「その日のトラブル、その日のうちに」。放課後児童クラブに重要なのは「された側」への即時かつ丁寧な対応です。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブは、大勢の人間が過ごす場所。人間同士のいざこざ、いさかい、トラブルは、起こしたくなくても、起きてほしくなくても、起きてしまいます。その時の対応を間違えると、関係者全員が泥沼にはまって苦労することになります。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<児童クラブでの鉄則>
 放課後児童クラブは、大勢の子どもが過ごす場所です。適正規模といわれる40人前後の人数だって、冷静に考えれば大人数ですよ。私も同意ですが、例えば全国学童保育連絡協議会は子どもの集団は30人程度が理想としています。まあ30人にしても大人数ですね。しかも子どもは成長途上、大人と違って対人間関係における感情を「波風立てないように処理する」ということを学んでいる途上にあるので、他者とのトラブルはちょっとしたことで起きます。

 さて児童クラブで起こるトラブルは速やかに解決されねばなりません。児童クラブのトラブルは直ちに収束にさせること。この大原則は当然、児童クラブの運営者、職員であれば身に染みて理解していることです。しかし、その大原則を実現させるための鉄則は、ついおそろかになってしまいがちなのです。

 ここでは「子ども」のことについて考えます。双方又は一方が意図的に相手を困らせようとするトラブルもあれば、まったく偶発的な出来事(例えば偶然に体の一部が相手にぶつかってしまった)から双方がもめてしまうトラブルもあります。原因を生んだ側を行為者、行為者から何かしらの行動を受けた側を被行為者という表現をすれば、「双方が行為者であるパターン」と「行為者ー被行為者」という関係の2つのパターンがあります。
 児童クラブで慎重な配慮が必要なのは後者、行為者ー被行為者のパターンであると私は実感してきました。当事者全員が行為者である場合は、その事案の重大度によって、トラブル対処に必要な業務量や時間、関わる関係先の人数の度合いは異なってきますが、こと、その当事者である子の保護者に対応する内容は同一になるので、業務量は多かろうが少なかろうが、児童クラブ側に求められる工夫や配慮の度合いは基本的に同一のものとなるので、業務の性質としては単純になります。例えば、人間関係において水平、フラットにある立場の子どもがお互いに挑発しあってそれがエキサイトして殴り合いのけんかになった場合です。または仲良し数人で意図的に児童クラブの施設や物品を破壊した場合です。

 これが、行為者と被行為者、意図的に危害を加えた、加えられたの場合は加害者と被害者との関係になりますが、この形態の場合、そしてこの形態こそ一般的なのですが、「やった人がいる、やられた人がいる」という場合は、より迅速に慎重に、かつ「すぐに解決する、あるいは解決の糸口を確保する」ことが極めて重要なのです。理由は簡単です。被行為者側の感情が時間の経過とともに悪化し、そうなってからあれこれと処置、フォローをしても結果的に解決にたどり着かない事態になることも往々にしてあるからです。被行為者側の理解や納得、受容が完全に達せられないということです。

 そういう例を実務上、見てきましたし、運営支援の業務を始めてから、そのような事態に関する相談も受けてきました。いずれも、「もっと早期に事態収拾に取り組んでいれば、そこまで状況が悪化することはなかったのに」というものばかりです。初動が間違っていたから、その後、どうしようもなく事態がこじれ、悪化してしまったということばかりです。
 例えば、これは本当に良くあるのですが、児童クラブで過ごす者同士であるAとBがいて、AがBにひどい言葉を言った。職員がそれに気づいて双方に話を聞いて、職員に諭されたAは自分の非を認めてBに謝った。Bもその場では謝罪を受け止めた。職員は、再発防止のためにと考え、Aを迎えに来たAの保護者に事態を説明し、「相手を傷つけるような一方的な言葉は使わないようにと」、家庭での協力を依頼した。
 だが、Bの保護者に対しては、Bが謝罪を受け入れて納得していたこともあって、説明を怠ってしまった。結局、自宅でBは保護者に、児童クラブでこんなことがあった、とても嫌だった、もう行きたくない、Aがいる限り児童クラブに行かない、児童クラブにいかねばならないのなら学校にも行かない、となってしまった。Bの保護者は児童クラブ側に、Aの退所を要求、また慰謝料を要求する、対応に適切さを欠いていたとして職員の解雇や処分を要求する、という事態になってしまった。
 こういうことは、あえて言いますが、内容の深刻度はともあれ、めったにないことでは、ありません。どのクラブでも起こりうると決めつけはできませんが、児童数が多くトラブルの母数が多ければ深刻化するトラブルも増えますし、職員の育成支援の技量の程度、スキルによっても深刻化するトラブルの件数は変化するでしょう。

