放課後児童クラブにおける最も重要な業務は「育成支援討議」。これを国や行政、社会に訴えて理解を得よう。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童健全育成事業の中核である育成支援の質の向上を最上位の業務目標としている事業者では、子どもが登所してくる時間の前を、育成支援の充実に関するための打ち合わせの時間や研修に充てています。このことこそ、子どもへの直接的な支援以上に重要で優先される業務であることを、児童クラブ業界は体系化して確立し、国や行政、社会に広く理解を求めていかねばなりません。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<将来の育成支援の計画を立てる。過去の育成支援を振り返り検討する>
「まともな」放課後児童クラブ、つまり、単に子どもを預かることだけを児童クラブの業務として考えている事業者ではない児童クラブ事業者は、職員が行う育成支援について、その質の向上と充実を常に心がけているものです。それは、児童クラブに在籍しているすべての子どもの、個々の子どもに対する支援だけでなく、子どもたちの一定のまとまり、集団、あるいは児童クラブに在籍しているすべての子どもの集団に対して、つまり様々な局面に応じて必要な育成支援の中身、方策を、児童クラブの職員が常に計画し、把握し、実践している、ということです。
児童クラブの職員たちは、「きょう、その日」や「明日、明後日、今週や今月」といった様々な期間に応じ、これまた様々な子どもたちの個又は集団に対しての、育成支援のことを常に計画し、把握し、実践しているということです。そして、過去に自分たちが行ってきた育成支援の結果を常に把握し、その内容を吟味し、新たに計画立案する育成支援に反映させる、その作業を行っているのです。
<育成支援とは、すなわち、子どもの健全育成を実施する上での重要な枠組み(フレームワーク)である>
もうお分かりでしょう。児童クラブで行われる日々の育成支援は、「PDCAサイクル」にほかなりません。
PとはPlan、つまり計画です。育成支援は、子ども個人または子どもの一定の集団に対して、「どのような支援、援助、関わりが最適なのだろうか」を考えることを抜きにして成り立ちません。児童クラブの世界ではよく「見立て」という表現をします。
DとはDo、つまり実行です。日々、児童クラブで子どもと接する職員が行っている作業です。
CとはCheck、つまり評価・点検です。児童クラブの世界では「振り返り」です。児童クラブの世界ではとても盛んにおこなわれ、重要視されています。「実践記録」「実践評価」として、支援員が何らかの研修や会合で内容を発表する機会が設けられています。
AとはAction、つまり改善の策定です。これは前の段階、つまりCで行われた評価・点検を基に、今後、新たに行うP、つまり計画の立案に反映されます。
これら一連の枠組みを、児童クラブでは日々、作り上げて中身を実施しています。もちろんこのPDCAサイクルは日々、例えば明日の育成支援だけに適用されるのではなく、ある一定の期間、今月や学期、季節、年間通じて様々に枠組みを作り上げているのです。
なお、育成支援は子どもが対象となりますが、児童クラブは「子育て支援」もまた重要な役割です。PDCAサイクルの対象には保護者も入ることに留意が必要です。
<外部から見ているのは「D」だけ>
ところが、児童クラブの外の世界から見えるのは、職員の具体的な動作、行動である「D」の部分、つまり子どもおよび保護者への支援、援助、関わりです。それは容易に目で見て取れるからこそです。スーパーマーケットでいえば、「店の営業時間中の従業員の行動」そのものです。保護者も、学校の教職員も、行政の担当者も、地域の人も、通りがかりの人も、児童クラブの職員が直接、子どもや保護者と関わっているその状態を見て「児童クラブの職員が、働いている」と受け取るのです。しかしそれは、育成支援および子育て支援に関するPDCAサイクルの[D」しか見ていないことになります。
PとC、そしてAは、いつ行われているのでしょう?もちろん、子どもが登所している時間帯において、職員同士がわずかな時間を使ってその時の状況に対応しようと集まって打ち合わせをして、その後の時間帯に行う職員の仕事の内容を決めることが、ごく日常的に行われています。よって、児童クラブの、開設時間帯内にも、P、C、そしてAが行われていると言えるでしょう。
しかしそれはあくまで、「その場におけるごく短期間を対象とした業務の内容を考えること」です。基本的には、子どもが登所していない比較的長い時間を使って、職員たちが集まって取り組むことになりますし、そういう時間が設定されていないと、十分にP、C、そしてAについて徹底することができません。
つまりここに、「児童クラブにおいて、子どもが登所していない時間帯こそ、育成支援の質の向上と充実を決定的にする要素がある。それは、児童が登所していない時間帯で、P、C、そしてAをしっかりと時間を使って吟味することで、PDCAサイクルを常に進化させることができるからだ。そのことこそ、育成支援の質の向上と充実をもたらす」という、極めて重要な価値が見いだせるのです。
