「共働き子育てしやすい街ランキング」に見る、放課後児童クラブの評価ポイント。業界と世間の意識のずれが明瞭に。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。先日、日経クロスウーマンと日本経済新聞社が「自治体の子育て支援制度に関する調査」を実施し、2024年版「共働き子育てしやすい街ランキング」を公表しました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)もランキング算定の要素に入っているようですが、公表されたプレスリリースを読むと、世間が児童クラブに期待していることが浮かび上がっています。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<共働きの子育てなら放課後児童クラブは極めて重要ですが>
ランキングのベストテンは、一般公開している資料に掲載されています。株式会社日経BP社のプレスリリースです。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000151.000041279.html)
よって当ブログでも引用して紹介いたします。
1位 神戸市(兵庫県)82点
2位 宇都宮市(栃木県)79点
3位 板橋区(東京都)77点
3位 豊島区(東京都)77点
3位 福生市(東京都)77点
3位 松戸市(千葉県)77点
7位 北九州市(福岡県)75点
8位 札幌市(北海道)73点
8位 静岡市(静岡県)73点
8位 豊田市(愛知県)73点
8位 豊橋市(愛知県)73点
(同リリースでは、「共働き子育てを巡る現状と課題を明らかにする目的で、15年から毎年実施しており、今年で10回目。首都圏、中京圏、関西圏の主要市区と全国の政令指定都市、道府県庁所在地、人口20万人以上の都市の、計180自治体を対象に24年9~10月に実施。155自治体から得た回答を集計」と記載されています)
銅リリースで、放課後児童クラブに関して記載されている部分を抜き出してみます。
1位の神戸市については「学童保育は小6までの希望者全員が利用可能。厚生労働省の「放課後児童クラブ運営指針」を上回る、児童1人当たりの面積を1.98㎡以上とする基準を独自に設定。24年度からは一部の地域の学童保育で長期休業中の昼食提供を試験的に開始した。また、共働き家庭の朝の子どもの居場所が課題となるなか、市内7校で児童の受け入れ時間を30分から1時間早める試みも行った。」とあります。
2位の宇都宮市については「学童保育は保護者が就労する小3までの希望者全員を受け入れ、公立小学校69カ所中、58カ所で放課後子供教室が実施されるなど、放課後の子どもの居場所づくりに力を注ぐ。」とあります。
3位の板橋区、豊島区については「学童保育では、長期休業中に昼食を提供している。」とあります。また同じく3位の福生市については「学童保育には小6まで入所でき、学童保育と放課後子供教室を同一校内で行う「校内交流型」を市内7校中6校で展開済み。また市内18カ所の学童保育のうち3カ所で平日夜に夕食を提供しているのも特徴だ。」とあります。松戸市では「学童保育では市内45カ所すべてで長期休暇中に昼食提供の支援を行う。」とあります。
<待機児童が出ていますけれど>
このランキングの報道を受けて私は旧ツイッター(X)に投稿しました。ここに再録します。
「共働き子育てしやすい街」の中には放課後児童クラブの待機児童が出ている自治体が複数含まれています。
静岡市(64)、中野区(83)、練馬区(292)、市川市(183)、葛飾区(328)などです。
カッコ内は令和5年度の児童クラブ待機児童者数。
午前11:00 · 2024年12月14日
ちなみに旧ツイッターのポストで表示されているランキングでは、12位に東京都新宿区、中野区、練馬区が、15位に水戸市、千葉県市川市、東京都葛飾区、三重県松阪市、19位に福島市、東京都荒川区、奈良市、福岡市、がランクインしています。
静岡市は8位にランクインしていますが待機児童はそれなりに出ています。待機児童数が3けたになっている自治体はベストテン以内に入ってはいませんが、調査対象180自治体のベスト20以内に入っているのを考えると、共働き世帯にとって最も厳しい状況を招く、児童クラブの待機児童については、あまり評価減、マイナスのポイントになっていないのか?と私は疑問に感じました。すくなくとも待機児童が出ている地域はポイント大幅減であって不思議ではないのですが、そうではないようですね。
