放課後児童クラブの広域展開事業者が強いる〝上納システム〟。現場の声が弊会に届きました。制度で防ぐべきだ。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを運営する民間の事業者、それも、市区町村の区域を超えて各地で児童クラブを運営する民間事業者が相次いで事業規模を拡大しています。また新規進出する事業者も続々と現れています。私は、各地で児童クラブを運営する民間事業者を「広域展開事業者」と称していますが、今回のブログはそのような広域展開事業者の児童クラブで働いていた方からの情報提供に基づいています。その内容は一言でいえば「上納システムのひどさ」です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<悲痛な訴え>
 弊会には児童クラブに関わるいろいろな立場の人からメールや連絡が届きます。その中に、広域展開事業者の運営の実態を紹介したいという方からメールが届きました。メールでは実名で、事業者の名称もはっきり記載されていました。なお、当ブログでは固有名詞は伏せて紹介します。そのメールの一部を紹介します。

「一般管理費として〇〇(社名)が27%も抜いている中抜き構造です。自治体によって差がありますが、契約時の一般管理費は10%弱が大半だと思われます。自治体との契約を大幅に上回る上納金を課せられることで、現場は自ら賃金を抑えなければならない典型的な貧困ビジネスの形態となっています。現場では本部の取り分を除いた金額から次年度の予算を立てることになります。」
「私が居た地域ですと、地域レベルの人件費や家賃・経費は各施設で分割して計上する形で、それを含めて73%でやることになっていました。」

 メールの内容は、この広域展開事業者が現場のクラブに対して、自治体から交付される補助金や利用者から集める保護者負担金(保育料、利用料など)などで得られる収入から3割近い額が事前に中抜きされる、つまり事前に本部へ「上納」させられてしまい、残りの金額でクラブを運営することを強制している、という内容でした。のちほど触れますが、3割近くも事前に取られてしまっては、現場のクラブでは、とても安定して運営できるだけの費用を確保できるとは思えません。なお、昨今の厳しい人手不足、雇用環境の悪化から、特に人手不足がはなはだしい地域においては若干の緩和も認められているようです。それでも基本的には、この27%の上納は現場に重くのしかかっているということでした。

 どう重くのしかかるのか。運営に充てられる費用が足りなければ、当然、手を付けるのは人件費しかありません。人件費を削ることで運営するしかないのです。そのこともつづられていましたので紹介します。

「残業について「時間外勤務を認めない」でなく「時間外の勤務時間を記録しない」です。毎日23時に帰宅していたが、勤怠上は17時までになっていた。大型行事の前日は9時出勤23時退勤などがザラにありますが、シフト表通りの18時退勤などと記録しております。建前として自主的に残ったとなっていますが、指揮下で働いています。出勤簿を使用する現場は勿論ですが、タイムカードがあっても打刻後に仕事をするので同様です。」
 どうでしょうか。とても悲惨で言葉になりません。
 ここまでに明確となった問題点は「事業者の本部や本体が確保する利益分が過大になると、現場職員の雇用労働環境が悪化する。それは最終的に事業の質、育成支援の質に直結する」ということです。 

<27%は、ありえない>
 まず児童クラブの会計について確認しておきましょう。事業者、企業、法人によっていろいろな考え方があるでしょうが、私は次のように考えます。事業費として、次の1~3が当てはまると考えています。
1 児童クラブの現場で働く職員の人件費(法定福利費も含む)
2 児童クラブの子どもたちに使われる費用(おやつ代、教材費など)
3 児童クラブの施設に必要な経費。水光熱費。家賃など。
いわゆる管理費は4以降です。
4 児童クラブを運営する組織の維持に携わる者の人件費。
5 児童クラブを運営する組織の維持そのものに必要な費用。本部機能の維持費。

 この1~5のうち、児童クラブという事業を考えると、その事業の中核は「職員による健全育成事業の実施と健全育成そのもの」というサービス業そのものですから、1と2がいわゆる「(売上)原価」に含まれると考えます。他方、3と4と5は、サービスを実施するために必要な費用という考え方、一般の企業で言えば販管費、児童クラブの場合は販売にかける経費は不要ですので一般管理費そのものである、という考え方ができるでしょう。

