「常勤職員0%」の衝撃! 放課後児童クラブの仕事が「食べていけない」のは「常勤」の位置づけが不可解だから!下

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブの仕事は、今も昔もずっと人手不足です。それは「生活できる職業ではない」という事情があります。地域によっては児童クラブの「常勤」の職員が0人という、信じられない現象があります。児童クラブにおける常勤職員に対する社会の理解が緊急に必要です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<前回のおさらい:衝撃的な「常勤職員0人」>
 放課後児童クラブは、放課後児童支援員という公的資格者を配置することになっています。厳密には配置が義務ではありませんが、ほとんどの地域では条例によってこの資格者の配置が必要と定めています。児童クラブであれば、放課後児童支援員という資格者がいるんだ、と思ってください。その放課後児童支援員ですが、地域によっては常勤で働いている人が存在しないという事態になっています。例えるならば、保育所の保育士さんが全員、パートとアルバイト、ということです。果たして保護者はそれで安心して我が子を児童クラブで過ごせられると考えるのでしょうか。 

 では、放課後児童クラブにおける常勤職員とはなにか。「日本の学童ほいく」2024年12月号の「協議会だより」(74~75ページ)に「創設された補助基準額の課題点」として、放課後児童クラブにおける常勤職員について解説されているので、ご参照ください。
 国(こども家庭庁)が示している定義としては、次のようなものになります。2つあります。
(1)「原則として放課後児童健全育成事業を行う場所(以下「放課後児童健全育成事業所」という。)ごとに定める運営規程に記載されている「開所している日及び時間」のすべてを、年間を通じて専ら育成支援の業務に従事している職員」
(2)「運営規程どおりに開所した場合の1週間の総開所時間数(40時間を超える場合は40時間を上限とする)の8割以上を育成支援の業務に従事する職員も対象に含めるものとする。この場合の総開所時間数は小学校の長期休業期間を除いた平均的な1週間から算出すること。」
(放課後児童健全育成事業の常勤職員配置の改善に係るQ&A 令和6年5月21日)

 一言で言ってしまうと、国(こども家庭庁)は、児童クラブの常勤職員について「2つのモノサシ」を持っていることです。私が思うに、このモノサシの目盛りは、効率的な補助金の使い方に配慮した目盛り、それはつまり「いかにして職員に支給される賃金を減らせるのかを意識した目盛り」になっているのではないか、ということです。

<気になる報道>
 本題に入る前に、私が気になった報道を1つ紹介します。福島民友の2025年2月8日8時10分に配信された社説記事で、見出しが「学童保育/子育て環境充実の試金石だ」という記事です。一部を引用します。
「希望者全員の受け入れを阻んでいる要因の一つは、子どもたちを見守る支援員のなり手不足だ。学校の長期休業以外の間の勤務時間は、小学校の放課後が中心となるため、その報酬のみでは生計が立てにくい状況がある。ほかの産業も含めて人員確保が課題となるなかで、あえて支援員を選ぶケースは少ないのではないか。関係者からは午前中は別の仕事をして、放課後には学童保育を担うなどのアイデアも聞かれる。学童保育を運営する市町村などは、支援員業務を担う人が収入を確保できるモデルを示すなどして訴求力を高めていくべきだ。」(引用ここまで)

 この社説記事そのものは、放課後児童クラブの充実を呼び掛けている、とてもありがたい記事です。ただこの社説記事の、上に引用した部分が、私はとても気になりました。
 確かに、児童クラブは慢性的な人手不足です。この引用部分に記されているのは、放課後児童クラブの仕事は「放課後が中心」ということを前提として論が繰り広げられているまさにその様子です。放課後の短時間の仕事であれば確かに時間単位の賃金の積み重ねが少ないので、とても生計が成り立つだけの報酬を得られないでしょう。
 そもそも、その前提が間違っていることに、社説を執筆された記者(論説委員?)が気付いていない。

 そしてその先です。「午前中は別の仕事をして、放課後には学童保育を担うなどのアイデア」です。これは岡山県内など他地域ですでに行われているようですが、例えば午前中は保育所や認定こども園、放課後は児童クラブで勤務して、1日の所定労働時間を比較的長い時間設定するということです。そうすれば、時間単位の賃金の積み重ねが増えていくので、それなりの月収額が得られる、ということ。こういうアイデアを取り入れてみては?という推奨のように、この社説記事がさりげなく伝えているように私には感じられました。

