放課後児童クラブの「よし(善し)・あし(悪し)」の見分け方。「こんなクラブは、おそらく、素敵なクラブです」編。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。来年4月に小学校の新1年生になるお子さんがいるご家庭では、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の入所手続きの準備の真っ最中でしょうか。また、冬休みを前に短期入所、スポット入所や、途中入所を検討されている子育て世帯さんもおられるでしょう。今回は、まったく完全ではないですが、児童クラブのよしあし、見分け方を紹介します。新規入所前の児童クラブ見学の時に気が向いたら活用してみてください。なお、あくまで運営支援の独断と偏見によって紹介するものです。児童クラブは全国でいろいろな方針、スタイルがありますので、「絶対にあてはまる」とまでではない点はご承知おきください。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<まずは確認。素敵な児童クラブとは>
素敵な児童クラブは、「子どもが楽しく過ごせて、他の子どもや職員との間にトラブルも起きず、子どもがクラブや学童を辞めたくないと言ってくれる。保護者は安心して子どもを児童クラブに通わせることができる。職員も自然と笑顔で仕事に向き合える。学校との連携も円滑で、地域からも児童クラブがあって良かったよ、と言われている」というものですね。要はケチのつけどころがない。当然、人気もあるでしょう。
素敵ということをもっと細かく考えてみると、どんどん難しくなっていきます。例えば、「子どもが楽しく過ごせる」ということは「素敵な児童クラブ、良い児童クラブ」の要素の1つであってかなり重要であろうことは直感的に理解できても、では絶対的にすべての要素を排除してまでも「子どもが楽しく過ごせるクラブ」にすれば良いのかといえば、なかなかそうとは言えません。「子どもが楽しく過ごせるから」といって、すべて子どものリクエスト、要望通りに過ごさせることが絶対に良いとは言えません。子どもが嫌がるからといって宿題の時間を無くしてぜんぶネット動画の鑑賞時間にしたら子どもは喜ぶでしょうし、児童クラブに行きたい!と言ってくれる可能性が高まるでしょうが、それでは子どもの健全育成を行う児童クラブとしては問題が生じますね。
また、事業者側が「子どもの育ちを支えるためには、これが必要だから」と強いこだわりをもって短い時間しか受け入れないとか、たくさんの高価な知育玩具を相次いで購入するなどして、短時間の開設で保護者が高い利用料を支払う児童クラブは、保護者にとって素敵、良い児童クラブと評価は、しづらいですね。
「絶対的に良い」部分を踏まえてつつ各要素との「相対的な優劣」を考慮して総合的に素敵、良い児童クラブを考えていく、という判断が必要となるのです。どうしても1つの面や少ない要素だけで「良しあし」を判断してしまうものですが、実はそう簡単ではないことは、頭の片隅にでもとどめておいてください。
<要素の確認>
各要素とは、まず育成支援サービスを受ける主役である「子ども」です。そして子どもの「保護者」です。保護者は特に「利用者」として利便性に関する点で利益をどれだけ受けることができるかにおいて重要です。
育成支援サービスを提供する側である「事業者(運営主体)」があります。そして事業者に雇用される者(放課後児童支援員と補助員。以下「職員」とします)がいます。サービスを提供する実施者として重要です。
放課後児童クラブを設置したり国の補助金を交付するしないを決定する、設置主体としての市区町村があります。
副次的な要素としては、地域社会があります。地域社会の対応によっては児童クラブの運営が不可能になる場合もありますから、まったく考慮しないことはできませんね。
<さあいよいよ、素敵な児童クラブの見分け方>
来年春に子どもを児童クラブに新規入所させようとする保護者さんは、見学のときに以下の点について気にしてみてください。
(1)子どもが穏やかに過ごしているか、和気あいあいのムードでにぎやかさに包まれている。
(2)(おやつ時間や宿題の時間、特定の取り組み中の時間など、クラブの子どもが全員で関わる時間を除いて)子どもたちが、思い思いにそれぞれ過ごしているクラブ。トランプをしたり本を読んでいたり寝っ転がったり、思い思いのことができているクラブ。
