放課後児童クラブを運営する人と働く人の基礎知識シリーズ。その2は「解雇」。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く人も、働く人を雇う人も押さえておきたい基礎知識を紹介するシリーズ。第2弾は解雇、つまり、児童や同僚職員に看過できぬ行動を繰り返し、職場規律を無視して他の職員に悪影響を与え続けている職員にどうやって辞めていただくかという微妙な問題を取り上げます。なお、解雇は非常に法律的な争いが多い分野です。実際にこの問題に直面してしまったら直ちに弁護士や社会保険労務士に相談してください。国家資格がない人は私自身も含めて具体的な案件に関わることはできません。それほど解雇とは、扱いが難しい問題ということです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<職員を辞めていただく「解雇」は2種類>
 働いている人に仕事を辞めてもらう、つまり雇用契約を打ち切るということが解雇です。それは極めて厳格に判断されるべき問題であることは最初に申し上げておきます。単に気に入らないとか、指示に従わないとか、文句ばかり言っているからといって解雇はできません。安易な人員調整のために解雇を連発するのは解雇権の濫用として許されません。本日のブログでは、「これはどうしても雇い続けることができない人を、どうやって解雇するか」という前提で進めます。どうしても雇い続けることができない人というのは例えば次の通りです。
・児童や同僚職員に対して犯罪行為を行っており今後もその可能性が極めて高い人
・職場から金品を盗む、または金銭を横領している人
・同僚に対するハラスメント行為を絶えず繰り返している人
・職場規律や服務をまったく無視し、自分勝手な行動で事業者に迷惑をかけ続け、職場の秩序を乱して平然としている人

 こういうことを行っているクラブの人(以下、便宜上「職員」と表記します)から仕事を辞めたいという申出が会社や法人、組織(以下、便宜上「会社等」と表記します)にあって、それを会社等が受理すれば退職となりますが、得てして、看過できない問題行為を行っている人は居座り続ける傾向もあります。会社等にとっての理想は、種々の理由があって辞めてほしいという職員が退職を申し出てくれればいいのですが、なかなか難しいのも事実。そのため、極力、トラブルを抑えつつも辞めていただく、つまり解雇を無事に成立させることが運営側にとって必要な能力となります。
 解雇というのは現在の制度においては(本来は)極めて難しい、実施しにくい。それはそのはずで、雇う側と雇われる側を比べると、圧倒的に雇う側の力が強大ですから、雇われる側を法制度で保護しなければならない。それゆえそう簡単に(本来は)解雇はできません。本来は、と二度も書いたのは、実にいい加減に解雇を乱用している事業者がこの世の中にあまりにも多いからです。そういうブラックな事業者に制裁が下されるといいのですが。

 さて解雇の話をすると「非情だ」とか「働く者を軽く見ている」という批判が沸き起こるのが常です。当然ですが、児童クラブの世界は慢性的に深刻な人手不足です。常に猫の手も借りたい世界ですから、苦労して雇った人をそうそうにクビにする、なんてことは例外のはずです。これ、雇われる側にしか属したことが無い方はなかなか実感できませんが、雇う側も極力、雇った人を解雇したくないのです。雇うときにかかったコスト、雇ってからつぎ込んだ研修や教育ににかかるコストも含めて、人を雇うことは時間も金もかかるのです。まして、人手不足です。雇ったときは児童クラブの職員としてその求められる水準になかなか及ばなくても、雇う側がしっかりと研修、教育を継続して行って、仕事をできるまで育てるのが筋です。使えないからといって解雇なぞしたくはない。これを踏まえて本日のブログを読んでいただきたいのですね。つまり、「解雇はしたくない。したくないが、どうしようもないので苦渋の決断」ということです。
 
