放課後児童クラブの状況を確認する「全市区町村データーベース」、半分を超えたので中間報告。本当にバラバラです。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。全国で1,741ある市区町村における放課後児童クラブの運営状況を、とりあえず市区町村のホームページに記載されている情報に限定して拾い上げていく「全市区町村データーベース」。やっと半分を超えました。見えてきたものは、「やっぱり児童クラブは全国津々浦々、まったくバラバラですよ」という現状です。ちなみに10月15日午前9時時点で、広島県世羅町までやりました。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<圧倒的に「放課後児童クラブ」「児童クラブ」>
まずは数字で示せる部分、定量的な部分を見てみます。放課後児童クラブ、学童保育所、いろいろな呼び方がありますが、世間的に使われる単語や、報道でも使われる単語は「学童保育」「学童保育所」が多いですね。それには歴史的な背景も当然あります。放課後児童クラブは、放課後児童健全育成事業がおこなわれている施設のことですが、その放課後児童健全育成事業は、児童福祉法によって法制化された1997年以降のことだとすると、それ以前、特に増えだしたのは1970年代ですが、そのころから存在していた「学童保育」「学童保育所」という単語の方がはるかに歴史が長いですから、それだけ世間に広まっているのは当然です。
では実際どのように施設が命名されているでしょうか。本ブログ執筆時で877市区町村を見ていますが次のように分かれています。なお、市区町村内すべての施設が同じ系統の命名であることは限らず、複数の系統の命名が入り混じっていることも珍しくありません。分類に際しては「公設と民設がある場合は、公設の施設名」、「複数の系統の命名が入り混じっている場合は半数に達しているもの」を、その系統の命名とみなしています。例えば、市区町村内に20のクラブがあったとして、うち18クラブが公設の場合、9施設以上が「~放課後児童クラブ」である場合は、その市区町村は「放課後児童クラブ」と分類しています。
「放課後児童クラブ」や「児童クラブ」など「放課後児童クラブ系」 377市区町村(42.9%)
「学童保育所」や「学童保育室」など「学童保育系」 127市区町村(14.4%)
「学童クラブ」や「学童クラブ室」など「学童クラブ系」 77市区町村(8.7%)
「~クラブ系」 57市区町村(6.4%)
「留守家庭児童室」や「留守家庭児童教室」など「留守家庭児童室系」 16市区町村(1.8%)
「児童育成室系」 3市区町村(0.3%)
「その他、いろいろな命名系統」 142市区町村(16.1%)←放課後全児童対策事業や、児童館クラブなどが含まれる
5割とまではいきませんが、放課後児童クラブ、児童クラブ系が多いですね。放課後児童クラブはある意味、行政的な用語ですから使う市区町村が多くても当然です。しかし一般的には学童保育、学童保育所の文字、単語が多用されています。このことは、私は研究する意味があると考えています。歴史的な経緯の影響、法令上の扱い、また学童保育という文字に含まれる「保育」の文字が放課後児童クラブの仕組み(子どもを受け入れて育成支援を行う)に対して世間がどう解釈しがちなのか、とても気になります。
地域による偏りや、歴史的な経緯による命名の違いも大いに気になります。いずれ分析してみたいのですが、「学童保育」系は局部的に集中している印象があります。九州の一部、関西の一部、関東は比較的広範囲にあります。北海道も学童保育系の命名が見られます。またこれは当然ですが、保護者運営系のクラブが多い、あるいはその名残があると思われる地域は学童保育系の命名が多いように、私には感じられます。
もう1つ気になる点は、市区町村で児童クラブ、学童保育所を担当しているのはどの部局、部署なのかということです。大きく分けると、教育委員会と、首長部局になります。首長部局も、「一般的な福祉系の部局」と、「子ども施策を中心とする部局」に、私は分けてカウントしています。子ども施策を中心とした部局を設けていることは、見かけ上ですが、子ども施策をそれなりに重視している姿勢の現れ、と解釈できるからです。ただし行政の規模を考慮して、「部」を設けている市区町村のうち市と区は「部」で、町村は「課・係」で判断しています。「部」がない市区町村の場合は「課」で判断しています。例えば、A市には「健康福祉部こども支援課」があるときは「福祉系」としており、B市には部がなく「子ども未来課」がある場合は「こども系」としています。
「教育部局」(教育委員会、教育部) 250市区町村(28.5%)
「福祉部局」(健康福祉部子ども支援課、子ども保育課など) 331市区町村(37.7%)
「こども部局」(こども未来部子ども支援課、こども未来課など) 198市区町村(22.5%)
「その他」(町民課など) 16市区町村(1.8%)
「設置していない(児童クラブの設置がない)」 50市区町村(5.7%)
