「小4の壁」。高学年が利用できない放課後児童クラブは大問題です。児童クラブ側にも意識改革が必要だ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。高学年になると、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を退所、退会することはよくありますが、それが不本意な形で行われるとしたら問題です。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<小4の壁は本当にあるのか?>
 放課後児童クラブは当然ながら高学年は退所、退会などで在籍人数は減ります。私が調べた小学生の人数と、放課後児童クラブの在籍者数を比較した資料を見てください。

小学1年生は公立小学校の約47パーセントが児童クラブを利用しています。小学2年生でも約40パーセント。それが6年生になると4パーセントまで減ります。ここで小学3年生と4年生の登録率の差をみてください。小学3年生で約31パーセントだったものが4年生で約17パーセントとおよそ半減します。多くの子どもたちが児童クラブを退所することが分かります。
(なおこの表で、令和元年度と令和5年度の比較をみて、「小学生が減っているのに児童クラブの登録者数が増えている!と、すぐに気付かれた方も多いでしょう。これがまさに、児童クラブに対する社会のニーズが右肩上がりということを示しています)

 こども家庭庁による「令和5年度 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」にもこの状況が明確に表されています。学年別登録児童数を見てみます。

令和5年令和4年増減
小学1年生444,833 (30.5%)435,938 (31.3%)8,895
小学2年生406,190 (27.9%)384,977 (27.7%)21,213
小学3年生311,862 (21.4%)295,006 (21.2%)16,856
小学4年生168,749 (11.6%)158,215 (11.4%)10,534
小学5年生83,072 (5.7%)77,978 (5.6%)5,094
小学6年生42,678 (2.9%) 40,044 (2.9%)2,634

 令和4年度に29万5006人いた小学3年生の児童クラブ登録者は、学年が上がった令和5年、16万8749人になりました。12万6257人の子どもが何らかの理由でクラブを退所退会したということになります。小学4年生から5年生になるときもクラブ入所者数は半減しますが、人数だけでみると小学4年生に上がるときのクラブ退所者数は大きい。

 12万6257人の退所者全員が、小4の壁に阻まれたということではもちろんないでしょう。しかし、私(萩原)が行っている、全市区町村のHPによる児童クラブの状況確認では、ほぼ多くの市区町村で小学6年生まで受け入れとしつつも「低学年優先」「定員に余裕があるときは高学年を受け入れ」というような注釈を付けている市区町村が、ごく当たり前にあります。つまり、12万6000人の退所者のうち、「本当なら児童クラブを利用したかった」という人数がどれだけいるのかについては資料が無いので想像でしかないのですが、「定員に余裕があるときに受け入れます」という制限がかからない段階にある小学2年生から3年生に上がるときの減り具合(6.5ポイント減)との比較から考えると、半減するほど登録者数が減るということは、「クラブの利用が不必要になったから」という理由だけではない事情でクラブを退所した子どもが相当数含まれると言えます。
 また、熊本市のような大都市や、人口30万人もいる福岡県久留米市のように大きな都市でも小学3年生までとしている地域があります。これらの地域では確実に小4の壁が存在しているといえます。

 子ども家庭庁の実施状況では待機児童数も取りまとめて発表していますが、令和5年度において小学1年生の待機児童数2,411人、小学4年生の待機児童数5,044人という数字は、とても12万6257人という減少者数分を正確に反映していると私には受け取れません。社会が気付かない、見過ごしている「小4の壁」は確かに存在しています。それは人知れず困って頭を抱えて途方に暮れている子育て世帯があるということです。それゆえに深刻であり、改善の手を打たねばならないのです。

<高学年は児童クラブが不要という考え方>
 私はすべての小学生に放課後児童クラブが必要だとは全く考えていません。児童クラブを利用するかどうかは、保護者の考え方と子ども自身の過ごし方の希望によって判断されるものです。小学1年生でも児童クラブではなくて図書館で過ごしたい子どもだっているでしょうし、小学6年生であっても下校時や留守番時の防犯面を考えて、あるいは生活規律面を考えて、児童クラブが必要だと考える保護者だっています。少子化の時代、高学年であっても1人で下校や留守番する子どもが心配になる保護者がいるのは当然です。女の子だから危険とは言いにくい世の中ですが、女の子が1人で下校する、家で留守番するとなったら、不安になって仕事に集中できない保護者がいるのは当然です。
 よって、「必要な人が、必要に応じて利用できる」という状態が児童クラブには必要だと考えます。

 その点において、「高学年だから児童クラブは利用する必要はない」と簡単に決めつけることはできません。つまり、「小学4年生になるから児童クラブはもう必要ないだろう、だから退所してもらおう、そうすれば新1年生の入所枠を確保できる。新しい施設を増やさなくとも」、という考えは私は間違っていると訴えたい。まして、
・高学年は自分でやりたいことが見つけられるはず。いつまでも児童クラブで過ごしているようでは「自立」できない。
・児童クラブは子どもを預かる場であって、一人で留守番ができる高学年には必要性は薄い。
 というような考え方は、間違っていると私は訴えたい。

 そもそも児童福祉法において放課後児童健全育成事業は小学生が対象であるとしています。法律がそうしているのに、いくら「地域の実情に応じて」実施することができる放課後児童クラブといえども、法の求める趣旨を逸脱して「小学3年生まで利用できます」とするのは、私はおかしいと考えます。

