放課後児童クラブにおける所外活動では、運営本部や役員の役割や立場は、重要すぎるほど重要です。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で多く実施される夏休み期間のお出かけ(=所外活動)について、運営支援の観点で重要なことを紹介します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<所外活動における組織の取り組みは?>
 1クラブ1運営事業者でなければ、1つの運営事業者は複数のクラブで行われる活動を把握しておかねばなりませんが、所外活動においては、次の点を留意するべきです。
・所外活動にあたって運営事業者は所外活動がもたらす利益を把握する。
・所外活動の計画立案においては、統一したルールを設け、職員と保護者に周知する。
・所外活動を準備、計画する段階で全てのクラブが同じ書式で必要事項を記入し、運営本部に報告、判断を受ける。
・所外活動計画のリスク評価は最終的に運営本部が行う。

 説明します。所外活動がもたらす利益の把握とは、「所外活動は、どうして行うのか」という、その運営事業者における所外活動の意義をしっかりと定義することです。漫然と「子どもが喜ぶから」「子どもが楽しみにしてくれるから」では、ダメです。なんで子どもが楽しいのか、その「楽しさ」とはいったい何か、それが子どもの成長にどう影響するのか、そこまで考えて定義することです。それを土台にして、個別具体的に、いま計画している所外活動の目的を理解することです。集団で公共交通機関を使うことで社会性を身に付ける一助にするとか、班単位で自炊活動をすることで協調性を養う一助にするとか、いろいろあるでしょう。所外活動を行うことで育成支援においてどのような利益が得られるのかを考えるようにしなければなりません。費用対効果、いわゆるコスパですが、児童クラブの事業活動もその費用に見合った効果を得らえるようにしなければなりません。まして税金や保護者から強制的に徴収している資金で運営している存在ですから、ムダのないように取り組まねばなりません。

 統一したルールを設け、それを運営本部に報告し、リスク評価を本部が行うということは、分かりやすく言えば、計画書は同じ書式であって、そこに記入することで、現場クラブも、運営本部も、目的や、予想される事故や問題の種類と性格とその影響つまり危険性の評価につながる基本的な情報が把握できるような書式である必要がある、ということです。AクラブとBクラブがあって、同じように博物館に見学に行くのだけれど、運営本部に上がってきた所外保育計画書がバラバラの内容であっては、その計画に含まれる事故や問題の可能性を運営本部が評価することは困難です。当然、単に、行程だけ記入すれば完成となるような書式ではダメです。また、自然の中での活動や、火を扱う活動においては、起こりうる事故や問題の種類や程度がぐっと広がってきます。起こりうる事故や問題に関する予見可能性を正確に判断できるだけの情報を、最終的に事業運営責任を負っている運営本部が把握して実施について最終的に判断することができるようにならなければダメだ、ということです。

 得てして、個々のクラブの正規職員、常勤職員に所外活動の計画から実施の判断を含めて全部、お任せしてしまいがちなのが児童クラブの世界ですが、それはありえないことです。多くの児童の生命身体に侵害がないようにしなければなりませんし、それは組織全体が負っている契約上の義務です。現場職員だけが負う義務ではなく、組織全体でその義務を果たすための取組が必要だということです。

<運営本部の責任、運営者の背負う責任を理解する>
 運営本部というのは最終的に役員です。代表理事や理事長だったり社長だったり取締役だったり、そういう立場の者です。監事もまた、事業が法令に違反することなく適正に行われているかどうかをチェックする役割を負っています。広域展開事業者ならば、その地域の事業者を統括する立場の者でしょう。

