放課後児童クラブ(学童保育所)の運営形態ごとに長所、短所を考えてみます。理想の運営モデルはある?その2

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は、全国各地で様々な運営の形態があります。市区町村ごとにそれぞれの運営形態があるといってもいいでしょう。その地域ごとに、地域に適した運営形態を目指した結果が現状である、と言えそうです。ではその運営形態ごとの利点や不便な点を様々な視点で運営支援の独断と偏見をもって考えてみることにします。放課後児童クラブ、学童保育について今一つよく分からない、という方にお勧めです。前回は公営クラブを考えました。今回から民営クラブを考えます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<民営クラブに関する留意点>
 民営クラブとは、民間の団体、法人が運営する放課後児童クラブのことです。実に多種多様な運営形態を含んでいます。以下に挙げる運営形態はぜんぶ民営です。
・保護者会が運営するクラブ
・(地域)運営委員会が運営するクラブ
・地域の社会福祉協議会、シルバー人材センター、福祉事業団などが運営するクラブ
・NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、学校法人が運営するクラブ
・株式会社、合同会社が運営するクラブ
・個人が運営するクラブ

 つまり、市区町村ではない組織が運営する児童クラブはぜんぶ民営クラブです。この中にある、例えば保護者会運営のクラブと株式会社運営のクラブはその形態がまったく異なりますから、民営クラブというくくり方で考えることは難しいのです。よって、何回かに分けて考えることにします。まずは、いま急激に増えている株式会社運営クラブ、それも複数の拠点でクラブを運営している、いわゆる「広域展開事業者」について考えてみます。参考として、令和5年度のクラブ数について、運営状況の調査結果を紹介します。一番下の行に全合計が載っています。クラブ数がマイナスになっていますが、これは、調査をしたこども家庭庁による注釈で「クラブ数減少の大きな要因は、昨年度まで支援の単位数をクラブ数として報告していた自治体があり、当該自治体がその是正を行ったため」とあります。支援の単位数とクラブ数の区別すらつけられなかった市区町村が今に至るまで存在していたという恥ずかしい状態だったということです。

種別令和5年(増減数)・全体の割合令和4年種別令和5年(増減数)・全体の割合令和4年
公立公営6,707(652減)・26.0%7,359公立民営(全体)12,859(255減)・49.8%13,114
公立民営・
社会福祉法人
3,355(147減)・13.0%3,502公立民営・
公益社団法人等
1,246(78減)・4.8%1,324
公立民営・
NPO法人
1,753(114減)・6.8%1,867公立民営・
運営委員会・保護者会
2,724(259減)・10.6%2,983
公立民営・
任意団体
255(27減)・1.0%282公立民営・
株式会社
3,109(307増)・12.0%2,802
公立民営・
学校法人
194(10減)・0.8%204公立民営・
その他
223(73増)・0.9%150
民立民営(全体)6,241(31増)・24.2%6,210民立民営・
社会福祉法人
2,015(35増)・7.8%1,980
民立民営・
公益社団法人等
485(42増)・1.9%443民立民営・
NPO法人
1,116(9減)・4.3%1,125
民立民営・
運営委員会・保護者会
1,205(139減)・4.7%1,344民立民営・
任意団体
66(9減)・0.3%75
民立民営・
株式会社
545(60増)・2.1%485民立民営・
学校法人
348(10増)・1.3%338
民立民営・
その他
461(41増)・1.8%41計(全体)25,807(876減)・100%
クラブの数(「令和5年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」による

 <株式会社運営クラブの利点>
 株式会社の運営する児童クラブは急増しています。上記の表でも307クラブ増えています。上記の表は、自治体の勘違いを修正した結果、全体として数を減らしているにも関わらず株式会社運営クラブは増えていることは、いかに株式会社運営クラブの増えるペースがすごいか、を物語っています。株式会社は設立が容易になったので、児童クラブを開設したいという個人が選択する場合もありますが、基本的には複数地域でクラブを運営する広域展開事業者や、地域で別の事業を行っている企業が児童クラブ運営にも乗り出した、という形態があります。
 つまり「個人が児童クラブを開業する際に株式会社を選択した」、「規模の大きな企業による広域展開事業者」、「地域の他業種の企業が児童クラブ運営に進出(異業種展開)」の3パターンが主なものでしょう。それを踏まえて株式会社運営クラブの利点を考えてみます。

・利用者に対するサービス向上に熱心→公営クラブが民営化、特に株式会社運営クラブになると開設時間が拡大されたり入退室のICT化が進み、利便性が向上することが多いです。昼食提供もそうです。ただし公営クラブの民営化によるサービス向上は、事業者が自ら決定して導入するというよりも、公募や指定管理者の選定において勝ち残る、選ばれるために掲げる他社との差別化であったり市区町村が求める要求に含まれている場合があり、クラブ運営を行う株式会社が好き好んで取り入れるというよりも自社のサービスの良さをアピールするための導入、という点に留意が必要です。
 また企業のサービス向上は「それが自社の市場を拡大するうえで必要」な場合に熱心に行われます。市場を獲得、独占してしまえば無理に利用者の心を引き付ける必要がないのでとたんにサービス向上は、おざなりになる傾向があります。某鉄道事業者などはその典型ですね。

