放課後児童クラブに必要な「業務の改善」を考える。後半は適正な業務量を実現するための「業務の棚卸し」。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)には実にたくさんの仕事や任務があります。その仕事や任務は年々増えていきます。そして仕事の多さにお手上げとなってしまうので、どうやって仕事や任務を適正な量にするのかこそ、とても大事なことです。前後編の後は、適正な業務量を実現するための取り組み「業務の棚卸し」を考えます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<前編のおさらい:仕事は増える>
 前編は9月30日に掲載しました。児童クラブの仕事はどんどん増えていく、というものです。理由として運営支援ブログが挙げたのは、
・「子どものために、保護者のために、が私たちの仕事」という認識がある限り、仕事は永遠に増える。
・子どもに関する具体的な安全管理の考え方や方策が国や行政等から打ち出されるたび、当然、仕事の量が増える。
・仕事の属人性。ベテラン職員たちの数が多ければ多いほど仕事の流儀、流派も存在し、結果として膨大な仕事が残る。
 そして、これら仕事が増える理由の土台として「仕事の質の評価ではなく、仕事に費やした時間の多さが評価されて賃金が決まる仕組み」があるとしました。

 この結果、児童クラブは次々に仕事が増えていきます。今までやってきた仕事はそのままに新たな仕事のやり方が付け加えられるわけですから、仕事が減るわけはありません。いま盛んに導入が進められている入退室管理のICT化も、私の想像では、保護者にとって非常に省力化になることは間違いないながら、児童クラブの現場は当分はICT化によってスマホやタブレット等の画面で入退室管理をすると同時にクラブ職員が「手書き」でこれまで使ってきたフォーマット、書式にその日の入退室関連情報を記載してしまうだろうと、予想しています。つまり単純に「仕事が倍の量になった」ということです。

 原因はいろいろあるでしょう。まずICT化の仕組みを理解できるだけの知識が少ない職員が多い。児童クラブの職員は、非常勤の放課後児童支援員(つまり、資格があるパートアルバイト職員)の平均年齢は、57.2歳です(放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査より)57.2歳ということは60歳代、70歳代の職員が大勢いるということです。なかなか、新しいやり方についていけません。学生時代からスマホを使いこなしていた世代が児童クラブの職員の主力になるまではICT化による効率化はその本領を最大限に活用できそうにはありません。それほど児童クラブの世界は手作業、手入力が中心であり、安心感があると評価されているのです。(というか、それしか、できない)
 この点の改善はまさに生産性向上(時間単位における業務量の増加)ですから、これから述べる本題の業務の棚卸しとは別に事業者は地道に新しい事業の手法に関する職員への教育研修をじっくりと続ける必要があることは、言うまでもありません。最終的な目標達成は職員の世代交代によるとしてもそれは当分先のことであり、児童クラブにおける低賃金長時間労働といった厳しい雇用労働条件はそう簡単に解消しないであろうことも考えると社会人適性や各種作業の実施能力に秀でた人物の雇用採用がなかなかうまくいかない現状が継続する状況の急激な変化も考えにくく、教育研修の必要性はその点でも重要です。

<業務の棚卸しのコツ>
 簡単に言えば、児童クラブにおけるあらゆる仕事の「可視化」にすぎません。ただ、重要なことは、特定の分野だけの業務量の適正化に留めてはならないということです。組織全体の業務量の適正化を行わなければ、特定の分野だけの業務量だけを適正化してもその特定の分野の業務量はいずれ元に戻るのです。
 業務量の適正化とは、単純に業務量を減らすことではありません。「その業務を生み出す組織の性質そのものを変える」ということです。つまり組織の考え方を変える。組織を構成する人物の考え方を変えることです。業務量の適正化を図る過程において、組織そのものの全体意志を変えるのです。それにはトップ(社長や理事長など)からアルバイト、パート職員までもれなく「本当に必要な仕事を、本当に必要な時間だけで行う」という意識に変える、ということです。

 これは言い換えれば、「仕事の優先順位を決める」ということでもあります。もうここまでで、2つのコツが明らかになりました。「業務の棚卸し=仕事の可視化は、組織全体で行うこと」と、「仕事の可視化の過程では、仕事の優先順位を決めること」です。

 組織全体で行うということは、組織の中で行われるあらゆる部門、分野が趣旨を理解した上で行うことになります。仮にNPOや一般社団法人であるとしたら、理事または理事会の担務、担当から運営本部に従事する者、現場クラブにて育成支援業務に従事する者、送迎や調理など附属部門に従事する者、すべてを含みます。それを、「誰が従事、担当しているか」という観点で明確にしておく作業となります。
 また、組織全体が「年間を通じて」行う仕事、業務についての見直しとなります。よって、「年間単位で行われる業務(年間ルーティン)」から始まり、「季節的ルーティン」、「(四)半期ルーティン」、「月間ルーティン」、「週間ルーティン」、「日ルーティン」があります。4月1日の新入所児童を迎える作業は年間または季節的ルーティンですし、職員の勤務割(勤務シフト)を作成するのは月間ルーティンでしょう。

