放課後児童クラブ内で犯罪行為を起こさない、防ぐ、万が一の時に早期に見つけ出すために必要なことは、これです。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。保育所でも小学校でも放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)でも、子どものために存在する施設で子どもが被害者になる事案は、決して起こしてはなりません(同僚や保護者にも、もちろんそうなのですが)。放課後児童クラブにおいて、私がかねて訴えているのは「早期発見行動の徹底」です。これについて紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<放課後児童クラブの「弱点」>
 昨年、2023年ぐらいから、放課後児童クラブにおける許し難い事案、つまり子どもが被害者となる犯罪行為の報道が明らかに増えてきたと私は感じます。体感的なもので報道された回数を数えた根拠によるものではないので申し訳ないのですが、2012年に私は放課後児童クラブを運営する非営利法人の代表理事に就任してから今に至る間、放課後児童クラブでの事件事故に関してほぼ毎日、欠かさずネットニュースの検索をしてチェックをしてきています。そもそも放課後児童クラブがメディアで取り上げられることそのものが少なかったですし。

 もちろん、ニュースで報道されないで、関係団体の中でひっそりと処理されてきた不祥事、事件事故はそれこそ無数にあるでしょう。あるいはネット検索で容易に見つけ出せない事件事故に関する報道もあります。これは実際に、私が運営団体を率いていたときに雇用していた職員がクラブ在籍児童に対する性加害で逮捕されたときに体験したことです。ごくごく小さな記事で伝えられただけで世間一般に広く報道はされていません。報道機関が使用することが多い、有料の記事検索サービスを利用して見つけ出すことができる程度です。ですので、全ての不祥事、事件事故が報道されることではないことをまずは理解しておくと、逆に言えば、報道される件数が増えてきたということは報道されていない不祥事、事件事故もまた増えている可能性がある、ということでもあります。(もちろん、事件事故については警察や行政が、かつてとは異なり積極的に広報する姿勢に転換してきた、ということも影響しているでしょう)

 前置きはここまでとして、放課後児童クラブには、弱点があります。私の考える弱点とは次の通りです。
・雇用労働条件が他の業種より劣る事業者が圧倒的に多いため、社会人として、あるいは人間性の面でも、残念な資質の人物が雇用されることが多い。順法意識に欠ける人。何事も自分本位で事態を処理して平然としている人。組織に属する一員という立場を理解できない人。いろいろな人がいますね。他者と協同して業務、仕事を遂行することができない人がいます。というより、明らかに多い。個人で仕事する業態ならそれでもまあいいのでしょうが、児童クラブにおける業務は他者との連携が必須です。

・児童福祉事業であること、放課後児童健全育成事業であることに対する理解と、その事業を遂行することの社会的な責任に関する尊敬、評価に欠ける事業者(経営者、経営本部)が、相次いで児童クラブの運営に乗り出している。結果、全体として、「最も大切なこと=子どもの人権を守ること」の意識が絶対的にも相対的にも希薄な事業者が多すぎる。

・保護者運営系児童クラブに特徴的だが、事業に関する経営者側の関与の度合いが低く、結果として「現場任せ」になってしまっている場合が多い。その結果、事業の管理監督という経営者の責務が果たされていない。従事者(職員)が職務上の規律や事業者の事業理念を守って従事しているかどうかをチェック、管理監督する側と、チェックされる側が同一となってしまっている。

・特に最近増えている株式会社運営クラブは、その事業の実態が秘密のベールに隠されている。監督の市区町村には情報が届いていてもその市区町村が社会、第三者に情報を公開することに消極的すぎ、第三者のチェック、批評の目が行き届かない。これは私の元にも何件も実例が届いています。保護者や職員からの内部告発を市区町村が「無かったことにする」ことで何も問題が解決されないという大変に困った事態が現実に存在しています。

・監査機関による監査、チェックが不十分。とりわけ保護者運営系の児童クラブでは、年度末に金額をチェックするだけで監査が無事に終了という、いい加減な仕事しかしない監事がいまだにいる。

<早期発見行動とは>
 私が提唱している、放課後児童クラブにおける「早期発見行動」。過去にも何度か説明していますが改めて整理して紹介します。実はとても簡単なことで、「児童クラブの事業者は、違法な行為をまず起こしにくい状況を作ること。違法な行為が行われたら早期にその端緒をつかむこと」です。そのために、必要な行動、取り組みがいくつかあります。