・(広域展開事業者の場合)企業としての規模が大きいことによる安定性。財務体質、組織運営体制の充実→これは保護者運営や保護者運営由来のNPO法人とは対照的です。

・(運営を任せる市区町村側にとって)競争で事業者を選択できることで全体的なコスト削減が可能となる→行政にとっての利点です。おおむね事業者内部にはそのしわよせが押し寄せます。

・多種多様な育成支援プログラムを準備できる→保護者や行政には評価されるものです。

・公営と比べて対応が早い→あくまで相対的に、です。なお民営クラブでも保護者運営では意志の決定に時間がかかることが多く対応が遅い場合が珍しくありません。

・前例にとらわれず柔軟な対応ができる→公営と比較して、ということであり、事業者によって、ということでもあります。柔軟な対応をしようとしない事業者がどうしようもないのは当然です。

<株式会社運営クラブの不便な点(上記の利点の反対として言及した点を除く)>
・急な事業撤退がある→営利企業であり利益確保が至上命題なのでその目的が達せられない場合、急なクラブ閉鎖がありうる。

・事業そのものに費やす予算を抑制的として利益確保に重点を置く傾向が強競→これも当たり前ですが株式会社である以上、利益を確保することが最優先です。慈善ではありません。決められた予算の中で利益を1円でも多く確保することが求められる以上、経費を抑制するのは当然です。その結果として職員に支払うための予算を抑えます。人件費は予算の7~8割を占めるので人件費を抑制することが手っ取り早いのです。それは職員1人1人の賃金額が低くなることにほかなりません。これを「補助金ビジネス」といいます。
 そしてこれが最も懸念されることですが、抑制された人件費がもたらす結果として、育成支援を行う上での「支援員としての資質」も、仕事をする上で土台となる「社会人としての資質」においても、十分な資質のある人材を確保、雇用しにくくなります。低賃金では立派な人材は集まりにくくなります。また、例え採用できたとしても定着は難しい。支援員として十分な志のある人材がいたとしても、適当な支援内容や適当な人材採用によってもたらされる「程度の低いクラブ運営」に嫌気がさして優秀な人材ほど長続きしません。残念ながらそういう現実があるように感じられてなりません。給与が安い、時給が低いから働き手もなかなか集まらない。スキマバイトの利用も広域展開事業者が行っているものです。

・公募や指定管理者など期間が限定されている場合が多いため有期雇用で職員を処遇→3年ないし5年ごとに事業者が選ばれるとなると職員を無期雇用にすることは運営上のリスクを伴います。ある程度の長期間におよぶクラブ運営が見通せない以上、職員を有期雇用で処遇するしかありません。それは結局、職員の収入が増えないことを意味します。

・育成支援として実施、提供される内容の偏り→多くの広域展開事業者は、日替わりで行うプログラムを容易しています。カタログ上はとても目を引く立派なものが多いですが、おおむね「事業者が準備したコンテンツを一方的に子どもたちに提供する」様式が多く、子どもたちの自主性や主体性を刺激するものより「知識や情報を与える」内容が多いように見受けられます。放課後児童クラブ運営指針が示すところの、遊びの重要性とどう整合性が取れるのかは疑問です。

・事業者が行う研修以外の研修に対応していない→広域展開事業者は、学識者などの講義をオンラインで受講でき育成支援の知識の向上に役立つことをうたっていますが、育成支援の現場をさほど知らない学識者や専門家の講義はそれほどありがたみがあるものではありません。これもまた、カタログ上は立派に見えますが実践の点では不十分です。しかも職員が独自に知識、スキルを学ぼうとして外部の研修を受けたくても事業者としてその機会を保障していることは稀ですので自腹、自費で受けざるを得なくなります。結果として、その事業者の判断する程度の範囲内でしか育成支援の質の向上が果たせなくなります。これはつまり、事業者が「この程度でよい」と判断した内容を超えての質の向上は望めないということになります。

<利点、不便な点をまとめてみました>

株式会社運営クラブ子どもへの影響保護者への影響職員への影響行政機構への影響
利点利便性の向上(条件にもよる)/概ね運営の負担を負わない(保護者会を設置しないケースが多い)コスト削減
不便な点資質の程度に疑問がある職員による問題のある育成支援の実施への不安(スキマバイトの利用など)運営方針に相いれないと判断した場合、利用を拒否することがある(実例あり)賃金が低い/雇用が不安定/研修の取り組みは自腹であることが多い事業の質が低い事業者の場合は問題発生への対応や利用者からのクレーム対応がありうる

  なぜだか市区町村には、あちこちで運営している事業者に任せれば民間の質の高いサービスが提供できると信じている(信じているふりをしている?)と思われる節が多いのですが、要は、自分たち公営でやりたくないから民間に任すための口上として述べているのではないでしょうか。広域展開事業者は、児童クラブ業界の最大の難問である人員不足に十分対応できますと自信を示して運営を勝ち取ることが多いですが、運営を任されてすぐに職員募集の求人広告をずっと出している実態を知らぬわけがないでしょう。民間事業者なら人手不足に対応できることは、まずもってありません。

 民営事業者のもう1つの主流、保護者運営系のクラブについてはのちほど取り上げます。 

 <おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)