 何が問題だったのかは一目瞭然、被行為者側のBの保護者に説明を怠ったことです。ここで、「きょう、こういうことがあった。Aは非を認めて謝り、Aの保護者にも再発防止の協力をした。Bはその場ではAの謝罪を受け止めていたが本心から受け止めているかどうかは、なんとも言い難い。引き続きクラブではAとの関係に注視し、再発防止に全力を尽くすので家庭でも心理面のフォローをお願いします」と伝えていたならば、違った展開をたどったのではないかと、私は想像します。児童クラブ関係者の方もそう思っていただけるのではないかと考えます。

 鉄則とはつまり、「その日のトラブルは、その日に解決するように努力する。解決の糸口を当事者が必ずつかんでいる状況にまで、時間をかけずに一気にトラブルの処理を行うこと」です。

<間違えてはいけないこと>
 勘違いしがちなのは、先の例でいえば、クラブに置いてAがBに謝り、Bがそれを受け入れたことを「解決(または解決の糸口をつかんだ)」と、クラブの職員、支援員が理解してしまうことです。それは、解決したことではないのです。解決の糸口をつかんだことでもないのです。
 解決というのは、保護者(場合によっては周囲の子、職員も)も含めて当事者とその関係者の全員にとって「この事案は今後、悪化することはない。現状を理解し、受け入れる」と考えることができる状態に達することです。先の例でいえば、Bの保護者は「クラブで起きたトラブル」について何も知らされていないので「現状を理解し、受け入れる」ことがまったくできていませんでした。つまり解決していないということです。むしろ、Bから伝えられることによって第一事案が第二事案(保護者の激烈な怒り)を引き起こし、最終的に第三事案(子どもの行き渋り、不登校状態)にまで悪化してしまったのです。

 鉄則は「その日のトラブルは、その日に解決するように努力する。解決の糸口を当事者が必ずつかんでいる状況にまで、時間をかけずに一気にトラブルの処理を行うこと」ですが、「当事者というのは、子どもであればその保護者を含むこと。またトラブルの様子を見ていた子どもやトラブルに関わった職員をも含む」ことです。

 AとBのトラブルの様子を見ていたCが、その状況に恐れをなして「明日からクラブに行きたくない」と保護者に申し出ることもありえます。よって、児童クラブの職員は、AとBとのトラブルだけに気を向けるのではなく、その時、その場にいた子どもたちの様子もまた、フォローが必要だということです。
「そんなことを言ったらキリがない」と思う職員は、私に言わせれば残念です。そのトラブルを間近で見ていた、あるいはその時に一緒にそこにいた子どもの生活や感じ方、感受性など、児童クラブの職員であればある程度の把握はできていなければなりません。その点、新入所児童が多い4月の上旬や途中入所、あるいは短期スポット利用者が多い長期休みの時などは注意が必要ですが、それは当然であってより慎重に新規入所の子どもの様子を注視するはずですから、対応できなかった理由を酌む事情になるとしても、絶対的に免責される言い訳とはなりません。(つまり、それだけ児童クラブの仕事は大変で、重大な仕事ということです。世間からリスペクトされてしかるべき仕事ということです)