 これもまた困った考え方です。いいですか、児童クラブの職員の仕事は、「子どもが児童クラブに登所している時間帯(及びその前後のわずかな準備時間、後始末時間)」で完結するものでは、ありません! 世間は大いに勘違いしています。スーパーマーケットなど小売店の「レジ係」の仕事では、ありません。レジ係であれば、店の営業時間とその前後のわずかな準備・後始末時間で勤務は完了するでしょう。児童クラブの仕事は違うのですよ。レジ係のような、対面の業務だけではなく、スーパーマーケットでいえば、「店長業務、総務業務、発注業務、経理会計業務、渉外業務、店舗経営業務」など、そのスーパーマーケット店内で行われているありとあらゆる業務を、児童クラブの職員は、行っているのです。店の営業時間とその前後のわずかな時間だけで完結するような業務ではありません。

 児童クラブの場合でいえば、子ども個人および子どもたちのいろいろな集団に対する育成支援の方針を立てたり、方針に従って実施した育成支援の結果を収集して分析し、それをまた次の期間の育成支援の方針、計画に反映させるための、職員同士の会議は必須です。企業で言えば経営方針、業務目標を設定し、その目標到達のための方法論を協議検討する、極めて重要な部分を、児童クラブは児童の登所する前の時間を使って行っています。
 また、自身の育成支援に対する理解や実技の精度向上のために研修や事例発表などによる研究を行っています。それもまた、児童が登所する前の時間帯が必要となる重要な理由です。

 要は、児童クラブにおいては、「放課後の時間」だけが業務に必要な時間では、全くないことを、私は厳しく訴えます。いい加減、社会は、よく考えれば「あ、そりゃそうだ」という事実に、気付いてください。
 なお、当然ながら、児童クラブのすべての職員に当てはまることではありません。児童クラブにおける業務の中核を担う常勤で勤める職員が、登所前の長い時間を業務に必要とするということです。パート職員も、週に3日以上の勤務があるなら、月に数回は午前中に設定されることが多い研修や研究、育成支援の中身を具体的に検討する会議体に参加することが必要でしょうが、必ず毎日ということではありません。いわゆる正規職員、常勤職員であれば必要だ、ということです。

<そもそも、国が常勤職員の勤務時間を軽視しているのが、大問題だ>
 さて、先に記した内容に戻ります。改めて記載します。
 国(こども家庭庁)が示している定義としては、次のようなものになります。2つあります。
(1)「原則として放課後児童健全育成事業を行う場所(以下「放課後児童健全育成事業所」という。)ごとに定める運営規程に記載されている「開所している日及び時間」のすべてを、年間を通じて専ら育成支援の業務に従事している職員」
(2)「運営規程どおりに開所した場合の1週間の総開所時間数(40時間を超える場合は40時間を上限とする)の8割以上を育成支援の業務に従事する職員も対象に含めるものとする。この場合の総開所時間数は小学校の長期休業期間を除いた平均的な1週間から算出すること。」
(放課後児童健全育成事業の常勤職員配置の改善に係るQ&A 令和6年5月21日)

 (1)は「開所している時間」というのが問題です。というのは、小学校の授業がある日については、1日3時間以上としています。1日3時間を最低限度として、開所時間を定めています。ですので、市区町村によっては、「うちは、学校のある日の児童クラブの開所時間は3時間とするよ」と決めることができます。ということは、1日3時間を開所時間と決めた市区町村においては、「1日3時間の開所時間帯を勤務している職員は、常勤職員である」と定義することが可能となる、ということです。実際は、低学年の児童が放課後、児童クラブに登所するのが午後2時半ごろであれば3時間の開所時間では午後5時半に閉所することになっていまうので、3時間以上という設定をするでしょう。それでも、午後2時半から午後7時までの児童クラブ開所の場合は4時間30分の勤務時間となります。
 1日の所定労働時間が4時間30分、週の所定労働時間は22時間30分です。それで、生活ができる月収が得られるかどうかといえば、不可能でしょう。よほど時給が高くないかぎり。そして高い時給はまったくもって児童クラブの世界ではありえません。

(2)は、文章が長いですが言っていることは(1)とあまり変わりません。市区町村と事業者が定める「運営規程」に定めた、学校の授業がある期間における1週間分の開所時間の合計時間数の8割以上を働いている職員を常勤職員とすることができますよ、というものです。ここで上限は法定労働時間の40時間と定めているので、8割以上は32時間となりますが、仮に運営規程で「うちの地域の児童クラブは、週の開所時間の合計を22時間30分としますよ」となっていた場合、その8割以上を出勤していれば常勤職員としてもいいよ、ということになります。つまり週18時間以上の勤務で常勤職員とみなせる、ということです。それではもうアルバイトと同じ勤務時間です。
 それで、常勤職員といわれても、お小遣いの足しになる程度の収入しか得られませんよ。