<早期発見行動・意識環境面>
 まずは「意識環境面」における取り組みです。これは3つの主体、「事業者全体(組織)」、「事業運営者(経営者、理事、監事など役員)」、「児童クラブの現場勤務(現業者)」それぞれに必要な取り組みがあります。その詳細は私のセミナー等で学んでいただくとして、簡単に申し上げれば、「違法な行為を許さない意識、雰囲気を、それぞれの主体において作り上げる」ことです。つまりは法令遵守、リスクマネジメントの意識と取り組みの強化です。そのために必要な手段も当然あります。

<早期発見行動・実施環境面>
 これは、違法な行為を引き起こしやすい環境を無くす取り組みです。一番分かりやすい例としては、児童クラブにおける「死角」を極力作らないことです。最良なのはクラブを設計して設置する際に、通常、職員が常時立ち入る場所からは全く見えない場所に、重要な役割を持つ施設を設置しないようにすることです。どうしても死角がある施設の場合は、視せずの見取り図を作り、事業運営者がすべての施設における死角の場所を把握しておくことも当然ながら必要です。
 子どもたちが立ち入る部屋があるとき、中で何が行われているか部屋の外にいる職員が簡単に確認できるようにしておくことや、監視カメラを設置することも含まれます。また、クラブの建物を取り囲むように園庭が広がっている場合、主に子どもたちが遊ぶ場所を決めておき、子どもが立ち入らない場所を運用上の規定(ルールの設定)によって作ることも含まれます。

<早期発見行動・業務実施面>
 これは実際に児童クラブにおいて業務に従事している者が持つべき意識と、行うべき行動です。児童クラブの現場だけでなく運営本部や事務局と呼ばれる部署で従事する者にも当然、適用されます。職位、地位によってそれぞれ必要となるべきものが異なりますが、「理事長や本部長といったトップから、短期の学生アルバイト職員まで、すべての者」に徹底して理解させ実践を求めることは当然のことです。また、特に子どもと関わることが多い部門での「職員行動規範(ルール)」の設定と遵守、個々の職員が実践する「職員行動相互確認(監視)」の2点が、最も重要となります。

・職員行動規範とは、全職員が必ず理解して守る決まりを作ることと、その決まりを守って行動することです。例えば、小学校の宿題をするとき、クラブのプレイルームではうるさすぎて子どもが集中できないといって、別室(静養室など)で勉強したい、ということがあるでしょう。そんなとき、職員と子どもが1対1で別室に移動するような状況があるかもしれませんが、そのような「密室において1対1、もしくはそれに近い状況」が起こるのを禁止する決まりを事前に設定しておく、ということです。仮に、どうしても別室に移らねばならない事情の時は、ドアを開けて他者が容易に確認できるようにする、他の職員は(複数の者が入れ代わり立ち代わりでいいので)数分おきに内部を確認する、ということで、密室で起きやすい違法な行為の発生を防ぐことを心がける、ということです。
 同性だから大丈夫、ということは全くありません。男性職員と男児、女性職員と女児なら何も起きない「はず」では、ないのです。性加害だけでなく暴力行為や金銭、物品の盗難、横領についても、「あの人は指導員歴30年の人だから大丈夫」「あの人は施設長だから、主任だから、部長だから、理事だから大丈夫」というのは、まったくありえません。すべての思い込みを排除することも、重要な行動規範です。
 これは法令遵守、コンプライアンスと密接に関わります。この点、順法意識を軽視、欠いている人は、職員行動規範の重要性そのものを理解できないか、理解に苦しむことになります。残念ながらこういう人は、児童クラブのお仕事に向いていない、ということになります。

・職員行動相互確認(監視)は、一番、従事者の抵抗が大きいでしょう。要は、「お互いに、何か怪しいことがないか、常にチェックする」ことだからです。私が一番呆れる、児童クラブの世界に根付くこまったことに、職員に対する無謬性(むびゅうせい)、があります。どういうことかというと、「児童クラブの職員、支援員、指導員は、子どもが大好き、子どものために何かしてあげたいという、良い人ばかり。悪い人はいないはず」という、現実の根拠が全くない絶対的性善説の信奉者が多いということです。疑いの目を持たれたことに「私は信じられていなかった。そんな、悪いことをしようなんてまったく思ってもいないのに。私は一生懸命頑張っているのに。やる気があったのに。なのに相手はまったく理解してくれていなかった。私は傷ついた」と平然と言う人のなんと多いことか。バカですか?と、あえて申し上げましょう。あなたの主観など、どうでもいいのです。「第三者からみて客観的に、問題や事案を起こしていないことが確認できること」こそ重要なのです。極端な例で申せば、子どもに対する性加害を企図する人物をそうとは気が付かないで(実際、気が付くことはほぼ不可能)採用してしまった事業者があったとして、その事業者における早期発見行動の徹底ゆえに悪意を持ちながら採用された者が、実際に犯行を起こすことがなく退職した場合、結果的に児童クラブの事業者としては合格なのです。一方で、普段は全く児童に対する性加害など意識もせずむしろ嫌悪していた職員が、なんらかのきっかけで衝動的に性加害を行ってしまった場合、事業者としては不合格であり批判を存分に受けることはやむを得ないのです。