 例えば、児童クラブの世界にありがちですが、運営支援としては不適切な例として次のようなことがあります。
「夏の所外活動で複数のクラブが所外活動を計画し、実際に行った。保護者を中心とした非常勤の理事、理事長などは8月の理事会や役員会で、現場クラブで行われた所外活動について、滞りなく行われたと報告を受けた。それを聞いて理事たちは、良かったね、いい経験ができたね、と互いに感想を述べ合った」
 これは運営支援の視点からは、ありえません。なぜなら、事業者の運営に責任を負っている1人1人の役員が、クラブで行われた所外活動について何も知ることが無く、ただ結果だけを聞いたということは、その所外活動実施に関して何ら管理監督の責任を果たしていないということです。

 非常勤、保護者又は保護者出身の者が理事など役員を務めることは児童クラブの世界に珍しいことではありませんが、往々にして、役員が負っている務めについての正確な理解を欠いています。非営利法人の理事であれば、法人組織の事業運営、事業執行において、問題なく事業が行われるよう務めを果たさねばなりません。理事など役員は「委任契約」によって法人や団体の活動を問題なく行えるようにする立場に就いています。そしてそのような立場の者は、いわゆる善管注意義務を負っているということです。
 事故や問題が起こる可能性が通常の業務より高くなる所外活動において、事故や問題の起こる可能性を極力低くするために必要な業務上の指示や取り組みについて何ら関与することなく、現場職員に「丸投げ」で、何かトラブルがあったら「職員はちゃんと仕事をしているのか!」と腹を立てるような役員は、己の義務を果たしていないことに気が付いていません。言うまでもなく、重大な被害を及ぼした事故や問題が起き、被害を受けた子どもの家庭が運営事業者に関して損害賠償を求めることとなったとき、法人であろうが任意団体であろうが損害賠償金を支払うことになりますが、それは法人や団体にとっては「損害」です。その損害について、理事など善管注意義務を負っている者が適切な業務上の指示や取り組むを怠った場合、その法人や団体は、理事など役員に対して受けた損害の補填を求めることができます。「保護者なのに。学童のために善意で、ボランティアで役員を務めているだけなのに、それはおかしい」と言う人は必ずいるでしょうが、それは間違いです。理事は委任契約でその地位に就いていることや善管注意義務を負っているということを知らなかった、では済まされません。いわゆる法律の不知は、免責となりません。ボランティアという言葉の使い方も児童クラブの世界では根本的に間違っています。ボランティアだから、無報酬で務めているから責任を負うことが免れるという者では全くありません。ボランティアは、無報酬ながら報酬を受ける立場と堂々の責任を背負うから、その志が貴いと評価されるのです。「志願」して任務を引き受けるのがボランティアです。「わたし、ボランティアだから、責任は免除されるよね?」という浅はかな理解が未だに根強いのはとても残念です。

 だからこそ、先の理事会の例では、「無事に行われてよかったね」という発言が出てはダメなのです。理事、役員である以上、どのクラブが、どのような所外活動を行うことになっているのか、当然把握していなければなりません。事故や問題のリスクを評価して実施するか否かを判断する立場である、ということを理解しなければなりません。実務上、誰がその判断を行うかは、その運営事業者で決めればいいことですが、行った判断については他の役員は当然、把握しておくべきです。例えば、常勤で務めている事務局長のような地位にある者が適切でしょうが、その者が行った判断は遅滞なく他の理事に知らされるべきです。もちろん、理事長や代表理事はその判断に関与することが望ましいでしょう。それはすなわち、仮に何かあったとき、より多くの責任を負うことになりますが、当たり前です。それが嫌なら理事や理事長に就くべきではない、ということです。