 本題ですが、辞めていただく方法は2つ。1つは「普通解雇」であり、2つめは「懲戒解雇」です。どの解説書を見ても懲戒解雇の方がとても難しいと紹介されていますが、実務上は逆であるのが私の実感です。「1つのことだけ忘れずに実施していれば」、懲戒解雇の方がさほど困難なく労働基準監督署から解雇予告除外認定を得られる、というのが私の見解です。(解雇予告除外認定=懲戒解雇のお墨付き、ではなく、単に解雇予告金の支払は不要という認定を得られるだけですが、懲戒解雇に不当な理由がなければ認定されますから、目安にはなります)。なお、諭旨解雇、諭旨免職という制度もありますが、それは最終的に雇う側と雇われる側の双方が合致することで実現しますから、ここでは取り扱いません。つまり「退職金は全部じゃないけれど出すから、早く退職届を出して辞めてくれないかな」ということで双方が意見の一致をみることです。この場合、往々にして雇う側が譲歩することが多いので、雇われる側も(渋々)受け入れることで成立することが多いようです。

<懲戒解雇について注意点>
 懲戒解雇は、明らかに職員側に非があることをもって実施されることですから、その原因が明確です。つまり、原因が明確でありさえすれば、懲戒解雇に付する手続きを厳格に実施すればまず失敗することがありません。そして「1つのことだけ忘れずに実施していれば」というのは、「職員側に非があることを客観的に証明できるだけの証拠を積み重ねる」ということです。ここがおろそかになると、「原因が明確でない」ということになりますし、「職員側に非があることも明確にならない」ということですから、懲戒解雇を実施することがそもそもできないということです。もちろん職員側に非がなければそれは不当解雇であり、大問題です。
 具体的には、これは懲戒解雇を実現するための大前提として求められていることですが、規則規程類(就業規則や、就業規則と一体化している懲戒規程など)に、何が懲戒解雇の事由にあてはまるのか該当する基準を具体的に明示して定めてあって、それに過去の行為がすべからく該当していることを記録として証明できることが必要です。
 その明示している基準としては、ただ「職員としてふさわしくない行為」ではダメです。児童クラブにおいては子どもへのいかがわしい行為は絶対に許されないのですから、「わいせつ・いかがわしい目的を達する意思を持って児童の身体に触れる行為を繰り返した場合であり、未遂を含む」という趣旨の規定は懲戒解雇の事由として合理的でしょう。また同僚など職場における他の職員、上司などへのハラスメント行為もその程度があまりにも度を越した場合についても、規程類に「このような場合は、懲戒解雇」という規定を設けておくことです。言い換えれば、規定に設けられていない事由を理由として懲戒解雇を実施することは不可能ではないにしろ、極めて難しくなるということです。必然的に、基準を明示した規定の数は増えるでしょう。規定の数が増えてしまっても、およそ考えられる具体的な許されざる行為を明示することが必要です。
 まあこれは当たり前で、会社等の不当なたくらみで働く者がやすやすとクビにされてしまうことを防ぐには規定でしっかりと明示をしておくべきで、それに当てはまらない場合は懲戒解雇の手続きが難しくなるのは、当然のことです。会社等が懲戒解雇にこだわるのは、「すぐに」「解雇予告金や退職金を支払うことなく」「雇用側の怒った気持ちをぶつけ、かつ、周囲への示しをも見せつけ」「雇用保険の失業等手当の受給を遅らせて困らせてやりたい」という経済的な損得を踏まえた私怨まじりの理由でしょう。そういう理由で不当に懲戒解雇されることを防ぐためにも、職員の側から、懲戒解雇に該当する基準については具体的に細かく明示するよう会社等に要求することも必要ですね。

 児童クラブの場合は、とりわけ「他者」との関りが濃密な職場であり、それは子どもだったり同僚だったりしますが、他者との関りが濃密であるという事はそれだけ対人関係上のトラブルが多いということです。明確に誰が見ても犯罪行為である窃盗や暴力行為とは違って、ハラスメントを含む対人関係上のトラブルについて懲戒解雇の事由とする際には、より具体的に明確に「これはダメ」ということをきめ細かく指定に盛り込む必要があります。