 いさかい、トラブルが起きたら職員は直ちに当事者、そして周囲にいた子どもや職員からも事情をできる限り詳細に聞き取ることです。情報をすぐさま収集することが肝心です。時間が過ぎれば過ぎるほど、情報はその精度を低めます。記憶も薄らいでいきます。カメラを設置していたとしても、時間がたってしまえば画像情報が上書きされてしまって必要な日時の画像情報を得られないこともあります。
 当事者と周囲にいた者への聞き取りによって、例えば、AがBに言った悪口は、Aが普段から仲良くしている子どもに対しては口にしている文言だったが、Aとあまり普段から親しくしていないBにとっては、とても心理的な衝撃が大きく、心にダメージを受けたと職員が想定することだってできるのです。これが想定できない、また普段からのAとBの関係性について把握が十分ではなかった場合、Bが受けた心理的なダメージの大きさを見逃してしまうことになります。ここに、児童クラブの職員、支援員の技量やスキルの重要性があるともいえます。

<現場の職員だけではない>
 児童クラブの運営側、管理職にこそ、「トラブルは可能な限り即日に解決。または解決の糸口をつかむ」重要性を理解することが求められます。当然ながら、その日のうちにできることを取り組むとしたら、時間外勤務が生じることでしょう。クラブの閉所時間後に情報を取りまとめて分析する、あるいは保護者と連絡を取り合うこともごく普通にありえます。ここで運営側が、かたくなに「経費削減だから明日に作業を回して」という態度を崩さないと、その日のうちにできたはずのことを明日以降に伸ばすことによって、保護者など当事者の感情の好ましくない増幅を招く可能性が高まってしまうのです。その日に生じるであろう、たった数千円の時間外勤務手当の出費を惜しむことで、その後、とてつもなく事態が悪化したトラブルの対応に追われることになる可能性は十分にあります。その結果、現場で優秀な職員が疲弊し、離職や休職に追い込まれることも想定できなければ、とても児童クラブの運営者や管理職は務まりません。小事にこだわって大局を見誤ることが、児童クラブの世界には多いのではないでしょうか。

 保護者運営にも、その対極の広域展開事業者による運営にも、どちらにも上記のような危険性があるものと私は考えています。少なくとも、トラブルの具合が深刻で、被行為者側がそれこそ治療を必要とするような重大な事案になった場合は、運営の責任者はとっとと帰宅などせずに事態の推移をしっかりと把握し、現場に必要な指示を適宜発することによって、現場職員だけに火の粉をかぶらせない、むしろ積極的に運営責任者や管理職が前面に出て事態に対処することが必要です。「本部は閉めるからね、後はよろしく。明日、朝いちばんに報告してね」は、最悪の運営者です。そんな運営者の下で働く児童クラブ職員が気の毒です。広域展開事業者なら「現場丸投げ」のイメージが想像しやすいのですが、保護者運営系のクラブであっても、「自分たちはボランティアで運営に加わっているだけ。そこまでするのは給料をもらって働く職員がやればいい」という理解にあることが残念ながら見受けられます。とことん、児童クラブで起こった事案に対処し、その幕引きまで向き合うという覚悟がなければ、無償であろうがなかろうが、児童クラブの運営に関わるべきではありません。その点、児童クラブの世界は「事業執行に伴う責任感」が希薄であると、私は常々残念に感じています。

 「その日の汚れ、その日のうちに」は洗剤のCMでしたでしょうか。その日の出来事はその日でカタを付けましょう。カタを付けられるように道筋だけは最低でも付けておきましょう。「この件についてご納得できないのはよく分かりました。では日を改めてじっくりとお話をお聞きします」として保護者等と面談の日時を決めることだって、解決の糸口の1つです。「あーあ、面倒くさいな、早く帰りたいな、あの親とはなんかしっくりいかないんだよな」という思いは誰だって持つもの。それを乗り越えて「子どもが安心してまた児童クラブに来られるようにするのが、自分たちの仕事」と理解して、解決に向き合っていきましょう。それを当然のように積み重ねていく先に、児童クラブ職員の仕事の重要性や専門性への理解が社会に蓄積し、いずれ、「児童クラブの仕事はとても大変で重要。とてもそんな安い賃金では、割に合わない」という理解もまた、広まっていくはずですから。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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