<評価のポイントは「いかに保護者の負担が減るか」>
結局のところ、この調査は「共働き子育てしやすい街」のランキングであって、「子育て支援として行われている種々の施策の内容においてその質が優れているかどうか」のランキングとは違う、ということを認識しなければなりません。大雑把に言えば、子どもにとってひどい育成支援が行われていて職員による児童虐待や子ども同士のいじめ行為が横行していて児童クラブが子どもにとって監獄のような状態であっても、「保護者にとっての利便性が最高級に素晴らしい。受け入れ時間が長く、小学6年生まで入所でき、昼食や夕食のサービスがある」児童クラブであれば、そういう児童クラブがある地域のランキングが上位に来る、ということです。もちろん、小学6年生まで入所できることは当然であってほしいのですが。
先に紹介したプレスリリースの文言をみると、「昼食提供」が目立ちます。放課後子供教室を実施して子どもの居場所がある自治体も評価されています。児童クラブと放課後子供教室の「校内交流型」(かつての一体型)が行われていることが評価されています。育成支援の質を支える要素としては神戸市の、児童1人あたりの面積が運営指針を上回る広さであることが挙げられているぐらいですね。
私も含めて、児童クラブに対する優劣の評価を考える児童クラブ関係者は、「子どもが、明日も児童クラブに行きたいと思えるような児童クラブであるか」を無意識に最優先に考える傾向が多いものだと私は考えています。それはつまり、児童クラブにおける種々の人間関係が安定しており、育成支援が必要十分に行われているという状態です。それを大前提として、利便性向上の充実の評価を吟味するものでしょう。
先の日経のランキングは、あくまでも「児童クラブにおいては、保護者の利便性において優れているかどうか」ということが評価の重要な要素となっているだろうこと、つまりは使い勝手が評価されているということを、児童クラブ関係者は、世間に向けて付け加えておくべきでしょう。
これは逆に言えば、日経ほどの大メディアであっても、子育てしやすい街かどうかを判断する基準になるのは、「学童クラブが充実していること。その充実とは、昼食や夕食を出すことであり、放課後子供教室と連携して子どもの居場所を用意していることだ」という認識であるということです。育成支援の充実度ではない。子どもが過ごしやすい児童クラブであるかどうか、児童クラブ職員が安定した雇用労働条件のもとで、欠員なく定着しているかどうか、昼食を出すとしても低所得者の世帯に配慮があるかどうかなどは特段、考慮されていない。まして待機児童は大きな減点要素ではない。待機児童こそ、共働き子育てのラスボスなのですが。
児童クラブの世界は、保護者の利便性向上はもちろん重要だと肯定した上で、「児童クラブで子どもが過ごしやすいかどうかを判定する要素も付け加えてみてはどうか」と声を上げましょうよ。質の評価はなかなか難しいですが、質の評価を行う前段階である「児童1人あたりのスペース」と「職員の実際の配置人数、常勤職員が何人いて非常勤が何人いるか」「職員と児童の配置割合」「欠員状態にあるクラブの有無」「離職率」を踏まえて、「児童へのアンケート(利用者アンケート)で評価が良以上のクラブ数」が、質の評価を図る要素となるでしょう。もちろん、児童へのアンケートを行っていない自治体は大幅に点数を減点すればいいのです。
いくら利便性に優れた児童クラブ運営でも、その運営の程度がひどく、入所した子どもが「行き渋り」になったら、それこそ共働き生活は崩壊のピンチに立たされます。昼食が出ますよ、朝の受け入れもありますよ、といっても、子どもが「あのクラブは嫌なことしかないから行きたくない。クラブに行くなら学校も行かない」と言い出したら、共働き世帯としてはお手上げです。「共働き子育てがしやすい街」は、保護者の利便性が向上していて、かつ、「子どもが児童クラブに行くことを嫌がらないクラブが存在する街」であるはずです。
<これから児童クラブを利用するかもしれない未来の子育て世帯の方々へ>
