「常勤職員0%」の衝撃! 放課後児童クラブの仕事が「食べていけない」のは「常勤」の位置づけが不可解だから!上

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブの仕事は、今も昔もずっと人手不足です。理由はいろいろありますが、大きな理由の1つに「低収入」、つまり「食べていけない」仕事ということがあります。それは、いわゆる常勤の職員が少ないことも原因の1つであると運営支援は考えます。地域によっては、児童クラブにおける常勤職員が0人のところがあります。児童クラブに置ける常勤の位置づけを大転換することが緊急に必要です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<衝撃的な「常勤職員0人」>
 「放課後児童クラブにおける常勤職員」の考え方そのものに問題があるのですが、それはのちに触れるとして、とりあえずは「パート、アルバイトのような非常勤職員ではない、児童クラブの職員。正規職員とほぼ同じ。フルタイム勤務の職員」と思ってください。
 こども家庭庁(以前は、厚生労働省)が毎年12月に公表している、その年の5月時点の放課後児童クラブの実施状況には、放課後児童支援員の人数や、常勤職員の人数が紹介されています。令和6年5月時点の実施状況は2024年12月下旬に公表されていますが、37ページ目に掲載されている常勤職員の状況が実に酷いことになっています。

 ここでは都道府県と指定都市(いわゆる政令指定都市)、中核市ごとに、放課後児童支援員の人数と、そのうちの常勤職員の人数とその割合を掲載しています。放課後児童支援員として働く児童クラブ職員全員が常勤職員、フルタイムであることはありえない(実務上、パートなどの非常勤職員にも放課後児童支援員資格が必要であるため)ので、放課後児童支援員のうち常勤職員が100%になるはずはない(注:そのような不思議な例が1地域であります。後述)のですが、あまりに低すぎるのは問題でしょう。1支援の単位に理想としては常勤職員2人が必要であると運営支援は考えますが、常勤1人と非常勤の補助員1人の支援の単位も多いでしょう。
 ごく大雑把に考えます。放課後児童支援員が全体で5人、そのうち常勤2人のクラブがあると考えます。同様に、放課後児童支援員が全体で4人、そのうち常勤1人のクラブがあると考えます。この場合、放課後児童支援員9人のうち常勤が3人ですので割合は33.3%になります。
 同様に、放課後児童支援員が全体で5人、そのうち常勤2人のクラブが2つあると考えます。この場合、放課後児童支援員10人のうち常勤4人ですから、割合は40%になります。
 同様に、放課後児童支援員が全体で4人、そのうち常勤1人のクラブが2つあると考えます。この場合、放課後児童支援員8人のうち常勤2人ですから、割合は25%になります。
 これを考えると、理想としては常勤職員の割合は40%前後であって、最低でも25%であってほしいのです。

では令和6年の実施状況調査を見てみます。全都道府県の放課後児童支援員のうち常勤職員の割合は34.6%。指定市では25.7%、中核市では35.1%です。指定市が低いのが気がかりです。

 衝撃なのは、常勤職員が0人の自治体があることです。中核市として名を連ねている長野市です。令和6年の放課後児童支援員1,004人のうち常勤職員が0人です。つまり全員が非常勤職員です。信じられません。
 長野市はつい最近、運営主体を変更したようです。以前は社会福祉協議会による運営が主体だったようです。それを、市が出資する一般財団法人ながのこども財団に運営を任せることにしたようで、2024年度は同財団の運営に移っています。その影響なのでしょうか。ちなみに、令和5年の実施状況では、長野市は1,026人の放課後児童支援員に対して常勤職員389人、37.9%の割合でした。

 常勤職員が児童クラブに大切なのは、継続して子どもの育成支援に従事できるからです。それこそ非常勤職員が多い職場において、職員集団の核となって、職員チームとして子どもの育成支援を行う児童クラブに置ける大事な司令塔であり、礎(いしづえ)だからです。それが、すべて非常勤職員となってしまっては、事前に育成支援の計画に沿って子どもへの支援、援助を行うというよりもその場その場における対処療法的な支援、援助に即してしまう懸念が強まるのです。

