言う>
放課後児童対策パッケージの内容は、「既存の制度をしっかり活用して子どもの居場所を確保してください」という内容に尽きます。新たな施設の整備についても従来から続いている補助率かさ上げの継続ですし、自治体への周知を図る、あるいはPRをしっかり行うという、いわば技法を凝らした内容です。実に多彩な分野に技法を凝らしています。しかし、2024年と実のところあまり内容そのものの根本的な変化はありません。
ということは、残念ながら今の放課後児童対策を巡る現状は、大きく打破できない、さして変わらないということです。今までと同じ事の延長線上にある限り、今までの流れは変わらないのは当たり前です。
放課後児童対策パッケージは、私が思うに、大前提を基に緻密に組み立てられた技法、アイデアです。その大前提は「投下できる予算はさほど変わらない」ということです。つまり、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」を地で行っているのです。カネが足りないから知恵と工夫でしのいでいこう、ということ。まるで旧軍ではないですか。
放課後児童対策パッケージはつまるところ、放課後児童クラブという施設の不足そのものです。施設が足りない。なぜか。地方自治体にカネがないから増やせない。少子化なので建てた施設がいずれ無駄になるのに固定経費だけは延々と負担しなければならないので施設を増やしたくても増やせない。頼みの学校施設はそう簡単に児童クラブにならない。やっぱり、国の補助率を大幅に増して、自治体の負担を思い切って軽減して施設を増やせばいいのです。
仮に補助金を得て建てた施設であって用途外転用ができない足かせのゆえ自治体が児童クラブ整備に躊躇するのであれば、地域共同コミュニティーセンターでも何でもいいので複合施設として名目を立ててクラブを建てさせれば良いではないですか。
施設を増やしても働く人がいません。給料が安すぎるからです。人件費に回せるカネ、予算がないから職員数も増やせず、職員1人あたりの業務量が多くなりすぎて仕事がきつすぎるのです。給料が安くて仕事量が多ければ、職員は募集しても増えません。放課後児童対策パッケージ2025には「保育士・保育所支援センター等やハローワークと連携した人材確保支援」として、「放課後児童支援員については、希望する就職にはつながりやすい一方で求職者が少ない現状を踏まえ、ハローワークと連携して潜在層の掘り起こし等を行う。具体的には、ハローワークにおけるセミナー就職説明会等の場において、保育士等とあわせて放課後児童支援員についてもその対象とする等、様々な機会を通じて採用機会の拡大を図る。」とあります。間違いです。潜在層を掘り起こしたとて、ブラック業界である児童クラブの仕事に就く人はそうそう増えません。これが小手先の技法です。
職員不足を増やすには、児童クラブで働きたいと思う人を増やすことです。それには「給料がそれなりにある。仕事量も給料に見合ったものである。しっかり休める」当たり前のことを実現することです。それには、やっぱり、予算です。カネです。運営費補助を増やさないことには、いくら小手先の技法を掲げても、職員不足は「絶対に」解消しません。
施設がない、職員がいない。それでは放課後児童対策がうまく進まないのは当たり前です。技法を凝らしてある程度の解消は見込めるでしょうが、それはごく少ない自治体の、児童クラブに優先的に予算を振り分ける決意をしたところぐらいでしょう。少なくとも国は、児童クラブへ割り当てる予算を増やせないなら、自治体に対して児童クラブに振り分ける予算の優先順位を上げるよう強く圧力をかけるべきでしょう。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。書籍の注文は、まずは萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます! 大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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