「小1の壁」対策に思う歯がゆさ。対症療法として「朝の居場所」で耐える間に国は「育児対応勤務」制度充実を図れ!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
自由民主党の総裁を選ぶ総裁選挙が昨日(2025年9月22日)に告示されました。実質、次の日本国首相を選ぶ選挙です。子育て支援について力強く主張する候補者がいない、あまりにも末期的で滑稽な政党の顔を選ぶイベントです。こども食堂で誕生日ケーキを満面の笑みで食する候補者が現れるにいたってはブラックジョークも尻尾を巻いて逃げ去るほかあるまいな。さてさて総裁選の候補者が気にしていることは、多分ないんじゃないかなという、いわゆる「小1の壁」対策で、市区町村が早朝のこどもの居場所として学校施設を活用することにした、という報道が増えてきました。旧ツイッターでは圧倒的に「そうじゃない。親の勤務時間を短くすることが先だ」と批判の投稿が目立ちます。運営支援は「いま、困っているこどもと親を救う」ことと「できる限り早く小学生の子育てをする世帯への配慮」の双方を訴えます。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<小1の壁>
現在の「小1の壁」は、小学1年生になったこどもの子育てと保護者の就業の両立が困難になる状況、という意味で定着したようです。その中心となる最も厄介な状況は、保育所と小学校における、こどもの受け入れ開始時刻の差がもたらします。保育所は午前7時に開所するので保護者はこどもを保育所に預けて出勤できる一方、小学校はせいぜいが午前7時30分、午前8時近くに開門するところもあり、その間、保護者の出勤時刻に影響が出たりこどもが1人で留守番を余儀なくされたり、という状況が生じます。この、保育所と小学校とのこどもの受け入れ開始時刻の差による保護者の就労への影響そのものを小1の壁と定義づけする報道記事もあります。
運営支援ブログでもたびたび記してきましたが、「小1の壁」は2020年代に入るまでは、その単語が意味するところはほとんどの場合、「放課後児童クラブに入れずに待機児童になってしまう小学1年生が多く、保護者が子育てと仕事の両立に困っている状況」を指すことばでした。言葉、ことばというものは時代につれて意味や用法が変わりますから、小1の壁が、小学1年生を育てる「保護者の立場」から困ること全てを指し示すようになっても、それはそれで当然です。
押さえておきたいのは、常に「保護者」(もしくは保護者に社会的または経済的な活動を求める「社会」)の立場で語られる問題、ということです。ここは小1の壁を考えるにあたって考慮せねばならない、また同時に憂慮せねばならないことです。
<相次ぐ小学校での受け入れ>
このところ、小学校で早朝、こどもを受け入れるという報道が増えています。記事の見出しだけ列記します。
・高崎市全小7時開門へ 来年度 ひとり親家庭など支援(読売新聞オンライン、2025年7月10日5時配信)
・「朝の小1の壁」解消へ 学童保育室で始業前に児童を受け入れ 埼玉・行田で9月から 小学校の登校時間は保育園の預かり開始時間よりも遅く…子育てと仕事の両立を難しく 県内での取り組みは2例目 利用料金は1回100円の予定(埼玉新聞・ヤフーニュースに2025年6月1日7時36分配信)
・「小1の壁」解消へ 江東区・調布市で“朝の居場所づくり”(TOKYO MX・ヤフーニュースに2025年9月9日10時50分配信)
・地域の高齢者が一役…保護者悩ます『小1の壁』解消へ 小学校で登校時間前に児童を預かる取り組みスタート(東海テレビ・FNNプライムオンラインとしてヤフーニュースに2025年9月12日5時33分配信)
・「小1の壁」対策で来春から全18校で朝の預かり事業開始 渋谷区(朝日新聞・ヤフーニュースに2025年9月18日11時15分配信)
