放課後児童クラブの世界は、放課後児童支援員という資格を充実させたいのか、それとも?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童支援員という資格の充実こそ、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の事業の質の強化と、放課後児童支援員にある者の地位の向上に役立つと私は思っています。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童支援員は、かわいそう>
 「放課後児童支援員」という資格は2015年から運用が始まっています。2024年で10年目に入ったばかりのまだまだ新しい資格です。都道府県知事の認定という公的な資格です。その点においても、資格の取得方法においても、国家資格である保育士とは、比べようもありません。
 しかしそうであっても、長い間、公的な資格制度が無く、資格者の配置義務がなかった放課後児童クラブの世界にとっては、確かに事業の質の向上につながるはずの制度です。例え、その配置義務が「参酌基準」に緩和されて必ずしも配置義務を市区町村が遵守しなくてもよいとなっても、現実には多くの市区町村は今も放課後児童支援員を配置することを義務づけています。

 しかし私が、この資格がかわいそうだと思うのには理由があります。
・資格の専門性が浅い。専門性の深さは取得難易度によるが、受講さえすれば取得できる=専門性が浅すぎる。しかもそれをさらに省略しようとする動きが今なおくすぶっている。資格を発展させようという動きが弱い。
・先にも触れたように、国がこの資格者の配置を義務にしていない。つまり大事にされていない。
・人(子ども)の命を守りその成長を支える重大な使命なのに、国家資格ではない。
・放課後児童クラブ運営指針では放課後児童支援員の職務が明示されているが、それとてあくまで概論であって、より詳細な職務の公的な明示がない。
・放課後児童クラブ側がこの資格の専門性をさらに深めようとする動きを示さない。例えばその職務の専門性をさらに深める組織的な具体的な提案がない。
・この資格を持っていない「補助員」を含めて放課後児童クラブにおいて職に従事する者を「学童指導員」と呼ぶことは、補助員は放課後児童支援員ではないのでやむを得ないが、そうであっても「放課後児童支援員と補助員」「放課後児童支援員等」と呼称すればいいのに、いまだに放課後児童支援員という呼称よりも、(学童)指導員という呼称が当たり前に使われている。それを第三者が見たらどう思うかまでの考えがない。まして「学童保育」という名称が資格名に用いられなかったことを未だに根に持っているとしたらあまりにもバカバカしい。

<さらに誤解させる出来事が>
 弱点だらけの放課後児童支援員資格です。しかしそれでもこの資格を活用し、大事にしていかねばなりません。放課後児童クラブにおいて現状ではたった1つの公的な資格です。しかし、放課後児童クラブの世界にも、この資格を強化するよりも別の方向性で動いている流れが以前から存在しています。

 それは放課後児童クラブの業界内で、別の任意(民間)資格を掲げて活動してる団体があることです。むろん、自由な経済活動は守られねばならず、それが例え任意の資格であっても、その資格を掲げてビジネスをすることは、違法行為に該当しない限り、責められません。
(なお私はかつて製造物責任法に基づく公的資格として誕生したという触れ込みの民間資格の違法性をたった1人で取材を重ねて見抜き、調査報道で隠された目的を暴いて警察による摘発を実現させたことがあります。新聞記者としては全く優秀ではなかった私ですが、ごくごく少ない実績です)

 放課後児童クラブの世界は大変複雑で、そもそも放課後児童クラブと学童保育所は全く同じですと言い切る某団体のいい加減な解説をそのままグーグルが紹介しているほどです。人工知能にも放課後児童クラブの複雑な状況は整理しきれていないのです。そのグーグルが、放課後児童支援員という資格に関して、まったくの無関係である民間の放課後児童クラブに関する資格を紹介して、あたかもその民間資格が上位にあると誤解されるような説明をしているのです。そして、放課後児童クラブを対象としたIT機器販売業者も自社のサイトでその民間資格を紹介しています。

 何度も言いますが民間資格を作ろうが、それを取得したい人を相手にビジネスをしようが、法に触れない限り、まったく問題ありません。好きなようにやればいいだけです。

 しかし、放課後児童クラブの世界には残念ながら次の致命的な2点があります。
・放課後児童クラブの世界の外にある「一般社会」が、放課後児童支援員という資格について理解が薄い中で、民間資格を公的な資格と誤認する恐れがある。
・放課後児童クラブの世界で働く人たちには、残念ながら世間一般の常識や法的思考に弱い、興味関心がない人が多く、さも資格の価値がありそうだとそれなりの権威をまとっているように見える団体の説明をすんなり信じてしまう。

