放課後児童クラブの仕事にまつわる「性」の問題。現状や問題、課題、意見や議論を積極的に交わして発信していこう。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)ではいろいろな「性」に関する問題や課題があります。私は運営側に身を置いてきたので、運営の立場で性の問題を考えてみます。育成支援の観点から考えられる子ども達の性の問題についてはぜひ育成支援の立場にいる方々に大いに意見を表明してほしいですね。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<男性職員の役割と勝手に期待されること>
放課後児童クラブの世界はおおむね女性が多い職場と言えるでしょう。全国の放課後児童支援員の男女比について調べた資料はなさそうですが、検索すると埼玉県入間市の公立学童保育室についてまとめたデータが見つかりました。放課後児童支援員と補助員106人について「男女別職員構成比では、女性職員が94.3%、男性職員は5.7%となっています。」とあります。おそらく全国的にみて、男性は児童クラブの世界では少数派と言えるでしょう。私の体感でも圧倒的に男性が少ない業界です。私は事務局勤務でしたが基本的に男性は私1人でした。
男性職員について、女性職員からいろいろな声を聞いてきました。最も多く聞くのは体力面について男性がいると助かるという声です。重量物を運ぶ、荷物を運ぶとき、あるいは高い所で仕事をするときに男性がいてほしい、という声です。まあそれはやむを得ないことと思いますが、非常に難しいのは「暴れる子どもが多いクラブなので男性が必要」という現場からの意見です。現実的に、一時的にパニックやスイッチが入ってしまって暴れてしまっている子どもを制止してクールダウンさせるまでに、子どもが高学年になればなるほど男性の力が必要だという意見です。また、「ざわざわとうるさい子ども達には男性のよく通る声で注意してもらうと効果的だ」という声も聞いたことがありますが、これは明確に男性の存在による抑圧を期待しているもので、育成支援としては微妙すぎる問題と私には思えます。
男性職員側にしてみればどうでしょう。力仕事について期待されることは半ば受け入れているでしょうが、「男性にビシッと叱ってほしい」という期待には「それはどうなの?」と思う男性職員はいるでしょう。男性の持つ存在感などで子どもをコントロールすることは本質的な子どもへの関りではないという意見をかつて聞いたことがあります。そのあたりの事情について、私も知見が浅すぎるのでこれからおいおい学んでいきたいところです。
男性職員側からは、会議で圧倒的に男性が少ないという状況そのものに圧倒されてしまうという声もあります。ごくわずかですが「女性職員たちだらけの環境に慣れなかった」として退職していった男性の正規職員もいました。(児童クラブ以外の世界でいまだに当たり前にある、男性だらけの世界に身を置かざるを得ないごく少数の女性の立場を思うと、いかに女性が長年、その立場と権利を不当に抑圧されてきたかを思わざるを得ません)
育成支援の内容を考えるにあたって性別による差は関係ないと私は考えていますが、児童クラブの場においてクラブ職員同士が集まって行う育成支援会議、育成支援討議の現実の場では、せいぜいクラブ長(主任や施設長)とその他職員との1段階程度の職位の差しかないフラットに近い立場同士ということが影響するのでしょうか。
その他、現実的な問題として、女子児童への対応と男性職員との関りがあります。特に女子児童の生理について具体的な処置、対応を男性職員がすることは許されませんので、児童クラブには必ず女性職員を勤務させることを内規で義務付けている運営事業者が普通でしょう。
<女性職員の悩み>
私が若手女性職員からよく聞いていたのは、実務上に関してでは「高学年女子との関りが難しい」というものが大変多かったですね。それを苦にして離職も考えるほどですから深刻です。ベテラン職員が「それを乗り越えてこそ一人前の指導員よ」と真剣に取り合わないことになれば、あっという間に退職まで進行してしまいます。この点については現場職員の研修や学習会で取り上げられやすいテーマでしょう。
他には、「保護者は男性職員の話なら聞いてくれるのに女性からの話はまともに取り合ってくれない」という声も聞きました。とりわけ若手女性職員から憤慨交じりによく聞いたのは「子どもを産んで育てたことが無い人に言われたくない」と保護者から言われた、もうやってられない、という声です。児童クラブで関わる保護者の多くは出産と育児の経験者ですから、その双方を経験したことがない職員からの意見や指摘、要望について取り合いたくないという保護者がいるのですね。では男性職員にはそのようなことを言う保護者(特に母親)がいるかといえば、少なくとも私は男性職員から「保護者から、出産育児経験のないあなたからいろいろ言われたくない、って言われましたよ」という話は聞いたことがありません。
一方でこれはとりわけ男性の保護者にありえるのですが、若手女性職員に明らかに一方的な好意を持って接してくることがあります。児童クラブでの出会いがきっかけで結婚したという話をまったくきいたことがないわけではない(つまり、そういう事例があったことを知っている)のですがそれは極めて珍しいケースで、おおむね、女性職員側から「おっかない、怖い、帰り道で待ち伏せされたらと思うと恐怖でしかない」という相談を受けることがほとんどです。
なお、いわゆる職場恋愛ですが、私自身は大賛成です。仕事に影響しない限り。出会いが少ない職場と書くと「異性間の恋愛を前提にしている」と受け取られますが、現実的に出会いが少ない職場ですからね。もちろんいろいろな恋愛の形がありますから性別はこの際、気にしません。意気投合して恋愛まで発展することができればそれはそれでいいじゃないですか。ただ、片思いが度を越してストーカー行為になってしまうことは問題ですから、そのような悩みが職員から寄せられた場合、事業者は直ちに必要な措置をとらねばなりません。