立て続けに小学校を早朝のこどもの居場所にするとの報道があったことで、わたくし(萩原)が旧ツイッターを見ている限り、猛反発の投稿が相次いでいるように見受けられます。猛反発の内容はおおむね次のような内容になっているようにわたくしには見受けられます。
・おそらく教員の属性であろう立場の方から、「これ以上、教職員に責任と労働を押し付けて教員からさらに犠牲を生むのは我慢ならない」とする反発。
・おそらく保育系の世界に属する立場の方から、「こどもの成長に悪影響だ」という「育ちへの影響を懸念」する懸念と、少数ながら「こどもがかわいそう」とする同情。
・おそらく働いている側、制度を利用する側に属する立場の方から、「そんなことまでして働かなければならないのは嫌だ」という不満と、「利用するけれどそこまでしないと暮らせないのは悲しい」という悲哀。
旧ツイッターは文字数制限もあり、投稿主が伝えたいことの数分の1しか書き込まれていないという事情はきっとあるでしょう。そういう制約を考慮しても、旧ツイッターを見ているわたくしには、「小1の壁を小学校を利用することで解消する」という方法は、あまり筋の良くない解決法に感じられます。こどもを取り巻く種々の立場や環境、それは保護者は当然、小学校や保育関係から賛同の声が(旧ツイッター限定ですが)ほとんど見られないのは、実世界でも、「それはグッドアイデア!」と賛同する意見の持ち主は、きっとあまり多くはないからでしょう。
<先駆者は、こうしていた>
早朝のこどもの居場所の問題がメディアで次々に取り上げられるようになったのはほんの1~2年です。それ以前、2023年以前は単発的に報じられる程度でした。単発的に朝のこどもの居場所問題が報じられても「小1の壁」というラベルは貼られていませんでした。
例えば、朝日新聞(EduA)が2022年8月10日付としている記事は、早朝のこどもの居場所づくりでは先駆者といえる神奈川県大磯町での取り組みを紹介しています。見出しが「学校の開門時間前、安心して過ごせる「朝の子どもの居場所」をつくる 神奈川・大磯町の取り組みとは」となっている記事です。インターネットで読める限り、この記事には小1の壁という文言は登場しません。3年前の記事ですが、朝日新聞らしい丁寧な取材で、朝のこどもの居場所問題を知るにはとても参考となる良記事です。
(結局のところ、報道の世界においては、世の中で起きている又は起きた出来事に対して、何らかの「目印」「マーク」となる「ラベル」がつけられるようになると、そのラベルを付けられるようになった事象について取材して取り上げることが容易になるのです。そのラベルと記事の関係は、スポーツ新聞の見出しと記事が好例です。定番の見出しが付けられる事象は、こぞって記事にされやすくなるのです。「ドーハの悲劇」がいい例です。小1の壁も、保護者の子育てが難しい事例を「小1の壁」とラベルを張るようになってから相次いで取り上げられるようになった、と言えるでしょう)
早朝のこどもの居場所事業を大磯町では2016年に始めています。これが早いかどうかですが、報道されたタイミングは早かったかもしれませんが、実のところ、2016年にはとっくに早朝のこどもの居場所については「なんとかならないのか」という声が子育て中の保護者からたくさん上がっていたはずです。わたしは2011年度から児童クラブを運営するNPOの理事になり、2014年8月からは専従(つまりNPOから報酬をもらう)として児童クラブ経営に携わっていましたが、その時にはとっくに「夏休みの学童のスタートが午前8時では遅すぎる!」という保護者からの怒りの声をたくさん浴びてきました。「保育所は7時から。学校だって7時半から。なんで学童だけ8時からなの!」と、それはそれは機会あるごとにお叱りの声をいただきましたし、年に1度の法人総会に対する保護者からの質問、要望には、開所時刻の前倒しを求める内容が半数を占めていました。当たり前ですがこの問題の解消に取り組み、数年かけて(職員の理解を求めたり行政と調整したり費用工面の仕組みを整えたり制度を変えたりで時間がどうしてもかかるんです!)午前7時30分受け入れ開始としたところ、お叱りや苦情はほとんどなくなりました。