 いったい、長野市はどうしたのでしょう。常勤、非常勤の区別を「正規=無期雇用」と「非正規=有期雇用」に即して分類してしまったのでしょうか。常勤職員が0人であるということは、私は、育成支援の質に中長期的に見て質の向上において不利に働くのではないかと不安を感じます。

 なお、常勤職員が極端に少ない地域、割合がものすごい低い地域はほかにもあります。
令和6年の実施状況から15%以下の地域を抜粋して紹介します。地名ー放課後児童支援員数ー常勤者数ー割合、の順です。
横浜市ー10,184人ー1,356人ー13.3%
相模原市ー1,529人ー103人ー6.7%
堺市ー1,357人ー97人ー7.1%
一宮市ー525人ー28人ー5.3%
豊田市ー964人ー74人ー7.7%
姫路市ー598人ー52人ー8.7%
鹿児島市ー1,471人ー61人ー4.1%
 これらの地域は単純に、放課後児童クラブに置ける育成支援の質の維持と向上に興味関心がないものだと、私は短絡的に考えてしまいます。いくら子育て支援に力を入れていますと言っていたとしても、信じられません。児童クラブにて行われる育成支援の質の維持と向上に、継続的に従事している者をほとんど配置していないというのは、単に「その時その時、子どもにトラブルがなければいいよ。見張ってくれればいいよ」という本音を持っているとしか、私には思えないのです。

 極端に常勤職員が少ない地域では、どのようにして、子どもへの継続的な育成支援を行っているのか。または職員集団として児童および児童集団への理解及び支援を実施しているのか。共通理解を職員集団として確実に維持できているのか。疑問だらけです。

 なお、常勤職員の割合が高い地域も紹介します。
 都道府県では、青森県が860人ー483人ー56.2%です。50%を越えるのは他に山形県、福島県、新潟県、山梨県があります。押しなべて東高西低です。気象条件による児童クラブの必要性が影響しているのでしょうか。ちなみに民設クラブが圧倒的に多い沖縄県は3,130人ー1,510人ー48.2%と高い割合です。民設クラブが多いということは、「職業」として放課後児童支援員が育ちつつあるといえるのでしょうか。
 指定市では仙台市が圧倒しています。1,446人ー1,078人ー74.6%。これは、仙台市における放課後児童支援員の職業としての構造を調査して他地域に見習ってもらいたいほどです。福岡市も947人ー691人ー73.0%と高い割合ですが、人口に比して放課後児童支援員数が少なく、何か他の要因を調べる必要がありそうです。ほか、静岡市、京都市が50%を越えています。
 中核市では、豊中市は100%です。307人の放課後児童支援員が全員、常勤として計上されています。公設公営が多い地域ですが、会計年度任用職員をすべて常勤職員として計上しているのでしょうか? であれば、それは解釈に問題があります。つまりのちに触れる「運営規程で決められた時間すべてを従事している職員」に該当している、それが例え週15時間(1日3時間で週5日出勤)の勤務でも常勤職員であるという解釈なのかもしれません。もし307人全員が、いわゆるフルタイム常勤(世間的な感覚では、所定の週の労働時間が週30時間以上)であれば、本当に素晴らしいです。
 福山市は308人ー296人ー96.1%、八尾市は303人ー285人ー94.1%です。越谷市も244人ー223人ー91.4%と高い常勤の割合ですが、児童クラブの待機児童も全国ワースト1です。待機児童を出しても児童クラブにおける子どもの過ごす環境と職員の職場環境の質の低下をできる限り避けている、ということでしょうか。甲府市も140人ー119人ー85.0%。
 他、高知市が296人ー239人ー80.7%、また青森市が246人ー195人ー79.3%と高い割合です。ここも職業としての放課後児童支援員の確立が進んでいるのでしょうか。

<当然すぎること>
 常勤職員と非常勤職員の差は、当たり前ですが収入の差、となってきます。報酬は時間単位の賃金の積み重ねですから、所定労働時間が短ければ、月に得られる収入が減るのは当然です。常勤職員でなければ、収入は増えません。まして、時間単位の賃金が最低賃金とさほど差がない児童クラブの仕事です。常勤職員であっても、所定労働時間が短ければ、月の収入額が低くなってしまうのは当然なのです。

