来年度も勤務を続けてくれる? 放課後児童クラブ(学童保育所)に「意向調査」って必要、それとも不必要?

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 本日(2025年9月9日)は意向調査がテーマです。保育所やこども園、幼稚園にお勤めの方には、なじみがある文言でしょう。放課後児童クラブでも意向調査を行っている事業者はそれなりにあるでしょう。この意向調査、必要かどうかという問いには「必要といえば必要でしょう」という答えしか出ない、結論の無いテーマですが、なかなか複雑で興味深いテーマです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<意向調査>
 児童クラブを利用する保護者さんには、あまり知られていないかもしれませんが、「意向調査」と称する調査を実施している児童クラブの事業者があります。
 「あなたは、来年度(または一定の期日以降)も、うちの会社で働きたいと思っていますか? それとも退職を考えていますか?」「今の配置場所で満足ですか? 実は異動を希望していますか?」ということを調査するのが、意向調査です。名称は事業者によって様々でしょう。雇用継続調査だったり別の名称もあるでしょうね。どうしてそういう調査が必要かといえば、職員配置が補助金の交付要件に関係することから、有資格者である職員が急に退職されてしまっては、職員配置基準を満たせなくなる恐れがあるので、事前に把握したい、ということです。複数クラブを運営する事業者であれば人事異動の参考資料にもなります。運営クラブ数が少なくても、来年度、来期も引き続いて仕事をしてくれるかどうかを知ることができる調査として行われることがあります。児童クラブは人事異動を制度として実施していない事業者も珍しくないので、退職の意向だけの調査をする場合もあれば、退職と異動希望の双方を調査する場合があるでしょう。

 ただでさえ、児童クラブは職員の離職が多い業界です。雇用労働条件も、他の業界と比べて恵まれていない面が多い。職員1人あたりの業務量がとても多いのに賃金はそれほど高くはないという事業者が多いことは否定できません。ですから職員の退職は日常茶飯事とは言いたくないですが、あります。
 運営側にとってみれば、日々、頼みにしている正規職員や常勤職員、非常勤であっても特別支援児(=障がいのあるこども)の加配職員や、非常勤であっても週5日勤務や週4日勤務の職員が、急に退職されては事業運営に困ってしまいます。

 最も「急に退職」といっても、法律上は2週間前に退職の意志を示せば有効ですが、その2週間前の退職であっても児童クラブ運営側としては「急な退職」になります。2週間で、補充の人材を採用、雇用できるかといえば、極めて困難ですからね。ですから、児童クラブの事業者側としたら、「退職するのは、それは当然に仕方がない。だけれども、職員採用の都合上、早めに退職の意向を伝えてほしい」と考えるのは、無理もないことです。実際、私も児童クラブ運営者でしたが、退職または職場の異動希望は「情報として、あるにこしたことはない」という感覚を持っていました。

<早すぎる意向調査は何かと、ね>
 こういう意向調査は他の業界でもあるんでしょうか。私は新聞社と児童クラブ運営NPOでしか勤めた経験がないですが、新聞社では意向調査ほど厳密でなくても時折、「どういう仕事がしたいのか」を書面で提出した記憶がありますがほんの数回程度でしたね。基本的には「命じられた部署で働け。嫌ならやめろ」でしたから。ですから、NPOの役員となったときに、意向調査のシステムを従前から実施していると知って、「なるほどねぇ」と思った記憶があります。

 意向調査は当然、縦方向のライン、つまり当人と雇用者側でしか共有されない情報です。ですから同じクラブの同僚が、意向調査で退職の意志を記入したとしても同僚は知る由がないのですが、現実的にはなんとなく知られてしまうことが多いのではないでしょうか。そもそも年度末退職であれば2月にもなれば来期の児童育成支援計画を考え始めるときに「ごめんね、わたし、もう退職するから」と伝えなければその計画もうまく立案できません。まして2月の終わりともなれば同僚が辞める、あるいは異動することぐらいは事業者側から公表されるでしょう。

 この意向調査が例えば秋口、9月や10月に行われると、早すぎる弊害がありそうだと、私は感じます。1つは、「もう辞めるんだ」と職員自身に覚悟させること。「辞めようかな、どうしようかな」と悩んでいる職員はその悩みを長いこと、抱えていることがあります。意向調査で回答した内容はある程度あとになっても変更や撤回できるとしても、一度、「来期は継続しません」と回答すると、踏ん切りがつくことになるでしょう。そのまま年度末までしっかりと業務に向き合ってくれれば別にまったく問題はないのですが、その踏ん切りがさらに「こんな会社、早く辞めたい」という意識を加速させてしまうと、年度末を待たずに年末や賞与を得てから退職、という行動を招きかねないという「不安」を運営側にもたせる可能性は、あります。