大磯町の取り組みで注目したいのは、放課後児童クラブの施設を使っていることです。こどもの対応をするのも児童クラブの職員。小学校ではありません。これが教員界からの反発や批判を呼び起こすことを防いでいるのでしょう。児童クラブ界隈からも「そんな朝早くはこどものためによくないよ」という声は当然あがるのでしょうが、なにせ規模の小さなニッチな業界ですから社会になかなか児童クラブのホンネは届かない。
<不幸な展開も>
旧ツイッターで、小1の壁問題についてあれこれ投稿が飛び交う中で、つい最近、悲惨な争いも目にしました。保育士であると思われる方の投稿で、こどもが朝7時から夜7時までずっと保育所に預けっぱなしにされている、親が休みと思われるときでも保育所が利用されていることについて保護者を批判する内容でした。その投稿は多くの賛同を集めていましたが、これに対して、医療業界に従事していると思われる方から、社会のために懸命に働くのにつらい気持ちでこどもを預けているのにそれを保育側から理解されていないことに呆れる内容の投稿があり、それにも賛同が集まっていました。
いかにも残念な出来事です。
<運営支援の立場>
運営支援の立場は明快です。
「いま、困っている子育て世帯を支えるために、どんな形であろうとこどもの居場所は国と行政が整備する」
「できる限り早く、朝のこどもの居場所に悩む子育て世帯を大幅に減らせる効果的な施策を国が導入する」
つまり、「今とりあえず対処療法的に早朝のこどもの居場所づくりは必要。しかし問題はそれで解決していない。発熱した熱を下げただけ。早朝のこどもの居場所が必要とならざるを得ない社会の仕組み、働き方の仕組みをできる限り変える施策を、国が法令を使って実施すること」が必要だと、運営支援は訴えます。これまでにも何度も表明しています。
最近打ち出される小1の壁対策に批判の声が上がるのは、こと、激務が問題視される教員の待遇に関わるからです。正規の教員は増やさないで小手先だけでる職場環境を変えようとする国の方針がそもそも不信を招いているのですから。これ以上さらに教員に管理責任を負わせるのか、という教員側の訴えがあるとしたらわたくしもそれは同情します。
(運営支援の主張)・小1の壁解消として小学校を使うのであれば、教員ではない人材を使うべし。自治体が一般予算で人件費を計上し、有償ボランティアという形態ではなくて労働者として業務を確実に実施できる人材を雇用して、こどもの受け入れを実施するべし。日本版DBS制度との関係も精査するべきだ。
長い時間、こどもがかわいそうだという意見も根強いですね。朝7時から早朝受け入れで学校等に来たこどもは、放課後に児童クラブを利用するならば夜7時ごろまで、ずっと家庭の外で過ごすことになります。そのことがもたらす肉体的と精神的双方の疲労と、「親子で過ごす時間の短さによる悪影響」について懸念、心配する意見があります。わたくしはこの意見にあまり共感を覚えません。
(運営支援の主張)・長時間、こどもが自分の家で過ごせないことの不利益を、まさにできる限り解消するのが放課後児童健全育成事業である。「遊び及び生活の場」と定義されているのはまさにそのことではないか。だとすれば、できる限り、こどもが安心して過ごせる場として児童クラブがあるように児童クラブの設置者、運営者ともに最善を尽くすべきである。「なるほど、家庭では長時間過ごせない。でも、こどもにとって居心地が良い児童クラブでゆっくり過ごせますよ」と児童クラブ側が胸を張れるような運営を目指すべきであり、重要なのはそうした児童クラブが実現できるよう自治体は児童クラブに十分な予算を出すべきである。小1の壁の解消はやはり児童クラブの充実がカギを握るのだ。
そもそも、親が早い時間に出勤しなければならないこの社会が悪い、そういう働き方を指せる企業や会社が悪い、という意見も非常に多く目にします。企業や会社、社会を叩くのは簡単です。「こどもまんなか社会にちっともなっていないじゃないか」と政府を叩くのも簡単です。ですが運営支援も言論を頼みに行動している立場ですから、単なる国や行政、企業への批判はしません。