 私がとても心配なのは広域展開事業者です。まずそもそも、広域展開事業者における児童クラブにおいては所外活動は盛んではないようです。おそらく、万が一の時の賠償責任等を考えての結果なのでしょう。そうであっても仮に何らかの活動、それが例えば徒歩で行ける範囲の公園やスポーツクラブでの活動であったとしても、「何か起きたときの責任は全て現場クラブ職員が負う」という内容の書面が用意されているのではないかと、推測しています。それでは所外活動を行うには職員の意欲があがりませんし、事故や問題のリスクがやや高まる行動(=それは子どものわくわく、ドキドキを高める行動でもある)を行う選択肢を選びにくくなります。広域展開事業者による育成支援の内容について、国や行政は本格的に調査を行うべきでしょう。なお私は社会福祉法人が営む児童クラブにも、同様の調査が必要だと考えています。どのような育成支援が行われているのか、広域展開事業者の児童クラブも社会福祉法人の児童クラブも、その内容が情報公開に乏しい(広域展開事業者においては、多彩なプログラムを実施しますとアピールはしていますが、どのように実施されているかの内容報告はあまり見かけません)ので、社会的にまったくブラックボックスになっているのではないかと懸念しています。

<参加する保護者の責任は?>
 保護者といっても、役員として事業者の運営に加わる立場と、所外活動の時に要員として参加する立場では異なります。前者の役員として加わる場合は先に述べた通り、安全に所外活動が行われるように十分、手を尽くすことが求められます。後者の場合が、実は特に不安が大きい。なぜなら、これも先に述べたボランティアだから、の意識が蔓延してしまっているからです。

 前日(7月10日)のブログにも記しましたが、仮に、道路を歩いて移動中、当日の所外活動に要員として参加した保護者の目の前で、子どもたちがふざけた行為を繰り返し、車道に飛び出すことを繰り返しているのを目の前で見ていながら注意したり制止したりしなかった場合で、飛び出した子どもが車にはねられた場合、その保護者は「私はボランティアだから、ただ子どもたちに付き添ってくれればいいって言われたから参加しただけ」という理屈は通用しません。「子どもが車道に飛び出してふざけていることを目の当たりにしていれば子どもが車にはねられるという可能性を容易に把握できたはずで、その可能性を低くしようと行動しなかったことは、重大な過失である」という判断が下されることになるでしょう。

 つまり、所外活動に保護者の参加を求める場合、「ただ付き添ってくれればいいですから」は、まったく通用しないのです。保護者に所外活動の要員として参加を求めるならば、「まったく責任を負わないでよい、ということはありません。ごく普通の、日常の感覚でいいので、子どもたちが事故にあったり問題に巻き込まれたりしないように、注意や声がけをお願いします。それをまったくしないで事故や問題が起きてしまった場合は、残念ながら責任が問われる可能性はゼロではありません」と、はっきり告げるべきです。

 「いや、そういうことを言ったら保護者は心配して、誰もお手伝いしてくれなくなる」と現場職員は心配になるでしょう。あえて言えば、その姿勢こそ、間違った理解を保護者に与えることです。別に、児童クラブの保護者だから格別に重い責任を負うということではありません。たまたま通りがかったとき、血を流して倒れている全く知らない赤の他人を見かけたが救護することなく立ち去った場合、その立ち去った者は罪に問われる可能性があります。事故や問題、事件が起きたもしくは起きそうなときに必要な行動を取ることは、大人であれば総じて社会から期待されていることです。それを、自分の子どもも利用している児童クラブの子どもに対して行うことと、実は差がないことです。大人として当然の責任を果たすだけのことですよ、と堂々と伝えるべきです。
 それでいても、保護者が要員として加わってくれず、所外活動の実施に影響が出ると言うなら、答えはただ一つ、「子どもの安全を守るために必要で、確保できる人員の人数で実施できる活動内容とすること」です。活動内容を固定化し要員として参加できる職員や保護者の人数に対して責任や業務量を多く割り当てるという考え方ではなく、職員や保護者の要員が担えるだけの責任や業務量の範囲で行える活動とするべきです。特に、事故や問題が起こる可能性が相対的に高くなる自然の中での活動やプール活動において、この考え方を必ず徹底することが必要です。

 これは、保護者の運営責任そのものを問うことです。保護者が児童クラブの運営に加わることについては何度もこのブログで取り上げてきましたが、これまた最近、気になる報道記事がありましたので明日以降、改めて運営支援ブログで私の考えを披露していきます。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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