 つまり「組織の全部門」を明確にしたうえで、「時間単位の区分」もまた、明確にすることです。そして、「誰が従事、担当しているか」もまた、明確にしておく必要があります。

 ここまでが、業務の棚卸しの前段階です。
(大前提)
・組織全体で行うことの周知徹底
・仕事の優先順位を決める。(これは棚卸し作業過程において変更があっても当然良い。むしろ変動するはず)
(前提)
・棚卸し作業を行う部門、分野を確定させる。つまり担当者の確定。
・時間の区分によってその区分内に含まれる仕事、業務を確定させる。

<具体的な作業>
 まずは「洗い出し」です。つまり、それぞれの部門、分野に属する者(できればその部門、分野の責任者もしくは副責任者といった全体を俯瞰して把握できる立場の者)に、とにかく、「いま、やっている仕事」を全部、書き出してもらいます。ダブっても構いません。思いつくことを全部、書き出します。できればその際は実際に担当している者の氏名を併記します。クラブにおける勤務シフトの作成であれば「勤務シフト作成=クラブ長、主任、施設長」といった感じです。難しくすることはありません。

 洗い出しが終わったら、「これを行わないと運営業務が絶対に成り立たないもの」から以下、適宜な順位付けで優先順位の度合いを決めていきます。前にも記載しましたが、これは作業の途中で変更があってもまったく構わないので、気楽にやっていきます。勤務シフトの作成であればこれは必須の仕事、業務ですから二重丸にするとかSランクにするとか省略不可にするとか、なんでもいいです。期間内であれば後回しにしても良いもの、1回ぐらい省略しても構わないもの、などいろいろな判断基準があるでしょう。その組織内で決めればいいでしょう。

 上記の作業の結果、組織全体の「作業一覧」が完成するはずです。それは数か月かかるでしょう。ここでポイントは、定期的、例えば半月に1度ぐらいでいいので、全部門において稼働している棚卸し作業の担当者による報告です。これをもって全体の情報共有を図ります。その場でも、もしかすると他の部門から「こういうことが抜けているんじゃない?」という指摘があるかもしれません。むしろその指摘が貴重です。この作業を持って、「ああ、あの部門にはああいう仕事があるんだ」という共通認識が図られます。作業一覧には、優先順位に即して点数を付与しておくと、全体の作業量点数が示されます。

 通常の業務をこなしながらの並行作業でしょうから、短くても半年はかかるでしょう。仮に特別のプロジェクトとして棚卸し作戦でも稼働させるならばまた別ですが、それはそれで業務量が一時的でも増えることになりますね。その了解を得なければ、特別なプロジェクトに対する負荷によって組織内の不満が高まりますから、その点は留意が必要です。細かいですが、こういう通常業務とは異なる業務をやってもらう人には、それが業務命令であろうとも、しっかりと特別の手当や報奨金などでその労をねぎらってください。

 これら作業が終わったら、あとは遠慮なく、「現に行っていなくても問題がないもの」や「業務が重複しているもの」を切り落とす作業に入ります。ここではどうしても「無くして大丈夫なのか」という不安がよぎります。ですので、「試しに3カ月やってみよう」でいいのです。1回、作業を省略してみた結果、ちょっと問題があった、ということであれば、また復活させればよいのです。その判断は全体のまとめ役、通常は業務の執行責任者になるでしょうが、その者が判断して棚卸し作業チーム全員にもれなく直ちに通知していきます。

 そして半年後でも1年後でも、改めて全体の総点検を行います。作業一覧が完成した当時の作業量点数と、半年ないし1年後などに改めて確認した時点の作業量点数を比較し、どれだけ減っているのかを比べればよいでしょう。全体や優先順位のランク別ごとの作業量点数の比較で、減っているようであれば、仕事の棚卸しが順調であると判断できます。なお、もちろん、急に法令などの指示で付け加えられる仕事がありますが、それは別枠で考えましょう。「児童の登所ルートの安全確認」など国等の指示で急にやらねばならない作業は、往々にして増えるものですから。

 この、仕事の棚卸しというのは、言うなれば業務の生産性向上の基本的な作業にほかならないのです。業務の3M、「ムリ、ムラ、ムダ」の消去がまさに本質です。もちろんこれは保護者会そのものにもあてはまります。保護者会がやってきた、担ってきた任務や役割が本当に必要かどうか、この棚卸し作業を行うことで誰の目にも明らかにすることができます。

 初めは結構面倒くさいですし、このための作業がどうしても増える。それで途中で嫌になったり自然消滅したりということがありそうですが、まずは強い意志でやってみることです。一度やってみると、次からは容量を得ているのでメンバーが途中で入れ替わっても案外できるものです。これを定期的に繰り返していくと、自ずと、必要な仕事、業務を必要なときに行える組織に生まれ変われます。趣旨をしっかりと理解した担当者がいれば、作業そのものはエクセル1つでできる作業です。ぜひ、挑戦してみてください。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)