 もちろん、いつ辞めたっていいんですよ。退職、転職、それは働く人が自由に決めることですから。

 ただ、事業を運営する側には、配置基準ということもあるので退職したい異動したいというなら早めに知りたいな、退職の時期を明らかにしたらそこまでは確実に頑張ってくださいね、というだけです。

<絶対にダメなこと>
 運営側、雇う側が、退職する職員をあからさまに冷遇することです。来期も継続するプロジェクトに退職希望者を加えないことは、そりゃまあ、あるでしょう。ただし、雇用している期間のうちは、大事な職員であることは変わりありません。退職日がやってくるまでは、こどもと保護者を支える重要な業務を担う職員です。必要な研修は受講させるのは当然です。

 まして、賞与をカットする、育成支援に関する検討会や会議に呼ばなかったり参加させないということは、あってはなりません。つまり、職員側の自己都合退職は円満に行われるべきであって、「いままでありがとう。新天地でも頑張ってね」で送り出す、お別れしましょうよ、ということです。それを、「あなたは来年度、うちの組織に貢献しないんだから」と冷遇しては、もしかしたら退職する側が本意ではなくても目をつぶってくれているトラブル案件を持ち出されて、こじれてしまうことだってあるでしょう。

 今は何ですか、その、退職した職員がのちに戻って来る、よく「出戻り」なんて言いましたが、そういうこともよくある時代です。なんか横文字が付いていましたね。わたしは横文字が好きじゃないので使いませんが、経験者が戻ってくるのは即戦力ですから歓迎するべきことです。将来の可能性を信じて、優しく笑顔で送り出したいですね。早めの意向調査をするのであれば、事業者は寛大な立ち振る舞いをしましょう。

<意向調査は無くてもいい?>
 意向調査をしないならしないで、人事政策を展開すればいいだけです。ただし配置基準がありますから、そのクラブで唯一の放課後児童支援員が急に2週間後、あるいは来月末に退職するとなれば、補助金の交付要件を満たせるかどうかの、事業者にとって死活問題になります。採用難が著しい児童クラブ業界では致命的な局面に陥る恐れはありますから、意向調査をして、その時に備えておくことも否定はしません。意向調査をしないでやっていける自信があるならそうすればいい。

 意向調査をしない場合はどうでしょう。「うちは意向調査はしません。記入して提出する人のストレスもあるでしょう。ですが、退職については、就業規則に決められた期間でぜひとも申し出てくださいね」ということを周知徹底させることが欠かせなくなってくるでしょう。契約が無期雇用であれば、民法上は2週間前の退職の申し出で有効となっていますが、極端に労働者側に不利ではない限り就業規則の定めが優先となりますから、そのことを丁寧に職員の皆さんに理解していただく努力は必要でしょう。1か月前がいいところでしょうね。2か月、3か月前に退職を申し出ないからダメだ、という就業規則では事業者側の言い分が通りにくいところがあります。(とはいっても、退職届を出せば2週間後には民法の決まりによって退職の効力が生じるとする判例もあるようです)
よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)|大阪労働局

 萩原の今の見解は、意向調査は別にしないでもいいかな、という考え方に至っています。労使の信頼関係を安定させる努力を事業者側が惜しまずに事業を続けていくことで結果として得られるメリットを大事にしたいのです。就業規則があるならその決まり通りに退職を申し出てくれればいいですし、仮に同僚との人間関係上の問題で異動を希望するのであればいつでも相談をしてくれればいい。気軽に相談を受けられる、相談してくれると信頼されているような労使の「使」になる努力をすることが大事だと、考えています。

 それでも、突然に出勤してこなくなる人はいます。雇用継続を断念させる不祥事を起こしてしまう人もいるかもしれません。最終的に、人事はすべて「その場、その局面で、ベストの対応を探して模索する」ことです。その結果、うまくいったらそれは当然という評価をされて誰からも褒められることはなく、うまくいかず泥縄になったら「うちの運営は、うちの人事は本当に無能、低能、ダメだらけ」とこき下ろされるだけの話です。その覚悟がない人は人事に関わってはなりませんよ。

 最後に。意向調査をしてその内容を見られる立場にある人は、決してその内容を必要な会議等の場以外では、漏らしてはいけませんよ。
 
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

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萩原和也