 国は本気で、こんなばかげた内容をごり押ししています。つまり児童クラブの常勤職員は、あくまでも、子どもが登所している時間帯の勤務が中心で、それ以外は最低限の準備・後始末時間以外は不要だ、という考え方が、こども家庭庁の中の人にも根付いていると、思わざるを得ません。

 市区町村も、児童クラブに対する予算の際限ない膨張を防ぐために、なるべく費用の8割程度を占める人件費の圧縮、節約を徹底します。すると、「常勤職員の時間をより短くできれば、人件費が減らせる」という考え方に立ち、ますます常勤職員の勤務時間数を減らす方向に向かって努力します。机上でパソコンをいじった結果、あと数百万円も予算案の要求額から減らせるじゃないか!と、財政担当者が喜ぶのです。そこには、「児童クラブで汗水たらしながら、子どもと保護者と向き合っている児童クラブ職員の安定した生活の保障」などという意識は、皆無でしょう。

<単純なことを理解してほしい>
 以下、とても単純なことを訴えます。
・児童クラブの仕事は、児童が登所していない時間帯にこそ、その事業の質を支える業務が行われている。
・よって、現時点で使われている「開所時間」という文言の使用を廃止して今後は「児童受入時間」と改称するべきだ。(某ほいく誌では「保育時間」と称していますが、どこまで保育から離れられない思考は疑問です)
・児童クラブの業務を行うために必要な研修や研究、育成支援討議の時間を常勤職員に必須の時間帯として理解し、常勤職員の勤務時間を改めて再設定すること。「児童受入時間」の前に「育成支援準備時間」として常勤職員に必須の勤務時間帯を設定すること。この「育成支援準備時間」を従事しない常勤職員は常勤職員ではないとみなすことも賛成。
・結局のところ、常勤職員にとって必要な週の労働時間はおよそ定まってくるので、とりあえず「週30(または32)時間以上の従事する職員で、1年間以上の雇用期間を契約している者を常勤職員とする」という規定を取り入れること。これが一番分かりやすい。

 なお、午前中は別の職場での業務、午後は児童クラブというのは、過渡期においては、生計に必要な報酬を得るための工夫としては私は利用価値はあるものと考えます。ただし、児童クラブの主任や施設長といった、そのクラブでの育成支援の中核的な職務を担う職員は、他業種との兼務は不適当です。その他の正規、常勤職員を対象に、週に1~2日であれば認めても構わないという立場です。もちろん児童クラブにおける「育成支援準備時間」が重要な時間であり、その時間には賃金を十分に支払う理由があるからです。育成支援準備時間が完全に整って制度として定着するまでの過渡期であれば、他業種との掛け持ちも、まあ、ちょっとは仕方ないかな、という程度です。午前中は他の職場で充分だと思っているようでは、児童クラブの本質をやはり理解していないと私には感じられます。

 1日3時間や4時間の勤務で常勤職員だ、というのは、まやかし以外の何物でもありません。しかも極めて悪質です。その施策は当然、児童クラブの予算のうち8割程度を占める人件費の抑制になり、結果的に、福島民友の社説が危機感を持っている人手不足に、さらに拍車をかけるだけです。そして最終的に、補助金を得て児童クラブを運営している事業者が「営業努力の結果、これだけの黒字を生み出した」として事業者の利益となっていくのです。補助金ビジネスの、実に強力な支援をしているのが、この常勤職員の労働時間を意図的に短時間に留める施策と、私は考えます。こういう施策を編み出すこども家庭庁に対しては、補助金ビジネスでウハウハの児童クラブ運営企業と手を組んでいるのではないかという、根拠が全くない陰謀論さえ、私は考えてしまいますよ。それぐらい、残念に考えます。

 ごく普通に、「午前中の時間こそ、児童クラブにとって、育成支援の質を左右する時間である」と理解してください。

 最後に、当然、児童クラブの運営事業者、職員に申し上げます。育成支援の質を支えるための時間で、そこに賃金が発生しているのであれば、職務にまい進していただかなければ困ります。納税者の信頼を裏切る行為です。1分1秒に賃金が発生していることを自覚し、研修や研究に積極的に参加し、自らの育成支援スキルを向上させ、常に研鑽に向き合う姿勢が必要です。社会人として、残念なレベルである放課後児童支援員は存在します。そういう人は、業界の健全な発展を阻害していることを自覚していただきたい。子どもや保護者、同僚や事業者の悪口、陰口をたたいている暇があったら、育成支援の討議を行ってください。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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