 職員行動相互確認(監視)は、職位が上位の者(施設長やスーパーバイザーのような管理職)だけが心得ればよい、ということは全くありません。本日から働き出した新人職員が、クラブの主任に対しても「あれ、なんだろう、あの行動、おかしくないかな?」と気づくことだってあるでしょう。学生の短期アルバイトがキャリア数十年の支援員に対して疑問を持つことだってあっていいのです。「あの人の行動は、果たして、この職場において許されているものなのか。合理的なものなのか」ということを常に疑問に持ってよい、ということですし、「疑問を持つようにならなければならない」ということです。
 例えば、「いつも特定の子どもとばかり遊んでいる職員がいる」ということに気が付くかどうか、です。ある職員のご機嫌がいい日と、悪い日の落差がけっこうある。よくよく考えてみると、ある子どもがその職員のそばにいない、あるいはクラブを休んだ日に機嫌が悪い、ということに気付いたとしたら、そこに「どうしてそんなことが起こるのか」という疑問を、クラブの職員は持たねばならないのですし、それこそが、職員行動相互確認(監視)行動なのです。
 当然ながら、この件に関しては「確認・監視」→「判定」の流れをたどります。判定こそ難しいのですが、確認・監視した者自身が行う「初期判定」と、上位者や相談機関が判定する「本判定」があります。不審な行動をしていた職員がそのクラブの施設長級でなければ、まずは施設長に報告することになるでしょうし、施設長級に不審な行動が見られたら、運営本部や事務局の対応窓口に報告することになります。このことからお分かりでしょうが、単に、不信な行動があるかどうかを職員全員が意識することだけではなく、「どういうことが許され、どういうことは許されないのか」を事前に職員が講義講習を受けて学んでおくことや、不審な行動が確認された際の処理手順について組織全体で決めておき、全職員に周知徹底しておくことも必要となってきます。

 <これは簡単なことではないが、必要なこと>
 早期発見行動について簡単に解説しました(これでも簡単な解説です)。なんだ、当たり前のことじゃないかと思われたでしょうか。その当たり前のことができていますか?できていないでしょう、おそらく。これは実に難しいことです。ただ、ごく当たり前に実践できる優れた資質の者はいます。そういう人たちが、全国各地の児童クラブ事業者に存在していて、未然に不祥事を防いでいままでやってきた、ということでしょう。

 残念ながら児童クラブをめぐる雇用労働環境はまったく改善していません。むしろ他の業種がどんどん雇用労働条件を引き上げているため相対的に児童クラブの雇用労働環境は悪化する一方です。職員不足はまったく解消されません。事業者によっては人件費をケチるためにスキマバイトを平然と利用したり、とても育成支援の本旨を理解できない程度の人物を多数採用して、何事も起こさないために「子どもの自由な行動を封じる」超管理的な児童クラブ運営を行っているという話も、私の耳に届いています。そのような児童クラブを問題視しない事業者が勢力を相次いで拡大している状況です。

 しかし、そのような事業者であろうと、地域に根付いて関係者が相談しつつ運営している事業者であろうと、事故や事件、不祥事は起こしてはなりません。地域に根付いた事業者は、起きてしまった不祥事が致命的となって市区町村から運営を任されなくなる可能性があります。全国各地でクラブを運営している事業者で働いている場合は、企業は決して問題を起こした、あるいは問題に関わるとみなされた職員のために温情を示すことなんてありません。あっという間に切りすてて責任をすべて個人に負わされておしまいです。よって我が身を守るために、早期発見行動は個人でも行うべきです。

 運営支援ブログは今後も児童クラブで残念な状況が起こるたび、早期発見行動の重要性を訴えます。しかし、本来はそれではダメなのです。事故や事件、不祥事などを起こさないための早期発見行動の重要性をぜひ、児童クラブの設置主体、運営主体、実際に働いている方々は理解してください。当然、私もセミナーや講習でこのことをお伝え出来ますから、児童クラブの世界は積極的に学んでいただきたいと切に希望します。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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