私はこの、子どもが登所していない時間帯に、P、C、そしてAをしっかりと吟味して実行することを「育成支援討議」と呼んできました。育成支援討議こそ、P、CそしてAに取り組む時間である、ということです。
以前、わたくしが実際に児童クラブ運営事業者の最高責任者であった期間は、すべてのクラブに週数日、この育成支援討議の実施を指示してきました。それは個々のクラブを単位としたり、土曜日等に行う合同開所に参加するクラブ単位であったり、5~8程度の支援の単位を1つのブロックとして区分してそのブロックごとに、つまり種々の範囲ごとにこの育成支援討議を実施することを、午前中の児童クラブ職員の業務としてきました。正規職員だけで行う場合もあれば、パート職員も参加する全職員参加の討議もありました。こうして、子どもが登所していない午前中、職員は、自身が行う育成支援の質の向上と充実を図るために、P、C、そしてAに取り組む時間を業務時間として過ごしていたのです。
児童クラブの世界にとって、このPDCAの4要素が全部そろってこその「育成支援」であることを、児童クラブ側が確実に理解し、確信を持って、外部の世界に発信していくことが求めれているのです。外部の世界から容易に見える「D」だけが児童クラブの仕事、育成支援ではないことを、あらゆる機会を使って、発信し、周知し、一般社会に当たり前の理解とすることを、児童クラブの世界は、目指さねばなりません。
<児童クラブ側が心するべきこと>
児童クラブが、その育成支援の質を向上させ、充実した育成支援を継続的に実施していくためには、育成支援の底上げを行うPDCAサイクルを常に意識することが欠かせません。しかし、児童クラブの側が、そのことを現実に実施していないのに、「児童が登所する前の時間こそ、育成支援に大事です」と主張しても理解されるはずがありません。それは詐欺行為に等しいですよ。補助金の対象となる、ならないの時間帯を設ける、設けないの話にもなりますから、カネがからむ話になります。育成支援や子育て支援の計画をろくに立てていないのに、自分たちが行った支援、援助の結果を点検も確認もしていないのに、「子どもがいない時間帯の業務を認めろ」だの「児童登所時間帯前の時間も補助金の交付の時間帯とするべきだ」とは主張できません。そんなことを主張していたら私は犯罪行為に等しいとさえ考えます。
つまり、児童クラブ側も、誰もが見て「なるほど、育成支援と子育て支援について、職員たちが深く考え、実践の結果を分析し、改善策を講じて次の育成支援と子育て支援の方策に反映させている」ということが分かるような業務、仕事を実際に遂行することが欠かせません。当然、P、CおよびAについて、しっかりと記録に残すことは当たり前のことです。ただ、職員たちが集まって、コーヒーやお茶を飲みながら、「最近のうちのクラブの子どもたちって、こうだよね」と感想を述べあっているのは、まったくもってP、CおよびAについて業務として取り組んでいるとは言えません。単に感想を述べあっているのは仕事ではなく、雑談です。
その点、どういうふうに取り組めばそれが育成支援の底上げにつながるかどうか、具体的な育成支援討議の内容に使える書式や議論の進め方は、育成支援の専門家がきっちりと提示すればよろしい。子ども、保護者への支援については研究者や、児童クラブ業界でも発信力のある支援員が、いろいろな機会で研究結果を発表しているのですから、すでに研究されて公表されていることもあるでしょう。
どういう書式を使おうが、どういう進め方を行おうが、雑談ではなく、これまでの実践や種々の情報を基に、「目指していきたい育成支援の理念、目標」にたどり着くために必要なP、C、およびAについて、職員たちが育成支援討議を繰り返し、自らの児童クラブにおける育成支援を向上させていくことが、必ず必要なのです。
この点、私が大変気がかりなのは、育成支援討議の重要性を理解していない児童クラブ事業者の存在です。P、CそしてAに充てる時間を確保しないで平然としている、確保の必要性すら理解していない、いやむしろP、CそしてAという業務工程があることすら知らない児童クラブ事業者が、「業務の効率化」を掲げて、運営する児童クラブをどんどん増やしていっている現状です。むしろ、「事業者が考えた曜日ごとの個性的なプログラムの充実」にあると理解し、そのプログラムの内容の充実に努力を注ぎ、そのプログラムを問題なく実施できるためのマニュアル作りに精を出して、経験がどんなに浅い職員でもマニュアル通りに行えばそのプログラムを実施できるので、子どもたちはそのプログラムに参加、従事をしている、ということが、「育成支援の充実」と同義になっていることです。これでは、子どもが登所する前の数時間を必要とはしません。マニュアルを読む30分の準備時間があれば事足りるでしょう。運営を任す市区町村も、職員が従事する時間が短ければ当然、人件費が安く済むので歓迎します。