<性的な被害への対応>
児童クラブは異年齢の多人数の子どもが基本的に同じ場所、空間で過ごします。その中で、あってはならないことですが、子ども同士の性的な接触、問題が起こることがあります。なお職員から子どもへの性的な接触、すなわち犯罪行為についてはもちろん即座に厳しい対応が必要です。
子ども同士の場合、起きた事態に子どもが精神的に傷ついていることから慎重な対応が必要です。児童クラブの現場職員や事業者だけではなく、外部の専門家に依頼して指導や指示を受けながら事態解決に取り組むことが必要です。行政に報告することなく事業者内部で解決しようとしてはなりません。被害児童側の保護者の意見を聴きつつ、慎重に取り組むことが必要で、そのような事態に直面したときのために対応マニュアルの整備を専門家の指導を受けつつ作成することが望ましいでしょう。また、いざというときにすぐに相談できる専門家(児童精神科医など)を関係をつないでおくことも大事です。特に、なんらかの障害に起因して起こった性的な接触事案の場合は特に慎重な対応が必要です。安易に、「手を出した児童を退所させたので解決」ということでは解決にならないことを肝に銘じなければなりません。クラブの現場にとっては解決でも、当事者児童については何ら解決に至っていないのですから。
職員間の場合は刑事事件として取り扱われるべきですが、刑事事件に至る前のハラスメントについては、男女雇用機会均等法によって事業者が設けなければならない相談窓口が機能しなければなりません。ただ、小さな事業者ですとあっという間に個人情報、つまり秘密が組織全体に広まってしまう恐れが多分にあります。私の印象では児童クラブの世界は情報が広まるのが早い。早すぎる。「これは秘密の話なんだけど」とあちこちで秘密を話している職員もいますからね。外部の相談窓口といっても児童クラブのある種、特殊な職場環境(閉鎖的で濃密な人間関係の職場等)について環境の理解が足りない方ではいくら専門家といっても的確な助言が難しいこともあるでしょう。事業者の対応が難しい問題の1つですが、職員集団とも相談しながら事業者として機能できる具体的な相談制度の設計と設置に取り組むべきでしょう。
<遅れている施設や制度>
トイレ問題は切実です。スペースの面で女性職員に配慮した女性職員専用のトイレがある児童クラブは、おそらく滅多にないでしょう。子どものトイレについては、児童クラブを新規に設置する際は男女別に多目的(障がい児兼用)の3種のトイレを設置することが当然ですから、新しいクラブであればさほど問題にならないのですが、職員専用のトイレまではなかなか手が回りません。私は子どもと職員の使用するトイレは分けて設置したいと考えていましたが、現実には予算面や敷地面積からも職員様に別のトイレを設置したいという要望が実現したことはありません。設備の面では予算さえあれば暖房便座のウォシュレットが設置できます。これは推し進めたほうがよいでしょう。
トイレの増設もままならない昭和50年代建設のクラブに勤務していた女性職員から「クラブのトイレがひどすぎます。大人の女性が使うにはあまりにもひどい。屈辱ですし、セクハラです」と強く抗議を受けたことを未だによく覚えています。
更衣室があるクラブも少ないでしょう。小学校を利用して設置されたクラブでは更衣室兼ロッカールームとして利用できるスペースを学校側から借りられることもあるでしょうが、児童クラブ専用施設ではなかなか難しい。少数とはいえ男性職員が配属されているクラブですとやはり更衣室は、たとえ上着であっても気になる人はいますから、なんとか考えたいところです。カーテンをつかって目隠しすることが普通でしょうが、ロッカーも含めて個々のプライバシーも確保できる環境が必要でしょう。
一方で難しいのは生理休暇です。法律で認められたものですし日数に制限は加えてはなりませんが、これについては女性職員と女性管理職との間のさや当てが起こりがちです。「薬で散らせるでしょ」「ひどいと分かっているなら事前に病院で相談して対応しなさい」と女性管理職の中にははっきりと口にする人もいるでしょう。男性だから言いにくい、というのは本来はあってはならないのですがさすがの私もなかなか具体的な指示をすることができずに過ごしてきました。ただし、「明日きっとつらいので生理休暇をお願いします」という請求が来たときはさすがに「言いたいことは分かるが、その時になってから請求しなさい」と返したことはあります。
その他、妊産婦に向けて整備されている法律の定めを活用していない事業者はかなり多いでしょう。これについては改めて基礎知識シリーズで取り上げたいのですが、時間外労働や深夜業をさせてはならないなど妊産婦の保護についてそれなりの仕組みがあるのですから、それは活用して女性職員の福利厚生につなげたいものです。
その他、子どもを育てながら児童クラブで安心して働くことができるための制度を整えることも大事なことですね。入学式や授業参観、保護者会などで職員が年休や時間単位年休を当たり前に請求できる事業者の雰囲気作りも必要です。
児童クラブの世界における性の問題、生物学的な性や社会的に固定された役割としての性の双方で、もっといろいろな議論が盛んになっていくことこそ、業界のさらなる改善のために必要でしょう。男の子は、女の子はと、いろいろな場面で性別で区別している今の児童クラブの運営の在り方がこのまま続いていくのかどうか。職員の性も固定して考えることがいまや不適切な時代にもなっています。そういった難しい問題に継続的に取り組むためには、児童クラブの運営はよりプロフェッショナルな立場の者が取り組む必要があるでしょう。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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