知られざる放課後児童クラブの実態。こんなことがあるんだ、の驚き。全市区町村データーベースより。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。市区町村のホームページ、つまり公開情報から放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の状況を見てみる市区町村児童クラブデーターベース作成作業を地道に続けています。データーベースと呼べるほど情報を整理してはいませんが、何巡もしていくうちにいずれ整っていくでしょう。まずはおおまかな状況を把握するためにやっていますが、それでも知らなかったことを次々に知ることができて新鮮です。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<生き残っている年少扶養控除>
 私が感心したのは東京都国分寺市です。放課後児童クラブの利用料計算において、保護者に有利になるような工夫をしているからです。国分寺市における児童クラブ利用料は保護者の所得(正確には、前年度の市町村民税の課税標準額を合算した額)によって区分されていますが、次のように説明されています。国分寺の資料の説明を抜粋します
「所得税の計算について 国分寺市では,平成 22 年度税制改正において廃止となった「年少扶養控除」と「16 歳から 18 歳までの特定扶養親族に係る扶養控除の上乗せ部分」について,所得税が増額されることによる学童クラブ費への影響がないように存続しているものとして再計算します。」(引用ここまで)

 平成22年度に、子ども手当創設に伴って年少扶養控除(15歳までの年少扶養親族に対する扶養控除38万円)と、高校の実質無償化に伴って16~18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分(25万円)の2つの施策が廃止されましたが、国分寺市はまだこの制度が存在していると仮定して、子育て世帯の経済的負担が生じることを減らすことを指向しています。すくなくともこれまでの678市区町村で国分寺市と同様の施策を打ち出している自治体は私は確認していません。

 ただ残念なのは児童クラブの受け入れが小学3年生まで、となっていることです。児童福祉法では、放課後児童健全育成事業は小学生を対象にしています。施設の受け入れ人数が絶対的に不足しているので新1年生を受け入れるためにやむなく行っているのではないかと私は想像します。ここは早急な解消が必要でしょう。近隣では小平市、小金井市も小学3年生までの受け入れです。近隣の自治体で横並びに施策を合わせることは結構あるものですが、こうした子どもにとって不利になることは足並みをそろえる必要はありませんね。
 一方で、障害児枠として中学生も児童クラブで受け入れることとしているのは全国的にみて珍しいです。こちらは、放課後等デイサービスの数が足りないからでしょうか。法律の枠を超えて行っていることです。こうしたことも、地域の実情に合わせて行うことができる放課後児童クラブならではの柔軟性と言えるでしょうか。その柔軟性が、子どもと保護者の利益にかなう方向で発揮されるといいですね。

<学年分けの受け入れが多すぎる>
 全国の非常に多くの地域で学年別に分けて児童の受け入れをしています。1つの学校に複数のクラブがある場合ですが、低学年と高学年に分けたり、特定の学年を組み合わせたりしています。このことによるメリットは確かにあります。管理がたやすくなります。小学1年生と高学年のように社会性や精神面での発達に差がある子どもたちを一緒にして対応するよりも、同学年やそれに近い子どもたちの集団に対応する方が非常に物事が容易に進みます。

 それは逆から見れば、子どもたちが学んでいってほしい複雑な局面を減らすことであり、様々な体験をする機会を減らすことです。高学年にとってみればリーダーシップを発揮していく場面が減ることです。異年齢集団でのややこしさ、面倒くささを経験することで得られる知見をみすみす放棄することです。

 つまり多くの市区町村では、児童クラブを人間の成長の場として捉えるよりも、子どもたちを預かって指定の時間を問題なく過ごさせる場として認識していることを示しているのではないでしょうか。全国で大変多くの市区町村で実施されているということは、それだけ、児童クラブの本来の目的よりも、いかに効率的に子どもを預かっておくかということがもはや普遍的かつ優先的に考えられているといえるのではないでしょうか。そのような実態に、児童クラブの世界を対象とするアカデミズムの世界が大々的に異議を唱えている、という動きはあるのでしょうか。私は知りません。

<意外に残る「土曜日は閉所です」>
 土曜日を開所しない児童クラブは、そう数は多くないものの人口が少ない地域で時たま見られます。しかし一方で、山梨県甲府市は4月を除き第一土曜日のみ開所で、他の土曜日は閉所すると説明しています。つまり4月はすべての土曜日で児童クラブが閉所しているということでしょう。甲府市はもちろん県庁所在地です。人口は18万7,000人ではありますが、県庁所在地の児童クラブが土曜日に閉所しているというのは、私にはなかなか理解がしにくい。土曜日だって働いている子育て世帯の保護者は大勢いるでしょう。はたして土曜日の子育て世帯はどのように子どもを過ごさせているのか、とても気になります。ほか、高知県香南市も第一土曜日のみ児童クラブを開所としています。