(3)職員がツンケンしていない。とげとげしくないクラブ。職員の表情に笑みがみられること。また、複数の職員同士の言葉のやりとりが、とげとげしくないこと。指示を出す人の言葉が分かりやすくて指示を受ける側の職員もすみやかに行動に取り掛かれるなど、チームワークがはた目から見ても取れているクラブ。そして見学者に「どうぞ、もうたくさん見ていってくださいね」と自然な笑顔の職員がいること。
(4)見学者を見た子ども達がごく自然に近寄ってきたり話しかけたりしてくれるクラブ。
(5)ちょうど見学時間中に、入所児童の保護者が子どもを迎えに来たとしたら、その保護者がごく自然にクラブ内に入って行って、職員や子ども達に気さくに声を掛けているクラブ。または玄関先で靴を脱がずに待っていたとしても、子どもや職員と気さくに会話している光景が見られるクラブ。
(6)これは見学前の段階ですが、「見学をしたいのですが」とクラブや運営本部に問い合わせた時に、対応が丁寧で親切なクラブ運営事業者のクラブ。逆に、「え、見学ですか?少々お待ちください、確認しますので」という対応のときはやや注意で、「え、見学したいのですか?それはどうしてですか?必要ですか?」という対応をされたときは、充分に疑ってかかってください。何か見せたくないことが隠されている可能性があります。
(7)小学校の校庭や公園で児童クラブの子ども達が遊んでいるのを見たり見学したりした時に、児童クラブ職員が子ども達と関わり合い(会話をしていたり、一緒に遊びに参加したり)をもって過ごしているクラブ。さらに、児童クラブ職員が複数いて、そのうちの1人は、その場で遊んでいる子どもたち全員を見渡して状況を確認していることが、はた目から見ても分かる場合は、そのクラブはリスクマネジメントについてしっかり職員教育をしている優秀な事業者である可能性が高いです。外遊びに付きそう大人の児童クラブ職員が1人しかいない場合、そのクラブはいささか問題がある可能性が高いですね。
(8)見学する側の質問に、自分の言葉で丁寧に返答できる職員がいるクラブ。さらに、事業運営や利用料金の減免の条件など組織としての返答が必要な質問項目には「その点は私たちではお答えする権限がございませんので、すぐに本部に確認しますね」という行動がさっと取れる職員がいるクラブ。社会人として仕事ができる職員がいるクラブは、落ち着いたクラブ運営ができるクラブである可能性が高いものです。児童クラブの職員は、要は、社会人としてしっかり考えて行動できれば、児童の健全育成の理念も実践も理解しているものです。健全育成とはそもそも「人として幸せに育っていくこと=結果的に、社会で活動できる大人になっていくこと」ですから。
(9)施設に壊れたところがあちこち目立つクラブではないこと。清潔感があること。
なお、児童クラブはしょっちゅう、物が壊れます。よって、窓ガラスが割れていたりひびが入っていたりしても、それはもしかしたら見学の30分前に生じたものかもしれません。壁に穴が開くこともあります。壊れたところがあるクラブだからすぐにダメなクラブではなくて、それがたくさんある=なかなか修理修繕されていない、ということは、自治体がしっかりとクラブの運営に責任を感じていない可能性が高いので、残念な運営になっている可能性がある、ということです。
(10)夏場は冷房がしっかり効いていて、冬場は暖房がしっかり効いてあったかいこと。予算がなくて電気代を節約することを余儀なくされていると、空調に不備が生じます。そういうクラブは何かと運営に無理をしている、あるいは無理を強いられている可能性があります。
(11)異年齢集団で過ごしているクラブであること。これは実は見解が分かれる部分です。というのも、「子ども達だけ」で考えると、同学年やそれに近い学年で過ごすことの方が、楽しく過ごしやすいからです。小学1年生や2年生と、5年生、6年生の子どもでは成長発達の度合いが相当異なるので、同じ遊びで同じように楽しめることはそうそうないからです。しかしだからこそ、異年齢同士の関りで人間が学ぶべきことが、たくさんあるのですね。自分と状況や条件がかなり違う人への関わり方、配慮の必要性などを繰り返し身に付けることができるのが、異年齢集団で過ごすことの良さです。でも、大規模を避けるためにクラスを複数設ける場合、低学年と高学年で分ける自治体、事業者がことのほか多いのですよ。これも良しあしですがね。
(12)大規模児童クラブでないこと。見学して見て、子どもたちで足の踏み場が無いクラブは、一見、楽しそうに見えても実はストレスを抱える子どもたちが多いのです。考えてみてください。見学に来たご自身が、そのような環境に毎日、何時間もいられますか?大人が嫌なことはたいてい子どもだって嫌なのですよ。大規模児童クラブは子どもの過ごす環境にとって良好な点はまったくありません。