 児童クラブが必要であるかどうかは、市区町村が判断するものではありません。あくまで、子育て世帯の保護者と、子ども自身が決めるものです。市区町村など行政は、児童クラブが必要だと思う保護者と子どものニーズに対応できるだけの準備が整うように継続的に努力するべきです。「いずれ少子化で児童クラブ利用者の絶対数が減る。施設を無駄に造ってはそれこそ税金の無駄遣いだ」という考え方は行政執行部に根強いものと私は理解していますが、少子化といえども児童クラブの利用者数がずっと増えている現実を過小評価しています。専用施設を造るまでにはないということであれば、小学校の特別教室やテナントの改装で児童クラブとして利用できる場を用意すればいいだけです。専用施設にしたって、2億円だ3億円だの、いろいろな「大人の事情」(地域への経済還流)があって豪華な施設を造る自治体が多いですが、10年、20年機能してくれればいいんだという考え方でプレハブ建築の専用施設を設けたっていいではありませんか。地元の建設業者では施行できず、しかも工費1億円のプレハブでは地元(の工事業者)ウケが良くないと考えるのでしょうが、「子どもの居場所作り」こそ市区町村の役割です。

 これもまた私の想像ですが、放課後児童クラブを管轄する市区町村の部局に案外と教育委員会が多いことによる影響があるのではないかと感じます。子どもの育ちの過程を、教育的なスタンスからのアプローチで捉えるか、児童福祉のスタンスからのアプローチで捉えるか、私は双方に差があるのではないかと予想します。教育委員会的なアプローチでは高学年児童の児童クラブ利用について消極的な考えがあるのではなかろうかと。久留米市のように、こども部局であっても小学3年生までとしている地域もあるのでまったく根拠はないのですが、こういう観点で調査研究する方がおられればいいのですが。

<児童クラブの側の意識改革こそ必要>
 高学年に児童クラブは不要という考え方は、子どもを支援する側にもあります。それは「子どもが成長したから、自立できるようになったから」という観点です。それはそれで理解できますが、一方で「児童クラブで、高学年がリーダー的な存在となって低学年たちやグループを取りまとめている姿に、子どもの成長を感じられる」という意見もまた、児童クラブ職員側からよく聞かれます。

 私が思うに、児童クラブ側が高学年のクラブ利用について消極的な考えを持つとしたら、その背景には次のようなことがあると考えます。
「とにかくクラブの人数が多いので、単純に児童数を減らしたい。今は高学年でも手がかかる子がいる。高学年は自動的に退所としてクラブ全体の児童数が減れば、職員が子どもと関われる時間が作れる」
「あまり言いたくはないが、とにかく乱暴で困ったことを繰り返す高学年が1人でもいると児童クラブの雰囲気がとても厳しくなる。そういう子どもの家庭は児童クラブ側の相談や話し合いにも応じない、無視する、むしろ児童クラブ側が悪いとさえ言いがち。そういう子だけ退所とはできないので、だったら高学年はひっくるめて退所してもらえばいい」

 これは児童クラブの職員の資質や職務への責任感だけでは片づけられないことです。むろん、育成支援という専門職が、むしろその専門性を発揮して子どもと関わっていくべきですが、「児童クラブの施設整備の不備による、入所児童数増加による大規模問題」や、「職務遂行に余裕ができる職員数の配置ができない予算しか組めない程度の少ない補助金しか出さない市区町村の姿勢」が、現場職員の意欲を減退させ、後ろ向きな考えにさせてしまう要因となっています。つまり、支援において限界状態であるということです。

 こういったいわば外的要因なら、クラブ数を増やして適正人数にすることで、補助金を増やすことによる職員数増加でクラブ側の意識改善が可能です。

 しかし私が本当に期待したいのは、低学年であっても高学年であっても、その学年に応じた育成支援があることを児童クラブ側が理解し、「高学年は児童クラブは不要」という考え方をきっぱり捨てることです。さらに進んで申し上げれば、「今の時代の児童クラブは、子どもの預かり機能とそれに伴う子どもの育ちの支援という枠を飛び越えて、保護者と一緒になって子どもの育ちを支え、保護者の子育てを支援することが必要。そこには低学年も高学年もない。子どもへの支援、保護者への支援という観点で児童クラブが機能することが必要だ」ということです。保護者が仕事をしていようがいまいが、児童クラブを利用することで子育て世帯は子育てについてその楽しさや厳しさ、困ったことなどを児童クラブと保護者が一緒になって考え、取り組み、乗り越え、喜びや楽しさを共有していくことが必要だ、ということです。
 もちろん、子どもの居場所は多種多様でいいので、児童クラブだけが子どもの育ちに関わる仕組みである必然性はありません。保護者の意向は重要ですが、児童館だって、スポーツクラブだって、英会話教室だって、子どもが「私の居場所はここだ」と思える場所があれば、子どもはそこで過ごせばいいのです。「私は児童クラブで過ごすことが楽しい」という子どもが高学年になって追い出される事態だけは避けてほしいのです。

 その考え方こそ児童クラブに必要だと私は考えています。そうであればこそ、小学4年生になったら児童クラブはあまり必要ないでしょ、なんていう考え方はまったく生じる余地はありません。

 今はまず、明らかに不足している「子どもの居場所」としての児童クラブ数の数の整備をしていくことです。そうして外形的に小4の壁の発生を防ぐ。その上で、児童クラブの存在意義を根本的に見直し、本質的な意味で小4の壁が発生する余地を無くす。これが必要だと私は考えています。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、7月に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。発売まで、もうまもなくです。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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