 当然ですが、「1発アウト」というのは明確な犯罪行為ぐらいしかありえません。いわゆる軽微なものであれば犯罪でもそれをもってただちに懲戒解雇とはできません。偶発的に、たまたま起こったトラブルでつい手が出てしまって同僚にけがを負わせない程度の平手打ちをしてしまった。それは暴力行為ですから他の懲戒処分に該当することは大いにあっても、それをもってただちに懲戒解雇とは通常はなりません。(子どもへの暴力行為はまた別に考える必要があるでしょうが)。

 「平手打ち」が、仮に懲戒解雇になる場合を考えるとすれば、「なんどもなんども上司や会社から注意され改善を指導されていたにもかかわらず、多くの場面で素行不良や勤務成績が著しく不漁で、それが、しっかりと記録として残され、かつ、厳重注意や減給、出勤停止などの程度の軽い懲戒処分を何度も受けている人が」、同僚を平手打ちをしてしかも反省が全くない、という場合でしょうか。つまり「記録をしっかりとって積み重ねてある」ことが大事です。会社等が、ほとほとその雇用に困っている職員がいるとしても、過去の「(マイナスの)実績」が客観的な証拠として積み重なっていないと、最後のトドメとしての懲戒解雇はできません。

 まとめると「規則規程に該当事由が細かく示されている」ことが必要であり、「過去に懲戒処分を何度も受けているというマイナスの実績があり、かつ、それが明確に記録されている」ことが必要です。すぐに就業規則を見直してください。就業規則を作成する義務が無い常時10人以下の職員しかいない児童クラブでも解雇は厳格に判断されますから、明文規定をすぐに整えてください。というか、就業規則は、個人1人しか従事していない、あるいは家族で運営している児童クラブ以外であれば必ず作成しましょう。

<普通解雇こそ大変>
 懲戒ではない普通の解雇は、たいてい、30日前までに予告します。職員から退職を申し出る場合は通常は2週間前(就業規則に格別の規定があればまた別)に会社等に申し出れば大丈夫です。30日を割り込んで解雇を告げる場合には、30日に達する分だけ1日ごとの平均賃金を支払うこと、つまり解雇予告手当が必要です。この普通解雇も、仕事を失わせることでは職員の生活基盤を完全に破壊する重大なことですから、その手続きもまた慎重に厳格に行われなければなりません。その点、「落ち度」が職員側に明確にある懲戒解雇と比べると、「職員としての能力不足や細かな失態、失敗の積み重ねがついに会社等からみて限界を超えてしまった」という普通解雇の方が、実務上は心理的な抵抗感は強い、普通解雇に相当することを第三者をも含めて納得させることが難しいと私は考えています。

 懲戒解雇同様、普通解雇に相当する事由を詳細に規則規程類に明示することは大前提です。これが整っていないと不当解雇になりえます。とにかく解雇は労使紛争、トラブルの最たるもので、労使双方が労基署に相談することが大変多いのです。そういうトラブルを回避するためにも、後で外部から指摘を受けても「そのことは、ここに根拠があります。この人は何年何月何日にここに示されていることを犯し、何月何日に懲罰委員会の審議でこういう処分が下っています。これがその時の書類です」と、すぐに示すことができる準備を会社等は整えておくことが必要です。何の証拠も無く「とにかく過去から勤務成績がダメだったから」では、普通解雇ですら認められません。具体的な一発アウト!の事由が見えにくい普通解雇だからこそ、事業者側は慎重に、丁寧に、「この職員はさすがにダメだ」という職員の「ダメな実績」を積み重ねておく必要があります。もちろん、不当な言いがかりでダメな実績を捏造してはなりません。

 この職員は妙に子どもにベタベタとくっつく。それを見ている他の児童から不快感が出ている。保護者からも苦情が来ている。同僚や上司がいくら注意して改善を求めても繰り返す。このような場合も、「必要以上に子どもとの身体的接触を繰り返し、是正を求める指導を受けても改善せず長期間にわたって繰り返すことが継続する場合」という規定を設けておけば、それが半年ほど続けば普通解雇に相当する可能性は出てくるでしょう。もちろん一発で解雇というのではなく、最初は口頭による注意、それでも改善しなければ始末書、それでもまったく改善されなければ減給や出勤停止と、徐々に段階を踏んでいくことは欠かせません。いきなり一発で「はい解雇です」は、よほどのひどい事案でない限り、認められないと思ってください。そんなことをしたらそれこそ深刻な労使トラブルとなって組織への評判低下はもちろん、働いている職員たちに与えるモチベーション低下による事業へのダメージは計り知れません。