その他、利便性、サービス提供面に関する「素敵=使い勝手が良い、という意味」では、次のことがありますね。それは見学しなくても事業内容を確認すれば把握できるでしょう。
・開設時間の長さが便利→「出勤時間に余裕で間に合うクラブの開所時間であること。帰りは、急に発生することが多い30分程度の残業であっても、追加延長料金が必要とならない閉所時間であって余裕で迎えに間に合うクラブ」
・利用料金が適切→「極端に高くないこと。なお、追加オプションで学習支援等を受けている場合は除きます」
・昼食提供をしているか、あるいはその準備をしていること。あるいは要望に真摯に取り組んで対応していることが見て取れること。
・自動車の駐車場、自転車の駐輪場が施設のそばにしっかり整備されていること。
・欠席の連絡や入室の連絡がアプリで速やかにできること。
・子どもの安全に関することの決まりは厳密であること。例えば食物アレルギーに関する調査書類に細かなことまで記載を求められたり、アレルゲンの検査を要求してきたりするのは、それは実は子どもたちが安心して過ごせる児童クラブを目指している、素敵なクラブなのです。
<保護者会は?>
最後に、意見が真っ二つに分かれるのが保護者会に関することですね。おそらく圧倒的多数の保護者さんにしてみれば、それが例え1年に数回でも「わざわざ集まる保護者会なんて嫌だ。無駄。不要」と思うでしょうし、保護者会があるクラブはそれだけで素敵なクラブではないと、考えるでしょう。
これも良しあしです。またご家庭の状況にもよります。保護者会運営のクラブであれば、加入しないわけにはいきませんし。ただ、放課後児童クラブは、家庭と同じように子どもが育っていく場所です。子どもの育ち具合、育ち方、育っていく過程について、保護者である限り、それを知っておく権利があります。児童クラブ側からすれば、ぜひ保護者に知ってほしいのですね。クラブにおける子どもたちの様子を保護者に伝え、現状において取り組んでいる問題点や課題があれば、児童クラブ側はそれを保護者に伝えるのも、大事な仕事なのです。よって、この仕事にまっとうに取り組んでいる=年に3~4回でも保護者に集まる機会を設定、又はオンラインでも、職員が子ども達の様子を保護者に伝える機会を設定しているクラブは、「素敵なクラブ」なのです。当然、日常的に(毎週1回は最低)「おたより」「クラブ通信」で、クラブの様子を保護者に紹介しているクラブは、「本当に素敵なクラブ」の可能性が高いのです。オンラインを活用、あるいは学年別に、つまり親同士が話しやすい環境を設定して保護者会、保護者懇談会を設定している児童クラブは、真摯に保護者との関わりを考えている素敵なクラブ、といえるでしょう。
<最後に注意点>
児童クラブの見学はぜひ、やってみてください。児童クラブはたいてい、入所できるクラブが決まっています。同じ小学校の学区に複数のクラブがあって選択できるというのは非常に珍しく、ほとんどないと言っていいでしょう。例外として、利用料金が安いクラブ(=自治体が運営費を補助しているクラブ)と、利用料金が高い「民間学童保育所」(=学区に関係なく利用できる、学習塾の進化発展形ともいえる施設)の選択ができる地域は相当増えています。都市部であればほぼ、選択できるでしょう。ただしこれは厳密には、児童クラブの選択というよりも、「児童クラブと、民間学童保育所という別サービスの事業者の選択」となります。
注意点というのは、突然の訪問は止めてください、ということです。必ず事前に申請してください。児童クラブは大勢の子どもが過ごす施設です。職員は常に子どもの安全安心に気を配っています。とりわけ、不審者の侵入防止には神経質になっています。見知らぬ大人が急にやってくるだけで、職員は大いに身構え、ストレスをためます。来年春に児童クラブに入るからといって、アポなし訪問、アポなし見学は絶対にやめてください。必ず、運営の本部に連絡する、あるいはそのクラブに電話するなど、相談をして日時を決めてから、見学してくださいね。
あとは、体調が悪い時の見学は止めましょう。風邪気味でゴホゴホと咳をしているときに見学されると、これも職員は神経質になります。当たり前です。児童クラブではその環境上、感染症が一気に拡大しやすいのです。職員が罹患するとクラブ運営に深刻な影響を及ぼします。体調の良い時に見学してくださいね。
児童クラブの側へも。見学者は大事な利用者であり、将来の社会を支える子どもを育てている人です。子育て支援の一翼を担う存在として、児童クラブのことをしっかり理解してもらう機会ですから、ぜひ、見学を喜んで受け入れましょう。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)