いま、お子さんが保育所やこども園、幼稚園に通っている子育て世帯の人や、これから子育てをする方々へ、運営支援からのアドバイスです。
「子育てしやすい街かどうかを選ぶには、子どもが小学校に入学してからの居場所の有無と、その居場所の充実具合で選ぶべきですよ」
これから子育てが本格化する前に住む場所を選び直す、あるいは将来の子育て生活を考えて居住地を考えたいというとこは、「児童クラブで困らない場所」を最重要に住む場所を考えて選ぶべきですよ、ということです。
通勤に困らないエリアで複数の候補地がある場合、その候補地の自治体で児童クラブの待機児童が出ているかどうかを調べることをお勧めします。保育所の待機児童はかなり減りました。放課後児童クラブの方が、今や待機児童ははるかに多くなっています。児童クラブの待機児童が出ている地域は、小学生世代の子育て支援が後手後手である、ということを否定できません。小学生児童数の急増があまりにも激しいかもしれませんが後手後手であることに違いはないでしょう。
まずは絶対的に「待機児童が出ている地域は、避ける」ことです。
次いで「待機児童が出ていない地域では、子どもが放課後に過ごす場所の状況がギュウギュウ詰め状態であるかどうかを確認すること」を勧めます。見学に行けばいいでしょう。先の日経のランキングでは、児童クラブと放課後子供教室を自治体独自で融合させた、いわゆる「放課後全児童対策事業」を導入している地域があります。利用料が安い、待機児童が出ないということで保護者としては大変ありがたい仕組みですが、費用の安さと希望者全員が利用できる仕組みゆえ、子ども達でギュウギュウ詰めという「大規模状態」であることが大変多いのですね。子どもが過ごすにしては過酷な環境で、そこで万が一、子どもが嫌な体験をしてしまい「もう行きたくない」「学校にも行きたくない」となってしまっては大変です。必ず事前に見学をしましょう。
(なお、アポなし訪問、予約なし見学は絶対にやめてください。現場職員にとって大変迷惑です。突然、何の前触れもなく見知らぬ大人がやってきたら、それは不審者にほかなりませんよ)
他には、「保護者が児童クラブ運営に参加を強制されているか否か」も確認点です。活動に参画することが好きな方ならともかく、苦手な人の場合、児童クラブに入れても保護者会活動が苦痛となる可能性もあります。自身の性格や、家庭生活に加えて児童クラブ活動に参画できる余裕があるかどうかも、居住地を選ぶ要素にしておくべきですよ。
もちろん、開設時間の長さ、開所時刻と閉所時刻が仕事との両立に問題ないかどうか。昼食の提供の有無とその料金も確認しておきましょう。児童クラブの場所も確認しておきましょう。防犯面、交通事故に遭うリスクを考えると小学校建物内や小学校敷地内が安全です。とはいえ、学校の外の施設であってもすぐ近くに子どもがのびのび遊べる空間や場所があるなら、何かと利用が不便な校庭よりよっぽど子どもたちがのびのび過ごせる利点もあります。その点は、見学に行った際に、「こどもたちは十分に遊べて過ごせていますか?」と質問してみれば教えてもらえるでしょう。
何より、見学に行った時に、そのクラブで過ごしている子どもたちの顔を見てください。見学者がいると、多少、お行儀が良くなる職員はいますが、子ども達はいつまでもそんないい子ぶった振る舞いはしません。すぐに素を見せます。普段から楽しく過ごせているクラブと、普段はピリピリとした雰囲気にあるクラブとでは、子ども達の笑顔の多さが違います。「何か、変だなあ」と見学の時に思ったら、職員さんに気付かれないように子どもたちに聞いてみるのもいいですよ。「ここのクラブ、本当に楽しい?」って。あるいは大ベテランのパート職員がいたら、そっと聞いてみるといいですよ。「実のところ、ここのクラブの方針はどうなのですか?管理型なのかどうか」と。もっとも、「子ども達は管理して統制することが一番だ」と思い込んでクラブ運営している職員たちもいますから、そういうクラブが好きな人であれば構いませんが。最後は子どもたちの表情を見て、居住地選びの参考にしてほしいと、運営支援は提案します。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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