「不明(市区町村のHPでは担当部局が判別できない)」 25市区町村(2.8%)
なぜこの区別が気になるのかと言えば、国の管轄とのねじれが気になるからです。これこそ、まさに放課後児童健全育成事業が「後付け」たる所以です。児童福祉法に書き込まれる前から学童保育(所)として、子どもを受け入れて過ごさせる仕組みは存在しており、それを教育委員会が面倒を見ていた市区町村も大勢あったわけですが、厚生省(当時)の所管になってからも、学童保育(所)や児童クラブを引き続き教育委員会系で担当している市区町村が多いわけです。
これもいずれ分析してみたいのですが、教育委員会系が管轄の市区町村のクラブは、例えばHPや入所のしおり、利用案内に記載されている事業の説明や保護者向けの注意事項に関して、管理や指導の重要性を前面に押し出しているように、私には感じられます。児童クラブを担当している部署が教育委員会系なのか、福祉部局か、その中でもこども部局で、子どもたちへの支援、援助の方針に何か違いがあるのかどうか、とても興味深いテーマです。
私が定義する「広域展開事業者」(複数の都道府県において児童クラブを運営する事業者。営利企業、非営利法人を問わない)も、かなりの地域で事業を行っていることが分かります。特に運営するクラブがある市区町村が多い事業者は次の通りです。
シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社 84市区町村(9.5%)
株式会社明日葉 39市区町村(4.4%)
労働者協同組合ワーカーズ・コープ事業団(NPOも含む) 16市区町村(1.8%)
特定非営利三楽 14市区町村(1.5%)
株式会社アンフィニ 13市区町村(1.4%)
まだ全国の半分の市区町村しか見ていませんから、上記の数は、もっともっと増えるでしょう。2025年度になるとさらに民営化が進むことも確実です。
<土曜日閉所や、小学3年生、4年生までの受け入れも、かなりある>
放課後児童健全育成事業は小学生を対象としています。2012年の改正前は、おおむね10歳、つまり小学4年生程度までが対象でした。よって今は小学6年生まで受け入れて当然の児童クラブですが、もう一方で児童福祉法は、地域の実情に応じた放課後児童健全育成事業の実施を肯定しています。よって、「うちの地域は小学4年生までで十分」と、市区町村が判断すれば、それはそれで問題なし、となってしまいます。
まだ全国の半分しか見ていませんが、これまでの傾向では、明らかに人口が多い地域に小学3年生や4年生までの受け入れが目立ちます。東京都だけでみても、北区、江東区、小金井市、国分寺市、小平市、墨田区が小学3年や4年生までの受け入れとしており、それ以上の学年の子どもは放課後子供教室系統に移ることになります。
これはもちろん、そうしないと児童クラブ利用を希望する小学1年生や2年生を全員、受け入れられないからでしょう。つまり小1の壁を作らない苦肉の策でしょうが、小4の壁は生じてしまいますね。また、極端に人口が少ない地域でも小学低学年だけの受け入れが見られますが、状況は異なります。人口が少ない地方では、放課後子供教室を充実させている場合があり、午後5時までの放課後子供教室で十分、放課後を過ごす場所の確保の要望が満たせるのでしょうし、あるいは小学高学年にもなると家業の手伝いなどがあるのでしょう。
人口が多い地域で待機児童が出ていないのは、いわゆる放課後全児童対策事業を行っている地域です。それはそれでまた別の問題、特に大規模状態という深刻な問題が隠されています。
土曜日の閉所もあります。人口が比較的少ない地域に見られますが、甲府市や坂出市、三田市、吹田市、関市といった市でも土曜日の開所が月1回だったりまったく閉所したりという地域があります。土曜日も働いている保護者がいるはずですが、別の受け入れ手段が確保されているのでしょうか。一方、祝日にもクラブを開所する地域もごくわずかですがあります。
開所、閉所の時刻も気になるところです。今年度は早朝の子どもの居場所について報道がたびたびありました。これは学校登校日における朝の子どもの居場所の話で、放課後児童クラブの朝の開所の問題を直接取り扱った報道は見られなかったと私は記憶していますが、学校休業日における児童クラブの朝の開所時刻は、午前8時開所と午前7時30分開所の2系統が共に多いですね。午前7時30分開所であれば、それほど困る子育て家庭は多くはないでしょうが午前8時開所はこれから開所時刻の前倒しが重要な検討課題となるでしょう。数は少ないですが午前7時開所のクラブもあります。つまり、やれないわけはないのです。
<問題は、情報公開>
私はこの全市区町村データーベースは、いま行っている1巡目では、公設公営や公設民営などの数を知ること、運営主体(事業者)のうちどれだけ広域展開事業者が進出しているのか、などを主なリサーチとして行っていますが、最も重要なのは「市区町村がどれだけ児童クラブに関して情報を提供しているか」をつぶさに確認することです。