<補助金交付団体の情報公開を!>
 先に触れた国分寺市は、HPによる児童クラブの情報提供、情報公開では他の市区町村と比べて極めて丁寧かつ詳細に情報を公開しています。すべてのクラブにおいて、「業務委託なのか、指定管理者なのか」、民営クラブにおいては事業者名を紹介しているからです。つまり私の言うところの「運営種別と運営主体」を明確にして情報をHPで公開しています。

 このような形態は実は極めて例外的です。ほとんどのところで、児童クラブを運営しているのが自治体なのか民間なのか、民間であればどんな組織、団体が運営しているのか、一切紹介していません。私には到底、理解ができません。なかには、いかにも市区町村が自前でクラブを運営しているような紹介の仕方をしておきながら、実際は広域展開事業者が全てのクラブを運営している、ということも結構あります。「どうして、民間に運営させていることを隠そうとするのか?」と疑念を抱きます。

 仮に、民間組織・団体にクラブ運営を任せていることを表示しない理由が、公営でないと地域住民が不安に思う、心配するということを懸念しているのであれば、民間の運営であっても何ら問題はないことを行政が示せばいいだけです。それを、さも行政が運営しているかのように装う思考回路は私には理解できません。
 また全く逆の考えで、「業務委託にしろ指定管理にしろ、要は民間は下請け。単に日々の運営をこなすだけ。設置しているのは行政であり、それが大事な。下請けの運営の組織や会社のことなど知らしめる必要はない」と思っているのであれば、大変嘆かわしい。日々、クラブを運営することの重要性を理解できないのであれば、そしてそれは現実にありえそうですが、児童クラブの重要性と運営の困難さについて真面目に学んでいただきたい。弊会であればいくらでもレクチャーします。

 大事なことは、「補助金を受けて事業を行っている組織と団体は、税金を使って事業をしているのであって、税金が使われる以上、納税者である国民には、その税金を使って事業をしている組織と団体について知る権利が当然にある」ということを市区町村だけでなく、補助金を交付されて児童クラブを運営している事業者もしっかりと理解することです。大変残念ながら、この点についての理解は児童クラブの世界にまったく欠けています。欠落している。

 特に、保護者運営や保護者が関わるクラブです。補助金を交付されているのであれば、保護者会や運営委員会といった任意団体であろうが非営利法人であろうが、収支決算や事業内容はもれなく公開されるべきです。だれが役員なのか。誰が代表者なのか。どういった分野に予算が使われているのかどうか、本来なら四半期ごとに公開されるべきです。ところが、保護者運営系のクラブや組織、法人ほど、情報公開に消極的なことが明確にうかがえます。ボランティアの保護者にそこまでさせるのか、ではないのです。保護者であろうが何だろうが公金を受け取って行う事業であれば情報公開に応じるべきです。それが嫌なら保護者運営などやめればいいのです。
 むしろ、各地で営利目的で事業を展開している企業の方が、法令による縛りもあるのでしょうが情報公開に積極的です。それは企業経営に直接関わる部門だけではなく、どういう目的でどのような運営をしているかを、それが例えPR目的であったとしてもHPで発信している姿勢は、保護者運営系の児童クラブは見習うべきです。

 税金を支払う側、つまり国民や住民も、税金からなる補助金がいくら交付され、どう使われているのか、もっと関心を持って注視、いや監視するべきです。多額の補助金を交付されている事業者で働く職員の賃金がさほど高くないのに事業者の利益がしっかり計上されているという実態が存在しています。そうしたことに対して、有効な税金の使い方といえるかどうか、世論が注目することが必要です。そのためには、制度として、情報を公開せねばならないことを補助金交付を受ける児童クラブ事業者に市区町村が義務づけることが必要でしょう。収支の内容、職員の雇用状況、収入などを定期的に公表することを義務づける条例を市区町村で制定すればいいでしょう。つまり議員が、もっと補助金を交付されて運営されている児童クラブ事業者にもっと関心を持つことが必要です。そこでどのような運営が行われているかを知ろうとする姿勢が必要です。
 補助金を交付されている児童クラブにおいて、どのような育成支援、子どもに対する支援や援助が行われていることは当然重要ですし、住民は知る権利があります。その点においても情報公開を義務づけることと合わせて、組織運営に関することも事業者に公表の義務付けをさせましょう。指定管理者には定期的にモニタリングの結果が公表されていますが、私が提唱するのはまずは事実関係の公表です。補助金の額や、どこにどれだけのカネが使われ、あるいは入ってきているか、職員の賃金状況といった数字の情報です。それは事業者だけでとりまとめて公表できるものですから、まったく難しくないでしょう。まずは事業者自らが、税金からなる補助金を交付されて運営できていることの意味をしっかりと理解し、自ら進んで組織について情報公開をしましょう。

 そして市区町村は、補助金を交付されているすべての団体、組織において、事業者名や代表者名などを必ずHPで公表するようにしていただきたい。貴重な税金が、どのような団体につぎ込まれているか、納税者たる国民に知らせなければならないのです。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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