 何度も言いますが資格ビジネスであっても法に触れない限り問題はありません。私が懸念するのはただ単に、「業界の健全な発達に資するかどうか」と、「ただでさえ低賃金で所得が高くない職員相手に、さらに金を支払わせる制度が本当に職員のためになるのか」ということです。より深い専門性を与える資格ですよと訴えたところで、たった数十時間の講義を受けるだけの資格にそれほどの専門性が備わるとは、私は思えません。深い専門性を備える資格であると誇るなら、せめて数百時間の自己研鑽、自己学習を経て「試験」を行って、その試験の合格率は高くても3割程度であって、その試験に寄って付与される資格であれば、世間一般的にも「それはなかなか、価値ある資格だね」と認められるでしょう。
 要は、たった数十時間の資格を付与することで、実際の育成支援や保護者支援に何らかの決定的な技量の進歩をもたらせるかどうか。私はいささか疑問には思っています。まあ、無いよりはマシな程度です。まったく価値を認めていないわけではありませんが、他にもっとやることがあるんじゃないかなぁと思いますね。
 皮肉ですが、放課後児童支援員という資格そのものの専門性強化や資格の取得難易度を難しくしようという動きが国にも業界にもない限り、そのような民間資格でもって育成支援の専門性を強化しなければという考えが生じてしまうのは理解できなくもないのです。

 しかし、世間にも、業界内の方々にも、誤解を与えかねない制度であることは言えるでしょう。なにせAIが惑うほどですから。

<私が訴えたいこと>
 放課後児童クラブで働く人の待遇改善を使命としている運営支援ですが、それを実現するためには、放課後児童クラブに関する資格の評価を向上させることは絶対に欠かせないと考えています。資格の専門性が高いことは社会的評価の高さにつながりますし、それは高い賃金を約束します。少なくとも、ワーキングプアに近い放課後児童クラブの賃金を引き上げるための原動力にはなるでしょう。

 そのためには次の事を訴えたい。
・放課後児童支援員資格の取得をもっと難しくする。試験制度の導入ができないなら、ケアマネジャーのように5年ごとに再受講。
・大学や専門学校で数年間、放課後児童クラブについて学び、卒業したら得られる資格とする。
・国には任せておれないので、放課後児童クラブ業界が、放課後児童支援員に求められる、かつ追求するべき職務の専門性について具体的に掘り下げて、行うべき職務内容を明示する教本を作成する。
・最終的には放課後児童クラブに国家資格者の配置を義務づける。その際は、国家資格にふさわしい取得の難易度を備えた、試験による「児童育成支援士」を創設し、放課後児童支援員との2本立てとする。試験による国家資格者は事業の中核を担う幹部的な存在となり、通常の正規職員等は放課後児童支援員資格保持者が就くことになり、児童の育成支援について学んだ者が多く実務に就くことになり、事業の質的向上に有効と考えられる。

 民間資格の創設ではなく、あくまで、既存の放課後児童支援員資格の内容強化と充実、そして最終的には国家資格である新資格の創設を私は希望します。いまや、小学1年生の半数が利用する児童クラブです。その年代の半数が利用するってとてもすごいことです。それだけ重要な社会インフラである児童クラブです。児童クラブがもっと社会の期待にこたえられるようにするには、従事する者の職務の専門性をもっと積極的に深めていかなければなりません。

 ところで、資格の専門性を深めようにも、いま現実に従事している者が、その姿勢を社会にしっかり見せていかなければ意味がありません。一般社会は、その業界が資格を強化したいと認識しません。単なる子どもの見張りとしてしか働かない放課後児童支援員は自らの資格を傷つけているという自覚はあるのか。ただ単に子どもの喜ぶことだけをして悦に入っている放課後児童支援員も、保護者に迎合して仕事を楽にしようとしか考えない者も、子どもに何らかの人権侵害が行われている状況があっても外に発信しないで見過ごしている者も、その資格をさらに低くみなされることに加担しているという認識はあるのか。ないでしょう。残念ながらそんな単純な事すらわからない者が少なからず従事している業界です。それは放課後児童クラブに求められる資格の低難易度がもたらす弊害ともいえるのです。

 国と業界には今すぐ資格の強化を大至急行うべきです。もちろん同時に、高難度の資格にふさわしい賃金が支給できるだけの予算面の手当、すなわち補助金の大幅増額も行うべきですよ。

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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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