区域内にあるすべての児童クラブにおいて、公設か民設か、公営なのか民営なのか、民営だとしたら事業者はどんな団体か、どのような組織か、指定管理者制度なのか業務委託なのか、児童クラブの基礎的な情報は提供されているか、入所手続きの案内はどうか、そういった情報提供の度合いを1つ1つの自治体で確認しているのです。結論を申せば、ごく一部の自治体以外は、本当に情報提供としては残念なレベルにある、ということです。
私は、補助金を交付されて事業を行っている事業者は、その運営状況についてしっかりと社会に公開されるべきだと考えています。税金からなる補助金を使っているのですから、その補助金を受け取っている事業者の名前、代表者、役員、運営形態、会計などの資料(計算書類)、事業計画など、個人のプライバシー情報以外は公開されて当然だという考えを持っています。納税者である国民もまた、税金が無駄に使われないように、児童クラブに関わる事業において効果的に補助金が使われているかどうかしっかり監視する意識を持たねばならないと、考えています。
そのような意識を醸成するのが、市区町村の役割です。ですが、市区町村のHP、これは情報の窓口ですが、そこにおける情報提供が誠に心もとない。
なぜ、委託や指定管理で運営を民間事業者に任せているのに、HPではさも自分たち役所、役場が運営しているように見せかけるのでしょう。都合が悪いのでしょうか。バツが悪いのでしょうか。これについては、完全に情報を公開している地域とそうでない地域の落差があまりにも激しすぎます。
情報提供に関しては、保護者運営系の児童クラブは、まずもってあまりにもひどすぎます。情報公開を行う担当の人を設けられない事情はあるでしょうが、公のお金を受け取って事業を行っている、よって事業の内容は広く世間に見てもらわねばならないという意識が欠如しています。児童クラブは必要な人が入るのだから情報は小学校や保育所に提供してあればいいだろう、ではありません。利用者あるいは想定利用可能者に対する事業内容の情報提供と、公のお金を受け取って運営している事業運営責任による情報公開の責務はまったく別です。
それなのに、保護者運営系の児童クラブは、それが任意団体だろうがNPO法人だろうが、事業者名はもちろん、代表者、予算や決算などが公表されていません。ほぼすべてといっていいでしょう。NPOについては内閣府データーベース等で見ることができますが児童クラブをひとくくりにして処理していますし、事業報告でも簡単にしか触れられていませんので情報公開としては不十分すぎます。
情報公開については、大都市にてクラブや施設を運営している広域展開事業者の方がまだ情報公開をしています。とはいえ、それは「このクラブは、うちが運営しています」程度のものです。不十分です。さらに広域展開事業者の中でも、業界トップクラスやその後をうかがう規模の事業者の情報公開はまったくもって不十分です。上位の事業者がそれでは、業界に示しが付きませんよ。現状では、巨額の補助金を交付されてもそれがどのように使われているか外部にまったく見えない、ブラックボックスと化しています。これは大問題です。働き手が集まらないからスキマバイトを活用しているのも巨大な広域展開事業者ですが、では本当に人件費が足りないのか?その確認はできません。
税金から成る補助金を交付されている以上、民間企業であっても、どれだけの補助金を交付されて、どれだけの額を人件費として使用しているか、全クラブ、個々のクラブ毎に予算、決算を公開することを義務づけるよう、法的な規制が必要です。1クラブで5千万円の予算がありうち3千万円が補助金で、人件費に2千5百万、経費に1千万円、残り1千5百万は損益差額として利益計上している、なんて実情が世間に知られたくないのでしょうか。知られたら補助金が減らされますからね。
保護者運営系の事業者と、大規模な広域展開事業者には、情報公開を確実にするよう市区町村は義務づける規定を設けるべきです。
保護者の利便性という点でのサービスは、公営はおしなべて見劣りします。これについては改めて指摘します。民間の広域展開事業者に運営が移るとサービスが向上する傾向は一般的ですが、これは広域展開事業者が優れているのではなく自治体が、公営クラブに予算をつぎ込まないことによる影響でしょうし、公営ならではのお役所体質もあるでしょう。保護者運営系もおおよそ利便性としてのサービスは見劣りしますが、保護者運営系でも「もっと勉強やスポーツをさせたい」という意識で設立された児童クラブは逆に午後8時まで受け入れたり学力向上支援を行ったりと、保護者の要望を取り入れた運営、つまり差別化を図って入所者数を増やすという努力を行っていることが見て取れます。
今年3月にこの作業を開始してから半年以上が過ぎています。1巡目が終わるのは来年の春でしょう。それが終わると直ちに2巡目として、より詳しい項目をチェックしていく予定です。いずれ本にして広く世間に紹介したいと考えています。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)