こういった児童クラブ、つまり、事業者が決めたプログラムに子どもを従わせることで時間を費やしている児童クラブが増えれば増えるほど、「人が、人のことを考えて、悩み、新たな方策を作り上げる」形式の児童クラブは、「非効率」とのそしりを受けて、その価値を貶められてしまうのではないかと、私は大変に気がかりです。
プログラム形式の児童クラブにも、いわゆる体験格差を解消する点で意義はあります。基本は、職員が子どもと保護者のことを考えて支援、援助の方策を決めて実施し、また修正していく「人による、人への支援」を基盤としつつ、プログラムを取り入れれば良い、と私は考えます。
<児童クラブに必要な就業時間を確保するために>
国は、児童クラブにおける開所時間の定義を、例えば小学校の授業がある日は3時間以上とする、ということにしました。これは児童が登所している時間を基に決められたのですが、[D」の部分のみを重要視し、PやC、Aについては、わずかな準備行為の時間が必要であるという認識しか、もっていないように公表資料からうかがえます。そもそも児童クラブにおいて重要な時間が「D」の時間帯であるという固定観念から抜けていないものだと私には理解できます。
Dは、PやC、そしてAの工程を経なければ、決して充実しないのです。ただ、行き当たりばったりでもできるのが[D」です。その日の子どもの様子や気分、機嫌を見て、その日にする遊びや時間の過ごし方を工夫することを連日続けても、見た目には児童クラブとして成り立ちます。しかしそれは、PDCAのうち「D」しかなく、それも、1日1日の「D」があるだけで、次の日、来週の日、来月、そして年間通じて「D」の連続性が無い。単発で、1日限りの「D」が積み重なっているだけに過ぎません。あえて言おう、「D」なんて飾りです、お国の人にはそれが分からんのです。
児童クラブで、最も重要な業務時間は、このPやA、Cに取り組む時間であり、それは子どもが登所する前の時間であることを、強く世間に訴えねばなりません。それは決して「準備行為時間」のような、Dの時間に付随するものではなく、Dの時間と対等、いやそれ以上に必要な「主要な業務時間である」との理解を、こども家庭庁はじめ市区町村の担当者、まして財政担当者(=たいてい、児童クラブの担当課は児童クラブを充実させようと予算要求をしてくれるのですが、いつもそれをばっさり削るのが財政担当者や副市長、副町長等だからです)に、そして保護者、世間の人たちに、理解させねばなりません。この重要性をマスメディアの記者たちも理解していないので、記者にも理解をしてもらうことが欠かせません。
「子どもがいない時間、児童クラブの職員たちは何してるの?お茶でも飲んでるの?」と言われて傷ついたことがある児童クラブの職員たちは大勢いるでしょう。そうではないんだ、ということを訴えねばなりません。P、CそしてAの成果もまた、どんどんと外に向けて発信していきましょう。
私もそれに大いに協力したいのです。例えば、もうまもなく私の小説がネット販売されます。素人の下手くそすぎる作品ではありますが、それが奇跡的に売れればその収益を使って「午前中に育成支援討議を行っている児童クラブと、子どもの登所時間30分前にいつも開所する児童クラブを比較して、子ども及び保護者の幸福度、満足度の差異」などの研究を行う人を財政的に支援したいと考えています。例えば500万円を弊会から研究費用として渡し切りにするので3年以内に研究して学会で発表してください、というものです。
児童クラブには、子どもが登所していない時間を使って行う「育成支援討議」の業務にこそ、その質を維持する機能があるという、体感的に多くの児童クラブ関係者であれば分かっていることを学術的にも証明できればと考えているのですね。そのためにも、拙すぎる本ですが、1冊でも多く売れてほしいなあと願うばかりです。もちろん、すでに発売中の「知られざる<学童保育>の世界」でも同じです。こちらもぜひ1冊でも多く売れてほしいと願っています。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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「リアルを越えたフィクション。これが児童クラブの、ありのままの真の実態なのか?」 そんなおどろおどろしいキャッチコピーが似合う、放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。「がくどう、序」というタイトルで、2025年3月10日に、POD出版(アマゾンで注文すると、印刷された書籍が配送される仕組み)での発売となります。現在、静岡県湖西市の出版社に依頼して作業を進めております。
埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった、元新聞記者である筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分、活用できる内容だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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