 児童クラブは典型的な労働集約型産業です。人件費が支出のほとんどを占めると言っていいでしょう。おやつ代などは人件費と比べると微々たる金額ですので、原価のほとんどが人件費が占められている、といえます。
 福祉業界では人件費率が60~70%と言われています。児童クラブでは、「公設の場合は家賃が不要等、固定経費が少ない」「広域の学区を対象とする児童クラブはまだ少なく、車両による送迎などにかかる経費が少ない」「補助金はその多くが人件費を念頭にして交付されている」「零細規模の事業者が多く、本部運営経費、いわゆるバックオフィスに充てる経費を計上する必要が無いので一般管理費がその分、少なくて済む」といった種々の理由から、原価率(実質的に人件費率)は70%半ばから80%前後が多いと私は考えています。
(もっと考えるなら、収入そのものが本来必要な額を下回る額しか得られないので人件費、それも、極力抑制した額しか当てられないが、それでも運営経費に充てる十分な額が確保できない。つまりもともと、一般管理費を増やそうにも増やせない、という構造にあると言えます。

 ちなみにかつて私が代表を務めていたNPO法人では当初、一般管理費が20%前後を占めていました。それを次第に縮小するように心がけ、やがて15%近くになりました。つまり、原価分が増えたということ、人件費が増えたということです。それはもちろん、職員の賃金、報酬を増やしたからです。実のところ、作業の効率化、生産性の向上ということで一気にパソコンを導入したりクラブごとの通信端末を導入したりと、以前の時代であれば費用がそれほどかからなかったか、まったくかけていなかった費用が新たに計上されるようになって運営に必要な経費も増えたのですが、それよりも人件費に充てる分を増やしました。運営は毎年、火の車でしたが、それも「常勤職員2人分の補助金」の導入を見越していたからです。もう組織を離れて数年たちますから現状はよく分かりませんが、新たな補助金で一息ついていることでしょう。さらにいえば、非営利法人ですから「利益分」を確保する必要が無いこともまた、一般管理費を抑える要因になっていました。

 今、および今後は、さらなる人手不足の進行でもっと賃金を上げねばならず児童クラブの人件費はさらに増えるでしょう。最低賃金も、どんどん上がります。一方、児童クラブのICT化や送迎サービスがさらに進めば、事業運営そのものに必要な経費だって増えていきます。児童クラブの運営は、本当に大変です。(なので補助金の増額が必要ですし、生産性の向上や、質の高い業務を遂行できる職員への賃金配分見直しもまた必要です)

 広域展開事業者は営利企業、非営利法人の双方がそろっています。広域展開事業者であれば営利、非営利の差は私はまったく考慮不要と考えています。非営利であっても実質は事業による収益を期待しているということです。むしろ、非営利という看板を掲げていながら実はがっちりと利益を確保することにきゅうきゅうとしている、ということであれば、堂々と株式会社などで営利企業の看板を掲げて児童クラブ事業に手を相次いで出す方が、まだ分かりやすい。「私たちは、非営利ですよ、稼ぎを目的としていませんよ」と一般的にイメージを振りまいておきながら、実際は、がっちりと利益分をかっさらっていくのであれば、問題です。

 さて、このたび私のもとに届いた広域展開事業者による27%の中抜き、上納は、もっとひどい内容です。つまり、上記の1~5のうちの4、しかもそのうち「その児童クラブの現場にいない事業者本体の役員の報酬」のみを「4」として一般管理費として予算全体の27%として本部先に持っていってしまい、本来なら一般管理費として計上していいはずの「3と5」も、原価として残る73%の中で支払え、というのです。これは、とてもひどいものです。当然、「3」「5」に当たる経費を払わなければ施設そのものが維持できませんから、「1」に当たる人件費を削るしかありません。
 だからこそ、メールの内容にあったように、働く側はサービス残業をせざるを得なくなります。いやむしろ、本来の勤務時間内ですべて収まるように設定されるべき適正な仕事量の設定がそもそも不可能であって、時間外にはみ出して勤務せざるを得ない、ところが時間外の賃金はまったく支払われないという、労働者にとって悲惨な現実が横行しているということが、メールの送信者が訴えたかったことなのです。

<法令の整備と、自治体の管理監督の徹底を望む>
 日本は自由経済の国ですし、自由経済だからこその発展を遂げてきました。経済活動は基本的に自由であるべきですし、企業や法人が手を出せないエリア、つまり儲からない分野や住民に平準化されたサービス提供が必要な場合は公の事業として実施展開されるべきだと私は考えています。また民間が手掛けるとしたら公の補助がしっかりなされることが必要です。まさに児童クラブはそうなのですが、広域展開事業者の中でも、利益がっちりを優先する困った事業者は、その公の補助を「毎年、確実に得られる利益」としてあてこんで成長しています。