(運営支援の主張)・国は、育児・介護休業法をさらに充実させ、小学校就学中の保護者が「柔軟な働き方を実現するための措置」(2025年10月から小学校就学前が対象)を実施できるようにすること。企業にも、ある程度の強制力を持たせることを検討する時代に入ったという理解を持つことが肝心だ。また、短時間勤務制度を原則実施とすること。所定労働時間の制限(残業免除)の措置も小学校就学中に広げる。なおそれによってコスト増の不利益を受ける企業への補償は実施する。子の看護等休暇は現在は小学校3年生までだが、これを義務教育修了までに延長することです。
・上記の育児・介護休業法は、日本の企業数では圧倒的多数を占める中小企業、零細企業では事実上、実施が不可能である。育児で時短する人の代わりの職員はそう簡単に見つからない。だから「長い時間で働いてもらうか、退職してもらうか」の「1or0」がまかり通り、退職しては生活に困る子育て世帯は長い時間の労働を選ばざるを得ない。大企業でも同じかもしれませんが。こうした構造を打破するには国がきめ細かな育児支援の制度を整えることだ。「シッター制度の充実」は当然、ボランティアを基盤としている「ファミリー・サポート・センター」をビジネス化して事業主が利益を得られるほどに公金を投入することも必要。育児時短を選択した労働者の生産分を補充するために派遣労働者を活用することも良い。こういう場合の派遣労働者は当然ながらその場で働く正規労働者より高い賃金を手にするべきだ。期間限定でお助けパーソンとして働いてくれる人の待遇が、最も高くあるべし。企業が設置している保育所の事業内容を拡大することでも対応できる可能性はあるのではないか。
・個人の高い技量や専門性を活かした業務に就く子育て中の労働者、あるいは個人事業主として長時間、業務に従事することで社会経済活動の一翼を担っている子育て世帯労働者が、十分な子育て支援サービスを受けられるようにすること。シッターや利便性が向上したファミリー・サポート・センターの活用が好ましいと運営支援は考えるが、朝にこどもの居場所を家庭の外に設けることになったとしても、そこでこどもの支援に熱意と力量のある優れた人材によるこどもの支援が受けられるよう、国と自治体は制度を整えるべきだ。
放課後児童クラブは、小学生のこどもの育ちを支える仕組みです。この国にはすでに小学生を支える制度があるのです。どうしてこの制度を充実させ活用しないのでしょうか、わたくしには理解ができませんぞ。
(運営支援の主張)・放課後児童健全育成事業を、すべてのこどもを対象とする制度に切り替える。同時に児童福祉施設として制度設計をやり直す。早朝のこどもの居場所も休日や夜間のこどもの居場所も、放課後児童クラブに任せる。なお児童館との連携も強化する。放課後児童クラブは小学生の居場所として機能し、こどもの育ちを保障する場所として、早朝も休日も夜間も職員を確保して従事させることができるだけの補助金を投入する。補助金の額を今の3倍、4倍に増やせばできるだろう。どだい、今が安すぎる。それでも1兆円は超えない。それだけの補助金で小1の壁がなくなるなら安いものだ。こども家庭庁は直ちに放課後児童クラブの制度改善と領域拡大を検討する専門小委員会を設置して検討に入るべきで、令和10年度をめどに放課後児童クラブの抜本的な制度改正を目指してもらいたい。
小学校を活用したこどもの受け入れ場所は急場しのぎだと割り切りつつ、今困っているこどもと子育て世帯を支えるために実施もやむを得ない。しかしそれは解決策ではありません。社会全体で「こどもまんなか」社会を作る意識を育て法令によって、こども(の育ち)と、子育て中の保護者を支える制度を導入することです。本来、放課後児童クラブはその役割にもっともふさわしい。こどもまんなか社会を目指し、こども家庭庁のさらなる奮闘を期待してやみません。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)