<周囲への影響は考慮しなければならない>
 児童クラブの世界はある意味異質で、「子どもへのふさわしくない行為」をした職員には厳格化傾向、つまり早くクビにしてほしいという職員間の意識がまま見られます。一方、同僚や組織へのふさわしくない行為については、お互い様なのか、はたまた組織をそもそも信用していないのか分かりませんが、「そんな程度で処分するの?」という意識があるように私には感じられます。例えば、職員が遅刻してしまったが、遅刻した職員に懲戒処分という発想が職員集団には希薄、そこまでしなくたっていいんじゃない?という意識です。

 そういう一般社会とは違った意識が醸成されている児童クラブの集団における職員への処分は、職員集団のモチベーションに思わぬ影響を及ぼす可能性が高く、慎重に事を進める必要があります。まして、運営が保護者や保護者系である事業者の場合は、そもそも運営がプロフェッショナルの手によると職員間に認識されておらず、「あの職員とこの職員との態度の差、好き嫌い」が介在していると職員集団側に思われる傾向すらあります。懲戒処分や解雇には、具体的なプライバシーには配慮しつつ、「会社等は、どうして、厳しい処分が必要だったのか」をできるだけ社内、組織内には説明するべきでしょう。とにかく雇われる側はどうしたって弱者ですから、「次にクビになるのは自分かも」という恐れ、猜疑心を雇われる側は抱くものです。自分は会社に、上に、睨まれているからという意識があればなおさらです。児童クラブの事業提供における実施者である職員がそのような心理状態で質の高い事業が実施できるはずはありません。

 その点においては、労務管理や組織統治(ガバナンス)において、常に公正であることを絶対に曲げない運営をし続けて、雇われる職員側に「うちの会社はえこひいきが酷い」「役員がやりたい放題にやっている」という意識をまったく持たれないように運営をしておくことが必要です。つまり、経営側こそ、つねに襟を正した運営を心掛けて実際に行うことが必要です。そうして、公正な運営をしていると職員に思われていればこそ、最終的に労使関係を打ち壊す解雇という非情の手段ですらも、なんとか受け入れてくれるということです。

 最後に私自身ですが、結構多くの解雇事案を経験した中で、今もはっきりと覚えているのは3つの事例があります。うち2つは刑法犯で、1つは逮捕され、1つは書類送検。いずれも刑事事件となりましたから懲戒解雇で、解雇予告除外認定もすんなり出ました。もう1は非常勤職員で、突然、人間関係のもつれを訴えて出勤しなくなった事例でした。このときは苦労しました。毎日、シフト通りの出勤を求めます。留守番電話にメッセージを残します。メールも送ります。しかし出勤が無い。返事も無い。そうして2週間経過後、規定には解雇事由に相当するので、そこで30日後の普通解雇を申し渡しました。「納得がいかない。労基に相談する」と返事がきましたがこちらは出勤をずっと求めていた実績があります。その後しばらくたって、対象者側から労働基準法に基づく解雇の事由の証明を求められたので、それはもちろん交付しました。それで30日が過ぎて解雇が成立になった、ということです。しかし、こちらとしても非常に心理的なストレスになったのは事実。なるべくなら解雇はしたくないですし、解雇に至る前になんとかできなかったのか、という反省点が多かった事例でした。

 労使関係は円満が一番です。常日頃から会議、会合で意見を交わし合い情報を共有する関係を作っておきましょう。問題の芽が出てきたら早期に摘み取る。それに気づかず放置するから深刻化してしまい、最終的に解雇のような非情の手段でケリを付けざるを得なくなるのですから。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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