 それも商売の目の付け所が良いと言えるのかもしれませんが、事業の本旨を十分にやり遂げない、つまり児童クラブで言えば、適正な雇用労働条件のもとで人を雇って子どもに質の高い育成支援を行うという事業の本旨を十分にやり遂げていなければ、児童クラブの運営事業者が補助金の多くを利益として確保することは私は問題であると考えます。もちろん表向きは「児童クラブ事業をしっかりとやります。やっています」とアピールしている事業者ばかりですから、内情はそれと正反対であるなら、詐欺と言いたくなります。

 しかも、私に届いたメールのように、実際に、詐欺に等しいような、労働法規を完全に無視するような労働慣行が強制されている事業者が存在するのであれば、これは直ちに行政が介入するべきです。また立法でも、そのような事業者が補助金から利益を確保する、いわゆる「公金チューチュー」「補助金ビジネス」は、その可能性に厳しく制限をかけるべきです。それこそ法令による規制を厳しくするべきです。私は、自治体が賃金条項を設けた公契約条令を設けて、公の事業を行う民間事業者の賃金配分を一定程度、規制をかけるべきだと訴えていますが、法律として全国に網をかけることも必要です。現状においては、事業者の良識にとても期待できません。

 今だって、児童クラブの世界では、人件費にあまりカネをかけていないことに起因すると容易に想像できる人手不足が原因で、例えば補助金の不正受給(2023年7月以降、相次いで発覚しましたね)につながったり、時給単価の安いスキマバイトに頼ったり(2024年の夏に問題化しましたね)、あるいは人手不足だからといって外遊びができなかったり(ついこの前、報道されましたね)、いろいろな問題が起きています。ちなみにこれらはすべて広域展開事業者が起こした事案です。

 全国の市区町村の児童クラブ担当者には、実際にどういう事業が行われているのか、常に確認をしてほしいと希望します。そして、市区町村において児童クラブの運営事業者を選んだり審査したりする立場の人たちは、提示されたカタログスペック、資料だけで判断することが正当な業務であるとはいえ、「広域展開事業者であるから、この事業者は、いったい、どのくらいを本部の利益分として計上する想定でいるのか」という観点をもって、プレゼンテーションのときに、事業者の方に、質していただきたい。

 実際、現場で過ごす子ども、現場で働く職員、組織を実際に運営している職員に、ちゃんと資金がいきわたらないようでは、児童クラブの質は維持できません。カネを出す立場の側なら、強く言えるし、求めることができるのですから、そこはしっかりと管理監督していただきたい。
 そして最終的には納税者たる国民、私たち一人一人が、「無駄な補助金の使われ方が、なされていないかどうか」をしっかり管理監督する意識を持つこともまた、求められているのです。「預かってくれればそれでいいや」ではなくて、子どもが無事に、安全安心な環境で過ごせられる児童クラブになっているかどうか、そのために必要な資金がちゃんと使われているかどうか、関心を持ってください。直接の利用料支払いだけではなくて、種々の税金や、企業が収めている子育て拠出金からも児童クラブにお金が出ているのですから。

 広域展開事業者には、児童クラブ業界の質の底上げ、業界の健全な発展に最も影響力を発揮できるのですから、児童の健全育成の本旨をしっかりと踏まえつつ、そこで従事する者の待遇を向上させていくことが業界の発展の王道である、という意識を少しでも持っていただきたいと切に願います。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「リアルを越えたフィクション。これが児童クラブの、ありのままの真の実態なのか?」 そんなおどろおどろしいキャッチコピーが似合う、放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。「がくどう、序」というタイトルで、2025年3月中旬に、POD出版(アマゾンで注文すると、印刷された書籍が配送される仕組み)での発売となります。現在、静岡県湖西市の出版社に依頼して作業を進めております。
 埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった、元新聞記者である筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分、活用できる内容だと確信しています。ご期待ください。
 20万字ほどの超大作になってしまったので、注文を受けてから印刷するという仕組みの設定上、価格が2000円以上になってしまいます。気軽に買える値段ではないのですが、それでも、損はさせません!という気合を込めて、お願いします。ぜひ、手に取ってください!

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)