 収入が低ければ、求人を出しても応募者が来ません。児童クラブの慢性的な人員不足、人材不足は、時間単位の賃金が低いこととに加え、常勤職員がそもそも少ないことがあるのです。

 ちなみに、常勤職員を雇用している放課後児童クラブの事業者であって、かつ、人材の定着に最大限の注力をしている事業者では、「児童クラブの仕事は、なんとか食える」仕事になります。事業者の形態でいえば、非営利法人で、かつ、それなりの規模のクラブを運営している事業者です。非営利法人ですから得られる収入の多くを人件費につぎ込めます。私は、かつて長を務めていた事業者の経営を担うことになったとき、数年間かけて機構改革を行って、所定労働時間が長い常勤職員の場合、キャリア10年で手取り300万円が目安となる賃金体系に変えました。(なお、所定労働時間が短い常勤職員も新設しました。介護や育児に軸足を置きたい職員への配慮と人件費の効率的な使い方を目指した制度です)

 これが、収入のうち、できるだけ多くを事業者の利益として確保したい事業者になると、職員人件費そのものが「節約の対象、削減の対象」となってしまうので、「食える」だけの収入を与えようという考え方には、なかなかなりません。むしろ、「単身暮らしでの生活、又は配偶者がいたり実家暮らしをしたりしている人で、家計で不足する生活費分を、うちの会社で勤めて収入として得てくれればいい」というコンセプトで職員を募集している場合は、それこそ最低賃金レベルでの収入しか人件費に割り当てません。それでは、常勤職員とて、なかなか暮らせない。いや、常勤職員を配置すらしないでしょう。これは営利、非営利に限りません。むしろ非営利法人で全国各地に展開している広域展開事業者の方が、私は「得られる収入を、しっかりと事業の投資に使っているのか?」と疑問を抱いています。株式会社なら「営利」が目的なので補助金ビジネスに乗り出しているとしても「まあ、そりゃ、そうだろう。カネを稼ぐのが営利企業だからね」と目的としては理解できますが、非営利法人が補助金ビジネスに乗り出しているとしたら、非営利法人の理念を損ねるものであり問題があると、私は考えるのです。

<放課後児童クラブにおける常勤職員>
 ここで、あらためて常勤職員のことを考えていきます。フルタイム職員とも呼ばれている常勤職員とは、事業者が定める勤務時間すべてを勤務する職員のことです。法律によって常勤職員という定義が作られているのではないので、いろいろな考え方がありますが、例えば週40時間の所定労働時間の事業者では、週40時間を働く労働者が常勤の労働者になります。では週32時間の勤務の労働者は常勤ではないのか?という疑問が出てきますが、事業者が設けている就業規則で、週32時間の者も常勤の労働者」とする、と定めていれば常勤で働く人になるのです。

 さて放課後児童クラブの場合はややこしいです。「日本の学童ほいく」2024年12月号の「協議会だより」(74~75ページ)に「創設された補助基準額の課題点」として、放課後児童クラブにおける常勤職員について解説されているので、ご参照ください。
 国(こども家庭庁)が示している定義としては、次のようなものになります。2つあります。
(1)「原則として放課後児童健全育成事業を行う場所(以下「放課後児童健全育成事業所」という。)ごとに定める運営規程に記載されている「開所している日及び時間」のすべてを、年間を通じて専ら育成支援の業務に従事している職員」
(2)「運営規程どおりに開所した場合の1週間の総開所時間数(40時間を超える場合は40時間を上限とする)の8割以上を育成支援の業務に従事する職員も対象に含めるものとする。この場合の総開所時間数は小学校の長期休業期間を除いた平均的な1週間から算出すること。」
(放課後児童健全育成事業の常勤職員配置の改善に係るQ&A 令和6年5月21日)

 一言で言ってしまうと、国(こども家庭庁)は、児童クラブの常勤職員について「2つのモノサシ」を持っていることです。私が思うに、このモノサシの目盛りは、効率的な補助金の使い方に配慮した目盛り、それはつまり「いかにして職員に支給される賃金を減らせるのかを意識した目盛り」になっているのではないか、ということです。
 どういうことでしょう。次回、考えてみます。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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